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全ては未来の向こうへ行くため03

 それは、いわば巨大なカメであった。
 レイ・ブラッドベリ級超大型ドーム型居住艦『ペーパームーン』は、カメの甲羅状のドームシティに1000万人の人口を抱えて宇宙を旅している。
 そこには惑星文明がそのままコピーされ、それでいて宇宙大航海時代独特の文化がスパイスされて、わけのわからない独特のORACLE文化とも言うべきものを作り上げていた。
 この巨大都市ペーパームーンに、オンボロの強襲揚陸艦を名乗る不審船がエンジンをくすぶらせながら入港した。
 当初、入港管理局は船籍を照会できず、やれどうしたものやら、と悩んだが、古びたデーターサーバーの中に『正規軍艦艇』として登録されていたことから、入港許可を出した。
 正直、殆どの人間が忘れていた。ARKSばかりが有名になった結果、古来より存在していた同盟軍および十か国政府軍系列の『正規軍』が希薄化してしまっているのだ。

 入港した『不審船』アクシオスは、入港管理官の言葉を借りれば「朽ちた棺桶」であった。
 前回の大戦時よりいいかげんな補修しか行われなかった外装は、死んだ魚からウロコがこぼれるみたいにボロボロと外れていくし、推進装置からは、出ちゃいけない色の煙が時折噴き出していた。
 さて、どんな連中が乗っているのやらと、検疫局員たちが船内に立ち入ると、フリーズ状態から解放されたはいいもの、現代の常識に疎くなったキャストの群れが、殺気と失意という合わさってはいけない組み合わせの感情をむき出しにして、ぐちぐちと自販機などの前で文句を垂れているヒドイ光景ばかりであった。
 ただ、検疫局員たちは、初めて見る『正規軍』の連中を興味深そうにながめ、ヘンなビョーキを持ってないかなど一日かけて検査した後、旧式すぎて互換部品が足りなさそうな連中がいる以外問題ないとの判断を下した。
 つまり、晴れて不審船アクシオスにとどめおかれていた将兵はペーパームーンへの『入国』が許可されたのである。

 さて、入国が許可されたはいいものの、指揮官たるキァハ准将は命令を出せていなかった。
 肝心のペーパームーン自治政府の役人ないし大臣などと連絡がつかなかったからだ。
 まさか、勝手に武器弾薬その他資材を勝手に港におろし、コンテナ埠頭のスペースを勝手に借用するわけにもいかない。そんなことしようものなら、その利用料は誰が払うのか揉めることになる。

「(どうすりゃいいわけ? 兵に個人戦闘装具つけさせて街に行かせていいのかしら? 武器の携行ってどこまで許されてるのか全然わかんないわ)」

 キァハ准将の手元には、ペーパームーン自治政府の法令資料がなかった。船団憲章や、正規軍規則の類などは充実していたが、まさか自治政府軍に鞍替えさせられるなどと思っていなかったし、政治的にもさほど重要とは思えなかったペーパームーンの行政研究など、彼女がするはずもなかった。
 あれこれとペーパームーンに新設される『自治政府軍』が、何を、どの程度、どのような行動をとることができるのかを推し量る法令の説明を主務官庁から説明を受けたくて仕方なかった。

「旅団長、さすがに資材を降ろしませんと、緊急事態に備えることはできなくてよ」

 旅団の人事兵站参謀であるポーニャ少佐が、ムダにゴージャスなボディ(20年前のだけれど)を披露しながら言った。
 さすがの人事兵站参謀も、最新型の流行の女性型ボディを手に入れる予算を捻出できていないようだ。
 しかし、戦闘に直接参加するキャストではないことから、それなりに見目麗しいままの、ある種の貴族的な魅力は損なわれていなかった。

「ペーパームーンのARKSの兵装管理はどうなってるのかしら? それを参考に装備を携行させて……」
「あらあら、団長もお疲れのようですわね。ペーパームーン自治政府はARKSを受け入れておりませんことよ」
「……そうだったわね。平和の極みを謳歌してるんだっけ。他の船がダーカーの浸透を受けたってのに、お気楽なもんよね」
「お気楽と言えば、先ほどペーパームーンの防空戦闘システムを覗きましたら、全然Verアップしてありませんでしたわ」
「そうなの? MARS5.56と同期は?」
「言わずもがな、ですわ」

