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ファンタシースター計画06

 魔女っ子と一緒にナヴ・ラッピーとかいう黄色いヒヨコみたいなのを追っかけまわしていると、突然通信が入った。仕事してりゃ、余計なこと考えなくていいってのに、迷惑な通信だ。

――はい、もしもし?

 アタシは魔女っ子がふわふわー、とか言いながらラッピーとっ捕まえる様をみながら返信する。
 あ、バカ、不用意に近づくなって。
 あーあ、突っつかれて涙目になってやんの。

「ニック大尉です」

 あー、あのハデハデ女キャスト准将閣下の下僕将校か。OD色の角ばった大尉だ。

「わざわざARKS通信に割り込み?」
「困ったことになってね。惑星リリーパで捕獲したアンドロイド積んだ軍用機がナベリウスに不時着したんだ。申し訳ないけど、回収してくれないかな?」
「リリーパ? どこそれ? アタシまだ許可もらってない惑星じゃないの、それ」

 アタシはずるずるとラッピーに抱きついたまま引きずられる魔女っ子をみる。
 まぁ、体力的には余裕がありそうだ。
 もう、最初の頃みたいにおっかなびっくりな戦闘でもない。ダガンだのフォンガルフくらいなら、いたぶりながら殺すことだって出来る。
 やっぱり経験がものを言うところがある。数をこなせばこなすほど、アタシは戦闘に最適化されていく。アタシが何者かなんかどうでもいい。アタシは少なくとも、ルーキーじゃないARKSになりつつある。

「本当のこと教えてくれたら、手伝ってあげてもいいけど」

 そして、ちょっと賢くなった。依頼を選ぶというスタンスが身についてきたんだ。わけのわからないまま利用されるってのは、絶対に避けるってのがアタシのルール。

「参ったなー」

 しばらくニック大尉の子どもっぽい口調が途絶える。誰かに相談してるみたいだ。
 ま、誰かなんて例の准将閣下だろうけどね。

「許可が下りたよ。本当はさ、リリーパで暴れてる兵器が制御可能か、ナベリウスで実験してたんだよ。ところがねー」

 オチは読めた。

「失敗したんだろ?」
「あたり。子飼いのARKSを送るからさ、E-2で合流してよ」

 そして、アタシの端末に振り込み履歴が表示される。軍から家賃三ヶ月分ほど振り込まれた。
 このまま持ち逃げしてもいいんだけど、そういうことしたらマイルームから火が出るかもしれない。

「了解。現場の座標を送って」
「話が通じて助かるよ」

 そして通信が切れた。
 アタシはラッピーとたわむれている魔女っ子に、詳細を送る。
 さてと、お仕事といきますか。


 E-2の合流ポイントには、ささやかな渓流があった。
 アタシらは、そのキリリとした冷たい水を飲んだり、足をひたしたりしながら待機する。
 しばらくすると、大理石ばりに白くて、かつ華がある格好をした女キャストがやってきた。

「ヲデンはやっぱりネオ・シンバシ」とアタシが符丁で呼びかける。
「コンブを頼むのが通」と返ってくる。

 女キャストはレンジャーらしい。華奢なボディのくせに、でっかいランチャーを抱えてる。
 やっぱキャストってのは見かけとは全然違う出力あるから、油断できないね。

「アルザス=ロレーヌですわ。いい天気ですこと。ご一緒できて幸いですのよ」

 オーケー。わけわからんのを送り込んできたことは、あとでお偉いさんに聞くとして、このお嬢様キャストの戦歴を照会する。
 おや、思ったよりもマトモだ。少なくとも任務達成率100パーセントというのは信用に値する。

「気が済みまして?」

 アルザス嬢が澄ました態度できいてくる。ぐぬぬ、確かにアタシより上手かもね。

「では、わたくしの指示に従ってくださいまし」

 あっさりと主導権をもっていく。
 おい、と言おうかと思ったが、魔女っ子があっさりこくんと頷いたから、アタシも無言で同意する。
 まぁいいさ。死にそうになったら、魔女っ子かかえてトンズラすればイイだけだしね。


 大尉から送られた座標位置には、内臓ぶちまけたフォンガルフだとかウーダンなんかが散らばってて、その臭さにうんざりした。ちょっと酸っぱいのがこみ上げてきて焦る。

「あらまぁ、解体場ですわね。あなた方もお気をつけなさって」

 気をつけてどうにかなるもんじゃないだろ、と思っていたら、ちぎれたガルフの頭が飛んできた。
 頑丈そうなアゴがだらりとたれて、ビロンと眼球が飛び出している。しなやかな狼の姿はそこにはない。

「いらっしゃいましたわ」

 いらっしゃいませーとでも言えばいいのだろうか?
 とにかく、歓迎すべからざる相手のようだ。
 返り血ですっかり濡れた巨大金属ボディに、アタシはあきれてものが言えない。
 これを制御できりゃ、確かに軍はイイ兵器をゲットできたと思うかもね。

「ギルナス=コアでございますわ。弱点はおなかのコア。それではお気を強くお持ちになって」

 そして、アルザス嬢は派手にランチャーをぶっ放し始めた。
 あっさりと片付くかと思ったが、そんなことはない。
 そもそも効いてない気が。

「あらいやですわ。弱体化弾装填、発射いたします」

 突然武器を珍しい形状をしたアサルトライフルに変えて、よくわからんが一発撃った。
 するとどうだろうか。アタシのHUDにレッドサークルが表示される。

「ではみなさま、弱いものいじめの時間でございますわ」

 そういってアルザス嬢がアサルトライフルを連射する。
 アタシもあの頑丈そうな腕にミンチにされたくないので、ガンスラッシュを射撃モードにして撃ちまくる。突っ込めよといわれりゃ、突っ込むけど、いまは自重したいね。あんなぶっとい金属のカタマリで蹴り飛ばされたら、頭蓋骨が砕けるだろうし。


 火力集中の原則どおり、ギルなんたらはあっさり沈黙する。
 そして、アタシも沈黙する。

 愛用のガンスラッシュ折れました。やっぱ古かったかなー。

「それでは、またお会いしましょう。ごきげんよう」

 アルザス嬢は武器が壊れたアタシなんか気にしないで、さっさとテレパイプ使って帰った。

「壊れた」

 魔女っ子が事実を指摘する。そんなこといわれたってねぇ。

「あんた直せる?」
「できない」

 あっさりといわれた。仕方ない、新しいのを買うか。
 でも、ちょっと金が無いぞ。
 とはいっても武器無しじゃ商売にならないのがARKSなわけで。

「いやー、助かったよ。これで船団政府の連中に文句言われないで済む。じゃ、今から輸送機そっちに向かわせるから、現場保全よろしく」

 ニック大尉の気楽そうな声が通信機に飛び込んでくる。
 軍……そうだ、軍になんか余計な装備とかないかな。

「大尉、あのさ、アタシの武器折れたんだけど」
「それで?」
「いや、そこは察しろよ」
「え? ヒューマンってそういうところあるよね。空気よむとかさ。いってくれないと分からないよ」

 心底そう思っているらしい。あれれ? 最近のキャストはちゃんと空気読むんだけどね。

「なんか代わりの武器ない? できれば安くして」
「――だってさ、キァハ。なんか武器庫にあったっけ?」

 人のいい大尉が、いろいろ人をこき使う准将に掛け合ってくれているみたいだ。
 しばらく、魔女っ子が地面に大尉の似顔絵を描いているのをみてる。
 なるほど、結構絵心あるんだな、あんた。

「――許可がおりたよ。ブラオレットっていう銃剣を回すね」

 アタシの端末に受信ピープ音が鳴った。ほんと手を回すのがはやいよな、あいつら。
 そして、贈られた品を確認すべく、転送プロトコルを軌道上に送信し、フォトン転写する。
 予定通り、アタシの手にそれが届いた。
 何じゃらごっつい波紋が目立つ刃に、黄金色っぽい銃部。正直、なにこれって感じだ。

