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ファンタシースター計画01

 目を閉じたって、いやなことがアタシを避けてくれるわけじゃない。

――いいかい? ここに隠れているんだ

 そういって、パパがアタシを簡易シェルターに放り込む。
 お別れのキスも、最後の言葉も無い。
 パパの必死そうな顔だけが、アタシの心を強く捉える。
 すぐに障壁がしまる。
 アタシはひたすらシェルターの扉を叩いて、パパ、パパと泣き叫んでる。
 でも、扉は固く閉ざされて、なんの返事も無い。

 薄暗い非常灯のなかで、アタシは泣くのに疲れて、すみっこに座り込む。
 パパが帰ってきたら食べようとおもって、非常食には手をつけなかった。
 だけど、ぜんぜん帰ってこないから、結局アタシは非常食のパウチをあけて、食べる。
 
 どれだけ待っても、パパは帰ってこなかった。
 泣きつかれて、眠りに落ちて。
 次第に不安になって、小さな指で、扉をむりやりこじ開けようとしたり。
 結局、爪が割れて血がにじんだだけ。痛くて、しかたないから救急キットからモノメイトを取り出して、傷を癒す。
 そんなアタシの姿を、今のアタシはずっと見下ろしている。
 とっても弱くて、どうしようもない自分の姿に、アタシは腹が立ってくる。それと同時に、本能的に生きようと望む動物的な姿に、アタシは……。

――起きなさい。ヒマワリ・ヒナタ研修生
 誰かがアタシをゆすってる。
 悪い夢だから、もっとしっかりたたき起こしてくれればいいのに。
――いかんな。打ち所が悪かったか?
 いいえ。ちゃんと聞こえてます。だけど、ちょっと体が思い通りにならないだけ。
――周りの者はよくみておけ。緊急時のムーンアトマイザーはこうやって使う

 どっかの角で小指ぶつけた痛みが、いきなり全身にはしる。

「いたた……」

 痛みのおかげで、体がいうことを聞いてくれる。
 目を開くと、青空と、アタシを囲んで見下ろす連中がいた。

「悪かった! 先行しすぎちまった!」

 警戒担当の近接格闘要員ガルムがアホ面さげて謝ってる。刈り上げヘアに頑丈そうなアゴ。なんも考えてないキラキラおめめ。頭の先から足の先まで筋肉野郎だから、どうしようもない。ハンター職なのだから、先走る性格になるのは分かるけど。

「そうだぞ。バカなお前が無警戒で先行するせいでヒマワリとボクがノックダウンされるんだ。戦力が分断されたら――」

 あー、使えないインテリ気取りのニューマン、トーマが文句たれてるわ。
 こいつもメガネもやし野郎だから、いっぱつ殴られるとすぐにダウンする。しかも、詠唱をおぼえるよりも、どうでもいい趣味の世界に没入するギーク、むかしの言葉で言えばオタクだから肝心のテクニックまで適当になってる。

「あん? テメェは最初から戦力外だろうが? 基礎レベルのテクニックすらまともに使えねぇクセにによぉ?」
「何だと、このゴリラめ。ボクのフォイエで焼き肉にしてやろうか?」

 アタシの心配をそこそこに、責任の擦り付け合いし始めやがった。ホントこいつらダメダメだ。

「だまれ、連帯責任だ」

 鋭い一喝。教官だ。

「げっ」
「勘弁してください……」

 鈴よりもきれいだけど、氷みたいにつめたい教官の声が、二人をビクつかせる。

「ヒマワリ・ヒナタ研修生。異常は無いか?」

 強くて、きれいな女性教官が、アタシを心配してくれてる。
 ニューマンとして、最初から全部オーダメイドされてる命だから、アタシなんかよりずっときれいで、ずっと賢い。それになによりも、やさしい。

