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全ては未来の向こうへ行くため01

 彼女は同期していた。クレイドルに自らの女性を模した機械の体を預け、システム権限を委任していたのだ。
 過去のラグオル入植の過程で倒れていった数多くのキャストたちの声が聞こえたような気がした。
 同盟軍としてHIVEで散ったキャストたちの残留記憶も語りかけてくる。
 キァハ准将が定期同期するMARSサーバーに残されている、死者たちの列が、声を合わせて宣言するのだ。
 救え、守れ、敵を殺せ。
 それこそがお前の存在理由なのだと、繰り返し准将の電子脳にコピー&ペーストされる。
 だが、彼女の論理演算子はそんな規格化された道義モデルに対して、アトランダムにデナイドする。

「バカじゃないの? なーにが守れよ。言われなくたってやってやるわよ!」

 彼女はくわっ、とメカニカルな瞳を赤色に輝かせて、クレイドルから結び付けられた配線たちを引きちぎって立ち上がった。
 アラートがなる。
 神経同調を拒んだどうしようもない軍用キャストがいる、と、MARSが慌てているのだ。
 彼女がいたクレイドルルームに、バタバタと警備員のヒューマンたちが飛び込んでくる。

「動かないでください、准将! 我々はあなたを撃ちたくはありません」
「あら。撃てるのかしら?」

 髪を――ツインテールのアナクロな髪形を模した電子戦キットを彼女は展開し、起動させる。
 ヒューマンたちが構えていた標準的な電子制御型フォトン・アサルトライフルはキァハの電子介入によりアクセス権限をデリートされる。
 生体認証されないアサルトライフルは、ただの強化プラスチックとフォトン工学を寄せ集めたガラクタとなった。

「くそっ! 反乱ですよっ! これは!」
「ノン・ノン。それは勘違いよ。だって、あたしの起動キーはMARSとORACLEの合議決裁でしか発行されないんだから」

 彼女はスーパーモデルの歩き方をトレースした姿勢で、何もできないヒューマン警備員たちの間を悠然と進む。
 クレイドルルームを出て廊下をひたすらに歩き、緊急閉鎖された隔壁をすべてクラッキングで開放する。
 あわてて飛び出してきたロートルな警備用オートマトンなどの制御系も、雑誌のクロスワード程度の難易度しかなく、彼女にとっては容易にアクセスを奪え、自らの支配下に置けた。
 そして、目指す先へと向かう。
 自分が『凍結』決定されて以来、保管場所となっていた彼女のための強襲揚陸艦『アクシオス』の艦橋だ。
 
 艦橋への入り口は、当然に二重の気密障壁と電子ロックがなされていた。
 しかし、『ひらけ、ごま』が何かを彼女は熟知していたし、それは自分が凍結されて以来変更されていなかった。
 なぜなら、彼女の作り上げたセキュリティ構造を解析できる存在が数百年現れていないからだ。

 艦橋は、大宇宙を映し出す全周囲モニタに覆われている。
 宇宙が彼女を迎え入れていた。相変わらず、宇宙は黒く、星がちりばめられ、理由もなく光ったりしていた。
 そして何よりも、全周囲モニタには青く、美しい星が映し出されていた。旧人類の宇宙飛行士がこれをみたら、母星を思い出すことだろう。

『おかえりなさいませ。キァハ大佐』

 数百年前と変わらぬ静かな男性の機械音声がなった。

「またせたわね、アクシオス。それから、あたしの階級は准将よ。さっき更新されたわ」
『――確認いたしました。閣下』

 将官になるということは、呼称が変わるということだ。それが旧人類以来暗黙知として続く伝統を受け継ぐ軍のくだらない見得とみるかは、呼ばれる者の価値観による。

『では、ご命令を』

 アクシオスの声に感情など含まれていないが、長きにわたり命令を求めていたかのように、キァハ准将にそれを願った。
 彼女は誰もいない自動制御の艦橋を一通りみわたし、自らの座るべき艦長席に座った。
 数百年ぶりに主を迎え入れた艦長席は、少々サスペンションが硬くなっていた。

「総員起こし」と、彼女は命じた。
『了解。かかります』

 艦内に総員起こし、すなわち動員のアラートがなる。
 このアラートにより、フリージング・クレイドルにて数百年の眠りについていたキャストたちの生体エンジンに火が入る。
 起動した軍用キャストたちは、人の寝起きなどとは違い、整然とそれぞれの職務を開始し、連絡線を構築し始める。
 キャスト同士がすれ違えば、特有の光信号通信を自らの瞳やバイザーアイで行うとともに、現在の状況をそれぞれのメモリに転送しあう。
 総員起こし5分で、機関・砲雷・DC・補給整備の各部門から『準備よし』の通信がキァハの席に入った。
 そして、艦橋に勤務員及び、彼女が昔からこき使ってきた士官たちがゾロゾロと入ってくる。

