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ファンタシースター計画32

 モンタギュー総合学術大学は、ARKSシップじゃなくて、学術艦ガウスにある。
 典型的なドーム型アシモフ級居住艦だけど、結構な金が投入されてそうな立派な外観を有してる。
 アタシは魔女っ娘からもらった紹介状片手に、現在シャトルシップで着艦許可待ちをくらってる。

「ヒマワリさん、これ食べます? 田舎の母ちゃんから送ってきたんスけど」
 
 アタシと魔女っ娘の指定シャトルシップ『ペリカン』のパイロットが、副操縦席でだらけてるアタシにドライ・マンゴーを差し出してくる。
 ARKSに正式に任命されて以来の付き合いだが、どっかこう、真剣味の感じられないオタク野郎だ。
 操縦席周りにはアニメだの映画だののポスターやらフィギュアなんかを乗っけてて、ホント大丈夫かといいたい。

「ああ、もらうよ。で、まだ着陸許可は下りないのかよ」

 もぐもぐとドライ・マンゴーを食うと、思ったよりも甘かった。こりゃ茶が欲しいな。

「簡単には下りないっすよ。学術艦ってのはセキュリティにうるさいんですよ。軍の研究所とか、政府の研究施設もありますし、企業だっていろんな投資してるわけですから」
「詳しいんだな、お前」
「一応、俺も民間軍事会社のオペレーターですからね。セキュリティ管理については上からうるさく言われます」
「へぇ。ARKSにはそんなセキュリティなんて概念なさそうだけどな」
「またまたぁ。知りすぎたやつは処分されてるだけなんじゃないっすか?」
「……それは、そうかもな」

 アタシもいろんなとこに首突っ込んでるけど、ここまで生きているのは正規軍や法務省みたいに、政府系の後押しを受けてるからだ。
 もし純粋にARKS一筋、ARKSに誇り持ってますみたいな、研修生時代のアタシのままだったら、そもそもヘンなことに首なんざ突っ込まない。
 ARKSの中に階級なんざないけれど、六芒均衡なんていう権力者どもたちは、いったいどんなことに首突っ込んでるんだろうな。下っ端のアタシ以上にヤバいことやってそうだけど。

「あー、全然着陸許可下りませんね。軍のコネでもあれば容易いんスけど」
「あ? なんだって?」
「だから、軍の人脈ですよ。誰か知り合いいないんすか?」
「……一応、いるけど。准将が」
「お偉いさんじゃないですか。何とかしてもらってくださいよ」
「いや、ダメだ。借りが多くなりすぎる。ただでさえ最近頭上がらないのに、これ以上借りをつくったらマズイ」
「ホント、コネって仁義の世界なんスね。貸し借りっつーか」
「ま、そういうこった。気長に茶でも飲んで待とうぜ」

 アタシは持ち込んできた水筒を取り出して、熱い緑茶を注いでパイロットに渡す。

「ARKSって金あるんですね。これ本物じゃないっすか」
「いや、クローン茶葉だけど」
「いえいえ、茶葉使ってるだけで十分ホンモノっすよ。物資統制で粉末茶ばっかりの俺らからすりゃ、スゲェ代物です」
「……ちょっと待て。物資統制だって?」
「ええ。こないだからARKSシップがダーカーに襲われたりして、戦時統制令でちゃいましたから」
 
 ってことは、いわゆる普通の市民たちの間の生活が切り詰められ始めてるってことか。
 あれ? 古来から食うに困り始めた国が戦争に勝ったことあったっけか?

「総力戦、かよ」
「仕方ないんじゃないっすか。ダーカー潰して、植民惑星開拓しないと、いろんな資源が手に入りませんからね」
「宇宙でトウモロコシつくるよりも、惑星で作ったほうがコスト安いしな」
「フォトン工学のおかげで輸送コストってのは殆どゼロに近いですし。唯一の欠点とされる距離制限が解決されれば、俺も失業ですがね」

 テレパイプだのテレプールだのを用いる転送システムは、安全距離というものがある。
 あれは物体を情報レベルに解析して転送する技術らしいから、情報欠損を起こしてしまう距離だと再構成できず、残念なことになっちまう。
 距離が遠ければ遠いほど通信遅延や通信齟齬が生じ、データが欠損する可能性が高い。だから安全距離なんてのを総務省あたりが統一基準を定めてたはずだ。
 どれだけ科学が進んだって、万能の神は生み出せないってことだな。



