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全ては未来の向こうへ行くため02

 強襲揚陸艦アクシオスは、艦齢不詳の大ベテラン艦だ。
 艦内システム、火砲関係、機関など主要なところはオーバーホールしたり、新型に交換したりされているが、そのせいで艦のバランスがいびつなことになってしまっている。
 俗にいう、つぎはぎ艦だ。
 こういう船が強襲揚陸艦などと名乗るのは軍の恥とも言うべきであり、廃艦にして新造艦艇の資材にでもすべきである。
 しかし、軍令部はその決定を下せなかった。乗組員が惑星ラグオル(十か国政府が存在していた時代!)や、三惑星世代の兵員だったからだ。
 指揮官はキァハ准将。長い間、有機生命体の盾となり、銃となって戦い続けてきた女キャスト。
 軍令部としては有能だが口うるさく、わがままなキァハ准将をどこかに封印しておきたかった。
 また、うるさ方の古参兵どももまとめてどこかに封印できまいか、と。その結果、強襲揚陸艦アクシオスは毎年戦列表に載り、その船内にスリープ状態の古参キャスト兵を満載したままORACLE船団のどこかを漂っている。
 
 さて、そんなつぎはぎ艦アクシオスの全兵装凍結解除命令が出たのは、ARKSたちの全盛期であった。
 兵装凍結解除ということで、久方ぶりに体を動かしたキャストたちは、艦の状況に驚いていた。
 最低限のメンテナンスどころか、ギリギリのメンテナンスしか施されていなかったのだ。
 船の心臓部たる機関はご機嫌斜めな音を立てて、ORACLE船団の船足にやっとこさついて行くので手一杯。
 火砲は火力発揮すりゃ自沈しかねない危険な自爆装置に早変わりしていた。
 さすがに40年以上放置されていたのだから仕方ないと言えば仕方ないが。

 そこで、物置と化していた士官食堂を片づけ、体裁を整えて会議が始まった。
 有機生命体の真似事のように、艦の主要な士官たちが集まって円卓を囲む。当然、円卓には紅茶などが並べられている。飲めるのは精緻に有機生命体とコミュニケーションをとる前提で作られたキァハだけだが。

「さて、諸君。ついに我ら『キァハ旅団』が解凍された。これは喜ばしいことであり、かつ絶望的なことでもある」

 彼女が言いたいのは、正規軍が解凍されるということは、それが必要な事態になっているという悲観すべき現実をさす。
 今次の解凍は、もっぱらダーカー対策が仕事となるだろう。

「さて、各部署のみんなに報告してもらおうかしら……って、なんでダイレクトに情報送り込んでくるわけ?」

 報告は1秒未満で済んでしまった。士官たちの頭部に埋め込まれている指揮通信デバイスを経由して、大量の報告が彼女の高度な人工頭脳に放り込まれたのだ。
 風情がないわね、などと独り言をこぼしながらも、彼女の頭脳は光速並列処理を行い、全員の報告を掌握した。
 正直、ここまでひどいとは思っていなかった。

「第1宙間機動歩兵連隊長及び、第2宙間機動歩兵連隊長。あんたたちの憂慮は痛いほどわかる。けど、装備更新予算なんて出ないわよ」

 キァハは申し訳なさそうに部下である二人の連隊長に謝罪した。
 一人は現代ではポンコツもいいところのレイキャシール。つまり女性型の旧世代型キャストだった。
 肩にでかでかと『2ND MIR』と書いてあるから、第2宙間機動歩兵連隊長だろう。
 もう一人のほうは、古臭い同盟軍(三惑星政府時代の旧軍)の指揮官型キャストで、やはりこれまた旧型であった。
 さすがに各種戦略戦術ソフトウェアくらいは更新済みだが、いかんせんハード限界が顕著になりつつある。
 どんなに優れたOSだろうと、ハードウェアの限界を越えられるわけではない。
 二人の連隊長は、配下の部下たちが自分と同様、旧式化している事実を指摘し、『魂の入れ替え』を希望していたのだった。
 だが、二個連隊2000名の魂を入れ替える作業はとてつもないコストを要する。魂の扱いは慎重でなければならない。だから、金がかかるのだ。

「主力である第1、第2MIRを投入できないということは、実働戦力は我々だけということですか?」

 現代型キャスト――これまた戦闘という実用面に特化した、強化された装甲と様々なハードポイント(武装や装備を装着するアタッチメント)だらけの男性キャストが言った。
 肩にはSPEC‐B(特殊戦大隊)を示す、血塗りの手形のような部隊章が怨念でもこもってるかのように張り付いている。
 特殊戦大隊は必要に応じて分遣隊を組織し、様々な任務(強行偵察から、潜入破壊活動、ゲリラ戦からキァハのパシリまで)に対応する柔軟な運用が可能な特殊部隊だ。
 ただし、特殊部隊の性質上、火力が機動歩兵連隊よりも低く、継戦能力も高いとは言えない。
 つまり、圧倒する機動力で的に優位な地勢を占め、破滅的な火力をもって粉砕するという正規軍のお家芸を行えないということだ。
 艦砲による軌道上からの支援射撃という手もあるが、肝心の艦砲は自爆攻撃になりかねないキケンなブツになってしまっている。