「はい、エスメラルダ教官」

 アタシは、なんとか上半身を起こす。指先の感覚を確認して、首の据わりも確認する。
 異常なし。
 だけど、ガルムとトーマのアホ二人組みが、ヤベぇとか髪がとか言い合ってる。
 なにいってんの? あいつら。

「ヒマワリ・ヒナタ研修生。なぜこの様な事態になったかわかるか?」

 教官がアタシに問う。そりゃそうだよね。これは研修で、課業なんだから。

「えっと、警戒しながら歩いてたら、転んじゃった?」
「ばかものっ」

 こつんと指揮棒で叩かれた。

「待ち伏せによって貴様の分遣班は殲滅されたのだ」

 エスメラルダ教官はそういって、アタシたちを待ち伏せしたやつを指差した。

「ヒマワリ、あなたの班は隙だらけ」

 いりもしないアドバイスをくれたのは、魔女っ子だ。パステルってのが名前だけど、アタシはかってに魔女っ子って呼んでる。
 見るからに暗さ全開。
 うっとうしいくらいの黒髪に、伏目がちの態度。おまけにうすら白い肌。
 誰もがそんな彼女のおどおどした態度をきらい、侮っている。
 それでいて妙に頑固。しかも正論ばっかり吐く。
 だから、皆は彼女から距離をおく。
 そんな彼女だから、こういう訓練のときですら、一人の仲間もいない。
 ま、だからこそ彼女は一人で戦う術に長けてるんだけどね。

「魔女っ子、あんたさ、本気でテクニックやった?」
「あたりまえ。あなたは侮れない。だから、徹底的にやる」

 魔女っ子はうつむいてそう言い放つ。
 あー! 目を見て話そうよ! 目を見てさ!

「と、いうことだ。ヒマワリ・ヒナタ研修生は班の統制が取れていない。そして班員は身勝手にほどがある。その隙をパステル研修生に突かれたのだ。というわけで、反省をこめて基礎体力練成プログラムを全員で三回こなすように」

 エスメラルダ教官がさっさと統括された。ああ、もう。あなた厳しいですぅ・・・・・・。
                     

 鬼の体力練成をこなし、足腰立たなくなったガルムとトーマを医務室に放り込んでから、アタシはシャワーを浴びた。
 シャワールームでは、他の女の子たちがあーだこーだといいながら、今日の訓練についてあれこれ話してる。
 ま、みんなシンケンに話し込むよね。いまじゃ訓練も最終段階。いよいよ最終段階「ナベリウス降下研修」が行われる。
 今までは何だかんだで安全な艦内訓練だったから、死人なんて出なかった。訓練ってのは死にそうなくらい苦しいけど、死にはしない絶妙な味付けで構成されてる。ある意味、感心するよ。
 
 アタシはそんな女子会なところからさっさと抜け出して、自室にもどる。
 廊下を、冷たいプロテインを飲みながら前進。やっぱ女は筋肉だよ。むだの無いナイスバディこそ戦闘力たかいだろ、って思うわけ。
 そんなこと考えてたら、珍しいのがこっちに歩いてくる。
 キャスト。
 しかも一人はやたら旧式だし。
 ヒューマンが最初に使役するための奴隷として生み出した機械生命体。ヒューマンにもっとも忠実だった第1世代キャストは、最終的にヒューマンという種を守るために、ヒューマンに対して反旗をひるがえし、その支配下に置いたそうだ。
 だけど、ヒューマンによるニューマンの開発は、その支配の正統性を覆した。結局みんなで妥協して「名誉憲章」とかいう三種族が永久に融和的であることを誓う成文法ができてから……なんだっけ? アタシ、座学の講義寝てたしなぁ。

「そこのきみ、すこしいいかな?」

 深いOD色がいやに目立つ、モノコック系装甲の戦闘型が話しかけてきた。
 いったいいつの世代のキャスト?
 対照的に、ドレスを意識した外装パーツの女キャストは澄ました態度。しかも最新鋭パーツ尽くし。なんか気に食わないな。