 ポーニャ少佐に、あっさり正規軍系火器管制規格がペーパームーンにおいて不適合状態にあると知らされ、キァハ准将はあきれた。
 まるで人間のように一つため息をこぼすと、アクシオスのAIに声をかけた。

「アクシオス、自治政府に回線はつながった?」
「つながってはいるのですが、不通です。おそらく、担当官が不在なのでしょう」
「不在って……ふつう、危機管理部門はオールタイム勤務でしょ?」

 事件か? 植民惑星反対論者や、原生生物保護活動家によるテロリズムか? などとキァハ准将の戦争屋的な思考がフル回転する。

「……団長、そこまで危機的な事態ではないと思いますわよ?」と、思考が同調しているポーニャ少佐が苦笑する。
「そうかしら? もしかしたらダーカー対話主義者なんかがクーデタとかしてるかもしれないじゃない」
「いえ、ですから、こちらをご覧くださいな」

 ポーニャ少佐が、キァハのヴィジョンに直接、現在放映中のニュース映像を流した。
 そこには都市船ペーパームーンの中では現在、『オ・マツリ』なるヤーパン文化的なにかを模した儀式が盛大に行われているとのことだった。
 市民たちはこぞって『ユ・カタ』やら『ハ・レギ』などと言った民族衣装を着て、露店やら出店やらの立ち並ぶ大通りを練り歩いていた。
 町中のいたるところには『ボン・ボリ』という古式ゆかしい照明器具が大展開され、それらの淡いやさしい光の下に、平和を人々が謳歌していた。

「――楽しそうね」
「役所のほうも、休業してるようですわよ」
「かーっ! マジ、ORACLEが戦時下だってのに、気楽なもんよね!」
「あら? でもわたくし、戦争一色の船団のなかで、平和という文化をたしなんでいる船がいることが嬉しいですわ」

 ポーニャ少佐の言い分に、キァハも多少は同意した。
 自分たち正規軍――もとい、自治政府軍の目的は、こういう平和を守り抜くことだ。
 人々が目の前の娯楽を楽しみ、将来を不安がることなく豊かに生きていく。それこそ守りたい未来の形ではないだろうか。

「ま、適当に軽武装で上陸させとこうかしら。駐屯地の座標は?」
「――駐屯地の座標も送られてきておりませんわ。なかなかどうして、ペ―パームーン自治政府のみなさまはユルユルしておいでですのね」
「ゆるゆるされてちゃ困るわよ! あたしらが訓練して、装備を整える場所を提供してくれないと、いざって時に活躍できないじゃない」
「まぁまぁ、団長。『オ・マツリ』の時期みたいですから、ここはひとつ、穏便になさってはいかがですの?」
「穏便ってあんた……。とにかく、あたしが自治政府の庁舎に乗り込んで話しつけてくれるわ。面つきあわせれば、話は進むはずよ」
「あらあら、団長様はマジメな方ですわね。むしろ非武装上陸で、みんな『オ・マツリ』を楽しんできなさい、って命令すればいかがですの?」
「そんな有機生命体の真似事なんかできないわよ。ニック、聞こえる――?」

 キァハ准将は、馴染みの副官に連絡を取り、軽装甲車を手配し始める。
 しかし、ニック大尉からは芳しくない返事が返ってきた。

「あー、ごめん。なんかシャフトの交換部品がないみたいなんだ。結構ほったらかしだったから、痛んじゃってるし」
「……ほかに足はないの?」
「サイドカー付のモーターサイクルなら。でも、これって確か、カーツのオヤジさんの私物じゃなかったっけ?」

 カーツのオヤジさん、というのは、旧同盟軍の総司令官だったキャストのことだ。
 すべての種族に理解を示し、紛争根絶に生涯をかけたかの名将は、今はもうMARSの中の量子記憶としてしか残っていない。
 再生することは可能だが、ORACLEとMARSの協議状況からすると、まだまだあのオヤジさんに戻ってきてもらうタイミングではなさそうだ。

「あれでしょ? ライア・マルチネスとかいう女を口説くために買ったけど、女のほうは別の男に流れたっていうオチで――」
「あはは。ダメだよ、キァハ。オヤジさんのこと噂すると、同盟軍上りの連中が不機嫌になる」

 ニック大尉の言うとおり、カーツはいまだに同盟軍上りのキャスト兵士にとって尊敬の対象であった。
 たとえ、女にアプローチする前に恋が終わるような、奥手すぎる司令官だったとしても、それは変わらない。