「そうよ、ランヌ少佐。申し訳ないけど、当面はあんたのSPEC-Bばっかりコキ使うことになるわ」
「それは構いませんが……しかし、任務の性質によっては、我々特殊戦大隊に適さない任務もあります」

 指揮官用の頭部アンテナが目立つランヌ少佐は、おずおずとクギを刺した。
 彼の部隊だけ装備更新が完了しているのは、対ダークファルス戦闘に備えて最小限の部隊を用意したいというキァハの手心の結果だったからだ。
 それを、恒常戦闘任務などで摩耗させたくはなかったのだ。
 この間のように、ヘンな政治的色合いのする任務に投入されるのも、正直勘弁願いたかった。
 TLPT特異体の改修などという、元老院やF機関絡みの案件など放置して(そういうのは子飼いのARKSにでも任せればいい)、准将には昔のように対DF戦に傾注してほしいというのがランヌ少佐の本音だ。
 しかし、准将には准将の深いお考えがあるのだろう、ともどこかで納得していた。

「で、さっそくMARSからあたしたち44OMBr(第44宙間機動打撃旅団)に命令が下ったわ」
『……』と、会議に参加している旅団の将校たちは沈黙する。

 40数年前の決戦は、旅団の主力兵員を根こそぎ損失するような激戦だったが、装備は潤沢であり、政府も正規軍に大いに期待していたから、彼らはそれに命を持って応えた。
 キャスト兵にとって、命とは永劫回帰するものだ。MARSサーバーに定期的に同期されることで、コア人格が保存され、ボディが破壊されたとしても、新しいカラダさえ与えられれば何度でも『戦うために』よみがえる。
 辺縁記憶(誰かと仲良くなったとか、恋をしたとか)は失うものの、死は有機生命体のように『恐るべきもの』ではなかった。
 だからあの頃の決戦において、死をも恐れず戦い、キァハの部隊は戦局を左右する戦略的勝利を幾度も収め、それでいて部隊は幾度も壊滅した。
 傷だらけの終戦を迎えて、代用ボディ(倉庫にあった旧世代のもの)のまま安らかに眠っていたら、今度はそのまま戦列に加われなどという信じがたい命令が下された。
 我々の傷は、未だ癒えていないのだぞ、と士官たちは文句をいいたいのだ。

「あんたらの不満は、ホントにわかる。けど、あたしたちじゃないと、まともな『戦争』なんてできやしないわ。ARKSに戦争ができると思う?」
『奴らには、宝探しがお似合いだ』と、皆が答える。
「そうよ。だから、いろいろ不満はあるだろうけど腹の中で殺して、任務に従事して頂戴」

 そして、キァハ准将から任務の説明が行われた。

「任務概要としては、レイ・ブラッドベリ級超大型ドーム型居住艦『ペーパームーン』を守ること、の一点に尽きるわね」

 委細は各員の戦略ジャーナルに配信された。キャスト将校というものは、光速で並列化し、同期するのだ。
 認識は人などよりもずっと早く共有され、意識は表層レベルでの『認識』ではなく、深層レベルの『共感』が行われる。

「いくつか質問があるんだけどいいかな? たぶんみんなが思ってることだから、ボクが代表して訊きたいんだけど」

 キァハと長年連れ添ってきた副官であるニック大尉が立ち上がった。
 基本的に、彼はキァハに忠実であり、いわば彼女の犬と言ってもよかった。
 だが、彼女が彼に信を置くのは、なによりも素直に意見を述べる点にあった。言葉を悪く言えば、政治的なことを考えないバカというだけなのだが。

「質問を許可するわ」
「ありがとう。あのさ、とにかく気になる点は、たった一つなんだ」
「ええ、早く言いなさいよ」

 皆の視線がニックに集まる。言いにくいことをよくまぁ言ってくれる、と全将校は感心というか、驚嘆していた。

「ボクら全員、ペーパームーン自治政府軍に一時編入ってどゆこと?」

 そう。皆が黙っていたのは、この驚くべき命令について、なにを言っていいかわからなかったからだ。
 正規軍に生きて、戦場で死ぬ。それ以外の人生など彼らには最初から与えられておらず、想像したことなぞ一度もなかった。

「え? なに言ってんのよ。文字通りじゃない。正規軍の軍籍はあるけど、一時的にペーパームーン自治政府に放り込まれるってことよ」
「ちょっとまってくださいっ! それは我々とキァハ准将を事実上左遷してるようなもんじゃないですか!」

 ランヌ少佐が立ち上がった。一言居士としては、ニック大尉に次いでキァハに対する発言権を持っているといえよう。

「そうよ。事実上の左遷ね。他の凍結中だった正規軍部隊も軒並み、自治政府軍に編入されてるわ」
「組織再編ってことですか? 俺には正規軍の事実上の解体にしかみえませんぜ?」

 1stMIRの連隊長であるスィヘリヴェ上級少佐が、皮肉をこぼす。
 以前は人間の優男ないし女たらしとして名をはせたが、ちょっと三惑星政府時代にヘマやらかしてキャストに生体改造されたことから、『政治』というものに対して不信感や皮肉を言いたくなる性格になってしまったのだ。