「ねぇ、なにこれ?」
「最近市場で大量に流通してる武器。新興の軍需企業『タネガシマ』が試験品として軍に納品してくれたんだけどさ、採用トライアルで評価落ちしたんだ。安さは買うけど、軍で使用するには目立ちすぎるんだよね、それ。そういう派手さはARKS向けかな」

 大尉の説明の通りだとすると、つまりアタシはほんとにどうでもいい品をもらったことになる。
 とりあえず、アタシは諸元を確認する。そして、軽く振り回してみる。さらに試し撃ち。
 うーん。使えなくはないかもしれない。慣れればそれなりに良質なんだろう。

「ありがと。准将にお礼伝えといて」
「伝えておく。じゃ、また頼みごとがあったら君に回すから」

 プツっと通信が切れる。

 それと同時に、航空機がゆっくりと着陸する。
 ARKSが雇ってる民間軍事会社とは違う、航空迷彩が施されている。
 そして、カーゴブロックから数人の大尉に似たキャストたちが降り立って、てきぱきと廃棄部品と化したギルなんたらを回収していく。ぜんぜん無駄がない。
 あっという間に痕跡を消して、その輸送機は飛び立っていった。
 あー、たぶんあれが特殊部隊とかいうやつなんだろうな、と思う。特殊部隊にもいろいろあって、それぞれの専門技能に特化してるらしいし、たぶん今のは、回収とか救難とかの専門部隊なんだろうなぁ。

「なんかすごいの見れたって感じ」

 アタシは魔女っ子にちょっとした感想をいってみる。

「正規軍は正規軍。ARKSはARKS」

 魔女っ子が至極まっとうなことをいう。
 その通りね。アタシらはARKSなんだから、それぞれの仕事をすればいいだけさ。


 自分の記憶が作られたものであるとしても、いったい誰が作ったのかを知りたい。
 そういうのは単純な好奇心だけど、アタシにとっちゃそんなおざなりの言葉を超えて、アタシのルーツを探るために必要な儀式なんだと思えてくる。
 だから、アタシは仕事の合間にコツコツと手がかりをさぐる。
 ナベリウスにおりたら、ちょっと寄り道して『環境研究プラント』の跡地がないかさぐる。
 たぶん、あのリサっていう危ない女キャストが隠滅工作済だろうとは思うけれど、どうにもこうにもあきらめ切れなかった。
 だけど、今日も収穫なし。
 手に入ったのは、いつもどおりの報酬に、ブラオレットとかいう銃剣がさらに手になじんだことだけ。
 ORACLアーカイブにアクセス権がある魔女っ子にも情報収集頼んだんだけど、やっぱり今のアタシらのセキュリティ・クリアランスじゃ触ることすらできない情報が多すぎる。
 いうなれば、アタシらにとってこの世界は断片化されすぎていてて、一つ一つの破片を観察したところで全体構造なんかみえやしないってこと。
 キァハ准将に頼んでみようかとも思うけど、あの酷薄な女将軍のことだから「対価はあるの?」って言ってくるだろうな。対価というのは金じゃない。対等な関係にある情報のことだ。ルーキーからそれなりARKS程度になったばっかのアタシなんかが、正規軍にコロがせる情報なんて握れるわけない。
 じゃあ、どうするか……。

 アタシは煮詰まって、ベッドの上で寝返りを打つ。
 人工的に作られた夜は、相変わらず嘘くさい。船団での生活なんて、本当は無いものを有ると信じて生きていくことに他ならない。
 四季も、雨も、木枯らしも全部作られたもの。頭の賢い科学者達が心理ストレスと環境変動のクロスリファレンスがどーだこーだとか言いながら決めてるのさ。
 だけど、考え事すると眠れないってのは確実な事実さ。ウソなんかじゃない。こういうふうに考えるアタシの思考パターンも全部作り物のウソだけど、悩みだけは本物。
 ファック。
 記憶をいじるなんざ、マッドサイエンティストども自身で実験すりゃいいんだ。

「……起きてる?」

 プシュッと部屋をつなぐ扉がスライドした。ルームシェアにもプライバシーは必要だってことで、部屋が二つあるところに引っ越した。
 けど、なんとなくアタシらは二人でいる。どっちがが困ってたら、どっちかが手を差し伸べる。理由なんてないんだけど、そういう風にやってる。
 たぶん、アタシを心配して魔女っ子が来てくれたんだろう。
 なんだかんだで、あいつイイやつだからな。

「時計が、とまった」

 確かにな。記憶を失うってのは、今までの時をどうにかしちまうのと一緒かもしれない。

「なかなかシャレた言い回しだな、文学少女」
「?」
「慰めて……くれてんだろ?」

 しばらく間があった。魔女っ子はじっとこっちをみてる。

「ちがう、時計の電池が切れたから、換えて」
「またまたー」
「ホント。わたしは信仰上の理由で時計の電池を換えられない」

 魔女っ子の口調は相変わらず平坦で、抑揚がない。けど、こいつがウソをつかないことは『信仰上の理由』から確実だ。
 しかも、なんだか必死な感じだった。

「――冗談だろ?」
「助けて……」

 そして、魔女っ子はアタシのパジャマをひっぱる。
 おいおい。アタシの期待を返せコノヤロー。

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ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画07

 やつの部屋の時計は、少々特殊で、なんでも『乾電池』ってのじゃないと駄目らしい。
 古典力学、量子力学、そして現代のフォトン理論からすれば、概ね古典力学の世界の概念で設計された蓄電池をさすらしい。そんなもんを使わないといけないなんて、信仰心ってのは日々試されるもんなんだな。アタシはめんどくさくてやってられないよ。

 で、仕方なくアタシは夜道を買ったバイクで走り出してるわけ。19の夜に。
 わざわざ電池やらを買うために、古物店に行くわけさ。
 後ろには、これまた信仰上の理由でバイクに乗るときに着なければならないとかいう古臭い革ジャケットをきた魔女っ子が、アタシにぎゅっとひっついてる。

「――ねぇ、あんたの戒律集とか見せてくれない?」

 ヘルメットのマイクで話しかける。少々風の音で聞こえにくいだろうけれど、まあ、それがいいんだよ、バイクってのはさ。

「それはできない。奥義書だから」

 奥義? なんぞそれ? ほんとこいつわけわかんねーな。結構一緒にいるけど、ぜんぜん理解できません。

「あんたも大変だね。お布施とかあるの?」
「ある。貧困をなくす、病気を治す、平和に生きて、燃えるように愛して、電話の料金をさげるために、わたしはお金を使う」

 電話ってのは分からないけど、それ以外はまぁ、なんとなく分からないでもない。
 でもアンタ、燃えるように愛してってなに?

「じゃ、燃えるように愛さないとね」
「もう愛してる」

 アタシはヘルメットの中で噴出す。ないない。それだけは、ないって。

「マジ? 誰を?」
「この宇宙を。わたしは、宇宙を分かってあげたい」

 ……まぁ、アタシは信仰についてとやかく言わないよ。アンタがそれで心の平安だかなんだかを得られてるなら、それでいいよ。

2 
 目当てのモノを買って、夕焼けの空の下を駆け抜け……夕焼け?
 それ、おかしいだろ。
 アタシらさっきまで夜中の峠道を走ってたんだけど?

――ARKS各員は至急救援に向かってください

 そういう通知があちこちの電子掲示板に流れてる。どういうことだ?
 やたら街中が赤いのはエマージェンシ・レッドってことか?
 くそっ。こんな山間の峠道じゃ、どのくらい危険なのかわかんないじゃないか。避難勧告とかそういうのはどうなってんだ?

