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ファンタシースター計画34



 事実ほどに雄弁なもんはない。
 シーナのやつは、己を語るためにアタシをゲットーに連れてきた。
 あいつらの宇宙船の中に備え付けられていたテレポータルを使えばすぐだった。

 さて、どうしたものやら。
 ゲットーはアタシの理解に余る場所だった。
 アタシの目に最初に飛び込んできたのは、壁一面に埋め込まれたカプセルの中に、老若男女の有機体が眠っている場所だった。
 ちょっと古い研究所みたいなもんだな。どっかで見たことあるような気もするんだけど、思い出せない。
 広さはネオ・バスケットボールコートくらいだろうか。
 アタシはすっかり、転送されるとともにダリッドたちの住むゲットー……地球歴時代のスラムみたいなとこに飛ぶもんだと思い込んでいた。

「どうみても研究所だな」
「ゲットー地域内にある施設です。屋敷からのポータルリンクはここに繋がっていますので」

 なるほどね、施設ですかい。
 アタシはマジマジと適当にカプセルの一つを覗いてみる。
 そこには絶叫したような表情のまま固まっている男の子がいた。
 思わず、アタシは無言で後ずさる。

「どうかなさいましたか? ヒマワリ・ヒナタ様」
「あ、ああ。いや、思ってたのとは違ったなというか何というか」
「ここはF計画の研究施設の跡地です。施設自体は生きていますが、どういうわけか構成員がいないので、ゲッテムハルト様が面白がって私物になさっております」
「……なんだって?」

 思いがけない言葉に、焦りを覚える。
 忘れよう、首を突っ込まないでおこうと意識していた言葉が聞こえてしまった。

「F計画だって? じゃあ、ここはF機関が……なんの研究してやがったんだ?」
「おや。F機関についてご存知でないのですか?」
「……しらねぇよ。知り合いがいるってだけだ」

 死んだはずの槍使い。
 アタシに愛してるなんてナメたこと抜かした野郎が、いる。

「意外ですね。政府系列のARKSとして御高名なヒマワリ・ヒナタ様はF機関ごときのプロジェクト情報をお持ちだとばかり」
「……なに? 政府系列のARKSだと? アタシはそんなもんになった覚えはないぞ」
「なるほど。失礼いたしました。言葉を変えます。プレーンボディ計画で生み出された試作品で、ARKSに不信感を持つ政府系の皆様方からご厚意を賜っておられる方ですから、同じく政府系のプロジェクトであるファルス計画についても、十分な情報を得ておられると我々は誤認しておりました」

 シーナのやつは、アタシ以上にアタシが何であるかを知っているらしい。F機関が政府系なのは薄々感づいちゃいたが。
 おい、何で知ってるんだと言おうと思ったら、機先を制された。
 シーナはたんたんとカプセルに埋め尽くされたラボラトリー部屋をぬけて、制御室らしきところに入り、コンソールをいじり始めた。
 制御室は爆薬実験棟の観測室みたいにやたら耐久性のある構造をしていた。アタシたちがくぐった自動ドアは三重の手動ロックで、カプセルの並んだ部屋を見ることができる観測窓は、あたしの見たところ多層フォトンシールドが施されている上に、分厚い物理ガラスまではめこまれている。

「ヒマワリ様にお見せいたしますのは、F機関の行っている実験のほんの一部でございます」
「なに言ってんだ、シーナ?」

 シーナのやつがコンソールに表示されたレッドボタンをタッチすると、制御室から見えるカプセルの列が一斉に開き、中に収まっていた連中がよく分からん培養液みたいなもんと一緒に放り出された。
 大人から子どもまで、男女の別なく裸だ。
 そして、目を疑う事象が生じた。
 人々の周りにダーカー特有の空間侵食が生じ、黒い渦の中にみなを飲み込んでいっちまった。

「おい! なにやってんだシーナ! さっさと中止しやがれ!」

 体が反射的に武器を転送し、馴染みのガンスラッシュであるレイデュプルを射撃モードにしてヤツに狙いを定める。

「……なにを、驚いておいでなのですか?」
「人が侵食されてんだぞ! 止めねぇでどうするっ!」
「お知り合いでもいらっしゃったのですか?」

 顔色一つ変えずに、とんでもねぇことを口走るシーナに、アタシは何を言っていいか分からなくなってきた。
 このマッシュルームヘアがっ!

