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全ては未来の向こうへ行くため07



 パステルは思い悩んでいた。なぜわたしなんだろう、と。
 頭から熱いシャワーを浴びても、もやもやが残る。
 ARKSは、良くも悪くも彼女の居場所だ。それは理解している。
 ペーパームーンでARKS研修所を切り盛りする。それだけの仕事。
 けれど、それが彼女にとってつらかった。
 一番つらいのは、ヒマワリが『所長』と呼ぶこと。
 今までは、同じただのARKSとして、二人でなにも考えずにバカなことばかりしてきた。
 考えが足りないヒマワリに振り回されるように、彼女は自分一人では突っ込まないようなところまで首を突っ込んだ。
 死にかけたりもしたけど、スーパーで買い物して、二人でパスタを食べたりしてきた。
 そうやって彼女たちは、身長は違ったけれど同じ目線に立ってはいた。
 でも、今はそれが失われ始めている気がするのだ。少なからぬ調和。科学的なハーモニーが損なわれようとしている。

「もう、ヒマワリはわたしを『上司』だと思ってるのかな」

 だとすれば、辛かった。
 そばにいてくれる友だちが、すこしちがう何かになるなんて認めたくないと思う。
 砂漠の中で、渇き続ける旅人のようにパステルは『友だち』を渇望していた。
 ヒマワリは少しパステルとは釣り合わない残念な知力の持ち主だけれども、それでもパステルは救われていた。
 頭の中で世界をこねくり回すだけの、インテリ気取りの連中よりもずっと好感が持てたし、率直な態度は嫌いじゃなかった。
 でも、ARKSの上の人たちはパステルに『ヒマワリを部下としてつける』という決断をしたのだ。
 今まで通りの、ちょっとまぬけな関係をつづけることができるのだろうか?

「……でも、また一人になるだけ」

 そう考えれば、しくしくする胸の奥を少しだけやわらげることができる。
 もしかしたら、もう決めなければならないのかもしれない。
 
「ARKSとして、みんなを守らなくちゃ。たとえ、わたしが一人になっても」

 今日は無理やり街に火を放って市民を誘導するという暴挙に出た。
 ヒマワリ用にバカな言い訳をつけてみたけど、あのときのパステルは必死だった。
 ここでARKSがなにもせず、市民に犠牲者を出したなどとされれば、ペーパームーンでのARKSの発言力は低下するだろう。
 いままで様々な都市船で長年かけて積み上げてきたARKSに対する市民の信頼を保つためにも、たった二人のARKSだろうと、武器のない人たちを守りきらねばならなかった。
 たぶん、自治王国の執政府あたりから『なんてことしてくれたんだ!』という抗議と損害賠償請求がくるだろう。それは覚悟してる。
 いざとなれば、そういう時のために所長に与えられる『部外調整費』を支出するだけだ。
 慣れない議員相手の工作だってやってみせる。ヒマワリに迷惑はかけられないし、所長はパステル自身なのだから。

「おい、魔女っ娘。アタシも入るぜ」

 バスルームの半透明の制御扉から、ヒマワリの声がきこえた。

「だめ。教義によれば、同性でも一緒にはいれない」

 そんな教義はないが、今の自分をみられるわけにはいかないから、パステルはそんなつまらないウソをついた。

「バカヤロー。そんな協議はねぇだろうが。こないだだって一緒に入ったしな」

 そういえば、そうだったとパステルは思い出す。失策だった。
 ヒマワリは遠慮なく、その健康的な鍛えられたカラダをさらしながら、手拭一枚もって入ってきた。

「へへっ。お前、どーせあれだろ? 一人であれこれ考え事してたんだろ?」
「してない。わたしは冷静」
「……ふーん。ま、いいさ。背中流してやろうか?」
「背中くらい、自分で洗える」
「シャンプーが目に入るのは、怖がるくせに?」

 ヒマワリがパステルのかぶっているシャンプーハットを指差してからかう。

「うるさい。あなたはデリカシーがない」
「デリバリー?」
「……もういい」

 パステルは黙ってバスタブのほうに向かった。
 ただっ広いバスルームには、ヒマワリが何かの懸賞であてたジャポン式の大きなバスタブがついている。
 湯がとめどなく浴槽からあふれる、素敵な温泉気分仕様らしい。水の無駄遣いのように思えるが、完全循環機構搭載の優れものだ。
 パステルは湯船に白いからだを沈めた。
 あたたかく、落ち着く。湯気がからだのなかに染み入って、かたくなな何かを溶かしてくれるようだ。

「なぁ、魔女っ娘。あとでドーナツ食いにいかねぇか?」
「……太るからいい」
「ぷっ! おまえ、そんなこと気にしてたのか?」
「わたしは、ヒマワリみたいにスタイルよくない」
「そりゃ、ここ最近引きこもって本ばっか読んでるからだろ」
「仕事。所長は忙しい」

 パステルはぶくぶくと口元まで浴槽につかった。
 そんな彼女の様子をみて、何を思ったかにやにやしながらヒマワリが浴槽にもぐりこんできた。
 そして、パステルのからだにからみついてきた。

「おっ! おまえ、けっこうふわふわ系だなー!」
「なっ! ホ、ホビロン!」

 思わず、パステルはFSM教団の秘密の呪文を唱えてしまった。特に、何か効果があるわけではないが。
 パステルのまるいお尻や、おなかまわりをヒマワリが失礼にもむにむにしてきたのは、さすがに問題だった。
 それなりにパステルも気にしてはいるのだ。

