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ファンタシースター計画20

「――ビッグヴァーダー、と軍およびARKSは呼称している」

 キァハ准将は大型ディスプレイをじっと見つめて、言った。
 ディスプレイに映るそれは、陸上戦艦というべきものだ。よくも悪くも火力主義の体現。
 小型で高火力こそ、戦争で最も役に立つ兵器の条件なのに、これはそれを欠いている。

「一体、どこのバカがこんなデカブツ作ったんだ?」
「さぁね? この戦艦もどきの調査をするのがあたしらの仕事だったのよ。調査はほぼ終了したから、数日内に撤退する予定」
「……ははぁーん。正規軍はこのビッグヴァーダーってのをコピーするつもりか?」
「そりゃそうでしょ。無人兵器は強力なほうがいいじゃない。人命を矢面にさらす防衛作戦をするつもりなんてないわ」
「防衛戦?」

 アタシはキァハ准将の物言いがひっかかったから、問い直しておく。
 ちっ、と彼女は舌打ちして、画面からこちらに視線を移した。

「以前、ダーカーがシップに来たことがあったでしょ?」
「あー。あれ、確か、研究用に捕獲したダーカーが流出して、暴れだしたんだろ?」

 マスコミ報道と、政府広報はそんなことを言っていた。
 市街地で結構な市民が死傷した一大事件だったが、どう考えても意図的な報道規制と、法院の警察部隊の大展開で自体の沈静化が図られた。
 それが上手くいったかしらないが、とりあえず市民たちはあの事件について口数をかなり減らしている。
 しばらくして、確か何人かの責任者が刑務所に収監されたとも。

「MARSの判断では、ダーカーは絶対的観測システムと、論理移動システムを備えた、と出たの」
「マーズ? ああ、あれか。正規軍の戦略戦術支援量子フォトンコンピュータだろ?」
「そして、あたしたち正規軍の人格データの保存場所でもある」

 まじで?
 ってことは、正規軍がキャスト連中だけで構成されている理由が分かる。
 正規軍の連中は、それぞれの人格を定期的にマーズとか言うのと同期させて、バックアップをとっているんだ。
 となると、こいつらはこの現実で吹き飛ぼうが、鉄くずになろうが、あらたなボディさえあれば舞い戻ってくるわけ。
 つまり、こいつらはある意味不老不死となる。

「お前らって、便利なんだな」
「我々は、人類が滅ぶまで人類の銃であり続けると決めたのだ。愚弄するな、定命の小娘」

 静かなまなざしと、鈴鳴りの透明な声で、彼女はアタシの礼を欠いた言動を突いた。
 たしかに、アタシが悪い。軽率だった。
 
「いや、すまん」
 
 アタシは謝罪する。
 何千年だかしらねぇけど、とんでもな殺し合いを砂漠の砂粒の数くらい見てきたはずだ。
 そして、ありえねぇくらいの命を消してきた。
 しかも、その暮らしに終わりなんかない。
 ARKSに馬鹿にされたりもするだろう。
 市民たちに、なにもしていないと罵られもするだろう。
 それでも、正規軍は市民を守ろうとする。
 この世界で幾度となく砕け散っても、もう一度、誰かの銃となるために戻ってくるのだ。
 それに終わりなんてない。
 そう生き方をすることを、便利、などと言うべきではなかった。

「ほんとに、悪かったと思ってる。准将とは長い付き合いだから、つい礼を失した」
「許す。我々は寛容だ」
「まじ? 口調が戻ってないけど?」
「……反省したか?」
「したした、反省したって。お互い体張ってるってのを忘れてたんだよ」
「そして、我ら正規軍のほうが長く、身を挺してきた」
「認めるって」
「仕方ないわね、許してあげるわ」

 アタシはホッと一息つく。
 こいつを怒らせたらアタシの臨時収入は減るわ、ライセンス消えるわ、下手したら腹パンされるかもと、散々なことになる。
 それに払うべき敬意くらいは払うさ。
 戦士には戦士としての敬意を、ってARKSの一部(つまりアタシ)の中では戒律になってる。