「わたし、それって変だと思いますっ!」

 素直さと正直さをキァハに評価されてる2ndMIR連隊長エリシュカ上級少佐も端的に不満をたれる。
 旧型のレイキャシールがそんなことをいうと、ご主人に小言を言うメイドのようにみえなくもない。
 とにかく、喧々諤々の文句が飛び交う会議と相成ったわけである。

「とにかく、命令なんだから仕方ないじゃない。MARSとORACLEの協議で決定したことなんだし、MARSにだって考えがあるはずよ」

 MARSとは、ORACLEから独立した戦略クラス演算仕様のフォトン量子コンピュータである。
 種の保存を至上とするORACLEとは違い、『勝利』の二文字を追及する、戦争屋御用達の、いうなればキァハたち正規軍の上司である。
 
「よって、強襲揚陸艦アクシオスは、レイ・ブラッドベリ級超大型ドーム型居住艦『ペーパームーン』に入港し、作戦行動に移る」
「えーっ! いっそ海賊になっちまいましょうよ!」
「そーだそーだっ!」

 キァハが決定を下したにも関わらず、一向に文句が収まらない。
 ああ、これはマズイぞと、ニック大尉はあわてる。本当に一番つらいのは准将自身だというのを、長年の経験則から導き出していたのだ。
 だから、キレたらマズイ。
 ニック大尉が一喝して皆を黙らせようかと思ったとき、キァハ准将のほうが無言でキレてしまった。
 頭部のバカでかい頭髪に擬された電子戦ユニットが大展開し、各人のセキュリティをやすやすと突破し、音声制御ソフトに侵入。
 皆の声を『消した』のだ。

「はい。じゃ、解散」

 音を消されてしまった兵たちは、改めてキァハの恐ろしさに戦慄した。
 彼女がその気になれば、全員の『魂』であるコア人格すらクラッキング出来てしまうのではないか、と誰もが思った。
 皆は、おそるおそる敬礼をして、会議室から去って行った。



「ったく、あたしだってね、ペーパームーンなんかで働きたくないわよ」

 艦長室のリクライニングに身を預けて、キァハ准将が控えているニック大尉にグチをこぼす。

「だいたい、ペーパームーンに自治政府軍なんてないのよ? あたしらが新設される自治政府軍の基幹部隊ってこと。またゼロから軍隊作んなくちゃいけないなんて……」
「ふーん。大変だね」
「大変なんてレベルじゃないっての。どうせアレよ? ダーカーとかに襲撃されて、市民に犠牲者でたりしたら、あたしに責任丸投げしてクビにしようっていう船団政府議会の連中の陰謀に決まってるわ」
「予算よこせー、武器よこせー、権限よこせー、っていつも議会で暴れてたからね、キァハは」
「当たり前のことしただけよ? あたしにプログラムされた『有機生命体を守れ』って命令が、そうしろって呼びかけてくるのよ」
「でも、守られる側の人からみたら、うるさいだけの戦争屋みたいにみえるわけだね」
「ARKSで何とかなってる現状に甘んじて、これからもARKSで何とかなるだろうって思い込んでるのよ」
「あんな軍隊モドキで何とかなるって思いこめるほうがすごいけどね」
「……自治政府軍ってのも、軍隊モドキになっちゃうのかしら」
「キァハの努力が足りなかったら、そうなるかもね」

 ニック大尉の言っていることは、事実を端的に表していた。
 キァハ准将の手元にある資料によれば、超大型居住型ドーム艦『ペーパームーン』は、人口1000万人という巨大な居住艦だ。
 おまけに、構成員は『市民』であり、ARKSすらも載っていない、純粋な経済艦というべき存在だった。
 いくつもの娯楽都市を抱え込み、産業都市や学園都市まで持っている複合的な一つの国家的存在というべきであろう。
 ペーパームーン自治政府がどのような意図で、正規軍を自治政府軍として編入するのかは読みかねるが、ダーカーの襲撃もないままずっと年月を重ねてきた平和都市船に軍隊など作った場合の『市民』の反応などわかりきっている。
 それに、いったいどの程度の権限が『自治政府軍』に与えられ、どれほどの予算が組まれるのかも未知数だ。

「先が、思いやられるわ」
「大丈夫、キァハなら何とかするよ。だって、あきらめない人だもん。キミは」

 あっけらかんとしながら、ニック大尉はキァハのために温かい紅茶をいれて、彼女お気に入りのマグカップに注いだ。
 キミなら何とかできる、などと絶対の信頼を寄せられてしまうと、キァハも苦笑するしかない。

「――気安く言ってくれるわね。ちゃんと、支えてくれないと倒れちゃうわよ」

 彼女が、他の誰にも言わない小さな弱音を吐いた。
 
「任せて。ボクは全力でキミを支えるよ」
「その命尽きるまで?」
「うん。この命尽きるまで」

 キャストの命は永劫回帰する。ならば、二人は永遠に支えあい、銀河が滅ぶまで人類のために戦い続けるといえよう。
 結局のところ、それこそが、最初にキャストをつくった人類の望んだことだから、二人はそれに応えようようとしているだけなのだ。


