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ファンタシースター計画02

 なんとか首の骨がまともになってくれて、ほっとする。
 もしこれがずっと昔だったら、いまごろ体の一部を機械化しないといけなかったかも。
 で、調子合わせに槍使いのガルムと手合わせナウってやつ。
 まぁ、いつもどおりガルムを追い詰めることはできるんだけど、いまいちキメの一撃をぶちこんでやれない。それに、どことなく格闘より射撃の比率が高くなってる。

「おい、ヒマワリ! テメェ、踏みこみためらってるだろ?」

 ガルムがあほ面下げて図星をついてくる。筋肉ばっかでデリカシーのないやつだ。

「もっと女の子にやさしくしろよ、ガルム」と言っておく。
「都合の悪いときだけ女の子になるのか、ヒマワリ?」

 ガルムのうなるパルチザンがアタシの頬をかすめる。
「僕は賛成ですね。ヒマワリが女の子をアイデンティティにしてくれれば、なかなかいい線いくと思います。これは僕が解析したヒマワリの身体データで……」

 リング脇でトーマのやつが、メガネの下でうすらさむい目をしてニヤついている。こいつは駄目だな。真正のHENTAIだ。

「おい。トーマ、あんたもリングにあがりなよ。アタシにさわらせてやるぜ?」
「……遠慮しますよ。確かにあなたのバディは魅力的ですが、僕は最近、悟りを開いたのです」

 あほなことを言っているトーマは無視して、ガルムに突きを放つ。
 だけど、アタシのガンスラッシュはやつの槍のフォトンにするりと受け流される。
 やっぱりだ。
 アタシ、こないだの負けで、体に怯えみたいなのが染み付いたみたい。
 正直、なさけないけど、訓練で消していくしかない。こういうのって悩んだって仕方ないじゃん。

「――このように、パステルさんの身体データは大変興味深く、それでいてミステリアスで」

 アタシはつい手がすべって、リング外のトーマの眉間を撃ち抜いちまった。
 いけないいけない。気をつけないと。

「ヒマワリ、お前結構ひどいやつだな。あいつのメガネ割れちまったじゃねぇか」

 ガルムが引き締まった顔をほころばせる。

「誤射ってあるでしょ? ガルム」
「間違いねぇ、あれは誤射だな。そういうことにしとくぜ」

 そして、本気で殺すつもりかと疑いたい連続突きを繰り出してきやがる。
 まったく。戦いは肉体だ! ってのはよく言ったもんだね。
 でも、それは真実だ。
 アタシたちは体を鍛えて、技術をみがき、もうすぐ始まる最終研修を終えなければ。
 そして、ARKSになる。
 誰にも邪魔されない。誰にも強制されない。究極のワンマンアーミー。
 そう。アタシはARKSになるんだ。
 でも、その後は?
 ガルムの首筋にガンスラッシュを突きつけて、そんなことを考える。

「――まいった」と奴がいった。正直、アタシもまいってるのかな。


2 
 修了試験ということで、大講堂で、ながったらしい所長の演説を寝ながら聞いてた。
 けど、魔女っ子に起こされた。
 ここのイスは寝心地がいいってのにまったく。

「なに、魔女っ子? アタシは修了試験のために体力温存中なわけで」

「次、あの人の話」

 魔女っ子のヒミツで一杯のおめめが、さっきまで空席だった来賓席に向く。
 その視線を追うと、やつがいた。

「女将軍じゃん。あいつ……」 

 アタシはあのときを思い出して腹が立ってくる。あいつにたいしてじゃない。何もできなかったアタシに対してだ。たぶん。そういうことにしておく。
 そして、女将軍が所長に代わって壇上に立った。
 やつは正規軍式の敬礼をしてきやがった。アタシらARKSはARKSの敬礼を返す。