「で、マーズの予想やらで、結局ダーカーがどうなるんだ?」
「ダーカーとの接触は物理移動ではなく、論理移動だと判断された。意味は分かるわよね?」
「……魔女っ子をいれてくれないか?」
「彼女は安静が必要よ。あんたみたいに半分ゴリラな女もどきじゃないの。繊細で複雑」

 いやいや。
 アタシだって繊細で複雑で、いろいろあるって。
 たとえば……殺しが上手とかさ? 結構、敵を殺すってのは繊細な行為じゃん。
 しかも、複雑な手順だって必要だ。
 いかにして苦しませずに殺すか、逆に苦痛を与えるか、そういうのは繊細で複雑な作業だと思うぞ。
 そして、そういうのを自然と出来るアタシは、たぶん繊細で複雑に決まってる。

「じゃ、あんたに分かりやすく説明してあげるわ」
 
 キァハ准将は、コンテナルームに備え付けの端末をいじって、資料をアタシの携帯端末に転送してくれた。

「ま、大まかに言うと、論理移動ってのは『観測による重なり合いで、可能性の確定』となる」

 オーケー、意味不明だ。
 頭にスパコン積んで、さらに量子コンピュータのバックアップ受けてるやつの話を、アタシみたいな、頭の中にプリンつまってるかもしれないやつが理解できるとは思えない。

「そもそも、我々人類はダーカーを観測することなんか無理なの。我々の世界というものは元々、『ダーカーの、存在しない世界』だったから」
「はぁ」
「ところが、フォトンの発見が全てを変えた」
「あれだろ? 旧フォトンと新フォトンってやつ」
「ハイスクールくらいの知識はあるみたいね」

 そりゃそうだ。
 旧フォトン、すなわち光子のことだ。
 それとは別の『新フォトン』が発見されてから、科学技術はブレイクスルーの時代を迎える。
 そのくらいはハイスクールどころか、そのへんの幼稚園児でも知ってる。
 新フォトン発見の物語は絵本にだってなってるからな。

「フォトンの発見によって、我々は多くの『観測』が可能になった。だが、初期の我々は勘違いしていた」
「なにがだ?」
「我々の存在を、絶対的観測者だと考えていたのだ」
「はぁ? どういうこった? 猿でも分かるように言ってくれよ」
「だ・か・ら、人が宇宙を観測しない限り、宇宙は存在が確定しないって考えていたのよ」
「アホだろ? 宇宙は人類なんかいなくたって存在するって」
「誰も知らないのに?」
「そ……そういわれたって」
「特異点は、光も出て行くことができない空間に囲まれており、その外側にいる我々がその特異点を直接観測することはできない。つまり、特異点の情報は外に伝わらないため、事象の地平面の外側では特異点の存在にかかわらず、物理現象・因果律を議論することができる。それに対して、裸の特異点では、物質密度が無限大となる点あるいは時空の曲率が無限大となる点が、外側から観測することができてしまうことを意味する。わかる?」
「わからん」
「ちっ……こんな古くさい理論すらわかんないのに、どうやって説明しろと――。あ、そうだわ」

 キァハ准将は、アタシを知恵熱に罹患させて、殺害したいらしい。さっきの復讐か?

「これを見て」

 キァハ准将はアタシに手鏡を渡してくれた。
 なんでキャストの女将軍がこんなもん持ってるんだといいたくなったが、キャストだって、創造主だったヒューマンに近似するように性格を形成されてる。
 だったら、おしゃれだの化粧くらいするはずだ。
 アタシだって、ルージュくらいひく。
 なら、この冷血女将軍だって、アイラインぐらいいれるかもしれないじゃないか。

「鏡を見ると、自分を見ることになるでしょ?」
「まあ、そりゃそうだ」
「人は鏡を見ようとしても、鏡そのものではなく、自分自身の姿を見てしまう。観測者は観測者の無意識的主観の介入を避けられない」
「つまり、実験しても、データ解釈は解釈する奴のバイアスがかかる可能性があるって言いたいわけか」
「問題はそこにあったのよ」