つづく
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ファンタシースター計画32

 モンタギュー総合学術大学は、ARKSシップじゃなくて、学術艦ガウスにある。
 典型的なドーム型アシモフ級居住艦だけど、結構な金が投入されてそうな立派な外観を有してる。
 アタシは魔女っ娘からもらった紹介状片手に、現在シャトルシップで着艦許可待ちをくらってる。

「ヒマワリさん、これ食べます? 田舎の母ちゃんから送ってきたんスけど」
 
 アタシと魔女っ娘の指定シャトルシップ『ペリカン』のパイロットが、副操縦席でだらけてるアタシにドライ・マンゴーを差し出してくる。
 ARKSに正式に任命されて以来の付き合いだが、どっかこう、真剣味の感じられないオタク野郎だ。
 操縦席周りにはアニメだの映画だののポスターやらフィギュアなんかを乗っけてて、ホント大丈夫かといいたい。

「ああ、もらうよ。で、まだ着陸許可は下りないのかよ」

 もぐもぐとドライ・マンゴーを食うと、思ったよりも甘かった。こりゃ茶が欲しいな。

「簡単には下りないっすよ。学術艦ってのはセキュリティにうるさいんですよ。軍の研究所とか、政府の研究施設もありますし、企業だっていろんな投資してるわけですから」
「詳しいんだな、お前」
「一応、俺も民間軍事会社のオペレーターですからね。セキュリティ管理については上からうるさく言われます」
「へぇ。ARKSにはそんなセキュリティなんて概念なさそうだけどな」
「またまたぁ。知りすぎたやつは処分されてるだけなんじゃないっすか?」
「……それは、そうかもな」

 アタシもいろんなとこに首突っ込んでるけど、ここまで生きているのは正規軍や法務省みたいに、政府系の後押しを受けてるからだ。
 もし純粋にARKS一筋、ARKSに誇り持ってますみたいな、研修生時代のアタシのままだったら、そもそもヘンなことに首なんざ突っ込まない。
 ARKSの中に階級なんざないけれど、六芒均衡なんていう権力者どもたちは、いったいどんなことに首突っ込んでるんだろうな。下っ端のアタシ以上にヤバいことやってそうだけど。

「あー、全然着陸許可下りませんね。軍のコネでもあれば容易いんスけど」
「あ? なんだって?」
「だから、軍の人脈ですよ。誰か知り合いいないんすか?」
「……一応、いるけど。准将が」
「お偉いさんじゃないですか。何とかしてもらってくださいよ」
「いや、ダメだ。借りが多くなりすぎる。ただでさえ最近頭上がらないのに、これ以上借りをつくったらマズイ」
「ホント、コネって仁義の世界なんスね。貸し借りっつーか」
「ま、そういうこった。気長に茶でも飲んで待とうぜ」

 アタシは持ち込んできた水筒を取り出して、熱い緑茶を注いでパイロットに渡す。

「ARKSって金あるんですね。これ本物じゃないっすか」
「いや、クローン茶葉だけど」
「いえいえ、茶葉使ってるだけで十分ホンモノっすよ。物資統制で粉末茶ばっかりの俺らからすりゃ、スゲェ代物です」
「……ちょっと待て。物資統制だって?」
「ええ。こないだからARKSシップがダーカーに襲われたりして、戦時統制令でちゃいましたから」
 
 ってことは、いわゆる普通の市民たちの間の生活が切り詰められ始めてるってことか。
 あれ? 古来から食うに困り始めた国が戦争に勝ったことあったっけか?

「総力戦、かよ」
「仕方ないんじゃないっすか。ダーカー潰して、植民惑星開拓しないと、いろんな資源が手に入りませんからね」
「宇宙でトウモロコシつくるよりも、惑星で作ったほうがコスト安いしな」
「フォトン工学のおかげで輸送コストってのは殆どゼロに近いですし。唯一の欠点とされる距離制限が解決されれば、俺も失業ですがね」

 テレパイプだのテレプールだのを用いる転送システムは、安全距離というものがある。
 あれは物体を情報レベルに解析して転送する技術らしいから、情報欠損を起こしてしまう距離だと再構成できず、残念なことになっちまう。
 距離が遠ければ遠いほど通信遅延や通信齟齬が生じ、データが欠損する可能性が高い。だから安全距離なんてのを総務省あたりが統一基準を定めてたはずだ。
 どれだけ科学が進んだって、万能の神は生み出せないってことだな。