「バカなこと言ってねぇで……止めないと、撃つぞ」
「理解いたしかねます。ヒマワリ様、このORACLE、F機関、そしてゲッテムハルト様のいずれの関心も今まで惹かなかったモノたちに、なぜそこまで動揺なさるのかわかりかねます」
「馬鹿野郎! 目の前で人が人じゃなくなっちまってるんだぞ!」

 アタシはさっき見た男の子が、頭かかえてうずくまったあげく、エル・アーダと呼称される浮遊型ダーカーになっちまったのを見た。

「目の前でなくとも、いつだって人は失われていきます。一つ伺いたいのですが、ヒマワリ様は現在、どの程度の命が同時刻に理不尽に失われているか、つねに考えておられるのですか?」
「おまえ、なにを……」

 アタシが狙いをつけているのもかかわらず、澄まし顔でシーナは言葉を続ける。

「政府の非公式な統計局のカウントによれば、一分間に12人の未登録市民、すなわちダリッドが死んでおります。今我々のいる偽装研究施設の外に出ると、ほぼ崩れかけたバラックが無秩序に立ち並び、小さな女の子がスープ一杯のために体を売り、誰かが誰かの頭を吹っ飛ばし、ドラッグ取引の決裂で銃撃戦ないし法撃戦が繰り広げられ、巻き込まれた方々が死んでいる。今ここで誰も知らないようなダリッドたちが、ダーカーに侵食されたところでなにを驚くことがあるのでしょうか? 見える犠牲と、見えない犠牲では、見える犠牲のほうが尊く、救われるべきとヒマワリ・ヒナタ様はお考えなのでしょうか?」

 もうあれだ、呆れてモノが言えない。

「救える可能性が少しでもあるなら、救う力があるなら、何とかするのが道理だろうがっ!」
「あなたには力があるのに、ダリッドを救うためにわたくしを撃ちませんでした。やはりゲッテムハルト様は正しい……。覚悟がなければ、どんなに力があっても何も救えない」
「……ファック!」

 アタシはレイデュプルの安全装置を起動し、下ろした。
 ダーカーに侵食されちまった連中は、天井からニョキニョキ生えてきた自動機関銃によって、作業的に殺されていった。
 もう、何をやっても無駄だった。

「F機関はこのようにして、幾度となく人類とダーカーが融合した存在を生み出そうとしており、また、ARKSも一枚かんでおります。例えば、ヒマワリ様がナベリウスの凍土に不時着なされた任務も、実験によって生み出された『素体』を惑星にあるより大規模な実験設備に移すためのものでした」

 くだらねぇ。
 何もかもがくだらなさ過ぎて、イラついてくる。

「命を……何だと思ってやがるんだ……」
「存じ上げません。ただ、人類の歴史は個々の生命をそれほど重視していたとは思えません。百万年前の我らの血縁者を我々は知りませんし、その人が幸福であったかどうかも誰も気に留めませんので。つまるところ、個々の命にはそれほど価値がないのではないかと」
「馬鹿野郎! そんな寂しいことばっか言ってるから、平然と人間を実験材料にしちまうんだよ!」

 思わず、アタシはシーナの首根っこつかんじまってた。

「……離していただけますか? わたくしはゲッテムハルト様以外に触れられたくないのですが」
「テメェがいま殺した連中だって、命を他人に握られたくねぇっておもってたろうよ!」

 アタシはシーナを離した。思ったよりも強くつかんでたみたいで、ヤツの白い首元が少々赤くなっちまってた。

「それほどまでに、救いたいとお思いでしたら、わたくしを撃ち殺せばよかったのでは?」
「......てめぇ」
「ゲッテムハルト様なら、自分の想いを遂げられるために、容赦なく邪魔者を殺します。10年前の動乱で市民IDを失い、やむなくダリッドに堕ち、破廉恥な男や女の間を売り渡されていたわたくしのような汚れた女を、『いい女だな』と言ってくださいました」