「なんか用ですか? アタシら『ARKS』だから、正規軍の命令は受けませんよ?」

 そう。
 アタシが珍しいと思ったのは、こいつらがキャストだったことじゃない。
 『正規軍』のキャストだったから。正規軍は大規模戦力投射と命の犠牲を省みない性質から、キャストだけで構成されてる。だけど、平時はほとんどの戦力が休眠状態で、稼動状態なのは将校とか選り抜きの下士官くらいだ。そのせいで、正規軍を見ることができるタイミングなんてほとんど無い。

「僕はニック大尉。あちらの方はキァハ=キルル准将。ARKSの『六芒均衡』ってのに呼ばれたんだけど、その人たちってどこにいるのかな?」

 なるほど。ちゃんと名乗ってからたずねてるんだから、教えてやらないとね。
 だけど、六芒なんとか? そりゃ雲の上の連中じゃん。絶対的命令権とかいう胡散くさい権力もってるお偉方。

「あー、えらい人達だったら、研修所の所長に面通ししないと会えないらしいですよ?」

 アタシはどっかのマニュアルだか規則集に書いてあったことを思い出す。

「そうか。ありがと。さっき目が覚めたばっかりでさぁ。僕らのマニュアルもう古くなってるみたいで、困ってたんだ。いきなりMARSと同期すると気持ち悪くなるし。助かるよ、ヒューマンのお嬢さん」

 お嬢さん? アタシが?

「ちょっとあんた。アタシをガキ扱いしないでくれる? アタシだってARKSだ」

 あ、やばい。つい食って掛かっちゃった。でも、正規軍なんてここんところ動いたことなんてないだろ? ずっとARKSばっかりが仕事してる。命張ってるのはARKSだ。

「ごめん。失礼だったね。僕らは長生きしすぎて、ヒューマンやニューマンが幼く見えちゃうんだ。命に限りがあるってのはいいよね。とても儚くて、人生に意味を与えられる」
「ああ? なに悟ってんの? あんたいくつなのさ?」
「あのさ、惑星ラグオルがダーカーによって陥落してからどれくらい経ってる?」
「ラグオル? なにそれ?」
「僕とキァハ=キルル准将はラグオルで戦った。それくらいかな。数字に意味はないから」

――ニック、むだ話はそこまで。いくわよ

「うん。キァハ。仕事しなくちゃね」

 ずっと後ろにいた准将が、そういってすたすたと歩き出した。なのそのドレス外装? そんな装飾型で戦えんの? でも、脚部アクチェータの動作音はほぼ皆無だ。見た目は旧式なのに、中身新型ってこと?
 っつーか、なんでARKSの『六芒均衡』と『正規軍』の准将が接触するの? ぜんぜんわかんないんだけど。


 マイルームにもどると、魔女っ子が、床に奇妙な文様の敷物を敷いて、お香を焚いてた。
 意味わかんない。
 部屋間違えた? なんでこいつがここにいるわけ?

「おかえり」

 おかえりって……。その奇妙な道具を片付けろ。部屋をかってに白黒にするな。おまえ、もうちょっと日焼けしろとか言いたいことがいろいろある。
 だけど、冷静さをなんとか保つ、

「あんたなにしてんの?」

 アタシは奇怪な儀式を始めてる魔女っ子をよけて、洗面用具を片付ける。

「ルームシェア」
「おいおい。そりゃおかしいでしょ。ここ、マイルーム。つまり、アタシの部屋」
「教官に言われた」
「教官?」

 研修中の教官命令は絶対だ。アタシの訓練班を担当するエスメラルダ教官は、無理と無茶は大好きだけど、無駄は嫌う。だから意味のないシゴキなんてぜんぜん無い。ひたすらに合理的で科学的で……つまり、最悪の教官だ。容赦ないから。
ってことは、教官なりの目論見があるってこと?