「あ? ホビロン?」
「ホントに、ビックリするほど、論外」
「ふーん。地球歴時代の古語かなにかか?」
「……ヒマワリには関係ない」
「あ、このやろー。アタシを馬鹿にしてるだろ」

 ヒマワリはさらにパステルのカラダをむにむにしていく。

「や、やめ、あんっ」
「ははーん! 御嬢さん、ここが弱いんですな、わかります。わかりますぞっ!」
「このバカ、ヘンタイ!」

 パステルは思わず、手をかざして軽く詠唱をしてしまった。
 その詠唱は軽度のゾンデ――すなわち電流をあれこれするシビレる一撃だった。
 当然のことながら、同じ浴槽につかっている二人は、ともに感電した。
 ふわふわ系の魔女っ娘と、健康美なヒマワリが惜しげなく裸体を浴槽に浮かべてノびてしまったのは、仕方のないことであった。



 夜中のドーナツショップで、ヒマワリとパステルはアイスコーヒーを飲みながらダラダラしていた。
 風呂場で溺死しかけた二人は、消耗したエネルギーを補給するためにドーナツを食べることに合意したのだ。

「なぜ、ドーナツの真ん中が開いてるか知ってる?」
「さぁな。暇なレンジャーが撃ちぬいたんだろ」
「フライングスパゲッティ―モンスター様の供物として捧げられたから」
「それ、お前の信仰上の話か?」
「ぜんぜん。ただの冗談」
「おい」

 二人はくだらない話をしながら、ドーナツをもぐもぐと食べた。
 店内に客はまばらだった。水商売でもやってるんだろうニューマンの娘とヒューマンの女が、男の悪口を言いながらカフェを飲んでいるくらいだ。
 とりあえず、無駄話にあきたパステルとヒマワリは、店内に設置されている大型のディスプレイを観た。
 そこでは、今日の――厳密にいうと昨日の夕方の惨事についての緊急特番がひっきりなしに流れていた。

『――市民の犠牲者は幸いなことにゼロと、自治警察の初動活動が見事に行われたことに市民は安堵の声を上げています』

 そして映像には、『王国警察』のエンブレムをでかでかとつけた戦闘装具一式を着用する警官隊がダーカーを駆逐していた。
 ヒマワリとパステルが暴れていた地域についても、火災の事実は伏せられ、警察がいかに活躍したかという映像が流れ続けていた。

「おいおい……」とヒマワリが苦笑する。
「情報統制って素敵」

 パステルはずずっとアイスコーヒーの残りをストローで吸い上げて、お代わりを店員のオネェさんに頼んだ。
 店員のオネェさんがかしこまりーと、お代わりを注いで彼女たちの席から離れていった。
 それを確認してから、ヒマワリが口を開いた。

「今回は正規軍があきらかに活躍してただろ」
「正規軍じゃない。自治政府軍。いや、もっと正しく言えば自治王国軍」
「どっちでもいい。とにかく、なんでこうなるんだ?」
「キァハ准将が駆け引きに出てるってこと」
「まーた陰謀屋のわるいオイルがたぎったわけだな」
「それとは違うと思う。この船は、明らかに防衛というものへの認識が甘い」
「ってこたぁ、あれか。予算でも分捕るつもりかな」
「そうかも」

 だが、実はパステルは情報統制されたニュース映像を観ていて、一つの流れに気付いていた。
 女王への責任が及ばない様に、巧妙に情報が編集され、あくまで女王が見事に自治警察を動かした、と思わせる内容になっているのだ。
 そして、特番の途中に流れるCMは、今回の事態を忘れさせるような、新規公開の映画の予告だったり、人気バンドのコンサート案内ばかりだ。
 巧妙に、現実に起きた危険な事態を日常の中に埋没させようとする意図がある。
 パステルは所長研修で教わった、情報工作と世論誘導の科目を思い出しながら、ディスプレイに流れる番組編成を分析していく。
 その編集方式は、良くも悪くも、広告代理店が間に入った民間的な手法だが、やはりニュース映像事態は政府系の映像編集が入っている以上、自治政府だれかが必死に女王へ累が及ばよう手を尽くしているのがうかがわれる。

『さて、次のニュースです。明るいニュースですねっ! 新女王陛下の即位式が前倒しで挙行されるそうです――』

 どこが明るいニュースなのか、二人にはわからなかった。
 しかし、店内にいたまばらな客や、店員たちが突然食い入るように映像に目をやったのをみて、ここの文化は王家というものにとてもニュースバリューを見出しているらしいことを理解した。
 それどころか、さっきまで男を罵る話ばかりしていた水商売がらみの女性客たちが、新女王についてなにやら楽しそうに希望を語り始めた。

「こいつぁ……相当、女王ってやつは信頼されてるんだな」
「たぶん、王家が信頼されてる」とパステルが訂正する。
「ふーん。今までの統治が相当よかったとかか?」
「ペーパームーン自治王国は、それなりに税金をとるけれど、福祉もいいから」
「んで、歴代の王はちゃんと税金を公正に使ってきたと」
「少なくとも、表向きは」
「棘のある言い方だな」
「詳細は知らないから。公開情報は、いつも美しく整っている」

 パステルは繰り返される新女王即位式にまつわる祭典の話題を流し続けるディスプレイを観ながら、静かに言った。
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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