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全ては未来の向こうへ行くため04



 都市船には、通常いくつもの宇宙港がある。
 ペーパームーンは大規模な経済都市船であるから、ほとんどの港は商業ベースとして十分な予算が投入されている。
 だが、すべての宇宙港が使用されているわけではない。
 工業地区から遠い港や、商業地区にとってアクセスが良くない港は当然のように廃用決定が下されている。
 さて、キァハ准将率いる『ペーパームーン自治政府軍(仮)』は、そのような廃用宇宙港施設の一個を『女王陛下直々に』賜った。
 
「あらあら。とんでもないものを頂いたものですわね」

 と、補給兵站幹部であるポーニャ少佐が皮肉を准将に投げた。
 ポーニャ少佐の有機生命体の金髪を模した人口頭髪は、少々ホコリにまみれていた。

「……仕方ないじゃない。これしかないっていうんだから」

 キァハ准将はあれこれと女王(予定)にねだってみたのだが、のらりくらりと躱されたあげくにこんな廃用宇宙港を押し付けられた。
 設備のほうは休眠期間が長く、オートマトンなども稼働していなかったせいで、すっかり荒廃していた。
 市街と宇宙港を隔てる連絡通路の電子ロックは、浮浪者どもによって取り外されてしまっており、セキュリティがゼロになっている。
 おまけに、港に放置されていたコンテナ類をちょっとした住居代わりに改造して、浮浪者どもが居ついてしまっていた。

「あらあら、兵たちがチョコレートなんかを配ってますわよ?」

 ポーニャ少佐の視線の先には、市街戦迷彩に再塗装(市販のペイントOSをインストールした兵士が塗った)された兵たちが、浮浪児たちにチョコを手渡したり、サッカーを教えたりしていた。
 中には、『アクシオス』艦内の電子掲示板を勝手に持ち出して、授業のようなことをしている者たちもいる。

「強くなければ生きられない。やさしくなければ生きていく意味がない、ってやつの実践のつもりでしょ」
「よろしいんですか? 兵たちの情が浮浪児たちに移ると、不法居住者たちの一掃が難しいですわよ?」
「仕方ないわ。持ちつ持たれつってことで、あれも利用する」
「あらあら。准将は本当にお人が悪いですこと」
「うるさいわねぇ。んなことより、港の諸設備の状況は?」
「報告書を転送いたしますわ」

 ぽん、と手際よくまとめられた資料が准将の端末に届いた。
 そこには見事に使えない×印のついた設備が羅列されていて、読む者の気力を削いだ。

「総合整備インターフェイスは錆びちゃってるわけ?」
「ええ。現在整備班にあれこれ努力させてますけれど、使えるにはもうしばらくかかるかと」

 総合整備インターフェイスは、船外作業用クレーンやら溶接機器などといった、艦艇整備に欠かせないドック機材を指す。
 これらが機能しない限り、ボロボロの強襲揚陸艦アクシオスの修理は進まず、防空戦闘に投入できないし、着上陸戦もできない。

「兵舎のほうの掃除は?」
「まずまず、といったところですわね」

 兵員たちが日々のデータをアップロードし、戦術・戦略システムの更新をするドッキングクレイドル(つまりベッド)を並べるところがキャスト兵士にとっての兵舎だ。
 キァハの手元にある資料によれば、はるか昔に倉庫として使用されていた港湾設備のいくつかを使用できることになっている。
 現在はニック大尉指揮下で改築作業が進められている。進捗度は三交代制ができる程度、といったところである。

「なんか、一度でいいから最新鋭装備全開で、最強に有利状況からスタートする戦争をやってみたいわ」
「あら、それじゃ戦争じゃありませんわ。ただのゲームですのよ」



「なぜじゃ! たかがゲームではないか! それすらも余から奪おうというのかっ!」
「ゲームだからですっ! まったく、姫様は政務をなさらず、地球歴のモノばかりで……」

 ココ・ラ・ペーパームーンは王者の品格など微塵の欠片もないダダをこねていた。
 彼女がせっかく集めた地球歴時代の古いゲームの類(原始的なコンピュータゲーム)を奪われそうになっているのだ。
 奪っているのは、ハイスクールに通っていそうなティーンエイジャーの娘であった。

「姫様ではない! 陛下じゃ! それよりも、ミカンっ! かような無礼が許されると思っておるのか!」

 ココ女王は威儀を正して、自らの権威を示そうとする。
 しかし、だれがどうみても大人でも子どもでもない中途半端な娘が威張っているだけにしか見えない。
 むしろココからアイテムを奪っていく少女のほうがまだ大人びていた。
 地球歴時代からTLPTしてきた女子高生は、すこし大人にならないとこの世界では生きていけないのだ。