「――地獄への道は善意で出来ている。我々の歴史は常にそれを証明してきた。あなたがたARKS候補生達は今日いよいよ有名な修了研修『ナベリウス降下』に参加するが、それもまたこの歴史的因果律に縛られていることを忘れないで欲しい。君たちの隣りにいる仲間が、死者の列に加わろうとするとき、君たちは善意をもって助けようとするだろう。そのときに思い出して欲しい。地獄への道は善意で出来ているということを。あとは、君たち次第だ。たとえ仲間が倒れていても、それを見捨てることすら許されるのがARKSだそうだ。そして、君たちはARKSの一員になろうとするものたちだ。心に従い、その心の赴くままに生と死に向き合ってくれ。以上」

 何人かのマナーのなってないARKS研修生が、正規軍は引っ込めーと罵声を向けている。
 なるほど、このありがた迷惑な演説を、ARKSを馬鹿にしたものだと捉えるのも出来なくはない。
 けど、アタシはあいつに殺されかけたから分かる。あいつは別に思ったことを言ってるだけ。
 ほかには何の意図も無い。
 で、アタシは魔女っ子の意見を聞いてみる。

「どう、魔女っ子。あいつの言ってること」
「わからない。正しいかどうかではかる言葉ではない」

 ふーん。なんの感慨もなさげね。
 仕方ないからガルムとトーマのほうをみてみる。
 だめだありゃ。ガルムは寝てるし、トーマはなにやら個人端末をいじってニヤついてる。
 地獄への道は善意でできている、ねぇ。
 で、地獄ってなに? アタシその言葉はじめてきいたんだけど?


 降下用シャトルシップのひらかれたハッチに、アタシは吸い込まれる。
 何度か訓練で乗ったけど、今回は本番で、今後はここに乗るのが仕事になる。

「俺、あんまり飛行機好きじゃないんだよ。なんかこう、落ちるって言うか」

 ガルムの奴が、筋肉だるまのくせに妙な小心者アピールをしてる。

「データ上は結構落ちてるからね。ま、そうはいってもせいぜい不時着だから。なーに、いざとなったらこの僕がなんとかしてあげるから心配しなくていい」

 なにやらトーマが自信ありげにいってる。

「アンタ、なんかできんの?」と聞いてみる。

「ふっふっふ。君らは知らないだろうが、僕は操縦士免許を持っている」

 別に誰もおどろかなかった。ニューマンが幼い頃に趣味がてら航空機操縦を学ぶなんてのは、よくきくことだし、機械いじりばっかりしてるトーマがそうであっても変ではない。
 むしろ、ガルムが持ってるといったらおどろいたかもしれないが。
 そして、トーマはそれからこのシャトルシップのエンジンがどーこー薀蓄を語り始めたが、魔女っ子がそれを無視して、倉庫端末をいじって座布団を転送し、床にしいて座った。

「ずっと昔のジャポンのアンティークじゃん。アタシのは?」
「ない」
「ルームシェアしてるんだからさー」
「ない」

 そういって魔女っ子のやつは、ドリンクを飲みながら本を開く。
 信じられねぇやつだ。しかたないから、アタシは窓に背をあずける。
 外は発進を待つシャトルの列やら、わいわいしながらシャトルに乗り込む研修生なんかがわらわら見えて、なんだか雑然としてる。それがシャトルゲートの特徴だけどね。

「ごとーじょーいただきありがとうございます。当機の機長をつとめるニック大尉です」

 ニック? なんかきいたことあるような。

「当機はナベリウスに向けてフライトするから、みんな添乗員の指示に従ってよ」

 妙に少年じみたしゃべりかただが、声色は男性型キャストのそれだ。

「添乗員だってよ? トーマ」ガルムが妙に色めきだつ。
「まさか……ぴちぴちのおねぇさまが――」

 あほだねぇ、こいつらは。アタシはあきれてなにもいえないよ。
 どーせ、教官オチだろう?