「理由はきいてる? 魔女っ子」
「わたしにはコミュ力が足りない、といってた」

 そんなのみりゃ分かるってばよ。

「あんたの理屈はわかるけど。アタシへの教育効果は?」
「リーダーシップだって言ってた」

 魔女っ子はそういって、やたら甘い匂いのお香をたきはじめた。勘弁してよね。

「リーダー?」

 ARKSは基本的に個人主義だ。チームを組む組まないも自由。軍の一組織であるにも関わらず、そういう方針を貫いている。一人で活動し、一人で死ぬ。そういうヤツだっている。
 だけど、アタシ的にはチームを組んだほうが強いに決まってると信じてる。
 仲間で馴れ合う必要なんか無いけど、それぞれが自分の役割を徹底的に果たしてくれれば、それだけで十分に生存率が上がると思う。だから、比較的チーム主義かもしれない。
 だけど、リーダーシップというのは解せない。
 そういうのは、どうしても正規軍の幹部たちのほうが上。だって、圧倒的な経験が蓄積されてるし、戦いの記憶の海に溺れてるやつが多い。さっきあったナントカ大尉やなんじゃら准将だってラグオルで戦ったとか言ってたし。どこか知らないけど。

「ねえ、惑星ラグオルって知ってる?」

 魔女っ子は謎の儀式をする手を止めた。

「ラグオル?」

 彼女は個別端末をさっと取り出して、写真を展開してくれた。
 部屋一面に、情報資料が映し出される。

「旧世紀の地球型殖民惑星。ファンタシースター作戦の一環、パイオニア計画によって殖民開始」

 さっさと導入解説をしてくれる。

「――パイオニア1の通信途絶? ブラックペーパー? WORKS?」

 なにこれ。アタシの知らないことだらけなんだけど。授業でやったっけ?

「魔女っ子、これどこの情報なの?」
「ORACLEアーカイブ」

 ORACLE? それってマザーシップの艦隊調整用につくられたSAIじゃん。

「は? なんでそんなとこにアクセスできんの?」
「情報工学特講を受講すれば、アクセス権をもらえる。サブフレームまでだけど」

 あー、そういうメンドそうな科目は全部パスしちゃったし。やっぱ戦闘基礎から演習、発展まで履修して、野外衛生で生きる術を学ぶほうがお得な気がしたし。それ以外はフリーにして、鍛錬、鍛錬、鍛錬! そういうのがやっぱいいっしょ。

「――そして、ラグオル政府はダーカー関連施設の謎を解き明かせず、侵食を阻止できなかった。だから、今から4千年以上前に放棄されてる。あの惑星周辺は無人攻撃衛星による断続的地上掃射が行われ、死の地表となっている」

 4千年って。じゃ、あいつら少なくとも4千年以上生きてるわけ? じゃ、アタシなんかガキどころか受精卵以下じゃん。γ型フォトン粒子? くらいかな。

「ふーん。アタシってものを知らないんだー」
「知ってても、知らなくても事実はそこにある」

 魔女っ子が目線をあわせずそんなことを言った。

「あんた、物知りになって気分はどう?」
「知れば知るほど悩みは多くなる。智恵が増すほど、悲しみは増える」

 なるほど。やっぱりこの子コミュ力不足だわ。

「あんたのコミュ力不足は致命的ね」
「そう?」
「仕方ない。アタシの部屋への滞在を許したげる」
「あなたの許可なんて要らない」
「・・・・・・」

 オーケー。研修所出るまでだから、我慢だって何だってしてやるわ。


 ガルムの動きは、力技で、単純。
 振り下ろす、薙ぎ払う、まっすぐ突く。とっても堅実。
 その堅実さを、間合いに癖があるパルチザンで発揮する。いわば槍使いのガルムだ。
 アタシは必死な顔してパルチザンを繰り出すガルムの動きを、できるだけ最小限で避ける。
 そして、演習用のしびれ弾を、すきだらけの足もとに打ち込んでやる。

