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全ては未来の向こうへ行くため02

 強襲揚陸艦アクシオスは、艦齢不詳の大ベテラン艦だ。
 艦内システム、火砲関係、機関など主要なところはオーバーホールしたり、新型に交換したりされているが、そのせいで艦のバランスがいびつなことになってしまっている。
 俗にいう、つぎはぎ艦だ。
 こういう船が強襲揚陸艦などと名乗るのは軍の恥とも言うべきであり、廃艦にして新造艦艇の資材にでもすべきである。
 しかし、軍令部はその決定を下せなかった。乗組員が惑星ラグオル(十か国政府が存在していた時代!)や、三惑星世代の兵員だったからだ。
 指揮官はキァハ准将。長い間、有機生命体の盾となり、銃となって戦い続けてきた女キャスト。
 軍令部としては有能だが口うるさく、わがままなキァハ准将をどこかに封印しておきたかった。
 また、うるさ方の古参兵どももまとめてどこかに封印できまいか、と。その結果、強襲揚陸艦アクシオスは毎年戦列表に載り、その船内にスリープ状態の古参キャスト兵を満載したままORACLE船団のどこかを漂っている。
 
 さて、そんなつぎはぎ艦アクシオスの全兵装凍結解除命令が出たのは、ARKSたちの全盛期であった。
 兵装凍結解除ということで、久方ぶりに体を動かしたキャストたちは、艦の状況に驚いていた。
 最低限のメンテナンスどころか、ギリギリのメンテナンスしか施されていなかったのだ。
 船の心臓部たる機関はご機嫌斜めな音を立てて、ORACLE船団の船足にやっとこさついて行くので手一杯。
 火砲は火力発揮すりゃ自沈しかねない危険な自爆装置に早変わりしていた。
 さすがに40年以上放置されていたのだから仕方ないと言えば仕方ないが。

 そこで、物置と化していた士官食堂を片づけ、体裁を整えて会議が始まった。
 有機生命体の真似事のように、艦の主要な士官たちが集まって円卓を囲む。当然、円卓には紅茶などが並べられている。飲めるのは精緻に有機生命体とコミュニケーションをとる前提で作られたキァハだけだが。

「さて、諸君。ついに我ら『キァハ旅団』が解凍された。これは喜ばしいことであり、かつ絶望的なことでもある」

 彼女が言いたいのは、正規軍が解凍されるということは、それが必要な事態になっているという悲観すべき現実をさす。
 今次の解凍は、もっぱらダーカー対策が仕事となるだろう。

「さて、各部署のみんなに報告してもらおうかしら……って、なんでダイレクトに情報送り込んでくるわけ?」

 報告は1秒未満で済んでしまった。士官たちの頭部に埋め込まれている指揮通信デバイスを経由して、大量の報告が彼女の高度な人工頭脳に放り込まれたのだ。
 風情がないわね、などと独り言をこぼしながらも、彼女の頭脳は光速並列処理を行い、全員の報告を掌握した。
 正直、ここまでひどいとは思っていなかった。

「第1宙間機動歩兵連隊長及び、第2宙間機動歩兵連隊長。あんたたちの憂慮は痛いほどわかる。けど、装備更新予算なんて出ないわよ」

 キァハは申し訳なさそうに部下である二人の連隊長に謝罪した。
 一人は現代ではポンコツもいいところのレイキャシール。つまり女性型の旧世代型キャストだった。
 肩にでかでかと『2ND MIR』と書いてあるから、第2宙間機動歩兵連隊長だろう。
 もう一人のほうは、古臭い同盟軍(三惑星政府時代の旧軍)の指揮官型キャストで、やはりこれまた旧型であった。
 さすがに各種戦略戦術ソフトウェアくらいは更新済みだが、いかんせんハード限界が顕著になりつつある。
 どんなに優れたOSだろうと、ハードウェアの限界を越えられるわけではない。
 二人の連隊長は、配下の部下たちが自分と同様、旧式化している事実を指摘し、『魂の入れ替え』を希望していたのだった。
 だが、二個連隊2000名の魂を入れ替える作業はとてつもないコストを要する。魂の扱いは慎重でなければならない。だから、金がかかるのだ。