「もちろんです。ヌヌザック博士と自治政府との締結書類がありますから」

 ミカンは女王のわがままなど意に介さず、プレイなんとかだとか、なんとかボックスなどをタグ付し、量子倉庫に転送する。
 あっというまに、人形とベッドとおもちゃしかない女王の私室から、地球歴時代の素晴らしいなにかが消滅した。

「ああっ! なんてやつじゃ! 集めるのにどれほどの血税が使われたかっ!」
「税金をちゃんと使ってくださいね。では、失礼します」
「まてぃ! せめて、せめて箱だけは……」
「ダメです。全部集めていいと秘書室の皆様からも許可は貰ってますっ!」
「余のものなのに、秘書官どもの許可で奪えるはずがなかろう!」

 ひざ元にすがりついて文句を言うココ女王をみて、ミカンはかわいい後輩でもできたかのような気分になる。
 とはいえ、一国の女王様とヌヌザックから聞いている以上、友だちのようにテキトウにあしらうわけにもいかない。

「いいですか、陛下。難しいことはわかりませんけれど、財政がよくないらしいですよ? だから陛下の地球歴時代のモノを売って――」
「それは財務官僚が悪いのであろうっ! 余の責任ではないぞ!」
「ええっ!?」

 ミカンは女王のあまりの無責任発言に驚いた。
 女子高生程度のミカンですら、財務官僚丸投げはマズイと聞いたことくらいある(社会の先生から)。

「姫様、それってマズイですよ」
「なにがじゃ? それに余は姫ではない。女王じゃ」
「あのですね、姫様。国ってのは偉い人がダメダメだとショボンと沈んじゃうもんなんですよ?」
「じゃから、余は姫ではないっ!」

 ぎゃーぎゃーと騒ぐココ女王をどうしたものかとミカンが思案していたら、ドアを叩く音がした。

「……まったく、誰か?」とココ女王が返す。
「陛下、自治政府軍総司令官閣下がお越しですが?」とドアの向こうから返事が来た。
「またあのうるさい女キャストか。追い返せ」
「しかし、その、一応総司令官なわけで」と、秘書も戸惑う。
「この国で一番偉いのは女王じゃ。つまり、余である」
「わかりました。陛下は多忙であると伝えておきます」

 この一連のやり取りをみて、ミカンはあきれてものが言えなくなった。

「あの、姫様」
「学ばぬやつじゃな……もうよい。何か?」と、いい加減訂正するのを女王はやめた。
「軍人さんを帰しちゃっていいんですか? 軍の一番偉い人でしょう?」
「よいのじゃ! 事あるごとに民の安全だの、国事がどうだの、くどくどうるさい奴であるからのう」
「でも、姫様はこの国の偉い人ですし」
「好きでなったわけではないぞ! 生まれたらそうだっただけじゃ!」

 ココ女王はむくれて、自分のベッドに転がって枕を抱いた。

「……余は、普通の家に生まれたかった」

 ココ女王がそんなこと言うのを、ミカンはベッドの側に椅子をよせて聞いていた。

「私だって、こんなところ来たくなんかなかったです……」

 ミカンの返事に、ココが興味をもったらしい。

「そなた、己に不満があるのか?」
「そりゃ、ありますとも。私は姫様みたいに恵まれてないし」
「なんじゃ、それは」
「私なんてカスみたいなものってことですっ!」
「ぬぉ……落ち着くがよい。そこまで興奮するな」

 今度はココ女王がミカンに気圧される番らしい。

「女の子一人が稼いで、食べいくって大変なんですよっ! わかりますか?」
「え、あ、まぁ……」
「嘘っ! ぜったい姫様はわかってないですっ!」

 分かってないといわれても、ココ女王にはどうしようもない。
 生まれも、育ちも違いすぎるのに『解れ』などと言われてもどうしようもない。

「ええい! あれこれうるさい娘じゃ! とにかく今日は下がるがよい!」
「いいえ! まだまだ姫様には――」

 二人がくだらない言い争いを続けようとしたとき、聞きなれない音が部屋に響いた。
 そして、軽い振動。
 窓ガラスがふるえ、ベッドわきにあったウサギの人形が倒れる。

「な、なんじゃ?」
「姫様っ! あれを!」

 ミカンが驚愕の面持ちで指差した先は、市外から黒煙が上る様であった。
 
「火事か? 消防は何をしておるのやら……」

 ココが私室に備えてある双眼鏡を手に取り、市中の民たちを見下ろす。
 彼女の居城から一望できる街並みは、いつもかわらず、城を取り巻いているものだと思っていた。
 だが、違った。
 今日はいたるところで黒煙が巻き起こり、ドーム天井に映し出されていた青空の景色はアラートの茜色に染まっていた。