 しばらくすると、テレポーターから『添乗員』が現れた。

「鼻の下伸ばした馬鹿猿どもに、有害な人間の娘か。まぁ、楽にしろ。そこの暗い娘はそのまま好きにしろ」
「なんで……」アタシは唖然とする。
「最新型のキャスト! 最高です! その御足で僕の股間を踏んでください!」

 おいおい、トーマが興奮てやがる。あほだねぇ。

「ARKSというのはいいかげんなのね。あたしが今回あんたらの試験監やるキァハ=キルル准将よ。そこのあんた、踏まれたいなら踏んであげるわ。ただし子孫はあきらめなさい」

「はい! あきらめました!」

 トーマはM字開脚をして、何かを期待している。
 だが、キァハ准将は腐った生ゴミでもみるような一瞥をくれてやり、やつを無視する。

「なんでアンタが試験監なわけ? ARKSじゃないし!」

 アタシは抗議する。だって、正規軍がARKSを監督する権限なんて無いし。

「細かいことはいいのよ。ちゃんとデータログは全部のこるから問題ないわ。それに、あたしはあんたらを落とすつもりなんて無いし」
「ホントは新型シャトルシップに乗りたかっただけだもんね、キァハ」

 機内放送が割り込んでくる。なるほど、パイロットはあのOD色の量産ボディのやつか。
 でも、キァハ? 妙になれなれしいけど、こいつらどんな関係なんだろ?

「だまれ、ニック。命令だ」
「ご、ごめん」

 そして機内放送がぶつ切りになる。

「ん。まあ、あたしがいることは気にしない。あんたらは降下して、予定のルートを通って、またここに帰還するだけね。簡単な試験だこと。ま、せいぜい頑張りなさい」

 言われなくたって頑張るっての。
 まったく。


 トンネルを抜けると、そこは野生の国だった。
 魔女っ子からふんだくった本の最初の一節をもじってみると、案外しっくりくる
 草の緑臭さに、足もとをいく謎の虫。よくわかんない羽虫がアタシの緊張で汗ばんだ肌にひっついてくる。まじファックね。
 研修のときの重力と一緒。足腰にかかる重さは、アタシの筋肉となじんでる。

「ガルム、トーマ、魔女っ子。準備はいい?」

 アタシが後ろを振り返ると、倒れたガルムの上にみんな重なっていた。

「……なにしてんの?」
「降下失敗」

 魔女っ子がそういって、ずるずると這い出す。トーマとガルムにはさまれてたわけ。

「魔女っ子、そいつらたたき起こして」
「やってみる」

 魔女っ子はそういって、ロッドで二人をつんつん小突く。

「っつ……死んだ? 俺は死んだのか?」
「僕は、死んで神になった?」

 やつらは起き上がって、適当なことをくちばしってる。
 まったく。この二人はホントどうしようもない。
 太陽と、青空がそこにあるなら、あんたらは生きてるっての。

「魔女っ子、MAPとルートだして。そういうのアンタ得意でしょ」
「……壊れた。そこのふたりのせい」

 魔女っ子のやつが、やっとこさ立ち上がった二人を、醒めた目でみてる。
 それ、睨んでるってことなのかしら?

「出だしから最悪ね」

 アタシは耳元のイヤリングをさわる。小型通信デバイスもおしゃれしないと売れないらしい。

「あーあー、こちら研修ユニット212。『空飛ぶ絨毯』きこえる?」

 定められた符丁にそって、この青空を気ままに観測飛行してる女将軍とその部下の降下艇を呼び出す。

――こちら空飛ぶ絨毯。やっぱり重力のある空を飛ぶのは気持ちいいわ。ほら、ニック、そこの鳥の群れみえる? 録画しなさい! 録画!