「主力である第1、第2MIRを投入できないということは、実働戦力は我々だけということですか?」

 現代型キャスト――これまた戦闘という実用面に特化した、強化された装甲と様々なハードポイント(武装や装備を装着するアタッチメント)だらけの男性キャストが言った。
 肩にはSPEC‐B(特殊戦大隊)を示す、血塗りの手形のような部隊章が怨念でもこもってるかのように張り付いている。
 特殊戦大隊は必要に応じて分遣隊を組織し、様々な任務(強行偵察から、潜入破壊活動、ゲリラ戦からキァハのパシリまで)に対応する柔軟な運用が可能な特殊部隊だ。
 ただし、特殊部隊の性質上、火力が機動歩兵連隊よりも低く、継戦能力も高いとは言えない。
 つまり、圧倒する機動力で的に優位な地勢を占め、破滅的な火力をもって粉砕するという正規軍のお家芸を行えないということだ。
 艦砲による軌道上からの支援射撃という手もあるが、肝心の艦砲は自爆攻撃になりかねないキケンなブツになってしまっている。

「そうよ、ランヌ少佐。申し訳ないけど、当面はあんたのSPEC-Bばっかりコキ使うことになるわ」
「それは構いませんが……しかし、任務の性質によっては、我々特殊戦大隊に適さない任務もあります」

 指揮官用の頭部アンテナが目立つランヌ少佐は、おずおずとクギを刺した。
 彼の部隊だけ装備更新が完了しているのは、対ダークファルス戦闘に備えて最小限の部隊を用意したいというキァハの手心の結果だったからだ。
 それを、恒常戦闘任務などで摩耗させたくはなかったのだ。
 この間のように、ヘンな政治的色合いのする任務に投入されるのも、正直勘弁願いたかった。
 TLPT特異体の改修などという、元老院やF機関絡みの案件など放置して(そういうのは子飼いのARKSにでも任せればいい)、准将には昔のように対DF戦に傾注してほしいというのがランヌ少佐の本音だ。
 しかし、准将には准将の深いお考えがあるのだろう、ともどこかで納得していた。

「で、さっそくMARSからあたしたち44OMBr(第44宙間機動打撃旅団)に命令が下ったわ」
『……』と、会議に参加している旅団の将校たちは沈黙する。

 40数年前の決戦は、旅団の主力兵員を根こそぎ損失するような激戦だったが、装備は潤沢であり、政府も正規軍に大いに期待していたから、彼らはそれに命を持って応えた。
 キャスト兵にとって、命とは永劫回帰するものだ。MARSサーバーに定期的に同期されることで、コア人格が保存され、ボディが破壊されたとしても、新しいカラダさえ与えられれば何度でも『戦うために』よみがえる。
 辺縁記憶(誰かと仲良くなったとか、恋をしたとか)は失うものの、死は有機生命体のように『恐るべきもの』ではなかった。
 だからあの頃の決戦において、死をも恐れず戦い、キァハの部隊は戦局を左右する戦略的勝利を幾度も収め、それでいて部隊は幾度も壊滅した。
 傷だらけの終戦を迎えて、代用ボディ(倉庫にあった旧世代のもの)のまま安らかに眠っていたら、今度はそのまま戦列に加われなどという信じがたい命令が下された。
 我々の傷は、未だ癒えていないのだぞ、と士官たちは文句をいいたいのだ。

「あんたらの不満は、ホントにわかる。けど、あたしたちじゃないと、まともな『戦争』なんてできやしないわ。ARKSに戦争ができると思う?」
『奴らには、宝探しがお似合いだ』と、皆が答える。
「そうよ。だから、いろいろ不満はあるだろうけど腹の中で殺して、任務に従事して頂戴」