「っつ! 卑怯だろ、飛び道具とか」

 ガルムがどすんと尻餅をつく。大腿筋が役立たずになったからだ。

「そう? 近接戦闘もできるけど?」

 アタシはなじみの武器で、ガルムの胸元を突いてやる。

「いてて、やめれ、やめろ」

 ガルムはじりじりとデカイ体を後退させる。

「やはりガンスラッシュは戦術的合理性に長けてるね。ボクが思うに、これは旧世紀に登場した銃剣概念の正当進化だと――」

 トレーニングルームのリング脇で、インテリ気取りのトーマがまたくだらないうんちくをたれ始める。

「おいおい。トーマ。次はてめぇがヒマワリの相手だぞ」

 ガルムが容赦なくトーマの長話を切る。

「え? ボクが? それは実にナンセンスだ! ボクはニューマンで、しかもフォースだ。後方支援と火力支援が仕事であって、誰かと殴りあうってのは・・・・・・」
「うるせぇ、このガリガリ野郎! 体育会系の掟に従えっ!」

 ガルムのヤツが、細っこいトーマ少年をリング上に無理やり引きずりあげる。足が動かないのによくやるよ。
 いろいろと言い訳をいいまくるトーマは、確かに殴り合いには向かない。
 アタシもガルムも、べつに殴ることをうまくなれと言ってるわけじゃない。
 殴られるのになれておけ、ということ。
 フォースだろうがなんだろうが、ダーカーとかいうのは容赦なく襲ってくる。
 集合的悪意だとかなんだとか、小難しい話があるけど、要はアタシらの敵!
 つまり、アタシたちがアレを殺す。
 そしてアレにアタシたちが殺されるかもしれない。
 そういうものだから、しのごの言わず訓練する必要がある。

「むむむ、いざ向き合うとなると、これはこれで身構えなくちゃね」

 観念したのか、トーマが細い体で、すきだらけの構えを取る。

「だけど、ボクは稀代の頭脳派・・・・・・」

 なぜかニヤリとわらってる。こいつ大丈夫かな。

「ヒマワリ――さっきから乳首がツンと浮き出ているのに気付いているかい?」

 アタシはそんなもんかと自分の胸元を見てみる。うん。パーフェクトなバストだ。鍛えた効果がでてる。

「スキありぃぃいいぃ!」

 奇声というか、情熱ないし悪意のような動きを、トーマのアホが繰り出す。
 アタシのいたいけな胸をわしづかみにしたいという、捨て身の戦術だろう。
 こいつは・・・・・・ホント、こんにゃくでも送ってやろうかしら。
 アタシはガンスラッシュの引き金を引いた。
 ナイスショットだ。股間がしびれる感覚はどんなもんだ? トーマ君。

「ぐぁあ! なぜだ! なぜ君は恥じらいが無いんだぁ!」

 股間を押さえながら、やつはうずくまった。なんだかなぁ。

「あんた、あたま大丈夫? 生き死にかかってるときに乳首だのおっぱいだの関係あると思う?」
「ボクには関係あるんだっ! 死ぬことよりも大切なんだ!」

――なんて、正直なやつなんだろう。
 トレーニング場の空気が死ぬ音が聞こえたよ。

5 
 トーマが女子たちの冷たい視線に耐えかねて、自室にひきこもってしまったことをどうこう言うつもりは無い。自業自得。発言には責任を持ちましょうってこと。
 アタシはガルムの攻撃について気付いたことを指摘すると共に、あいつがアタシの改善点を指摘する。改善に継ぐ改善こそが成長であるとかいう教官の指導方針だから。

「ヒマワリ・ヒナタ研修生。なかなかいい動きだった」

 アタシがベンチでドリンクを飲みながら一休みしてると、エスメラルダ教官が、アタシがあこがれるナイスバディを周囲に見せ付けながら現れた。まわりの女の子達はみんな見とれてる。男が好きなバディと、女が好きなバディには明確な違いがあることを実感する。
 猫のようにしなやかで、むだがなく、とにかくすべてが流線型であること。それが美。