「陛下、緊急事態でございますっ! ダーカーがっ!」

 私室のドアから飛び込んできた秘書官の女性は大慌てであった。
 想定外の事態にどう対応していいかわからないのであろう。ただオロオロするばかりであった。
 そして、ココ女王は目の前で起きている事態を否定したい気持ちに押されて、何か決断を下せる状況になかった。

「ど、どうすればよいのじゃ……」

 ココ女王は、ただの女の子のようにそうこぼすばかりであった。



 アサルトライフルを抱え、戦闘装具一式を身に着けたキャスト兵士たちが続々と多目的輸送機に乗り込んでいく。
 そんな様を廃用宇宙港に居ついていた浮浪者や浮浪児たちがなにも言わず見送っていた。
 浮浪児たちからみれば、無言で、慌てることなく秩序を保ち輸送機の中に納まっていくキャスト兵士たちが、さっきまでサッカーを教えてくれていた連中と同じ存在とは思えなかった。
 陽気でいいかげんな雰囲気はなりを潜め、黙々とバイザーで光学通信を交換し、必要があれば光沢部品に迷彩を施していく兵士たち。
 一言でいえば、戦争に慣れていた。

「SPEC=B(ランヌ少佐隷下の特殊部隊)を先行させろ。1stMIRと2ndMIR(第一、第二機動歩兵連隊)は事前配備計画に則り担当戦域を確保しろ」

 キァハ准将はニック大尉が運転するサイドカーに座りながら、淡々と命令を出していく。
 内心では忸怩たる思いがあったが、それを出すわけにはいかない。

『SPEC=B了解。ストライカーパッケージで出ます』
「任せたわ、ランヌ少佐」
『かかります』

 ランヌ少佐以下、特殊戦大隊を乗せた多目的輸送機3機がジェット噴射をしながら離陸する。
 SPEC=Bは第一優先保護目標である王宮に直接向かうことになっている。
 一方で、装備更新が間に合わず、未だ旧式装備の1st、2ndMIRは予備兵力として運用せざるを得ない。
 また、間に合わなかった! とキァハ准将は内心で叫ぶ。
 
『こちら1stMIRのスィヘリヴェです。俺たちを出せませんかね? 避難指定区域くらいなら保持できますけど』
「旧式のボディでか?」
『同盟軍装備だって悪くないもんですぜ。SPWも整備してありますし』

 1stMIRは旧同盟軍系列の兵士たちで構成されている。
 そしてグラール太陽系で名を馳せたかの部隊の装備にはSPWという重火器が配備されている。
 支援戦闘機仕様のマルチプルミサイルランチャーや、へヴィ・バルカン、挙句は突撃仕様の大型ソード類まで火力ハッピーだ。

「分かった。お前たちを出す。ダーカーどもを抹殺しろ」
『了解。かかります』

 1stMIRを搭載した多目的輸送機も離陸していく。
 宇宙港と都市船内部をつなぐ連絡通路を器用に飛んでいく輸送機の列をみていると、練度は十分だと分かる。
 ただ、練度があろうとも、性能面で問題を抱えていてはどうしようもない。
 兵員に欠員が出るだろうことは予想の範囲内だ。
 だが――とキァハ准将は覚悟を決める。
 すべては弱きものを助けるためだ。この世に我らが作られたのは、人々が救済を求めたからだ。

「あたしたちも出るぞ。ニック」
「ええ!? 司令官自身がでちゃったらダメでしょ?」

 ニック大尉は止めた。この人に暴れてもらうのは、最後でいいといつも思っているからだ。

「現状で最高のコンディションにあるのは、あたしとあんたよ、ニック」
「そうだけど……」
「だったら答えは出ている。戦域の戦力値を上げるなら、我々がいたほうがいい」
「ま、止めてもきかないだろうね。ARKSに連絡はいれとく?」
「ARKSはペーパームーンにいないはずだ」
「またまたぁ。キァハが手を回したんでしょ? ヒマワリさんとパステルさんが着任したみたいだよ」

 ニック大尉が入管記録をキァハ准将に転送する。

「ちっ! 飼い犬に死なれちゃ気分が悪いから助けてやったのに。タイミング悪いやつらね」
「なんだかんだ言って、キァハは優しいね。で、どうする?」
「あいつらは勝手に動かせとけばいい。あたしらは組織体として行動する」
「了解。じゃ、いこうか」

 ニック大尉がアクセルグリップを回すと、エンジンが鼓動を立てて仕事をはじめる。
 速力を増しながら連絡通路を突き抜けていくサイドカーの上を、予備戦力の2ndMIRを満載した輸送機の列が飛んでゆく。
 いつもそうだ。
 正規軍の進路には、戦場しかない。
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





PSO2_200x200_応援バナー01

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