「じゃ、それのエンジン暖めといて。あたしが直に庁舎まで出向くから、運転よろしく」
「えーっ! ボクだってまだ仕事あるんだよ?」
「んなの、残業してあとから片づけりゃいいのよ。あたしと仕事、どっちが大事なわけ?」
「えっと、仕事かな」
「……とにかく、運転を任せたから」
「えーっ!」

 キァハは通信を切ると、艦長席においてあったこまごまとした電子ペーパー類を確認して、携帯端末にすべて転送した。
 行政関連は書類がモノをいう。手続きに強ければ、行政機関ではのし上がれるのだ。

「あたしは今から庁舎に出向くから、ポーニャは平時指揮を代行。戦時指揮権はいつも通りランヌ、エリシュカ、スィヘリヴェの順で」
「了解ですわ。オ・マツリのなかでニック大尉とデートなさるなんて、わたくし嫉妬してしまいますわ」
「バカ言ってんじゃないわよ。仕事よ、仕事」
「あらあら、何年たってもウブですわね」
「……任せた」

 ポーニャが有機生命体のようにキァハをころころとからかうのを無視して、彼女は仕事道具一式をもって艦橋から出て行った。



 ボン・ボリが照らすやさしい橙色の光の列を眺めながら、キァハ准将は慣れない平和な町をサイドカーに座っていた。
 オ・マツリのために至るところが交通規制されており、情報重複事故(同一座標に二人以上が並列してテレポートしてくること)を避けるために、テレポータルも使用禁止になっていた。
 つまり、都市船ペーパームーンは古式ゆかしい伝統的な交通手段をもってしか移動できず、かつ、懐かしい『交通渋滞』まで再現していくださっているわけだ。

「渋滞とか、ボク初めてだよ。結構風情あるね」

 と、進まぬモーターサイクルにまたがったOD色のキャストが、ユ・カタなどを着込んだ若い女性(ニューマンやヒューマン)に声をかけられてデレデレしている。
 若い女性たちからすると、戦いの香りがする存在が珍しいのだ。

「ねぇねぇ、おにいさん、もしかしてARKS?」
「ばっかねぇ。ARKSならエンブレムあるでしょ? たぶんアレよ、引退して市民権もらった退役ARKSでしょ」

 などと、好き勝手なことをいいながら、隣のお姉さんは彼女? 等、くだらない質問をニック大尉に浴びせかける。
 ニック大尉は笑顔をつくることができないフェイスタイプ(バイザー式の機械的フェイス)なので、努めて明るい声色で、気さくな答えを返す。
 どこのだれも正規軍――今は自治政府軍であるということに気付くものなどいなかった。
 ようやく車列が動き出すと、ニック大尉は楽しくお話をしていた女性たちに手を振りながら、トロトロとモーターサイクルを前進させ始めた。

「楽しそうね、ニック」と、キァハ准将はサイドカーの縁に頬杖をつきながら言った。
「な、なんで不機嫌そうなのかな?」
「そう? あたしそんなに不機嫌そうにみえる? 表情OS切ってあるんだけど」

 その無表情が逆に恐ろしさを醸し出しているんだ、とニック大尉は言ってやりたかったが、下手なことを言うと地雷原に突入した兵士のようになりそうだったので、慎重に話題を選ぶ。

「と、遠いね、総合行政庁舎」
「そうね。こんなんだったらサイドカーじゃなくてシャトルシップ使えばよかったわ」
「でも、シャトルシップはまだ整備すんでないよ?」
「あんたが責任もって、整備統括しときなさい」
「えーっ! ボクに仕事ふりすぎでしょ?」
「バカ。睡眠なんていらないのがキャスト兵士の強みでしょ。残業してでもやりなさい」

 やはり地雷原を回避できなかったニック大尉は、ため息をつく代わりに、バイザーを明滅させた。古いモールス信号でS.O.Sを意味するものだ。
 地雷原に突入してしまったからには仕方ない。とりあえずキァハ准将を無事に総合行政庁舎まで届けてしまうまで辛抱だ、と自分に言い聞かせる。

「あ、そうそう。このオ・マツリにはオ・ミコシっていう派手な箱みたいなのを担ぎ出すイベントがあるみたいだよ? 仕事が終わったら、キァハもユ・カタきて一緒に見に行こうよ」