 おい。試験監の仕事してよ。

「ユニット212のパステルのデバイスが損傷した。交換品を送ってよ」

――無理。そんなの自力でなんとかなさい。あ、あれ湖じゃない? 青いわー

 パステルがアタシをみてる。
 申し訳ない。交渉失敗ってことで、アンタにはアタシのを貸すわ。


 ひらけた森の中を、ひたすら歩く。
 筋肉壁のガルムがパルチザンをゆうゆうと抱えて班の先頭をすすむ。背丈ほどもありそうな草をばっさばっさ刈りながら、アタシらの進路を作ってる。
 ガルムのうしろを、ひょろニューマンのトーマがおっかなびっくりついていく。そんなびくびくしなくたって、なにも出てきやしないって。
 で、魔女っ子がアタシのデバイスを使ってガルムを後ろから誘導してるわけ。アタシは最後尾で魔女っ子を守りつつ、後方警戒ってとこかな。
 ときどき木々の枝をつたって、影が走る。たぶん原生生物だろう。
 惑星ナベリウスは豊富な森林に恵まれてるから、当然水にも恵まれてる。あちこちには湧き水が流れ出てて、それが足もとを滑らせる原因になったりする。さっきもトーマが滑ってたな。

「チェックポイント11番通過。あと4つ」
 魔女っ子がデバイスを見ながら報告してくる。全部で15行程の試験だから、もう3分の2は終わったことになる。歩いて歩いて歩くだけの楽勝で、退屈な最終試験だとおもうけど。

「魔女っ子、なんか通信入った? あのお気楽女将軍から」
「ない。別の通信が入ってる」
「どんな?」
「今、スピーカに切り替える。ちょっと待って」

 魔女っ子の暗い瞳のようすがちょっとおかしい。わるいものでも食べた?

 とりあえず、アタシは鼻歌歌いながらずいずい進むガルムを呼び止め、トーマとともに周囲を警戒させる。

――こちら、研修ユニット767、座標D-5! 誰でもいいから来てくれ!

 同じメッセージがリピートされる。メッセージには明らかな焦りと共に、交戦音が混じっている。

「D-5って、僕らのルートから遠いじゃないか。わざわざルートを外れて助けに行く義理はないと思うね。僕らはさっさと自分たちの課題をクリアすべきだよ」

 トーマが意見をねじこんでくる。確かにそういう見解もありだ。

「俺は助けるべきだと思う。この研修がおわりゃ、みんなそれぞれARKSだ。ここで助けておけば、それぞれがまたピンチのときに、助けてくれるかもしれねぇだろ」

 なんだかんだガルムは理由をつけてるけど、助けたいだけでじゃないの?

「魔女っ子、あんたはどう?」
「助ける。お告げがあった」

 お告げ? ま、魔女っ子らしからぬ良質なコミュニケーション能力だね。アタシは評価するよ。

「D-5に向かう」

 アタシはそう決める。追い詰められてるやつは、さぞ怖い思いをしてるはずだ。
 そういうのって、あんまり見逃せないと思うわけ。

「さっすがヒマワリ。分かってるじゃねぇか」ガルムが熱く同意してくれる。
「まったく。お人よしすぎるんだよ君たちは。ま、だけど僕のフォイエがあれば問題ないさ」

 ほらな、トーマのやつもアタシがきめりゃ付いてくる。あいつは何だかんだで女の尻を追っかけていたいだけのやつだからな。


 コードイエローなんて言葉、初めてきいた気がする。

――周辺のARKSは警戒して下さい

 だとさ。警戒なんか役に立たないから、迎えの降下艇よこすか、航空支援しろっての。

「魔女っ子! コードイエローってなに?」
「ダーカーの反応がある。そういう意味」

 オーケー、魔女っ子が静かだから、アタシらも落着いていられるじゃない。
 めっちゃピンチなのに、あんた眉一つ動かさないなんて大したもんさ。

「うぉ!」

 先頭のガルムのやつが、何かと切り結んでいる。

「ガルム! なにがあった?」
「ウーダンだ! この猿が!」

 パルチザンが大きく振るわれる。高濃度フォトン刃が、人並みにでかい猿を貫く。

「まずいよ。侵食されてるみたいだ。原生生物たちが凶暴化してる!」

 トーマはへたれ野郎ぶりを発揮して、逃げ回ってる。

「凶暴化? 操られてるのまちがいじゃねぇのか!」

 また新手のウーダンの大猿と切り結んでるガルムが、汗だくになりながら文句をたれる。
 アタシは愛用のガンスラッシュをさっとかまえて、鍔迫り合いになってるガルムを助けることにする。
 引き金をひくと、見事命中……あれ、あんまり効いてないかも。