 とりあえず、アタシはバイクを止める。それから携帯端末で情報を確認する。
 居住艦が襲われてる?
 それかなりまずいだろ。っていうか、防空艦隊は何を……そうか、訊けばいいだけだ。
 アタシは思い付きのままに、キァハ准将にダイレクトコールする。
 しばらく呼び出し音がなった後、通信は途絶した。

「どうなってんの?」

 端末が壊れたのかとおもって、自分のをまじまじとみる。

「船団間の連絡が緊急遮断されただけ」

 魔女っ子が革ジャンを脱ぎながら説明してくれた。

「遮断? なんでだよ? このままじゃアタシらだって、テレポータで飛べないじゃないか」
「逆のほうが重要。侵入者がテレポータを用いて拡散するほうが脅威」

 そうか。そういう考え方もあるよな。

「じゃ、どうやったら救援にいけるんだよ?」
「いくの?」

 ……たしかに行かなきゃいけないってわけじゃない。これすら自由裁量だ。そういうのがARKSだし、べつに市民が死のうと眉一つ動かさず、別の任務をこなしたり昼寝したりだってできる。

「いく。ダーカーの襲撃なら、アタシは暴れたい」

 言っちまった。
 アタシはほんとにそう思ってるのか?
 今までのアタシの記憶なんてウソなんだから、アタシがアタシとして判断してるなんてとても信じられない。
 だけど。
 戦ってれば、とりあえず余計なことは考えなくていいはずだ。

「そう。でも、シャトル発進口は遠いけど」

 そういやぁ、そうだった。

「船内のテレポーターは使えるのか?」
「問題ない。船外リンクが途絶しただけ」

 冷静な分析ありがとよ、魔女っ子。
 ってことは、バイクをここにおいて、テレパイプ経由で市街地に行くべきなのか?
 だとしたら、このバイクどうすんの。
 へたしたら盗まれる……もしくは通りすがりのダーカーなんかに壊されるかも。
 ダーカーに壊されたら保険おりるのか?
 いや、戦争、大規模災害なんかだと保険屋は支払わないぞと訊いたことが……
 なんてこった!
 アタシはどっかの誰かが死にかけてるのに、高い金だして買ったバイクのほうが心配だ。
 いよいよ筋金入りのARKSになっちまったよ。
 じゃ、今回はごめんなさいってことで……
 ?
 アタシは異様にでかい昆虫の影が走った気がした。
 いや、気のせいじゃない。
 あれは、ダガンじゃないか?

「おい、魔女っ子、あれ」

 どうこう言う前に、魔女っ子が素手でゾンデをぶっ放す。雷光が、ダガンを焼いた。
 アタシもコードを送信し、もらい物のブラオレットを転送し、固くにぎる。

「おいおいおい。どうなって――」

 そして、耳を押さえたくなるようなサイレンがドーム一杯に響く。

――緊急警報。本艦はダーカーに侵入されました。速やかにお近くのシェルターに退避してください

 そんなような適当すぎる勧告が繰り返される。
 実際、この艦の自治政府はこういう事態を予想していなかったんだろう。とってつけたような対応で、正直悪寒がする。
 おいおい、ってことは同時襲撃か? これはまずいぞ。
 するとどうだろう。ふもとの街並みから黒煙が上がってる。
 もう市街地で戦闘が始まったのか? 市街地で遊んでたARKSが交戦開始したのか、ダーカーのくそどもが適当に暴れてるのか……。

「魔女っ子。あんたの判断は?」
「人助けはしなくていいの?」

 魔女っ子が、山間から見える都市のきらめきに生じた火柱や煙を見ていった。
 オーケー。そういう判断か。
 いいだろう。理由もなく人助けしてやろうじゃないか。

「よし、市街地救援に向かう」
「バイク壊れるかも」
 言うなよ。諦めきれるか自信ないんだから。


 市街地というより、元市街地といったさまにアタシは唖然とする。
 人の死体は見慣れたもんだけど、今回は無抵抗の民間人だ。心が凍る。
 そして、そんな死体をオモチャにするかのようにバラしてるダガンの群れ。
 最高じゃん。

「殺すために生きる。殺すために生きる。殺すために生きる」

 アタシは生きる意味を自分に言い聞かせる。
 よし。落着いた。これでアタシはダーカーをいたぶって殺せる。
 ビルの向こうやら、どっか反対の通りから散発的な戦闘音が聞こえる。
 アタシは、ブラオレットを射撃モードにして早速、撃たせてもらう。

「とりあえず、敵を殺す。それでいい?」

 アタシはさっさと駆け出して、群れの中につっこんでぶった切る感触を確かめる。
 よし、アタシはいける。

「あなたがそういうなら」と魔女っ子が同意してくれる。

 いいじゃんいいじゃん。じゃ、遠慮なくいく。
 踊るように自然体で殺す。
 考えるな、殺せ。
 これがアタシの鉄則だ。
 数を数えるのではなく、確実に斬り殺したか、撃ち殺したかをしっかりと確認する。
 アタシの記憶に焼き付けるんだ。戦い、そして勝っているという実感を。
 汗が、全身を濡らす。
 素敵。たぶん、アタシぬれてる。いろんな意味で。
 

 アタシらがちょっとした大物のブリアーダとやり合ってると、どっかのハンターが手を貸してくれた。
 男。真っ赤な服を着た先輩風吹かせてそうなやつ。

「よぉ。お前さんたち精が出るね」

 赤服が爽やかに声をかけてくる。そういう状況じゃないっての。

「ちょっと、ゼノ。おいていかないでよ!」

 よく分からんツンツンした女が文句を言ってる。
 なんじゃこのコンビは? ここはデートするには少々危険だけど。

「挨拶はいい! さっさと手を貸せ!」

 アタシは友だち以上恋人未満オーラをだしてるペアにいらだつ。
 なぜなら、アタシは結構派手に切り付けられたり殴られたりで……。
 つまり血まみれなんだよ! 遊びじゃねえんだこの野郎!
 そう心の中で叫びつつ、ブリアーダのデカブツの急所である、背部に深く刀身を刺す。
 いいぞ、いいぞ、いいぞ! そうやって悶える姿はキュートだ!

「やっべ。猫目の姉ちゃんがぶち切れてるぜ?」
「ゼノがなんか言ったんでしょ? あたし知らないわよ!」

 そしてやっとこさ赤服の兄ちゃんが大剣を大振りして、ブリアーダの胴体を潰してくれる。
 つんつん娘のほうは、ありがたいことにアタシにレスタをかけてくれる。おかげで失血死しそうだった傷口が急速に活性化したナノマシンで縫合されていく。それはそれで激痛だけどな。
 魔女っ子はアタシの回復なんか無視して、ブリアーダが卵をぶちまけたところから孵化したエル・ダガンどもを凍らせたり焼いたりと大忙しのようだ。

「姉さん! いっちょ連携といきますか!」

 赤服が調子に乗ってやがる。腕は認めるけど――

「アタシはあんたの姉さんじゃねぇ」
「わぉ。俺、クールな姉御に惚れやすいんですけど」

 テメェなんかに惚れられても困るっての。

「ちょっとゼノ! それってどういう……きゃあ!」

 きゃあとか何とか言って、つんつん娘がエル・ダガンに斬りつけられてる。

「エコー!」

 赤服があわてて助けにもどる。
 ファック! アタシひとりでデカブツ相手かよ!

「魔女っ子! なんとか援護しろ!」
「むり。信仰上の理由」
「ウソ!?」
「冗談」

 魔女っ子はでっかい炎のカタマリを大量に撃ち込んでくれる。
 ありがたい。敵はビクンビクンしながら燃えてるぜ。
 だけどさ、アタシにもいくつか当たってるから。

5 
 デカブツをいくつかしとめて、小物を大掃除して、やっとあたりがちょっと沈静化した。
 アタシらも結構まともじゃん。

「じゃ、俺らは逃げ遅れた市民を探す! そっちも気をつけな!」

 そんなこと言って赤服とつんつん娘が別の地域に走り去っていく。
 ま、たまには誰かと手を組むのも悪くなかったと思う。

 さて、次はどこに向かおうかと思っていると、天井のある空を数機の輸送機が飛んでいった。
 ARKSのじゃない。あれは正規軍のやつだ。遅ればせながらご登場ってか?
 その輸送機からゴマ粒みたいなのがばら撒かれた。
 ま、高度からそう見えるだけで、たぶん人かモノかまたはその両方を降下させてるんだろう。
 あっという間にそれが人型であることが分かり、そして、すぐにキャストであることまで分かった。
 そいつらはパラシュートなんてなかった。
 大型のスラスタージェットパックを背負ってご登場。
 いっきにアタシのまわりが空挺パックの廃熱と気流によって大混乱になる。
 死体はころがり、コンクリ破片がアタシの髪を遠慮なく汚す。
 アタシは腕で顔を覆わざるを得ない。

「――第44宙間機動打撃旅団440特殊戦中隊アルファ分遣隊だ」

 グレーと青、黒入り混じった都市型迷彩のキャストたちのリーダーっぽい奴が自己紹介。
 もちろんジェットパックはパージ済み。それに関する謝罪なんて無い。
 なるほど、ぜんぜん分からん。どこの、なに?