 そして、キァハ准将から任務の説明が行われた。

「任務概要としては、レイ・ブラッドベリ級超大型ドーム型居住艦『ペーパームーン』を守ること、の一点に尽きるわね」

 委細は各員の戦略ジャーナルに配信された。キャスト将校というものは、光速で並列化し、同期するのだ。
 認識は人などよりもずっと早く共有され、意識は表層レベルでの『認識』ではなく、深層レベルの『共感』が行われる。

「いくつか質問があるんだけどいいかな? たぶんみんなが思ってることだから、ボクが代表して訊きたいんだけど」

 キァハと長年連れ添ってきた副官であるニック大尉が立ち上がった。
 基本的に、彼はキァハに忠実であり、いわば彼女の犬と言ってもよかった。
 だが、彼女が彼に信を置くのは、なによりも素直に意見を述べる点にあった。言葉を悪く言えば、政治的なことを考えないバカというだけなのだが。

「質問を許可するわ」
「ありがとう。あのさ、とにかく気になる点は、たった一つなんだ」
「ええ、早く言いなさいよ」

 皆の視線がニックに集まる。言いにくいことをよくまぁ言ってくれる、と全将校は感心というか、驚嘆していた。

「ボクら全員、ペーパームーン自治政府軍に一時編入ってどゆこと?」

 そう。皆が黙っていたのは、この驚くべき命令について、なにを言っていいかわからなかったからだ。
 正規軍に生きて、戦場で死ぬ。それ以外の人生など彼らには最初から与えられておらず、想像したことなぞ一度もなかった。

「え? なに言ってんのよ。文字通りじゃない。正規軍の軍籍はあるけど、一時的にペーパームーン自治政府に放り込まれるってことよ」
「ちょっとまってくださいっ! それは我々とキァハ准将を事実上左遷してるようなもんじゃないですか!」

 ランヌ少佐が立ち上がった。一言居士としては、ニック大尉に次いでキァハに対する発言権を持っているといえよう。

「そうよ。事実上の左遷ね。他の凍結中だった正規軍部隊も軒並み、自治政府軍に編入されてるわ」
「組織再編ってことですか? 俺には正規軍の事実上の解体にしかみえませんぜ?」

 1stMIRの連隊長であるスィヘリヴェ上級少佐が、皮肉をこぼす。
 以前は人間の優男ないし女たらしとして名をはせたが、ちょっと三惑星政府時代にヘマやらかしてキャストに生体改造されたことから、『政治』というものに対して不信感や皮肉を言いたくなる性格になってしまったのだ。

「わたし、それって変だと思いますっ!」

 素直さと正直さをキァハに評価されてる2ndMIR連隊長エリシュカ上級少佐も端的に不満をたれる。
 旧型のレイキャシールがそんなことをいうと、ご主人に小言を言うメイドのようにみえなくもない。
 とにかく、喧々諤々の文句が飛び交う会議と相成ったわけである。

「とにかく、命令なんだから仕方ないじゃない。MARSとORACLEの協議で決定したことなんだし、MARSにだって考えがあるはずよ」

 MARSとは、ORACLEから独立した戦略クラス演算仕様のフォトン量子コンピュータである。
 種の保存を至上とするORACLEとは違い、『勝利』の二文字を追及する、戦争屋御用達の、いうなればキァハたち正規軍の上司である。
 
「よって、強襲揚陸艦アクシオスは、レイ・ブラッドベリ級超大型ドーム型居住艦『ペーパームーン』に入港し、作戦行動に移る」
「えーっ! いっそ海賊になっちまいましょうよ!」
「そーだそーだっ!」