 地雷原の中で被害を最小にとどめるために、ニック大尉はキァハにオ・マツリのパンフレットを転送した。

「ふーん。あたしの出力系に対応する強度を持ったユ・カタがあれば、着てみてもいいかも」
「うん。キァハなら絶対似合うって」

 切り抜けたか? とニックは多少安心する。

「でも、そんなのフォトンカーバイド製でもない限り、ムリよね。戦闘防弾防刃ベストと同じ素材のユ・カタなんて売ってるわけないし」

 はぁ、とキァハがまた溜息をついたので、ニック大尉はいまだ危機を脱していなかったことに気付かされる。

「そ、そうだ。ポーニャさんに頼んでみようよ? もしかしたら手配できるかもしれないし」
「はぁ? ダメよ。ダメ。部隊の予算をユ・カタごときに使うわけにはいかない。『メセタは有限、時間は無限』が平時の正規軍の合言葉でしょ」
「いや、ほら、ボクらの給料で買うとか。全然使ってないから、結構たまってるでしょ?」
「……なに言ってんの? あんたの給料なんて、あんたが欲しい欲しいとねだってる装備一式買うために使っちゃったわよ?」
「えーっ! なに勝手にボクの給料使い込んでるのさ?」
「211年1441時間28分前に、使っていいって約束してるけど。アーカイブあるわ」

 ニックのメインカメラ画面の隅っこに、懐かしい映像が流れてきた。まだニックが旧世代のボディだったころのもので、どっかの植民惑星に降下作戦してたときの映像だった。
 ホタルみたいな原生虫の光に包まれて、ニックが『ボクのすべてを使ってくれていいよ』とキァハに言っていた。

「こ、これはあれでしょ? あのときの事情があったわけで」
「事情はあの時より悪化してるわ。だから、約束は有効。時効の主張は時機おくれの抗弁として認めない」

 民事訴訟法の規定まで持ち出されては、ぐぅの音もでない。ニックは地雷原に飛び込んだ己の愚かしさを呪いながら、アクセルを回した。



 准将らのサイドカー付が、自動取締君の無慈悲な機械的判断で、駐車違反の切符を切られていた。
 ご立派なビルディングである総合庁舎の前は駐車禁止エリアなのだ。今どき車で乗り付けるヤツなどいない(テレパイプがある)が、はるか昔に作られた法律が未だに生きているのだ。
 が、そんなことをつゆ知らない准将とニック大尉は、人っ子一人いない庁舎の中をうろついていた。

「自治政府の首長室はどこよ?」
「受付の案内図によれば、一番上って書いてあったよ」
「ふーん。やっぱ相変わらず権力者って高いところが好きなのね」

 キァハ准将とニック大尉は、エレベータに乗って最上階に進んだ。
 最上階について、エレベータのドアが開くと、レッドカーペットが敷き詰められたひときわ立派な廊下が続いていた。
 レッドカーペットをキャストの移動手段であるスラスター全開で焦がすわけにもいかないので、二人は機械音を立てながら歩いた。
 そして、ご立派な扉の前にたどり着く。
 扉の上には『陛下の部屋』などと書かれてあった。

「陛下? なにそれ? ここの自治政府ってどういう統治機構なのかしら」

 キァハ准将はORACLE船団憲章がインストールされている記憶部位を起動し、視界の隅っこに条文リストを表示した。
 そして検索ワードを入力し、ORACLE船団に加盟する自治政府はそれぞれ好き勝手な自治政府をつくっていいという根拠条文をみつけた。
 唯一の絶対ルールは、決して他の自治政府やORACLE船団全体に対して危険な行為をしてはならないという点だけだった。

「民主主義すら絶対のルールじゃないってのが、ある意味ORACLEのカオスなところよね」
「なに? 民主主義って? おいしいの?」
「おいしくはないわねぇ。むしろ、苦くて、血の味がする。材料に革命が必要だからかしら」
「ふーん。よくわかんないけど」

 ニック大尉は自分にわからないことは全部キァハが判断してくれるだろうという認識で生きているので、とにかく眼前の扉をノックした。
 軽くノックしてもなんら返事がないので、より強く叩いた。
 しかし、うんともすんともいわない扉に二人は業を煮やし、かってにドアノブに手を触れた。
 すると、扉が自動的に開いた。どうやらタッチ式だったらしい。