「で? 正規軍が何の用?」

 当然の問いをするしかない。

「確認する。ヒマワリ・ヒナタとパステル・エインか?」

 アタシはだまって頷く。
 そしてこいつの部下達の動きが、アタシらARKSの戦い方とは違うものであることを確認する。
 とにかく、極度のチーム主義だ。全員に頑なな役割分担があり、指揮命令があり、そして忠誠と反復訓練が団結をつくるって感じ。
 申し訳ないけど、たぶんアタシには合わない職場だろうね。

「キァハ司令からの依頼です。我々と共にTLPT特異体の回収に協力願いたい」

 あのさ、軍人さんってのは単刀直入で礼儀正しいんだけどさ、説明下手だぞ。

「新兵器か何か? アタシらなんかいなくたって、アンタらだけでも大丈夫そうだけど」

 このアルファ分遣隊の連中は、誰がどう見たって一介のARKSじゃ手に入らなさそうなハイテク装備満載だ。
 連中が手に持ってる多目的アサルトライフルなんて、どうみたってARKS用とは違う出来のよさだし。
 しかも、全員明らかに戦闘慣れしてる。
 動きで分かるよ。
 アタシはそんな殺気ゼロなのに殺意ありありみたいな域にはたどり着いてない。

「我々はこの地域には存在していない。ARKSだけが存在している。そういう建前です」

 なるほどね。
 じゃ、これは正規軍がちゃんと派遣命令受けて来たわけじゃないんだ。

「つまり、アタシはカモフラージュ?」
「口裏合わせです。理解が早くて助かる」

 アルファ分遣隊の隊長はそういって姿を消した。
 あれだ、なんだっけ、左手系メタマテリアル技術だっけ? 旧科学の透明になるやつ。

「――では、行きましょう。ビーコンにしたがってください。道中の敵は排除します」

 もう連中の姿は無い。
 おなじみステルスモードだ。
 まったく、NINJAかお前らは。

「魔女っ子。行くよ。お宝探しだってさ。あんた、先頭走ってみたら? こんな感じで杖あげてさ」
「どうして?」
 魔女っ子がつぶらな瞳でアタシをみつめてくる。
 子どもみたい。
 わかんない、おしえて? ってかんじ。
 そういう子ほどいじりがいがあるのよねー。
「いいからいいから」

 アタシは魔女っ子に杖を大仰にかかげさせる。
 これは面白いことになりそうだ、と内心にやにやが止まらない。
 どうせタダ働きなんだ。面白いことくらいさせろよ。

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ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画08

 やっぱりだ。

 魔女っ子の姿をみて、交戦中のARKSどもがおどろき、そして憧憬の表情をうかべる。
 この子が歩いていく先にいるダーカーどもが、まるで川を割るみたいに殲滅されていくからだ。
 アタシは誤魔化し程度に射撃しているから、あんまり誰の注目も浴びない。

――本物の、魔女だ

 どっかの誰かがそういった。

 追い詰められてピンチだったARKSの男の子なんて、すっかり魔女っ子に心奪われたみたいに、地面にへたりこんでいる。

「――少々目立ちすぎです」

 通信機に、アルファ分遣隊長のとげのある言葉がとんできた。

「いいじゃん。こういうときは偶像が必要じゃない?」
「なるほど。キァハ司令とよく似ていらっしゃる。あなたは」

 似てる? アタシが? 
 そりゃないっしょ。あっちのほうが数千倍嫌なやつだし、数万倍知能が高い。
 戦いに関しては……二倍くらいかな。そうしておく。そう思ってないとイヤだし。

 あ、やば。
 なんか後ろに一杯ARKSがついてきてるし。どうしよ?
 でもまぁ、魔女っ子がモテモテになるのはこれが最初で最後だろうし、いいんじゃない?


 アタシらについてきたARKSを、アルファ分遣隊の連中が催眠ガスで片付けた。
 キャストのARKSに対しては、ハッキングしたらしい。
 明らかに違法だろ、それ。
 電脳に直接アクセスするとか……
 でもまぁ、この船団は得体の知れない組織が多いからな。
 法律が有名無実化しているか、もしくは特別法によって違法性が阻却されるのかもしれない。

「ARKSの安全は保障します」

 そういって、くたばってるARKSたちは敵が排除された隔壁区画に放り込まれた。
 で、隔壁閉鎖。これでアタシらとあいつらは断絶したわけだ。

「えぐいねぇ、やり方が」

 アタシはひょいひょいと運ばれるARKSたちを一瞥する。

「こういう事態を招いたのは、あなたですが」

 アルファ分遣隊長はそういうつまらない事実を言ってくる。
 確かに、ここまで人がついてくるとは思ってなかったけどさぁ。

「で、どこにその宝物が?」

 そう。
 とにかく将軍の依頼を片付けないとね。
 アタシはべつに市民の救助活動とか、そういう大層な目的はやっぱ向いてない。
 どっちかっていうと、ただ気の向くまま?

「もうすぐです。時空並列の観測予定時刻まで40秒」

 ふーん。
 なにそれ?

「おい、魔女っ子。時空並列ってなんだよ?」

 魔女っ子は、上半身だけが残った女の死体を見ていた。
 あまりにもまじまじと見るその様は、いつも以上に得たいの知れない妖しさを醸す。

「おい、魔女っ子、きいてるのか?」
「きいてる」

 きいてんのかよ。

「時間並列ってなにか聞いたんだが?」
「知らない。確実なのは死は不可逆。それでいて可能性は重なり合ったまま」
「は?」
「わたし、専門は工学と医学だから」

 そして、やつは見開かれた女の死体のまぶたを閉じてやる。
 それだけじゃなく、やつなりの祈りの言葉を唱えている。
 このあたりの死体全部にそういうことをするつもりなんだろうか?
 弔ったところで、死者は蘇らない。
 それに、人の死はこの世界に物理的な影響を与えない。
 死のうが、分子量が減ったり増えたりするわけじゃない。
 だけど、魔女っ子。
 あんたは優しいんだな。
 知らないやつの死を悼んでやれるほど、アタシは強くないよ。


 アタシは時空並列やらに興味をそそられてるから、アルファ分遣隊の連中と一緒にそれを観測する。
 だが、魔女っ子が興味なさそうに、近くのベンチに座る。
 あいつ、ホント興味ないことには何の関心も示さないよな。

「3,2,1、今」 アルファ分遣隊長が時計を秒読みする。
 キャストって便利だよな。体内時計が精確だもん。

 いきなり商業ビルが一棟、『裏返し』になった。
 アタシはみたんだよ。明らかに外側にオフィスの中身が暴露するのを。
 それだけならまだしも、ビルはそのまま半透明になり、次第に色を薄くしていく。
 挙句の果てに、ビルはどっかに行っちまった。
 
 かわりに、妙な格好の人影が跡地に横たわる。

「現認。生体サンプルを回収するぞ」

 姿を隠していたアルファ分遣隊の連中が暴露し、医療担当らしい奴が人に接近する。

 だけど、アタシは寝てるやつの指先がぴくっと動くのをみた。

 どうやら見間違いじゃないらしい。分遣隊の兵たちも銃を構え始める。
 医療担当も接近をあきらめて、他の兵のもとにもどる。

――目標が目を覚ます。ヒマワリ・ヒナタ、君の出番だ

 分遣隊長からとんでもな通信が入る。
 そのためにアタシをつれてきたんかい。


 すぐに、その寝てるやつは立ち上がった。
 普通の、どこにでもいる、冴えないティーンエイジャーだ。

「……え! ここは?」

 妙な格好の女の子だな。あれだ、昔トーマが言ってたやつだ。なんだっけ……セーラー?