 およそ半日くらい待たされて、アタシのセキュリティ・クリアランスに問題がないことが確定した。
 で、やっとこさ学術艦ガウスの港にふわりとペリカンが着陸し、アタシが持ち込んだモーターサイクルを降ろした。
 パイロットは観光でも行ってくるとか言ってたから、アタシはモーターサイクルに乗って研究都市の中を疾走する。
 学術艦ガウスの船内は、アタシらが住んでるARKSシップなんかと違って、研究者や大学で学ぶ学生向けの街として設計されていた。
 安い貸し部屋を詰め込んだでっかいビルディングやら、学生向けの安くて量が多くて味は残念なランチを提供する飲食店とか。
 飲み屋なんかも安酒しか置いてないだろうし、とてもじゃないがエリートビジネスマンが接待に使えそうな店はなかった。
 アタシがレアもののモーターサイクルでそんな街中を駆け抜けていると、くたびれた電気スクーターに乗った学生なんかが物珍しそうに眺めてくる。
 信号でまってりゃ、ボロい電気自動車に乗った学生連中が『いいバイクっすね! おねぇさん!』などと声をかけてきたりもする。
 なるほど。これが学生街ってやつか。

 しばしバイクを走らせると、街並みが変わった。今までの学生向け一辺倒のところが、ちょっと閑静な住宅街に変わったんだ。
 住んでいる住民の質も若くてエネルギッシュな連中というよりは、落ち着いた知識人層って感じになった。
 たぶん、大学関係者や、研究機関の学者連中の住まうところってことだろう。
 そこをらをブーンと駆け抜けると、軍の要塞か? といいたくなるくらいの巨大施設群にたどり着く。
 宙に浮いたチューブが、ぐるりと幹線道路みたいに施設群の周囲を巡っている。あれが加速器ってやつなんだろうか?
 さすが、モンタギュー学術大学。かの高名なモンタギュー博士の名を冠してるってのは伊達じゃない。予算潤沢。政治的背景も潤沢ってか?

 受付を済ませ、魔女っ娘のオトモダチとかいうリィア・カルカドール博士の研究室へと向かう。
 複合社会科学系列学際分野先端研究部なるワケわからん研究棟に、その人の研究室があるらしい。
 大学内の案内板をみたり、いちゃいちゃしてる大学生カップルの邪魔をしたりしてなんとかたどり着いた。
 そこは至って普通のビルディングであり、企業のオフィスでも入ってそうな清潔でスマートで、無害そうなところだった。
 館内も廊下があって、ドアがあって、といった普通のところ。
 階層テレパイプは定期点検中だったから、階段をつかってどっこいしょと、指定された313研究室に向かう。
 で、313研究室にはこりゃまた汎用モジュールなコールスイッチがついてたから、それを押す。

「はーい。どなた?」とオネェな口調が返ってきた。
「パステル・エイン博士からの紹介でやってきた、ヒマワリ・ヒナタです」
「あらぁん。ちょっとお待ちになってね。はい、どうぞ」

 扉がスライドすると、上半身裸のマッチョ野郎が、さわやかな笑みを浮かべて、プロテインジュースを飲んでいた。
 短い髪はピンク色に染め上げられ、しゃれたバイザーを付けて、金のネックレスをぶら下げてる。
 転がっているダンベルと、鍛えられたボディを見ていると、見せる筋肉については良好に作りこまれていると評価していいだろう。

「……ボディ・ガードの方ですか?」と聞いてみる。
「あらぁ。ち・が・う・わ・よ。わたしがリィア・カルカドール博士よん。ムキムキの機敏なヲトメンよ」

 なるほど。ヲトメンならば納得がいく。乙男(ヲトメン)というのは、あれだ。自分のマイノリティ性をもって社会と対決している男の中の乙女たちだ。
 なにを言ってるかわからないかもしれないが、世の中には様々なマイノリティが存在しているという事実だけは理解しなくちゃいけない。
 人種、性別、価値観、宗教など、人を類型化するタスクはいろいろあるが、一つだけ確かにしておかなくてはいけないのが、すべてに対して寛容であれ、ということだ。
 すくなくとも、アタシはそう考えてる。