「教官! お褒めいただきありがとうございます」

 アタシはあわてて立ち上がる。

「あー、楽に休め、ヒマワリ・ヒナタ研修生」
「はい」

 アタシは言われたとおり、ベンチにすわる。

「だが、さすがに股間射撃は禁ずる。男の研修生どもが、禁止にしてくれとウルサイ」
「あはは。すいません、つい」
「まぁ、トーマは教官の間でも図抜けたアホであると認識されている。研修所の端末セキュリティを突破して、ポルノ画像を収集して男どもに転売していたことも判明している。それは内々で処分済みだ」

 あいつ、バカなんだ、と確信した。

「ま、ヤツにはヤツなりの才能があるってことさ。あんまり嫌ってやるなよ」

 エスメラルダ教官は、ちょっと攻撃的に見られがちな瞳をアタシに向ける。
 真っ赤なショートヘアに、金色の瞳。アタシみたいなヒューマンじゃ、整形しないととてもじゃないけど手に入らないきれいな顔立ち。しかも、アタシなんかよりずっと優れた格闘技術の持ち主。
 ワイヤードランスとかいう意味不明なニンジャ武器を自在に使えるなんて、すごい。憧れちゃう。

「ま、アタシはトーマについてはあきれてますが、悪いやつだとは思っています」
「・・・・・・いやいや、悪いやつじゃないですとフォローくらいしてやれ」
「で、後ろの人たちは? アタシ、このあいだ廊下で見た人なんですけど」

 エスメラルダ教官は、無駄がきらいだ。
 だから、関係の無いヒトと一緒にいるなんてことはない。
 で、教官の後ろには、この前の正規軍キャストがいた。

「何だ。准将閣下と知り合いなのか」

 閣下? 教官のほうがずっと偉いのに。命張って、ARKSやってんのに。

「敬称なんかいらないわ。あたしはキァハ。ARKSの戦闘ノウハウを継承した新組織を正規軍の部隊として立ち上げるために、しばらく世話になるの。我侭で傲慢で合理的だから、仲良くしてね」

 准将閣下殿は、手を差し出してきた。
 アタシは一応、その手を礼儀としてとる。
 手のひらは、傷だらけだった。そこだけはとても古い傷が残ってるみたい。外装はとってもきれいでどれもこれも最新型なのに、手のひらだけ汚れてるなんて。
 温かみとかやさしさとか、そういうのがぜんぜんない二つの人工瞳にアタシが写ってる。
 華やかで、冷たい女将軍。それがこの人なんだと思う。

「准将閣下、手合わせ願えませんか?」

 アタシは握手したままぶしつけな頼みをしてみる。

「そういう頼みを聞いてやれと、あんたの教官からいわれてるわ」

 エスメラルダ教官は、何も知らぬといった顔をしてる。
 なるほど。
 やっぱり教官は無駄がない。


 アタシと教官、そして准将の三人がトレーニングルームにもどると、見たことのない『偉そう』な人たちがあつまってた。
 その連中は、みなシミュレータ試験室に移動してる。
 なるほどね。アタシと准将の決闘はシミュレータでやりあうわけか。

「教官? これはなにごとですか?」
「気にするな。お前を見に来ているわけじゃない」

 教官の一言は、ちょっと効いた。アタシなんかみてない? 上等じゃん。

「その、教官も教え子に興味ないですか?」
「私はお前の錬度をしっかりみさせてもらう。だが、正直キァハ准将の戦いぶりも気になる」

 なにそれ。
 この洒落た外装のキャスト女のどこが珍しいわけ? こんなの街中にはいくらでもうろついてるし、ちょっと気の聞いたショップでオーダーできるじゃん。
 腹立つわぁ。
 ここは一つ、近接格闘訓練成績『だけ』はトップを走るアタシの実力、見せようじゃないの。