「ここは危険なの。だからそこのキャストたちとアタシがあんたを迎えに来た」
「えっと、ジエータイの人ですか?」

 おいおい。なんだよそれ。

「それとは違う。ARKSとそのお友だちさ。とにかく危険なんだ。回りをよく見ろ」
「あの、外人さんですか? 言葉がわからないんですけど……」

 あ? 翻訳デバイスぶっ壊れたのか? 
 しゃあない。アタシはそこらへんを指差してやる。
 女の子はあたりをきょろきょろ見渡す。
 そして、急に青ざめて、そのまま倒れこむ。
 おい! アタシはあわてて駆け寄って、抱きとめる。
 そして、すぐに医療担当兵がその女の子を全身走査し、採血した。

「――簡易分析ですが、危険な病原体を保有しているなどはありません」

 おい!
 あんたらはキャストだからいいだろうけど、アタシはヒューマンだっての。そういうの警戒しなくちゃいけないんなら事前に言えよ。そうならフィルタくらい装備したのに。

「で、この子をどうすんのさ?」

 おきがけに死体と破壊の山をみて耐えられるティーンエイジャーなんかいないはず。
 もしそれに歓喜したり、興奮したりしたら……
 そいつは狂ってるだろうな。

「それはARKSに任せる。我々の任務は血液サンプルの回収と、時空並列の観測だ」

 アタシは唖然とする。軍は狂ってるのか?

「ちょっとそれ迷惑じゃん。アタシらがこいつの面倒みろっていうわけ?」
「拒否しても構いません。そうであれば、対象は処分するだけです」

 おい。処分ってなんだよ。

「処分ってまさか」
「分子レベルまで分解し、隠滅します。それが何か?」
「なにかじゃねーよ! 民間人殺すのが正規軍かい?」
「この戦域には正規軍は存在しません」

 そういうことか。
 戦闘力的にもARKSなんか要らないのに、アタシをここにつれてきたのは、こういうことのためか。

「キァハ准将と通信させて」
「いいですよ。おい、通信兵」

 なんじゃらでっかい通信キットを背負っていたキャスト兵が駆け寄ってくる。
 そして、アタシに無骨な通話機を渡す。
 アタシはイラついてるから、ちょっと乱暴にそれをつかんだ。


「あたしだけど、なに? あたしの可愛い部下と揉めてんの?」

 ぶっきらぼうな准将の声がきこえてきた。

「違うって。確認させて。キァハ准将はサンプル処理をどっか上のほうから命令されたが、それはなんとなく面白くないから、ARKSに奪われたって筋書きを作りたいわけ?」
「わかってんならいちいち連絡しなくていいでしょ。やればいいだけ」

 簡単にいってくれる。

「だ・か・ら、助けたらアタシ他の連中に狙われるんじゃないの? 奪われました、ごめんなさいなんて言い訳通るほど正規軍って甘くないはずだけど?」
「たぶんWORKSかブラックペーパー、あとF計画関連の連中が動く」

 おいおい、シラネェ組織が一杯でてきたぞ?
 ヤバイ案件に首つっこんじまったか。

「おい! アタシ消されるのはごめんだよ?」
「その辺は手打ってあげるからさ、何とかソレ助けてよ」
「あんたの旅団で助けられないのかよ?」
「旅団長なんて大した権限ないんだって。あたしの階級知ってるでしょ? 上が一杯いるし、横も一杯いるわけ。干渉、統制、要請なんて日常茶飯事。そんな組織で匿いきれるはずがない」
「まてまて。じゃなにか? 別組織のARKSだったらOKってか?」
「それを狙っているのよ。ARKSのほうで保護すれば、少なくとも表立って正規軍が干渉することはできなくなる」

 いけない。やつのペースになってる。
 だから、アタシは一呼おいた。

「――それも変じゃん。アンタには子飼いのARKSがいるように、他の連中だっているはずだ。表立ってできなくたって、裏道があるんなら危険にかわりはないし」

 そう。世の中誰かだけが特別な方法を持ってるわけじゃない。
 それを必要とする組織には、それが用意されるものなんだ。
 どんな世界だろうと、需要があれば供給はある。

「……あんたならそれを守れるはずよ? だって、あんたプレーン・ボディなんだから」

 プレーン・ボディ。それはあの計画書に書かれていたキーワードの一つだ。
 アタシの動悸が早くなる。

「おい! 准将、アタシのルーツを知ってるのか? 今すぐ教えろ!」
「その子を無事救ったらね。じゃ」

 通信がきられた。

 ファック! きたねぇぞ、あいつ! 切り札なしで交渉する女じゃないとは思ってたけど、ここまで手段を選ばないとは思ってもいなかった。

「お話がついたようですね。では、我々は撤退しますのでよろしく」

 分遣隊長はさっさと部隊をまとめ始めた。
 しばらくすると輸送機が一機着陸して、連中を回収していった。

 まいったな。

 アタシは腕に抱えたティーンエイジャーをみる。
 戦いなんざしらなそうな、典型的な黄色人種の少女だ。
 混血の極みに達した今どきじゃ、ここまで原始的なのは逆に珍しい。

「やっぱりあなたは、人を助ける」

 魔女っ子が思い出したかのようにとことことこちらに近づいてくる。

「助けたわけじゃないさ。押し付けられたんだよ」
「一緒。あなたは、知らない人の命をつないだ」

 魔女っ子が、あたしを読めない瞳でみつめてくる。
 なにか言いたいのかもしれない。

「おい、言いたいことがあんならいいな。アタシとあんたの仲だろ」
「お告げがあった。あなたはその子の救世主になる」

 ありがた迷惑なことを告げられる。
 救世主? 空とぶスパゲッティの神様からそういわれても、ため息しか出ないけど。

「あと、わたしとあなたの仲って?」

 おい、そういう細かいとこ聞くなよ。
 めんどくさい小娘だなぁ。

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ファンタシースター計画09

 襲撃から数日がすぎて、やっとこさ復旧のめどがついてきた。
 だけど、それはせいぜい街並みのお話。
 都市というシステムは、それぞれが機能に細分化され、しかもつながっている。
 どれか一つの細胞が死ぬことは、他の細胞の機能まで阻害する。
 そして、そのシステムを動かしているのは、紛れもなく人だ。
 そう。
 問題はここだ。
 死んでしまった市民に代替はない。
 だから、街並みがその秩序だった景観を取り戻したところで、システムとしての都市が蘇るわけじゃない。
 こういうのは、どうしても時間がかかるんだ。

 だけど、食い物に関しては、システム面での復興も早かった。
 アタシは安いバイクに乗ってやってきたピザ配達の兄ちゃんに金を払いながら、感心する。
 悲しかろうが、悔しかろうが、腹が減る。
 体は、望んでるんだ。
 四の五の言わず生きたいってな。

 で、おかげでこうしてデリバリーのピザにもありついてる。
 部屋の壁にかけてあるディスプレイには、ニュースキャスターと政治評論家が、紛糾する議会の映像をみながらなにやら当たり障りのないことをいっている。

――以後、政権に対する責任追及の声は非常に大きくなることでしょう

 あっそ。そりゃ幼稚園児でもわかるって。なんで評論家ってこういう当たり前のこといってお茶を濁すのやら。

「あの子が起きた」

 魔女っ子がうれしいのかうれしくないのか分からん口調で言った。

「起きた? 意外と落着いてるな」
「まだ状況を把握できてないだけ」
「翻訳機は?」
「つけた。設定はジャポン語。寝言でわかった」

 さすが魔女っ子。
 ちゃんと手を打ってくれる。
 どれどれ、面会といきますか。
 食べかけのピザをそのままにするのは気が引けるけど。
 


「あの、助けていただいてありがとうございます」

 中々礼儀のなっているやつだ。
 ただ、どうもこう、子どもっぽい顔っていうか、やっぱ混血が進んでない黄色人種って童顔にみえんだよな。

「勝手に翻訳機をつけさてもらったぞ。それ、外すなよ」
「私、ピアスつけるの初めてです……」

 そうかい。えらく寂れた青春おくってんだね。

「で、自分の名前くらい言えるか?」
「あ、はい。一之瀬蜜柑です……」
「え?」
「みかんです。変な名前ですよね、よく言われます」

 ふーん。みかん? それってあの甘いオレンジのことか?