 およそ半日くらい待たされて、アタシのセキュリティ・クリアランスに問題がないことが確定した。
 で、やっとこさ学術艦ガウスの港にふわりとペリカンが着陸し、アタシが持ち込んだモーターサイクルを降ろした。
 パイロットは観光でも行ってくるとか言ってたから、アタシはモーターサイクルに乗って研究都市の中を疾走する。
 学術艦ガウスの船内は、アタシらが住んでるARKSシップなんかと違って、研究者や大学で学ぶ学生向けの街として設計されていた。
 安い貸し部屋を詰め込んだでっかいビルディングやら、学生向けの安くて量が多くて味は残念なランチを提供する飲食店とか。
 飲み屋なんかも安酒しか置いてないだろうし、とてもじゃないがエリートビジネスマンが接待に使えそうな店はなかった。
 アタシがレアもののモーターサイクルでそんな街中を駆け抜けていると、くたびれた電気スクーターに乗った学生なんかが物珍しそうに眺めてくる。
 信号でまってりゃ、ボロい電気自動車に乗った学生連中が『いいバイクっすね! おねぇさん!』などと声をかけてきたりもする。
 なるほど。これが学生街ってやつか。

 しばしバイクを走らせると、街並みが変わった。今までの学生向け一辺倒のところが、ちょっと閑静な住宅街に変わったんだ。
 住んでいる住民の質も若くてエネルギッシュな連中というよりは、落ち着いた知識人層って感じになった。
 たぶん、大学関係者や、研究機関の学者連中の住まうところってことだろう。
 そこをらをブーンと駆け抜けると、軍の要塞か? といいたくなるくらいの巨大施設群にたどり着く。
 宙に浮いたチューブが、ぐるりと幹線道路みたいに施設群の周囲を巡っている。あれが加速器ってやつなんだろうか?
 さすが、モンタギュー学術大学。かの高名なモンタギュー博士の名を冠してるってのは伊達じゃない。予算潤沢。政治的背景も潤沢ってか?

 受付を済ませ、魔女っ娘のオトモダチとかいうリィア・カルカドール博士の研究室へと向かう。
 複合社会科学系列学際分野先端研究部なるワケわからん研究棟に、その人の研究室があるらしい。
 大学内の案内板をみたり、いちゃいちゃしてる大学生カップルの邪魔をしたりしてなんとかたどり着いた。
 そこは至って普通のビルディングであり、企業のオフィスでも入ってそうな清潔でスマートで、無害そうなところだった。
 館内も廊下があって、ドアがあって、といった普通のところ。
 階層テレパイプは定期点検中だったから、階段をつかってどっこいしょと、指定された313研究室に向かう。
 で、313研究室にはこりゃまた汎用モジュールなコールスイッチがついてたから、それを押す。

「はーい。どなた?」とオネェな口調が返ってきた。
「パステル・エイン博士からの紹介でやってきた、ヒマワリ・ヒナタです」
「あらぁん。ちょっとお待ちになってね。はい、どうぞ」

 扉がスライドすると、上半身裸のマッチョ野郎が、さわやかな笑みを浮かべて、プロテインジュースを飲んでいた。
 短い髪はピンク色に染め上げられ、しゃれたバイザーを付けて、金のネックレスをぶら下げてる。
 転がっているダンベルと、鍛えられたボディを見ていると、見せる筋肉については良好に作りこまれていると評価していいだろう。

「……ボディ・ガードの方ですか?」と聞いてみる。
「あらぁ。ち・が・う・わ・よ。わたしがリィア・カルカドール博士よん。ムキムキの機敏なヲトメンよ」

 なるほど。ヲトメンならば納得がいく。乙男(ヲトメン)というのは、あれだ。自分のマイノリティ性をもって社会と対決している男の中の乙女たちだ。
 なにを言ってるかわからないかもしれないが、世の中には様々なマイノリティが存在しているという事実だけは理解しなくちゃいけない。
 人種、性別、価値観、宗教など、人を類型化するタスクはいろいろあるが、一つだけ確かにしておかなくてはいけないのが、すべてに対して寛容であれ、ということだ。
 すくなくとも、アタシはそう考えてる。

「そうですか。いや、それにしても見事に鍛えてますね」
「そぉかしら? わたし的にはぁ、あなたもなかなかにグゥーッドなシェイプアップだと思うわよん」

 褒められた。互いに作りこんだボディについて雑談をしていると、助手らしき男子学生がアタシとカルカドール博士にコーヒーを出していった。
 そのコーヒーは、明らかに代用コーヒーだった。物資統制はどうやらここにも及んでいるらしい。

「キュートなオトコノコでしょ? それにカシコイから、わたし助手にしちゃったのよぉ。権力っていいわねぇ」
「はぁ。大学というところは、アタシはよく知らないんで」とだけ答えておく。
「で、ヒマワリちゃんだっけ? パステルからの紹介状をくれるかしら」
「いま、転送します」
「――なるほど、ヒマワリちゃん、あの子とオトモダチなのね。で、ダリッドについて調べてると」
「ええ」
「あなた、ARKSでしょ? 別にダリッドなんか調べなくてもゴハン食べていけるし、生活に困らないんじゃないの?」
「人はメシ食うためだけに生きてるわけじゃないと思いますけど」
「ふふっ。いい答えね。わたしのゼミにもあなたみたいなキュートなお尻をした、意志の強い子が欲しいわぁ」
「あいにく、大学に行くつもりはありません。今の仕事に不満はありますが、嫌いではありませんから」
「ま、正直なコ。じゃ、ちょっと一コマぶんくらいの時間を使っちゃうけど、ヒマワリちゃんにダリッドの講義をしてあ・げ・る」