「そうですか。いや、それにしても見事に鍛えてますね」
「そぉかしら? わたし的にはぁ、あなたもなかなかにグゥーッドなシェイプアップだと思うわよん」

 褒められた。互いに作りこんだボディについて雑談をしていると、助手らしき男子学生がアタシとカルカドール博士にコーヒーを出していった。
 そのコーヒーは、明らかに代用コーヒーだった。物資統制はどうやらここにも及んでいるらしい。

「キュートなオトコノコでしょ? それにカシコイから、わたし助手にしちゃったのよぉ。権力っていいわねぇ」
「はぁ。大学というところは、アタシはよく知らないんで」とだけ答えておく。
「で、ヒマワリちゃんだっけ? パステルからの紹介状をくれるかしら」
「いま、転送します」
「――なるほど、ヒマワリちゃん、あの子とオトモダチなのね。で、ダリッドについて調べてると」
「ええ」
「あなた、ARKSでしょ? 別にダリッドなんか調べなくてもゴハン食べていけるし、生活に困らないんじゃないの?」
「人はメシ食うためだけに生きてるわけじゃないと思いますけど」
「ふふっ。いい答えね。わたしのゼミにもあなたみたいなキュートなお尻をした、意志の強い子が欲しいわぁ」
「あいにく、大学に行くつもりはありません。今の仕事に不満はありますが、嫌いではありませんから」
「ま、正直なコ。じゃ、ちょっと一コマぶんくらいの時間を使っちゃうけど、ヒマワリちゃんにダリッドの講義をしてあ・げ・る」

 上半身裸のムキムキなリィア博士が、資料の準備を始めた。
 アタシの端末にいろいろと画像ファイルや統計資料なんかが送信されてくる。

「さて、ダリッドという存在は、旧人類の時代から存在していた。それはインドにおけるカースト制度の枠外に置かれた不可触賤民としての呼称が有名であった」

 いきなり口調が変わってびっくりした。たぶん、オンとオフの切り替えが凄いヲトメンなんだろう。

「このダリッドの問題は旧人類を大いに悩ませたが、ことは宇宙大航海時代の今に至っても変わらない。しかし、その意味は多少変わる」

 ふむ。

「現代におけるダリッド問題とは、市民IDの剥奪によって作り出された、人為的問題だ。ご存じのとおり、ORACLE船団に住まうものは市民IDが割り振られている。市民IDがなければ社会保険も雇用も、食料の購入もままならない」

 そりゃそうだ。船団の資源は有限だし、誰が何をどう消費するかをある程度管理しなくちゃいけないからな。

「この市民IDを剥奪されてしまった者たちは、当然に政府のセーフティネットから外れる。船に乗っているにも関わらず、船員登録されていないようなものだ」

 となると、メシも、病院もないわけだな。

「市民IDの剥奪、通称アカウント停止処置の月間平均は18万人。つまり、毎月路頭に迷う連中が18万人作出されているわけだ」

 毎月18万人ってトンデモな人数だな、おい。

「だが、これは表層的な観点だ。重要なのは、ORACLE船団が編成されたときより、正規の手続きを経ずに乗り込んだ人々も数えきれないほどいたということだ」

 つまり、船団のインフラを員数外の連中が圧迫するってことだな。なるほど、話が見えてきた。

「政府は昔からこれら不法の船員たちに悩まされてきた。そして昨今のアカウント停止処置を受けた行き場のないものたちを包括して、ダリッドという言葉が復活した」

 しかし、元々船団のインフラは、ある一定の人口を支える程度にしか作られていないはずだ。想定外の人員を抱えながら管理社会を運営することなんてできないだろうね。

「過剰人口をどうするか。これに対する政府の答えは至極単純なもので、無視する、というものだった。その存在は秘匿され、内務省警察がダリッドたちを急造区画『ゲットー』に放り込んだ」

 隔離区画ってことか。

「ゲットーに放り込まれたダリッドたちは、決してゲットーから出ることは叶わず、一生はそこで終わる。もしゲットーに生まれたならば、死ぬまでそこで生きることになる」

 なるほどね。これが魔女っ娘が言ってた構造としての差別ってやつか。
 アタシたちが見ることも、感じることもなく淡々と積み重なっていく排斥の歴史。
 誰の心が痛むわけでもなく、差別の存在自体が知られないがゆえに、問題にすらならない。問題は不存在、ということだ。