「へー、ミカンね。確かにオレンジって顔じゃないわ」
「……変だと、思わないんですか?」
「アタシは他人の名前を馬鹿にしないよ。今どき意味分からん名前が主流だからね。フォヌカポゥとか」
「そうなんですかぁ。知らなかったです」
 
 妙に素直なやつだな。
 その意味で、たしかにミカンみたいに愛嬌のある女の子だけどね。
 ただ、やっぱりこう、グラマラスさっていうか、筋肉っていうか、いろいろ足りないよな。
 良くも悪くも普通すぎる少女だよ。コイツ。

「あの、ここは病院ですか? 私、家に連絡しないと。えっと、ケータイ……」

 どっこいしょと立ち上がろうとするミカンを、アタシは制する。
 制した彼女の肩は細かった。
 やっぱり、鍛え方が足りない。
 女は今どきタフじゃないとね。タフネス! ってCMでもやってるだろ?
 で、ケータイってなんだ?

「ケータイ? 魔女っ子、こいつの荷物は?」
「そこ」

 魔女っ子はキッチンでコーヒーを入れてるらしい。
 どうも手が離せないみたいだ。
 全部オートにできるのに、信仰上の理由で手間をかけないといけないらしい。
 ホント大変だなぁ。信仰は試されるんだねぇ。
 アタシは魔女っ子が指し示したとこからエラくオールドルックな鞄を取ってくる。

「はいよ。あんたの荷物だ」
「すみません、何から何まで」

 そういって、ミカンは鞄の中から妙な形のものをとりだして、ぽちぽちいじり始めた。

「なんだ、それ?」
「え? ケータイですけど」

 ケータイ? もしかして携帯端末のことか?

「あれ、おっかしいな。電波が無いです」

 電波? そりゃ量子物理学時代の概念じゃね?

「すいません、あのお電話お借りできますか?」
「電話? おい、魔女っ子! 電話って何だ!」

 電話といえば魔女っ子が以前話してくれた教義の中にそんな言葉があった。

「もってない。それは神器の一つ」

 魔女っ子のやつは、ぷるぷるふるえながら、慎重に湯を注いでる。
 コーヒー淹れるのに手間かけるなんて面倒だねぇ。

「神器だなんて……あちらのかたは冗談がお上手ですね」
「まぁ、あいつがいうならそうなんだろう。で、電話って何だ?」
「あ、そうですか。外国の方ですものね。えっと、テレフォンです」

 テレフォン? ますます分からんな。
 まぁ、なんたらフォンつながりってことで、ビジフォンかなんかのことだろう。
 ってことは、やっぱビジフォンと同期してる個人携帯端末をいっているに違いない。

「これでいいか?」

 アタシは個人端末を実体化させる。
 ぽんっと、アタシの手にそれが現れる。
 フォトン工学お得意の、クラスタ・トゥ・クラウドシステムの恩恵だね。

「すっごーい! 手品師さんか何かなんですか?」

 ミカンが子どもっぽく驚く。
おいおい、お前はどうやって今まで生きてきたんだと訊きたくなる。

「ま、使いなよ」
「ありがとうございます」

 だが、ミカンは薄っぺらなフォトン板を持ったまま黙る。

「あの、すいません。文字の形式が特殊でして読めないんですけど……」

 どれどれ、こいつの言語はジャポン語だから……これか?

「あ、どうもです。えっと、それで電話番号ってどうやって?」
「電話番号? 連絡とりたいやつの名前を入れればつながるよ」
「へー! すごいですね、これ」

 そしてピッピと文字列を入力していく。

――おかけになったお相手は、地球暦時代のみ該当。エラーです

 しばらく沈黙が続いた。

「あの、すいません。ここ埼玉ですよね?」
「いや、そんな船はないと思うんだけど」
「え?」
「え?」


 アタシらがあほ面さげてお互い見詰め合っていたら、魔女っ子がコーヒーを持ってきてくれた。

 そして、やつは今まで光学調整していた窓を、透過モードに変えた。
 人口太陽光の光で、サーカディアンリズムをもどしてやろうってわけだ。
 すると、ミカンは外を見たまま固まっちまった。

「魔女っ子、どうしたんだこいつ?」
「バイタルサインに乱れ。心拍上昇、血圧が不安定化している」

 魔女っ子は、ミカンの治療目的でナノマシンを投与したんだろう。
 そのログが魔女っ子の端末に刻々と表示されてるらしい。
 そして、ごそごそとお得意鎮静剤の準備を始めた。

「ま、まぁ、コーヒーでものんで落着いたらどうだ?」

 アタシはこういうときどうすりゃいいのか知らないので、適当なことをいっておく。
 だってそうだろ?
 パニック状態の人間を冷静にさせる技能なんてねぇよ、アタシは。

「あの、ベランダに出てもいいですか?」

 どこかミカンの心ここにあらずだ。
 アタシはその目の焦点の定まらなさに、気味悪さをおぼえる。

「あ、ああ、構わないけど」

 アタシはわざわざ、手をとってミカンをベランダに案内する。
 手は、えらく冷たかった。

 我等がベランダには、魔女っ子のやつが信仰上の理由で栽培してるハーブの類のプランターがずらりと並んでいる。
 そして、そこから見える光景はいつもと変わらない。
 青空を演出してるくせにうっすら星がみえるドーム天井。
 人工の大地に、計画的かつ合理的に作られた設計都市。飛び交う車両。何とか目を凝らせば、豆粒大のヒューマンとかキャストとかが見れるだろう。ニューマンについては魔女っ子がそのまんまだから分かりやすいと思うけど。

「予報どおりいい天気設定だな。だけど、午後から第111地区だけ雨らしい。なんでも晴れが続いても心理ストレス溜まるやつがいるらしいぜ。この時期は雨が降らないとだめってな」

 そう説明しながら、『バショー』は梅雨っていうものがあって、やたら雨が降る設定の時期があることを思い出す。

「こ、こ、こここ……」
「こここ?」
「ここ、埼玉じゃない!」

 なにおどろいてんだよ。
 そりゃさっき説明しなかったっけ?

「あー、ここはARKS艦隊2番艦『ウル』だ。ARKS艦隊なんてご大層な名前ついてるけど、単にARKSの指定居住艦ってだけさ。一般市民も大勢住んでるし、魔女っ子が好きなヌードルだって買える」

 アタシはできる限りくわしく説明してやる。もしかしたらこないだの事故で頭を打ってるのかもしれないし。

「わ、わ、わ、私、宇宙人に捕まったんだ!」
「おいおい。宇宙人って何だよ」

 アタシは震えるミカンを落着かせようとして、彼女の肩をポンと叩く。
 すると、ミカンが突然ビクッとして、部屋の中に逃げもどった。
 そして、出口を見つけようとあっちこっちの扉を叩いたりひっぱったりしてる。
 やべぇ、あれ明らかにパニックだろ?