「……誰もいないね」

 二人が見渡す部屋は、時代がかった貴族趣味な部屋だった。
 今どき誰が使うんだ的な地球歴時代の甲冑(ヤーパン式とエウロピアン式が混ざっている)が飾ってあったり、壁にはカーバイド製の剣なんかが掛かっていた。
 床は一面、豪奢なレッドカーペットにおおわれ、チリ一つ落ちていない。
 執務机らしきものはこれまたクラシカルな地球歴時代のレプリカ品と思しきマホガニー・デスクだった。
 そして、キァハ准将はそのご立派な執務机の上に、なにやら電子ペーパー端末が置いてあるのに気付き、それを手に取った。

『女王陛下即位式まであと3日。清掃担当者は――』

 つまるところ、この部屋の清掃担当業者の引き継ぎ書類であった。

「女王ってなんだろうね?」とニックが尋ねる。

 キァハ准将は頭部を360度回転させ、部屋をすべて掌握し、その構造と強度および付属物を掌握した。
 ある壁面に掲げられていた人の顔を描いた絵画の列や、その絵画の下部に付記されている在任年月の記載から、一つの答えが出る。

「……ペーパームーン自治政府って、王制国家なんじゃないかしら?」
「今どき王制国家なの? この宇宙大航海時代に?」
「地球歴時代の大航海時代だって、スペインに王がいたし、英国にも女王がいたわ」
「それって、あんまり関係ないような気が……」

 ニック大尉とキァハ准将があれこれと部屋を調べまわっていると、不意に入口の扉が開いた。

「む。そなたたちは何者じゃ? 余の許しを得ずに執務室に入るなど、たいそうな肝の太さじゃな」

 レッドカーペットに仁王立ちした少女がそんなようなことを言った。
 ハ・レギやユ・カタを着ていてもいいこの時期に、その少女はORACLE船団の船団議会議員の制服を着ていた。
 しかし、その制服はどこかこう、少女の身の丈に合っていないというか、制服に着られているというべき有様だ。
 髪は一流の美容師の手で結われているのだろう、光の当たり方で七色に変化する特殊な仕様になっていた。
 顔立ちは、苦労などつゆ知らず、また他人にかしづかれるのに慣れている、不敵な余裕の笑みが張り付いている。
 そして、つつがなく育てられてきたが故の、端正で整った『美しい』顔立ちが、キァハをイラつかせた。

 とにかく、威厳がない――。

 わがままで尊大そうな少女が、歴戦の戦士たちを見下そうとする構図になってしまっている。

「えっと……」とニック大尉が居住まいを正す。
「本官はペーパームーン自治政府軍総司令官への奉職を命じられた『キァハ・キルル』准将です。あなたは?」

 キァハが正規軍と同様の礼式をとりながら、少女に応えた。

「ほう。そなたらが余を守ってくれる武人たちか。しかし……そんなに強そうにはみえぬぞ?」

 人間でもないのに、キァハもニックもビキビキッと、よくわからない思考回路の誤動作らしきものを測定したが、それはなんとか抑え込んだ。

「こちらが名乗ったのですから、そちらも名乗るのが礼儀かと」とキァハが返す。
「おお。そうであったな。余がこのペーパームーン王国の13代女王、ココ・ラ・ペーパームーンじゃ。覚えておくがよい」
「となれば、本官以下、赴任した者たちの上司ということですね。着任の辞を行いたいのですが」
「ふーむ。余は堅いことが嫌いじゃ。いちいちナントカの儀だのなんたらの辞だのはよい。好きにするがよい」
「は?」

 本当に女王なのか? とキァハ准将は思わずいぶかしんだ。

「しかし、陛下。女王たる者、公務を率先し、人々の先頭に立ち、民に範を示すのが務めでは?」
「逆じゃ、逆。民が余のために率先して働くのじゃろう? 女王こそ国の要、じゃな」

 あっけらかんととんでもないことを言いだす幼き女王に、キァハ准将は開いた口がふさがらなかった。

「今、なんとおっしゃいました?」
「じゃから、女王こそ国の要といったのじゃ。そなたらは物分りが悪いのぅ。民など替えが効くが、女王に替えはないであろう?」

 さも当然のようにそう言い放つ女王の姿を、キァハ准将とニック大尉はまじまじと見てしまった。
 だが、そんな二人の視線など意に介さず、女王はとことこと部屋を横断し、執務机のもとにある柔らかな椅子にすわった。

「覚えておくがよい。余こそ、この船を導く女王、ココ・ラ・ペーパームーン。そなたらは精一杯、余に尽くすがよい」

 あたしらはどこに導かれちゃうのかしら? と、キァハはニックの思考にグチをバイパスした。

 
つづく
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





PSO2_200x200_応援バナー01

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