 キァハが決定を下したにも関わらず、一向に文句が収まらない。
 ああ、これはマズイぞと、ニック大尉はあわてる。本当に一番つらいのは准将自身だというのを、長年の経験則から導き出していたのだ。
 だから、キレたらマズイ。
 ニック大尉が一喝して皆を黙らせようかと思ったとき、キァハ准将のほうが無言でキレてしまった。
 頭部のバカでかい頭髪に擬された電子戦ユニットが大展開し、各人のセキュリティをやすやすと突破し、音声制御ソフトに侵入。
 皆の声を『消した』のだ。

「はい。じゃ、解散」

 音を消されてしまった兵たちは、改めてキァハの恐ろしさに戦慄した。
 彼女がその気になれば、全員の『魂』であるコア人格すらクラッキング出来てしまうのではないか、と誰もが思った。
 皆は、おそるおそる敬礼をして、会議室から去って行った。



「ったく、あたしだってね、ペーパームーンなんかで働きたくないわよ」

 艦長室のリクライニングに身を預けて、キァハ准将が控えているニック大尉にグチをこぼす。

「だいたい、ペーパームーンに自治政府軍なんてないのよ? あたしらが新設される自治政府軍の基幹部隊ってこと。またゼロから軍隊作んなくちゃいけないなんて……」
「ふーん。大変だね」
「大変なんてレベルじゃないっての。どうせアレよ? ダーカーとかに襲撃されて、市民に犠牲者でたりしたら、あたしに責任丸投げしてクビにしようっていう船団政府議会の連中の陰謀に決まってるわ」
「予算よこせー、武器よこせー、権限よこせー、っていつも議会で暴れてたからね、キァハは」
「当たり前のことしただけよ? あたしにプログラムされた『有機生命体を守れ』って命令が、そうしろって呼びかけてくるのよ」
「でも、守られる側の人からみたら、うるさいだけの戦争屋みたいにみえるわけだね」
「ARKSで何とかなってる現状に甘んじて、これからもARKSで何とかなるだろうって思い込んでるのよ」
「あんな軍隊モドキで何とかなるって思いこめるほうがすごいけどね」
「……自治政府軍ってのも、軍隊モドキになっちゃうのかしら」
「キァハの努力が足りなかったら、そうなるかもね」

 ニック大尉の言っていることは、事実を端的に表していた。
 キァハ准将の手元にある資料によれば、超大型居住型ドーム艦『ペーパームーン』は、人口1000万人という巨大な居住艦だ。
 おまけに、構成員は『市民』であり、ARKSすらも載っていない、純粋な経済艦というべき存在だった。
 いくつもの娯楽都市を抱え込み、産業都市や学園都市まで持っている複合的な一つの国家的存在というべきであろう。
 ペーパームーン自治政府がどのような意図で、正規軍を自治政府軍として編入するのかは読みかねるが、ダーカーの襲撃もないままずっと年月を重ねてきた平和都市船に軍隊など作った場合の『市民』の反応などわかりきっている。
 それに、いったいどの程度の権限が『自治政府軍』に与えられ、どれほどの予算が組まれるのかも未知数だ。

「先が、思いやられるわ」
「大丈夫、キァハなら何とかするよ。だって、あきらめない人だもん。キミは」

 あっけらかんとしながら、ニック大尉はキァハのために温かい紅茶をいれて、彼女お気に入りのマグカップに注いだ。
 キミなら何とかできる、などと絶対の信頼を寄せられてしまうと、キァハも苦笑するしかない。

「――気安く言ってくれるわね。ちゃんと、支えてくれないと倒れちゃうわよ」

 彼女が、他の誰にも言わない小さな弱音を吐いた。
 
「任せて。ボクは全力でキミを支えるよ」
「その命尽きるまで?」
「うん。この命尽きるまで」

 キャストの命は永劫回帰する。ならば、二人は永遠に支えあい、銀河が滅ぶまで人類のために戦い続けるといえよう。
 結局のところ、それこそが、最初にキャストをつくった人類の望んだことだから、二人はそれに応えようようとしているだけなのだ。


つづく
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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