「政府はゲットーの中を管理するコストを負担する意思などないから、基本的にゲットーの内部は無法地帯だ。ダリッドたちは万人の万人に対する闘争の中で生きていくことになる」

 警察も、病院も、社会福祉もないわけだからな。メシとかどうしてるんだろうな。

「政府から廃棄民扱いされているダリッドたちは、団結するかに思われたが、内務警察が巧妙に内部抗争を誘導し、未だに一大勢力となることは出来ていない」

 たしかに政府ってのはお抱えの組織をいっぱい持ってるからな。工作機関だけでもいくつあるやら。

「また、内務警察には治安上の配慮もあった。『犯罪を一か所にまとめて管理したい』という野心だ。そして、ダリッドたちゲットーに住まう者たちの経済的苦境が重なった。需要と供給の奇妙なつり合いが生まれ、ダリッドたちが住まうゲットーは違法薬物の生産工場として使用されたり、キャスト用の電子ドラッグのプログラミング作成の場所となったわけだ」

 つまり、犯罪をゲットー内部に一元化するわけか。

「かくして、市民社会からは犯罪が消滅し、街並みは美しく、人々は強盗におびえることもなく日々を過ごす理想のORACLE船団が誕生した」

 ダリッドたちの絶望を下敷きにして、ユートピアが作られたわけか。

「一方のゲットー内部では、人身売買や生体実験、キャストの生体部品売買なんのそのといった、この世の悪を一つの鍋に放り込んだ様相を呈している。以上が大まかなダリッド問題の概略だ」

 ユートピアをつくるために、か。
 いつもそうだ。誰かが善意で『正義を』と始めた事業は、こうやって惨状を作り出してしまう。
 最初に善意を持った奴がわるいのか? 違うだろうな。みんなで同じところを目指しているつもりだったんだろうけど、ほんのちょっとのズレがあって、そのせいで違うところにたどり着いちまうんだろう。

「――だいたい、わかりました。根深い問題ですね」
「根深いなどというレベルではない。ORACLEという体制を守るか、新しいORACLEをつくるかという、鎮圧か革命かの二択レベルに発展しつつある」
「どういうことです?」
「ダリッドの人口は年々増加している。今では全船団市民とダリッドの比率は9:1だ。これは元老院や議会に議席を有してしかるべきマイノリティ集団というべきだろう」

 たしかに10人いたら1人はダリッドってなるんなら、その地位や権利を確認させる議席を付与するのがフェアってもんだ。

「さぁて、難しい話はここまでよん。聞いてくれてありがと」
「いえいえ、教えていただき恐縮です」とアタシは頭を深く下げる。
「あ、そうそう、一つ言い忘れちゃってたわぁ。この問題に深く関心もってるARKSはヒマワリちゃんだけじゃないのよぉ」

 アタシ意外にこんな政局問題に首突っ込もうっていうバカがいるとは思わなかった。
 あの魔女っ娘ですら『政治の問題』といって避けて通る道なのに。

「よろしければ、教えていただけませんか。ARKS同士、なにかできるかもしれませんし」
「どうかしらねぇ。ARKSなんてORACLEって巨大組織の中で、ほぉーんの砂粒くらいの存在感なのよぉ。わたしはあんまり期待してないけれど」

 博士の眼差しには、深い憂慮があった。なににすがることもできない、マイノリティたちの失意を知っているのに、一大学の博士として勤めるしかできないことを悔しいと思っているのだろうか。

「それに、ヒマワリちゃんとおんなじで、かなりヘンな人よぉ。でも、まぁ、いいオトコかもしんないけれど」
「いい男?」
「そうなのよぉ。ヒマワリちゃんとおんなじでちゃんと鍛えてあって、それに、背も高くて、心も強いわけ。でも、女がいるみたいだけど」
「はぁ」
「まぁいいわ。教えてあ・げ・る。この人よ」

 博士がアタシの端末に転送してくれたARKSカード情報をみて、驚きというよりも奇妙な納得があった。

「ゲッテムハルト……やっぱりな」

 やつが、ダリッド問題に興味を持った、イイ男だとさ。
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





PSO2_200x200_応援バナー01

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