「おいおい! アタシまちがえて水鉄砲もってきた?」
「生命反応が消えるまで、侵食された生物は抵抗する。それだけのこと」

 要は、タフになったってことね。いいじゃないの。タフなのは嫌いじゃない。
 魔女っ子がお得意のテクニックで敵を一掃してくれることを期待して、アタシは魔女っ子に猿どもが接近しないように、走り回る。
 斬っても突いても撃っても、一撃で致命傷とはいかない。なるほど、なかなか骨があるじゃない。
 ウーダンの忌々しい体当たりで、アタシはふっとばされた。
 ちょー、痛い。
 正直、尿がちょっと漏れた。まじありえない体当たりの重さなんだけど。
 訓練とは全然違うじゃん。

「っつ……トーマ、回復テクで応急措置を!」

 アタシはトーマを探すが、どこにも見当たらない。あのひょろニューマン、どっかの草陰にかくれやがったな。女の子おいて逃げるなんざ、カス以下の男だね。
 とにかく横っ飛びに転がって、ウーダンの頭狙って撃ちまくる。ガンスラッシュって剣としても銃としても使えるってのが売り文句だけど、どうもどっちも中途半端。
 おかげで、ウーダンの頭をミンチにするにはかなり連射しないといけない。

「やっと三つ……ガルム! 魔女っ子! トーマ! 無事だったら叫ぶなり死んだなり言え!」
「ちっきしょう! 左腕やられた! フォンガルフに食いつかれちまった!」

 草の向こうから、食いしばった声が聞こえた。
 え? あのでかい狼もどきまで出てきちゃってるの?

「今、援護する!」
「大丈夫だ! パステルが助けてくれたからな」

 草の向こう側で、鋭利な無数の氷塊が放射状に広がった。
 その直後に光が走る。雷みたいだけど、れっきとした高圧電流系のテクニックだ。
 さすが魔女っ子。研修中に一人でずっとやってきただけあるじゃん。
 アタシもいそいでそっちに向かわないとね。
 だけど、まず、アタシを狙ってる狼もどきを片付けないと。
 立派な牙に派手なたてがみ。それに攻撃的な前足。いいじゃない。戦うために生まれてきたって感じじゃないの、あんたら。
 相手になってやる。
 そして殺してやる。
 だって、アタシは死ねない。
 アタシは、今日からARKSなんだから!


 ちきしょう! ちきしょう! マザーファッカー!
 ダーカーってのはこんなに厄介なのかよ!
 アタシはガルムの巨体を引きずりながら、ガンスラッシュを射撃モードに切り替えて、がむしゃらに撃つ。
 D-5? そんなとこで助けてなんて言ってる連中なんざ無視する。

「魔女っ子? あとどのくらい凌げる?」

 魔女っ子は一人で四足の化物どもに、ガチンコ炎爆撃中だ。
 いいねぇ。昆虫もどきが焼ける姿は嫌いじゃなくなってきた。
 ダーカーが実体化しやがった。空間に情報として複写されるとかなんとかわけわかんない理屈はどうでもいいけど、その唐突な出現は勘弁して欲しい。
 おかげでガルムのバカがざっくり腹をやられちまった。
 ピンクのアンコが全部出ちまう前になんとか助けられたけど、やつは動けん。

「もう疲れた」

 そういって魔女っ子がふらつく。おいおいおい、そこでアンタが倒れたら、アタシらは死ぬっての。

「トーマ、ガルムは任せたよ!」

 アタシはへっぴり腰でなにもできないもやし野郎に、筋肉馬鹿をあずけて、魔女っ子を助けに行く。死ぬなよ、死ぬなよ、誰も死ぬなよと念じてみる。念じるより剣を振れっての、アタシ!