 上半身裸のムキムキなリィア博士が、資料の準備を始めた。
 アタシの端末にいろいろと画像ファイルや統計資料なんかが送信されてくる。

「さて、ダリッドという存在は、旧人類の時代から存在していた。それはインドにおけるカースト制度の枠外に置かれた不可触賤民としての呼称が有名であった」

 いきなり口調が変わってびっくりした。たぶん、オンとオフの切り替えが凄いヲトメンなんだろう。

「このダリッドの問題は旧人類を大いに悩ませたが、ことは宇宙大航海時代の今に至っても変わらない。しかし、その意味は多少変わる」

 ふむ。

「現代におけるダリッド問題とは、市民IDの剥奪によって作り出された、人為的問題だ。ご存じのとおり、ORACLE船団に住まうものは市民IDが割り振られている。市民IDがなければ社会保険も雇用も、食料の購入もままならない」

 そりゃそうだ。船団の資源は有限だし、誰が何をどう消費するかをある程度管理しなくちゃいけないからな。

「この市民IDを剥奪されてしまった者たちは、当然に政府のセーフティネットから外れる。船に乗っているにも関わらず、船員登録されていないようなものだ」

 となると、メシも、病院もないわけだな。

「市民IDの剥奪、通称アカウント停止処置の月間平均は18万人。つまり、毎月路頭に迷う連中が18万人作出されているわけだ」

 毎月18万人ってトンデモな人数だな、おい。

「だが、これは表層的な観点だ。重要なのは、ORACLE船団が編成されたときより、正規の手続きを経ずに乗り込んだ人々も数えきれないほどいたということだ」

 つまり、船団のインフラを員数外の連中が圧迫するってことだな。なるほど、話が見えてきた。

「政府は昔からこれら不法の船員たちに悩まされてきた。そして昨今のアカウント停止処置を受けた行き場のないものたちを包括して、ダリッドという言葉が復活した」

 しかし、元々船団のインフラは、ある一定の人口を支える程度にしか作られていないはずだ。想定外の人員を抱えながら管理社会を運営することなんてできないだろうね。

「過剰人口をどうするか。これに対する政府の答えは至極単純なもので、無視する、というものだった。その存在は秘匿され、内務省警察がダリッドたちを急造区画『ゲットー』に放り込んだ」

 隔離区画ってことか。

「ゲットーに放り込まれたダリッドたちは、決してゲットーから出ることは叶わず、一生はそこで終わる。もしゲットーに生まれたならば、死ぬまでそこで生きることになる」

 なるほどね。これが魔女っ娘が言ってた構造としての差別ってやつか。
 アタシたちが見ることも、感じることもなく淡々と積み重なっていく排斥の歴史。
 誰の心が痛むわけでもなく、差別の存在自体が知られないがゆえに、問題にすらならない。問題は不存在、ということだ。

「政府はゲットーの中を管理するコストを負担する意思などないから、基本的にゲットーの内部は無法地帯だ。ダリッドたちは万人の万人に対する闘争の中で生きていくことになる」

 警察も、病院も、社会福祉もないわけだからな。メシとかどうしてるんだろうな。

「政府から廃棄民扱いされているダリッドたちは、団結するかに思われたが、内務警察が巧妙に内部抗争を誘導し、未だに一大勢力となることは出来ていない」

 たしかに政府ってのはお抱えの組織をいっぱい持ってるからな。工作機関だけでもいくつあるやら。

「また、内務警察には治安上の配慮もあった。『犯罪を一か所にまとめて管理したい』という野心だ。そして、ダリッドたちゲットーに住まう者たちの経済的苦境が重なった。需要と供給の奇妙なつり合いが生まれ、ダリッドたちが住まうゲットーは違法薬物の生産工場として使用されたり、キャスト用の電子ドラッグのプログラミング作成の場所となったわけだ」

 つまり、犯罪をゲットー内部に一元化するわけか。

「かくして、市民社会からは犯罪が消滅し、街並みは美しく、人々は強盗におびえることもなく日々を過ごす理想のORACLE船団が誕生した」

 ダリッドたちの絶望を下敷きにして、ユートピアが作られたわけか。

「一方のゲットー内部では、人身売買や生体実験、キャストの生体部品売買なんのそのといった、この世の悪を一つの鍋に放り込んだ様相を呈している。以上が大まかなダリッド問題の概略だ」

 ユートピアをつくるために、か。
 いつもそうだ。誰かが善意で『正義を』と始めた事業は、こうやって惨状を作り出してしまう。
 最初に善意を持った奴がわるいのか? 違うだろうな。みんなで同じところを目指しているつもりだったんだろうけど、ほんのちょっとのズレがあって、そのせいで違うところにたどり着いちまうんだろう。

「――だいたい、わかりました。根深い問題ですね」
「根深いなどというレベルではない。ORACLEという体制を守るか、新しいORACLEをつくるかという、鎮圧か革命かの二択レベルに発展しつつある」
「どういうことです?」
「ダリッドの人口は年々増加している。今では全船団市民とダリッドの比率は9:1だ。これは元老院や議会に議席を有してしかるべきマイノリティ集団というべきだろう」