 キァハ准将は深く椅子に体を預ける。
 アタシも、もう一杯をコーヒーをもらうことにする。
 こぽぽっと心地よい湯気が立つ。香りも悪くない。

「いわゆるフォトンの発見は、『我々がフォトンを認識した』と考えられた。だけど、本当は、『フォトンが我々を認識した』という面もあった」
「は?」
「我々は認識が一方的であると思っていた、強い人間原理によるならば、観測者は我々人類であり、非観測対象が人類を認識するとは想定していなかったのよ」
「ふーむ」
「だけど、フォトンは『絶対的観測素子』だった。フォトンとは、本質的には情報生命体なのよ」
「宇宙人ってことか?」
「まー、そういう理解は安直過ぎるし、反論が多すぎるだろうけど、あんたはその理解でいいわ」

 なんか、馬鹿にされてるみたいでハラが立つ。
 だけど、アタシはいいかげん大人になってきたので、頭に血が上るなんて事はないさ。
 せいぜい、今度こいつにスパムメールを送ってやろうと思うくらいだ。

「フォトンは我々を観測した。だけど、そもそもフォトンは我々以外の存在にも観測されていたのよ」
「あ、そういうことか」

 ダーカーだ。
 ダーカーもまた、アタシらと同様にフォトンを観測したんだ。

「ダーカーがフォトンを観測していた。だから、フォトンというもんを人類も、ダーカーも共有したんだな」
「そして、フォトンは双方を観測した」

 なるほどね。
 話が見えてきた。
 アタシらの文明は、フォトンの使用によって、地球とか言う死の惑星から、銀河外縁、ひいては果て無き星の海に出られたんだ。
 生活のすべての部分にフォトンが介在し、フォトン無しではアタシらの文明は成り立たない。
 フォトン工学は、まさに夢の科学だった。
 どこからともなく物を転送できるようになって、世界は抜本的に変わった。
 流通というコストが限りなく低減し、しかも速度が信じられないほどに高速化することで、資源の移動を容易にしたから、大宇宙航海だって可能になった。
 だが。
 それがネックなんだ。

「わかってきた?」
「なんとなくな」
「フォトンは、我々の存在を観測し、ダーカーの存在も観測した。そして、ダーカーと人類の存在はフォトンによって『確定』されたってわけ」
「つまり?」
「因果律が収束されて、一本の世界に統一されてしまったの。本来は、我々人類は、フォトンなどなく、小さな青い惑星で細々と生きていく運命だったかもしれないのに、フォトンが我々人類を観測し、認識したから、同一世界に存在の可能性が確定したのよ」

 まあ、あれだ。
 要するに、アタシが魔女っ子とキァハ准将を観測すりゃ、魔女っ子とキァハ准将が同一の世界にいるってことになる。
 じゃあ、もしフォトンがアタシらと、ダーカーを観測したら……アタシらとダーカーは同じ世界に存在するってことになるじゃねぇかってことだ。

「じゃ、つまりフォトンを介在して、お互いに会うこともない予定だった宇宙人が、お互いに会っちまう世界になったって事だな?」

 さすが、アタシ。
 物分りがよくて、さぞキァハ准将も感心しただろうな……ってあれ?

「そう思うでしょ? でもね、違うのよね、それ」
「は?」

 今までの話を総合したら、アタシの結論になるだろ。常識的に考えて。
 
「――先を聞く? 聞いたら戻れないわよ」

 ここまで聞いといて、どうしろと?
 アタシは中途半端に生きないって決めてるんだ。
 半端な形で生を受けたんだから、一生は心に従って生きるって決めてんだ。
 誰かに与えられた命だし、記憶まで与えられたけど。
 心だけはアタシのものだ。
 だか、アタシはアタシの心が知りたいと思ったなら、それに従う。
 そして、アタシの心はイエス、と言っている。

 だから、うなずいた。
 
 キァハ准将は、ふうっと、溜息をこぼす。
 たぶん、アタシの態度にあきれたんだろう。
 知らなきゃいいのに、とため息が明瞭に語っている。

 そして、言葉のハンマーで、アタシの心臓を叩いた。

「我々と同じ、人類なのよ。全部」
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

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YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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