「おはよう、キァハ」と馴れ馴れしい態度の角ばった装甲で作られたキャストが言った。
「起きたわね、ニック。さぁ、戦争の時間よ」と、キァハ准将は変わらぬ表情のまま、楽しそうに言った。
「そうみたいだね。とっても楽しみだ」と、フルフェイス・ヘルメットのような人ではない機械の顔のニックが答える。
『艦長、配置完了。次のご命令を』

 アクシオスの報告を受けて、キァハ准将は立ち上がる。
 彼女の傍にはニック大尉以下、はるか昔より人類たち有機生命体の盾となり、剣となってきた機械生命体の士官たちが立ち並んでいる。
 
「戦争こそ、我々にふさわしい」と、キァハが言った。
「我らこそ、戦争にふさわしい」と、背後に控える士官たちが一斉に答えた。

 彼女はその答えをきき、満足そうにうなずく。
 そして、注目せよ、と彼女は艦橋に映し出される青き星を指差した。
 その星は確かに青く、美しく、命があってしかるべき惑星であった。
 だが、地表にはまばらな光が時折咲いては、また消えていった。宇宙から見る惑星は細やかに点滅していたのだ。
 長年の戦士たちならば一度見ただけで、その意味が分かる。その光とは戦術兵器の仕様であり、一つの撃滅、あるいは人の滅びであった。

『惑星ナベリウスにて、ARKSがダークファルスと交戦中。歩兵戦力による散兵戦を展開しているとのことでございます』

 アクシオスの報告を受けて、キァハのそばに並ぶ士官たちは盛りのついたオオカミのように、オォッ! と声を上げる。
 ARKSなどには興味がない。問題はひとえに『ダークファルス』という存在にある。

「ダークファルス。いい響きよね。人間であったころを思い出す者もいるかしら?」

 キァハ准将は居並ぶ士官たちに語りかける。士官たちの一部は彼女の問いに無言の同意を示す者もいる。

「惑星ラグオルでダークファルスと戦った者も多いだろう。同盟軍としてHIVEに踏み込んだものも多いだろう」

 彼女が語りかけると、士官たちは皆々そろって足をダンダンと踏み鳴らす。機械たちによる野蛮な鼓舞と同意の儀式だ。
 そんな様をみていると、キァハ准将は機械の心臓が人のそれのように高鳴るのを感じる。
 我々は、戦うために生まれたのだ。

「ORACLEとMARSは我らを『解凍』した。いずれ『絶対防衛凍結艦隊』全てが解凍され、正規軍として軍靴をならしながら、我らの火砲をぶっ放す日が来るだろう」
「我らこそ、戦争にふさわしいから」と士官たちは斉唱する。
「そう。ARKSなどというくだらん存在には、人類など守りきれない。奴らには宝さがしがお似合いだ」
「奴らには、宝探しこそふさわしい」と士官たちが一斉に哄笑する。

 彼女は士官たちが相変わらず血に飢えて、それでいて冷血かつ狡猾、その上どうしようもないくらいに戦いたがっているのを十分確認した。
 ORACLEの元老院や議会が恐れる理由は十分だった。こいつらを野放しにすることは、クーデタの獣たちを、あるいは虐殺の危険性を船団の内に飼うようなものだからだ。

「アクシオス。これより本艦は軌道強襲作戦を実施し、惑星ナベリウスのARKSどもを増援し、敵を排除する。総員、第二種戦闘待機。降下員はAS兵装。かかれ」
『了解しました』

 アクシオスが館内放送でキァハの命令を所定のマニュアルに沿って具体化した指示を出し始める。
 彼女の傍で控えていた士官たちも、キァハに敬礼すると艦橋から出て行った。
 そして、長年の副官たるニック大尉だけが、彼女の傍に残る。

「また、戦争だね」

 ニックとキァハは長い付き合いだ。どの戦場であったか思い出せないくらいに、ともに戦場で撃たれ、傷つき、敵を殺した。

「あたしたちに敗北は許されない。もうあたしたちにはフロウウェンも、リコもいない」
「それに、イーサン・ウェーバーやカーツのおやじさんも。宇宙海賊だってどっかいっちゃったしね」
「でも、あたしたちはここにいる」
「相変わらずの軍隊で」
「そうよ。あたしたちは死ぬまで軍隊なの。人類の伝統芸能たる戦争をつかさどるアーティストとして、これからもずっと」
「敵を排除するわけだね」

 二人は戦いの光が咲いている惑星を見下ろす。
 戦争をするには十分な広さだと、二人は満足そうに語りあった。



 ――というのは、40年前のお話。
 
 あの大戦をなんとか片づけた正規軍はまた凍結。
 そして、月日が流れて目覚めてみれば、キァハたちの権限ははるかに縮小されていたし、船もほったらかされてボロくなっていた。
 あまりにも情けない有様であったが、彼女たちは今日も、ARKSの陰にかくれつつもがんばっているのだった。
 
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

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Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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