 たしかに10人いたら1人はダリッドってなるんなら、その地位や権利を確認させる議席を付与するのがフェアってもんだ。

「さぁて、難しい話はここまでよん。聞いてくれてありがと」
「いえいえ、教えていただき恐縮です」とアタシは頭を深く下げる。
「あ、そうそう、一つ言い忘れちゃってたわぁ。この問題に深く関心もってるARKSはヒマワリちゃんだけじゃないのよぉ」

 アタシ意外にこんな政局問題に首突っ込もうっていうバカがいるとは思わなかった。
 あの魔女っ娘ですら『政治の問題』といって避けて通る道なのに。

「よろしければ、教えていただけませんか。ARKS同士、なにかできるかもしれませんし」
「どうかしらねぇ。ARKSなんてORACLEって巨大組織の中で、ほぉーんの砂粒くらいの存在感なのよぉ。わたしはあんまり期待してないけれど」

 博士の眼差しには、深い憂慮があった。なににすがることもできない、マイノリティたちの失意を知っているのに、一大学の博士として勤めるしかできないことを悔しいと思っているのだろうか。

「それに、ヒマワリちゃんとおんなじで、かなりヘンな人よぉ。でも、まぁ、いいオトコかもしんないけれど」
「いい男?」
「そうなのよぉ。ヒマワリちゃんとおんなじでちゃんと鍛えてあって、それに、背も高くて、心も強いわけ。でも、女がいるみたいだけど」
「はぁ」
「まぁいいわ。教えてあ・げ・る。この人よ」

 博士がアタシの端末に転送してくれたARKSカード情報をみて、驚きというよりも奇妙な納得があった。

「ゲッテムハルト……やっぱりな」

 やつが、ダリッド問題に興味を持った、イイ男だとさ。

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ファンタシースター計画31

 アタシはマイルームのデスクに座りながら、あれこれと思案を巡らせていた。
 ダリッド、という言葉の意味は、通常のネット検索では引っかからなかった。
 手元の端末でダメなら、ということで電脳図書館で検索をかけたけどアウト。
 さて、行き詰ったかとあきらめる前に、アタシはとりあえず同居している知識人に問い合わせることにした。
 とりあえずコンビニで買ってきたプリン片手に、やつの部屋のインターフォンを押す。
 ピープ音とともに、魔女っ娘の薄ら暗い消え入りそうな声が返ってきた。 

「なに? わたし、タイムマシンの研究で忙しい」
「おーい、魔女っ娘、プリン食わね? ドア開けてくれー」

 タイムマシン? ま、アタシみたいなやつには関係ない話題だからスルーする。
 しばしヤツは学問とプリンの優先順位、TODOリストの先後関係を悩んだらしいが、こう返してきた。

「……プリン、食べる」
「よっしゃ。バリスターズ・カフェで買ってきたラテもあるぜ」
「いま開けるから待って」

 しばらく間をおいて、急にドアがプシュっという音を立ててスライドオープンした。
 緊急時には建物ってのは簡易気密室となって、ドーム天井が吹っ飛んだとしても人が生きられるようになってる。
 宇宙航海時代の家ってのは、アレコレ緊急事態を想定して設計されるもんなんだよな。

 で、ヤツの部屋は相変わらずさまざまな儀式の道具及び学術系のデータ端末からひっぱりだした資料等が壁一面を彩っていた。
 よくわかんねぇ関数みたいなグラフやら数字やらが明滅してる部屋の中で、空飛ぶスパゲッティモンスター教団の愛好するヌードルの空き容器が転がったり……。
 あいかわらず、整理整頓って言葉はあいつにはないらしい。

「いつも通り、むつかしそうなことやってるんだな」

 アタシは部屋を見渡しつつ、勝手にテーブルの上を片づけてプリンを並べる。

「難し『そう』ではない。難しいこと」
「はいはい、すいませんね。言葉が適当で」

 軽くヤツの突っ込みをかわしつつ、荷物置き場になっていた椅子を本来の仕事に復帰させて座る。

「ま、とりあえず食おうぜ」

 と、黒い服ばかり着てる魔女っ娘にぷるんぷるんのプリンを勧める。

「いわれなくても食べる」
「おいおい、普通ありがとうとかなんとか言うだろ?」
「プリンを発明した旧人類に感謝を」

 アタシじゃねーのかよっ! と突っ込んだら負けなので、二人でもくもくとプリンを食う。
 最近のコンビニはバカにできねぇな、などとつまらない感想を述べたりして、ラテをすする。

「それでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどよ」

 と、本題に入る。

「……なに?」

 アタシがまた後で食おうと考えていたもう一個のプリンを、ヤツが勝手に取り出して食い始める。

「あのさ、ダリットって言葉の意味を知りたいんだ」

 魔女っ娘はしばらくキレイなニューマン・フェイスの眉間にしわを寄せて、なにやら考えはじめた。
 考えるようなことなのか?