「魔女っ子、なんとかならないのか?」

 平然とハーブの手入れをしてる魔女っ子に、アタシは軽い頭痛を覚える。

「あと5秒」

 魔女っ子はそういって、ぷちぷちとプランターの雑草を抜いている。
 5秒? なんのこっちゃと思っているうちに、5秒すぎた。

 そして、部屋の中で錯乱してたミカンが、ころんと倒れこんだ。

「おい、何したんだ?」
「酸素抜いた」
 ……アタシ、部屋の中でこいつと喧嘩しないようにしよう。

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ファンタシースター計画10

 ミカンをもう一度ベッドに寝かせる。
 そして魔女っ子が鎮静剤の点滴を設置する。
 ミカンの顔色は、鎮静剤と魔女っ子のレスタのおかげか知らないが、比較的健康そうな色合いにもどっていった。
 すうすう寝息を立てる彼女の看病は、ハーブの手入れに満足した魔女っ子に任せる。
 アタシは准将に問い合わせて、今後を決めなくちゃいけない。

2 
 自室にもどり、准将のコードを入力する。

「――はーい。あたし今、部下と飲み会なんだけど?」

 久々に通常の映像通信をしてみたら、なんだか楽しげに飲んでやがる。
 どこのサラリーマンだよ。
 理由もなくパーツを外して露出を高めたキァハ准将を中心に、こないだのアルファ分遣隊の連中が好き勝手やってる。

「上官がいたら酒がまずいだろ? とりあえず席外して。あれが目覚めた」
「あー? あたしら4000年以上一緒に戦ってるのよ? あたしがいて酒がまずいやついるか?」

 すっかり酔っているらしい准将が、部下に訊いてやがる。アホかと。

「はーい。キァハは泣き上戸だからじゃまでーす!」

 どうやって飲んでるのか分からないニック大尉が通信に割り込んできた。

「あんたねぇ、死ねば?」

 ニック大尉が思いっきり殴り飛ばされて画面から消えた。
 おい、あんなの食らったらアタシ死ぬぞ。

「……大尉は無事なのか?」
「あん? あー、なんかバイザーぶち割れて装甲凹んでるわ。気にしないで」

 それ、まずいんじゃないのか。ニック大尉は人型フェイスじゃなくて、典型的なメカニカルフェイスだから……人間で言えば頭蓋骨骨折と水晶体破壊?

「そ、そう。で、こないだの女の子が目覚めたんだけど。サイタマがどうだとか電話がどうだとかいって話が通じないんだけど」
「そりゃそうでしょ。TLPT特異体なんだから」

 あっけらかんと准将がいってくれる。ぜんぜん分からん。

「だから、それ何?」
「えっと、あんた、一般相対性理論と特殊相対性理論の差異を説明するときに必要な数式理解できる?」
「できたらARKSやってないって」
「そう? お友だちの魔女っ子ARKSは理解できそうだけど」
「うるせー。アタシは理解できないってだけです。す・い・ま・せ・ん」

 どうしてこう、キャストってのはヒューマンの知力水準を直裁にきいてくるかね? デリカシーってのがないじゃん。
 そっちは頭にIvAIを搭載するスパコンで、しかも軍用SAIのMARSの支援まで受けてる。
 思考は光速だし、キャスト同士なら情報共有に言語なんて不要。いちいち話して説明する必要ない連中に、ヒューマンが勉強で勝てるわけねぇだろ!

「分かりやすくいうと、そいつタイムスリップしてきたの」

 ……まっさかぁ。そんな童話みたいな話、あるわけないって。
 今どきの大宇宙航行時代にタイムスリップとか言われたってねぇ。

「またまたぁ。准将が冗談言うのは似合わないぜ」
「――ヒューマンってさ、時間について問われるまで、時間について理解しているつもりになってるから面倒なのよね。分かってないけど、時間は存在する、みたいな。もうね、アホかと」

 あん? どういうこと?

「確かに賢くないのは認めるけど」
「とにかく、あんたに一から説明するには大学院で博士論文くらい書いてきてもらう必要があるから、大雑把に説明したげる。『存在するものには、全て理由がある』」

 は?
 いや、ぜんぜん説明になってないけど

「まさかデカルト的存在証明もわかんない?」
「だれだよ、それ?」
「哲学者。役に立たないものにも存在理由があるっていう、ありがたい見解を残した。おかげさまで無価値な人間は存在してはいけないっていう妄言が否定される。あんたにはこれがお似合い。じゃね」

 ……きりやがった!
 あの女、面倒なこと全部他人に任せてるくせにこの態度かよ?
 だいたいだな、アタシは扶養家族を抱えられるほど豊じゃないっての。


 どうしよう。かなり危機的だ。これはマズすぎる。
 スーツの良く似合う野郎が、招かれざる客としてやってきたからだ。

「はじめまして。アジャン・プロヴォカトゥールと申します」

 気に食わないイケメン野郎が、アタシに颯爽と名刺を差し出してくる。
 今どきペーパーの名刺を使ってるやつは政府機関の怪しい連中だけだ。
 その名刺にはこう書いてある。

――船団最高法院 監察局種族問題対策課課長補佐

 うーん、課長補佐ってなんぞ? 
 偉いのか? 大したこと無いのか?
 まぁいいさ。
 アタシはその名刺を後ろでこそこそしてる魔女っ子にさっと渡す。
 魔女っ子がこの名刺の主の裏を取るってわけ。

「で、アジャ……」
「アジャンです。ヒマワリ・ヒナタさん」

 アジャンとかいうやつは、爽やかな笑顔をアタシに放り投げてくる。

「あーはいはい。で、アジャンさんは何しにここに?」

 このイケメンニューマンは、タダもんじゃない眼光全開で、アタシのマイルームの玄関先に突っ立ってやがる。

「大したことではございません。この部屋の奥に不法滞在者がいるとのことで」

 げ!
 やっぱり?
 もう早速バレた?
 たしかにミカンっていうタイプスリップした少女一匹飼ってますけど……。

「――証拠は? 令状とか、そういうのは?」
「滅相もない。ただ、私には貴女の悩みを解決することができます」

 にこやかな笑みをアジャンの野郎が浮かべる。

「悩みなんかないぜ?」
「そうなんですか? 不法滞在者のパーソナル登録がないとイロイロ不都合かと思いましたが」

 痛いところをつかれる。
 たしかにミカンはどこにも登録されていない謎の物体Aだ。
 このままじゃ、船団のメセタカードだって作れないし、保険登録だってできない。
 つまり、生活が不可能ってこと。
 いつまでも家の中に閉じ込めておくわけにも行かないし。

「……追い返したら?」
「別件逮捕だって出来なくはないですよ?」

 なるほど。やっぱイケメンは信じるなってな。
 立派な脅しじゃねえか。

「どうして調べがついた?」
「我々は船団内の質量データを掌握しておりますので。他にもNシステムは常に稼動しております、はい」

 なるほどね。
 プライバシー権もくそもないわけだ。
 精密機器のカタマリである長距離航宙船で生活するやつには、そんなもの保障されない。

「入りな」
「話が早くて助かります」

 アジャンはいそいそと丁寧に靴を脱いで、どこかに転送した。
 わざわざ脱がなくたっていいんだけど、なにやらそういう風習らしい。


 とりあえず、魔女っ子がいれてくれたコーヒーを飲みながらテーブルで向かい合う。
 安物のソファのすわり心地はわるくなかった。

「では、早速本題に入りましょう。不法滞在者と面会させてください」

 アタシは魔女っ子に頼んでよんでもらう。
 しばらくすると、泣きつかれた顔をしたミカンがやってきた。

「ついに……私、売られちゃうんですね」

 ミカンはなにやらあきらめた様子だ。
 こいつなんか勘違いしてるぞ。

「はじめまして。私は監察局のアジャン・プロヴォカトゥールです」
「なんでもいいです。私の人生なんてもう終わりなんですから」

 悲観に支配されたミカンがぼやく。
 まぁ、確かにどっかの時代から飛ばされて、もう帰れませんとか言われたら悲観するわな。

「おやおや。これはお可哀想に」
「で、監察局ってなんなんですか?」

 ミカンがぶっきらぼうに訊く。

「まぁ、貴女の時代で言えば警察ですかね」
「警察!」

 ミカンの表情がぱっと晴れる。

「聞いて下さい、おまわりさん! この人たち私をこんなところに監禁してるんです! 助けてください! 私、さらわれたんです……」

 そういってミカンはアジャンにすがり付いて泣いた。

「おやおや。それは怖かったでしょうねぇ」

 アジャンがイケメン的微笑でミカンをよしよしと慰める。

「私がお助けしますよ」
「ホントですか! はやくこの人たち逮捕してください!」

 ミカンよ、お前はほんとうに恩知らずだなと言いたくなる。
 飯だって、代えの服だって買ってやったじゃん……。

「まぁ、落着いてください。私は貴女をお助けしますが、貴女の協力が必要なんです」
「え? 協力ですか?」
「まず、貴女がここに来た一件を話してください」

 そして洗いざらい虚実交えたミカンの話が始まった。
 アタシらが宇宙人で、サイタマとかいうところからミカンを誘拐したんだとさ。
 おまけに、ロボット兵士がいたとか言いやがった。
 おい、ロボットは差別用語だぞ!