 なに言ってやがんだ? こいつは……。

「そしてあのお方は、飼い主たちから、わたくしを奪ってくださいました。『欲しくなったから、お前を奪った』とベッドで教えていただいた時、初めてわたくしは、人に必要とされる存在なのだと思い至りました。そして、あろうことかあの方はわたくしのために、こんな世界を壊してくれると約束してくださいました」

 髪に隠れていたシーナの瞳が、ちらりと見えた。
 異様にぎらぎらするばかりでなく、恍惚とした様子が垣間見えて、アタシ如きの言葉なんざ決して響きやしないことを悟った。

「わたくしは、女として、あのお方のためにできることはすべてするつもりです。さて、私事はここまでにして、外に出て、ヒマワリ様が見たがっていたダリッドたちの絶望を鑑賞いたしましょう。かわいそう、といいながらヒマワリ様は自分が恵まれていることを再確認なさることでしょう。おそらく、満足の行く観光になると思います」

 強烈な皮肉だった。
 力なく、覚悟なく、目はあいているのに何も見ていないとシーナのヤツは指摘してるんだ。
 つまり、ヤツはこう言いたいのだ。
 見たところで、知ったところで、お前は決して何者にもならず、また何もなさないであろうと。
 そして、アタシのウジ虫みたいな心はこう返事している。
 弱くて、ごめん。と。

「……どうやら、お帰りになったほいがよろしいようですね」
「あ、アタシは……」
「まだ、その時期ではなかったのでしょう、とだけ申し上げておきます。ゲッテムハルト様がどうしてヒマワリ様にご期待なさったのかわかりかねますが、お客様に粗相があってはなりませんから」

 シーナは馬鹿丁寧にお辞儀をして、制御室内に携行テレパイプを展開した。人がくぐる光のドーナツが、アタシを追い出そうと輝いてる。
 もう一度、カプセルが並んでいた部屋を一瞥した。
 アタシがクソビッチだったせいで、あっさりと消滅しちまった命があった場所だ。
 そして、アタシは散々ダリッドについて足を使った挙句、たどり着いた最後のドアの前で引き返そうとしている。
 ここで帰ったら、ダメだと心が叫んでる。
 けど、一方で、お前はホントになにもしねぇクソビッチなんだから、帰っちまえとも魂が言っている。
 そして目の前のシーナは、テレパイプの方に行けと明らかに促している。
 こんなところで悩むから、ホントにアタシってやつはどうしようもねぇオンナなんだな。



 世の中ってのは、なるべく個人に依存しない様に制度が作られてる。
 アタシが自己嫌悪に悩まされて、ウジウジとこうやって部屋でウィスキー飲んでたって、世界が滅ぶことはない。
 魔女っ娘のやつは、アタシがバーカウンターで突っ伏してるのを見たって特に何も言わない。
 飲みにすぎないように、くらいは言ってくれたけどな。

「おやおや、だいぶ堪えたようですね。失礼しますよっと」

 勝手に玄関のセキュリティを解除しやがったのは、もちろんクソなイケメン野郎だ。
 例の如くタイトなストライプスーツに、ピンク色のスリッパ。
 整いすぎたイケメンが颯爽とご登場ってわけだ。
 アジャン・プロヴォカトゥール。法院の汚れ仕事担当官のくせに、なまいきだ。

「……よぉ。逃げ帰ったアタシを笑いに来たんだろう?」
「ああ、それはもう終わりました。報告書と監視から上がってきたレポートで腹筋がよじれるかと思いました。はい」

 ヤツはアタシがザコだってことくらい十分承知だったらしいし、子飼いの検索員をちゃんと送り込んでもいたらしい。
 いつだってそうだ。アタシは猿回しに回される猿なんだよな。

「ところで、いいお酒を飲んでますね。私も一杯いただきますよ」

 アジャンは勝手にカウンターにおいてあるアタシの貴重なレーベルを、グラスに注ぎ始めた。
 あげく、それをライムジュースで割りやがった。なんてファッキンな飲み方だ。

「いやはや、ヒマワリさんがあれこれとかき回してくれたおかげで、別件が大変効率よく進みましたよ」
「……嫌味か?」
「もちろん。あなたの弱さが強みに転じるかと思いましたが、今回は、まったくダメダメですよ」