「ヒマワリ! 助けてくれ! 僕だけじゃなんとも!」

 後ろからトーマの悲鳴が聞こえてきた。
 アタシはふらつく魔女っこを支えたり、ダガンとかいう膝丈くらいあるでっかい昆虫もどきをぶった切って忙しすぎる。

「こっちも手一杯だ!」

 アタシは魔女っ子がのテクニックのおかげで、何とか傷だらけになる程度で済んでる。
 もしこの子がいなかったら、アタシは死んでる。

「おい! トーマ、返事しろ!」

 アタシは交戦音が途絶えた後ろを振り向く。
 ?
 あの二人はどこだ?
 なぜダガンの群れだけが、そこにいる?
 なぁ、なんでトーマの首だけ、そこに転がってるんだよ……。 


 数というのは圧倒的な力なんだと理解した。
 だから、アタシは魔女っ子を抱えて、森のどことも分からんところを走り抜ける。
 とにかくあとで、ガルムとトーマの死体は回収しなくちゃ。
 あの黒塗りの昆虫どもが、トーマの細っこい首をあっさり跳ね飛ばしたときから、勝負は付いてた。
 どうして僕が、と信じられない目をしていたのはずっと忘れられないだろうな。
 そのあと、あいつらは動けないガルムの体を解体しやがった。
 人からばらばらの臓器に分けられていくガルムをみていられなかったアタシは、へばった魔女っ子を抱えて、逃げた。
 逃げた。
 そう、逃げたんだ。
 やつらはガルムとトーマをバラすのに夢中で、追ってこなかった。
 正直、ここまで自分がどうしようもないヤツだとは思っていなかった。
 体が勝手に、そういう行動を選択していただけ。
 段々走るのが限界に近づいてくる。
 そして、アタシは乱雑に魔女っ子をそこらに放り投げて、吐いた。
 口の中の酸っぱさと、そのねばねばした胃液の感触に悪寒を覚え、さらに吐く。
 そして、へたるように傍の大木に寄りかかり、座り込んだ。

「……大丈夫?」

 頭から血を流してる魔女っ子は、アタシを心配してくれる。

「大丈夫にみえる?」
「右手人さし指骨折。左肩甲骨破砕、大腿部裂傷多数。腹部裂傷は深刻」
「そういわれると、かなりマズイってのが分かるわぁ。容赦ないんだね、あんた」

 静かな口調で、やばげな事実を一杯いわれると闘志がなえるね。

「……助けてくれてありがとう」と魔女っ子がいった。

 助ける? そんなつもりは無かったよ。アタシの体が勝手にアンタを抱えてたのさ。なんでそうしたのかは自分でも分からない。
 わかってるのは、なかなかいい練習相手だったガルムと、馬鹿野郎だったトーマとはあっさり二度と会えなくなってしまったこと。
 もし、アタシがもっと強かったら、二人を助けられたのかな。
 頭の中がもし、という仮定で一杯になる。最悪だ。こりゃメンタルヘルス行きだな。

――現時点をもって、コードイエローからグリーンにシフト。ダーカーの殲滅を確認

 通信の女の子がなんか言ってる。正直、これほどイラついたのは初めてだ。
 殲滅? やられたのはこっちだっての!

――研修生の皆様は、現時点を持って研修終了。生き残った方、おめでとうございます

 おめでとう、か。たぶん、マニュアルかなんかに、そういう風に締めくくるように書かれてたのを、そのまま読んでるんだろうね、オペレーターの女の子はさ。
 アタシは、そういう無神経さが気に食わないし、遠い母船で好き勝手通達を発しているだけの連中のサポート力の無さにあきれる。

「ARKSになった」

 魔女っ子がうつむきながらいった。珍しく感慨深げだ。

「おめでとう。アタシが祝福してやるよ」
「ありがとう」

 そういって、魔女っ子は倒れやがった。頭の傷が相当深かったらしい。
 アタシももう駄目だ。ARKSになった。
 ま、わるくない人生の締めくくりだったさ……。
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テーマ : ファンタシースターオンライン2
ジャンル : オンラインゲーム

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プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





PSO2_200x200_応援バナー01

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