「キャスト兵士が?」
「はい。キァハがどうのこうとって兵隊さんたちが言ってました」
「ほほぅ」

 にっこりとアジャンの野郎が深く頷く。
 そして、やつはこっちに向き直る。

「ヒマワリさん」
「あ?」

 さて、アタシはどうやってキァハ准将のことを誤魔化すかと頭を回転させる。

「第44宙間機動打撃旅団をご存知で?」
「さぁな」
「まぁまぁ。そう警戒なさらずに」
「警戒するだろ」
「ではご安心を。我々は連中とは敵対しているんです」

 さらりと言いやがった。
 政府系の組織ってことはかわりがないだろ?
 なんで敵対するんだよ。
 ――あ、でもアタシもなんかこいつ警戒してるわ。
 一応、ARKSも政府系組織だもんなぁ。

「全然安心じゃねぇな」
「ですが、それは目的は同じなのに手段の相違があるからでして、はい」
「何がいいたい?」
「我々は敵ほど信頼しているのです。むしろ味方を信用しない」
「はぁ?」
「現在、キァハ准将の旅団はどうも船団統合政府(SPQO)の意思から離れ、独自に行動をしているようなのです。我々監察局はそのような集団を監視するのが任務ですので、その意味でかの部隊は敵なのです。しかし、一方で――」

 やつはコーヒーをすする。

「我々は独自行動をとった理由をも調査します。すると、どうでしょうか。かの部隊はどうも時間並列事象の生じた地域に独自に兵員を送っているようなのです。従来は失敗していたようですが、今回は違った」

 おいおい。
 アタシなんかよりずっとやつらにくわしいじゃないか。
 こっちはキァハ旅団なんて眠ってるだけの暇人だと思ってたぞ。

「あん?」
「見事、救助に成功したということです」

 救助? まぁ、たしかにそういう目的とかあの女将軍が言ってたような。
 ただ、助けてやってよと頼まれたのはこっちだけど。

「TLPT特異体について、我々は『F機関』という組織が常に回収を行っていた事実を確認しました。どうやら今回はF機関より一足はやく第44旅団が動いたようです」

 そして、アジャンは端末を取り出し、ぽちぽちと操作する。
 すると、テーブル一杯にグラフィックが現れた。

「これは?」

 アタシは机どころか部屋一杯に拡大していくグラフの渦を見渡す。

「我々監察局の急襲部隊が回収したF機関の研究室です」

 グラフィックには、数多くの試験管みたいなのが移っていた。
 その試験管の中には、なにやら臓器チックなものがいろいろ収まっている。
 原生生物のやつかなにかか?

「こちらはTLPT特異体の解体資料です。捕獲された資料は完全解体され、様々な実験に使用されていたようです」

 解体?
 おい、それって問題だろ。

「あのーどういうことですか?」

 ミカンがのんきに口を挟んでくる。

「あなたの先輩たちは、皆解剖されたってことですね、はい」

 イケメンが気遣いのない台詞をはきやがる。
 ミカンのやつはみるみる青くなる。

「いや……私、死にたくない」

 そりゃそうだ。
 アタシだって、解剖されて死ぬなんざ願い下げだ。
 つまり、アタシ的にはF機関ってやつは気に食わない組織認定だね。

「貴女は運がいい。死にませんよ。私とここの二人が守ってくれますから」
「え?」
「ですから、貴女は誘拐されたのではなく、保護されたのです」

 アジャンがそういっているのに、ミカンは納得できないようだ。
 なかなかなんでも素直に飲み込むことができるやつなんていないよな。

「でも……」
「あ、できたようです。これが貴女のパーソナルカードです」

 ポンッとアジャンの手の内に、カードキーが現れた。
 たぶん、役所的転送が行われたんだろう。
 どうやってミカンの生体データを取ったかはきかない。
 どうせさっき抱きつかれたときに、抜け毛なりなんなりを勝手に採取したんだろう。

「あと、ご家族の記録についてですが、とりあえず旧世紀の日本という国にいたことまではつかめました。没年については残念ながら、幾つもの大戦争のせいで記録が散逸してしまったようです」
「そんな……」

 ミカンが力なくうなだれる。
 アタシにどうこうできる問題じゃない。
 こういう世界に来てしまったんだから、自分なりになんとか折り合いをつけてもらうしかない。
 
 一応、協力して欲しいって言うんだったら、いくらでも力を貸すつもりではある。

 一人ってのはキツイからな。
 記憶がウソだったことを知ったときから、それがより分かるようになった。

「私、これからどうやって……これは、夢じゃないんですか?」
「狂気に逃げ込むのもわるくない選択です。ですが、一つ思い切ってここの世界で生きてみるのもありだとは思います」

 おい、全然アドバイスになってないぞ。

「そのパーソナルカードがあれば、精神科医にかかるのも容易ですので、そこらへんはご自由になさってください」

 そんなこと言われてもどうしようもない気がするけどね。
 ミカンのやつはボーっと市民登録されたカードをみてる。
 どんな気持ちなんだろうな。しばらくほっとくしかないか。

「大丈夫。わたしはあなたを見捨てない」

 突然だったが、魔女っ子がボーっとしてるミカンに毅然と言った。
 アンタ、そんな格好いいこといっちゃうわけ?

「誰も、信じられません……」
「信じなくていい。信じさせるのは、わたしのほうだから」

 まいったね。
 魔女っ子にそういわれたらアタシも黙ってるわけにはいかない。

「困ったことがあれば何でも相談しな。何だかんだで、アタシは顔が広いんだ」

 適当なことを言ってしまった。
 本当は大して広くない。
 というか、そもそもアタシという存在が勝手に誰かによって作られたものだし。

「おやおや。皆さんいい人でよかったですね。では、人助けは終わりましたので私は帰ります。ではでは我々最高法院監察局は、『全てをみている』ことをお忘れなく」

 やつは立ち上がると、にこやかに胡散臭い笑みをうかべて、玄関へ向かう。

「おい、まてよ! アンタ結局何しに来たんだ?」

 アタシはあわてて尋ねる。

「あぁ、それはですね――」
「もったいぶるなよ」
「あなたがたは、見たいものしか見ていないとお伝えしにきたのです」
「あん?」
「あなたの認識は無意識に支配されています。本当は存在するものを、無意識は排除する」

 言いたいことがわからねぇやつだ。

「何が言いたい?」
「人の五感など当てにならないということです。カフェお友だちと楽しくお話しているときは、店員の足音など気にも留めないということです」

 そりゃそうだろ。
 いちいち気にしてたら楽しくないだろ。

「つまり、我々は存在する事実を排除するシステムを内在しているのです。いわゆる、脳の判断排除機能というやつです」
「それがどうしたっていうんんだ?」
「それ、とても利用価値がある機能だとおもいませんか? 貴女の実在を左右するときに――」

 言い残して、奴は玄関扉の向こうに消える。
 なんてこった!
 あいつは、アタシの何かを知っている!

――待ちやがれ!

 あわてて立ち上がり、玄関の扉の向こうに消えた奴を追う。
 だが、ありきたりな廊下がそこにあるだけで、奴の姿は失われていた。
 もとから、そんな奴は世界に存在していなかったかのように。

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プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





PSO2_200x200_応援バナー01

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