 アジャンのやつがいっきにライムジュース割のウィスキーを飲み干した。

「もうちょっと期待してたんですがね。こっちも余計なことに首突っ込み過ぎだとか、飼い犬に縄つけとけとか、散々でした」
「アタシは、あんたの犬じゃねぇ」
「存じておりますよ。ですがね、上のほうはそう思っちゃいませんよ。私も、あなたも左遷ということになるでしょう」

 左遷、という言葉がいまいち飲み込めなかった。
 アタシはARKSの人間だし、アジャンは法院の人間だ。お互い違う世界でのこのこ足掻いてるはず。
 しばらく呆けてると、アジャンが苦笑しながら教えてくれた。

「この船の様々な問題に首を突っ込みすぎたあなたは、ARKSの一部の皆さんから相当に嫌われます」
「勝手に嫌ってやがれ。アタシはどうだっていいさ」
「しばらくしたら、あなたに教官職の任務に就け、との辞令が下るはずです」
「職務専念義務による惑星降下禁止も付いてくるわけか。もちろん、キャンセルはなしなんだろ?」
「ええ。断ったら、今度こそあなたは殺されます」
「ありがたいこって」

 もう一杯ウィスキーをグラスに注ごうかと思ったら、いつのまにかカウンターにやってきてた魔女っ娘に止められた。

「ヒマワリ。あなたが不在の間に、キァハ准将が失脚した。アジャンも大コケ」

 魔女っ娘がどんっ、とアタシの前に水の入ったグラスを置いてくれた。
 ありがとよ。

「あんだって? あの女も足元すくわれたのかよ」
「そう。情勢が一気に動き始めてるの」
「でも、魔女っ娘は大丈夫だろ? アタシみたいなヘマなんざ一つもしてねぇし」

 こんなことをいうアタシを、魔女っ娘とアジャンのやつはバカを見つけたみたいな顔してみてやがる。

「パステル様も、法院系列のお仕事を引き受けておられたのを忘れてるんですかね? ヒマワリさん」
「ヒマワリは、空気読めない子だから」

 二人がやれやれと言わんばかりなので、アタシはますます自分が嫌になる。

「どーせ、アタシはダメダメですよ」
「ええ。ダメですね」
「ダメというより、終わってる」

 魔女っ娘にそういわれちゃあ、もうどうしようもねぇな。

「あなたは努力が足りない」

 魔女っ娘が自分用のオレンジジュースを飲みながら言った。

「ARKSとしてやっていける程度の努力はしてるけどな」

 体鍛えて、敵を殺して。

「そうじゃない。あなたには、あなたの人生の物語が欠けている」
「はぁ?」
「おや、珍しい。パステル様がどうやら本気でヒマワリさんを心配しているようですね」

 心配? 魔女っ娘が?

「いつも流されてばかり。状況を作り出す側になろうって思わないの?」
「い、いやぁ、だってアタシ、バカだし……」
「言い訳ばかり。バカでも世界なんて変えられる。いいか悪いかは別にして」

 悪いほうに変えちまったらダメだろ? と言いたくもなったが、じっと睨みつけられてるので黙っておく。

「ヒマワリは、もう一度ヒマワリ・ヒナタにならないといけない」
「はぁ」
「ナベリウスで、最初の任務で、わたしを見捨てなかったヒマワリに」

 その一言は、痛すぎた。
 あの時は必死になってこいつを抱えて走ったけ?
 がむしゃらに、生きてる実感だけがあったっけか。
 だけど、今のアタシはどうだろう? クソみたいな木端ARKSだ。

「以前のあなたは、エスメラルダ教官にあこがれてた」

 懐かしいな、おい。ぶんなぐられて以来だな。

「今度は、毅然とあなたが教官にならないといけない。たとえ左遷でも、強く、美しく」

 左遷でも、の部分がイタイ。
 けれど、魔女っ娘があたしに言いたいことはよくわかった。
 つまり、こういうこった。
 やり直せ、お前自身を。
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





PSO2_200x200_応援バナー01

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