 シミュレータの想定状況は、単純な壁がいくつもある典型的な基礎訓練場だった。
 研修所に入った一番最初の頃によくやったあれだ。
 当然、相手がどうでるか分かったもんじゃない。
 しばらくは様子見。
 壁に背中をあずけて、周囲を警戒。
 基本に忠実に。そして堅実に。
 だから音響センサを増幅して、足音を探知しつつ、モーションレーダーを確認する。
 感はない。
 音もなければ、レーダーに影もない。
 少し前に出てみるか?
 壁から壁に駆け足で移動する。
 手によくなじむガンスラッシュのグリップが、アタシを安心させる。今のところアタシのペースは乱されてないという確信が、より行動を促す。
 この調子で射程に収めることができれば……。

「そうかしら? あなたはもう死んでるけど?」

 声が聞こえた?
 アタシはあわてて周囲を警戒する。やばい、ペースを乱された?

「可愛い子ね。健康で、儚い」

 目の前にそれがいた。
 間違いない。いままでいなかったはずなのに! アタシの目がおかしいの?
 四の五の言う猶予もなく、のど元を押さえられて、壁にたたきつけられる。
 後頭部の衝撃で意識が飛びそうになる。嘔吐しそうなのをぐっと堪える。

「メタマテリアル技術ってご存知? フォトン工学技術の発展で枯れた旧世代工学の技術よ」

 苦しい。くやしいけど、いっきに締め上げられて手も足もでない。

「光速で思考し、並列に処理し、タスク管理ができるあたしに対して、あんたは何一つ対策を採らなかった。つまんないわ。センサだのレーダだの、ハイテクなんかに頼るなんて……あんたの戦闘デバイスとの情報連結にナノ秒で充分だとなぜ予想しなかった? 戦術上、それがもっとも予想される奇襲方法だとおもうけど? あたしはあんたと2回会ってる。その間にあたしを倒す戦術を編み出しておくべきだった。全てが敵になるかもしれないと考えるのが、本物の戦争屋よ」

 アタシの目の前が真っ赤になってくる。典型的な酸欠じゃないの、このドSキャストめ!

「あなた、このまま死んだほうがいいわ。生きてても有害」

 表情はまったく変わらないけど、明らかに冷笑している声だっ!
 アタシ、こんな情けない負け方をするわけ? 恥さらしどころの騒ぎじゃねぇってばよ。
 くそっ! ちくしょ……。


 アタシが目を覚ますと、医務室の天井がかすんで見えた。

「おはよう」

 魔女っ子が古臭いペーパーをよんでる。本とかいうやつだ。

「……アタシ、負けたんでしょ?」
「勝負になっていない。だから負けじゃない」

 魔女っ子ははらりとページをめくる。
 あーあ。負けたか。残念すぎる。せっかく教官に褒められたのに、何の意味もないじゃん。
 しかも指一本触れられなかった。こんな情けない負け方は、最初にエスメラルダ教官とやりあったとき以来かもしれない。
 そしてアタシは自分の首元をさわってみる。ナノフィールドによって治療中だった。

「ちょっとあんた、アタシってかなりひどい状態?」
「首の骨に損傷がある」

 げ! なに平然と言ってんの? あの女将軍はマジで殺すつもりだったわけ? どんだけ危ないやつなのよ。

「マジないわー」
「教官は抗議にいった。その間、わたしが看病する」

 そういって魔女っ子がなにやら唱え始めた。

「なにブツブツいってんの?」

 特段レスタとかそういう回復テクじゃなさそう。アタシは少々気味が悪くなってくる。

「……お祈りした」

 お祈り? なに、なんかしら祈ってくれたわけ? まあ、悪い気はしないけどさ。

「そ、そう」
「そう」

 やっぱり、アタシ、この子苦手だわー。
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テーマ : ファンタシースターオンライン2
ジャンル : オンラインゲーム

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プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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