「とてもセンシティブな言葉。多義的で、解釈の余地がある。そして解釈の余地があるところには政治が入り込む余地がある」
「そんなむつかしい答えじゃなくてさ、アタシ向けにカンタンにご説明願えないか?」
「解釈の余地がある言葉を簡単にすることは、わたしの思想を語ることになる。客観的ではない」
「いやいや、科学者として客観性にこだわるのはわかるけどさ、今はそこら辺をこう、プリンの力で抑えてさ」
「……簡単にいうと、『見えざる者』または『触れざる者』。はるかなる旧人類の時代には被差別階級を指す言葉だった」
「差別? そりゃ人種差別みたいなもんか?」
「違う。構造としての差別。システムとして効率的に作られた、個人ではどうしようもないもの」

 魔女っ娘の口から『差別』というキーワードが出てきた時点で、アタシはピンときた。
 なぜ龍族にヤク流してる問題程度で、法務省種族問題介入課の課長が関心を持っちまったのかが分かったんだ。
 アジャンのイケメン野郎は、どうしようもない陰謀屋で野心家でもあるけれど、やっぱりアイツにも『正義』がある。
 ヤツの人生をどういう正義が貫いているのかは、ヤツの口から語られることはないけれど、ああいう『種族問題』について介入する仕事をやってるわけだから、ヤツはあらゆる『差別』と対決するっていう正義を選択しているはずだ。
 職業はある意味、人生の方向を決定するからな。
 となると、アジャンのやつの真の関心は龍族の薬禍ではなくて、むしろORACLE船団における『ダリット』の存在なのかもしれない。

「とりあえず、大枠はつかめた。ダリットって言葉は差別を表す言葉なんだな?」
「正確ではないけれど、便宜的にはそれでいい」
「で、アタシはそれについて調べたいんだが、どうやって調べていきゃいい?」
「わたしは大学の教養講義でその存在を問題視している教授から聞きかじっただけ」
「教養講義? あんた確か分子生物学と医学が専門だろ? あんまりそういうの興味なさそうだけど」
「科学とは方法であって、一つの証明の手法。真実ではなく、世界を解釈する技法。だから、教養もいらないわけじゃない」
「なるほどね。あんたはアタシなんかよりずっといろんなこと考えてるわけか」
「――人は望んだものしか見ることができない。見えているものは、その人が見ようとしているものだけだから」
「もしかして、それはダリットを調べるにあたってのアドバイスか?」
「そう。わたしはダリットの問題について深くコミットしていないから、あまり具体的な説明はできない」
「なるほど。知らないことを語ることは、想像することと同じだってことか」
「客観性が損なわれる。知らないものを語ることはファンタジーを紡ぐのと変わらない」 

 魔女っ娘は客観って言葉が大好きらしい。その割にはヘンテコな信仰心もあるわけだから、ニューマンの秀才少女ってのはワカンネぇな。
 っつーか、ただでさえ甘いラテに、さらにブラウンシュガー入れるその心境が分からない。

「じゃあ、アタシがこれからダリットについて調べていくにはどういうアプローチが適切なんだよ? ネットじゃ検索にヒットしないぜ?」
「検索しても分からないことこそ、重要な問題であり、隠された争点となる」
「そりゃ経営学の話だろ」
「意外。知ってたの?」

 ヤツはメスゴリラが言語を解することを知ったみたいな、好奇心に満ちた目でアタシを眺める。
 おい、それ失礼だぞ。

「あんたがアタシの部屋に忘れてった電子書籍端末に入ってたんだよ」
「勝手に読んだの? わたしのプライバシーを侵害してる」
「おいおい、いつから人の本読んだらプライバシー侵害にあたるようになったんだよ?」
「その人の人格は、本棚を見ればわかる」
「じゃあ、忘れてくなよ……。んで、アプローチについてなんだけど」
「そうだった。モンタギュー総合学術大学のリィア・カルカドール博士に会うといい。紹介状を書くから待って」

 魔女っ娘がデスクに固定されてた研究用端末の電子キーボードを、軽やかにタイプしていく。
 やっぱりアイツは惑星でアホみたいにテクニック使って原生生物やダーカー殺してるよりも、こういうインドアなインテリジェント・ライフのほうが似合ってる気がする。
 どうやらあっという間に文面は出来たらしく、本文は暗号マスキングされてたが、最後の魔女っ娘自身の電子署名は非暗号だ。紹介状なんだから当たり前だけど。
 ただ、『パステル・エイン博士より、親愛なるリィア・カルカドール博士へ。 追伸 こないだ貸した官能小説、早く返して』ってのは、なかなか興味深い。

「……どういうつながりなんだ? エロ小説貸し借りする仲って、おまえにとっちゃ相当深い関係だろ」
「その問いに答えることは、今回のあなたの調査と関係がない」
「いやいや、ま、気になるだけなんだけどさ」
「――わたしの数少ない、友だち。知的かどうかを考慮要素にすると、唯一の友だち」

 ちょっとうつむき加減に、恥ずかしそうにかたる魔女っ娘をカワイイやつだな、と思ったりした。
 が、実はすごく失礼なことを言われていることを悟り、アタシは評価を取り消した。

「おい、アタシも知的だろうが」
「あなたはわたしの大事な友だちだけれど……決して知的ではない。わたしが証明する」
「いや、そんなこと証明されましても……」

 アタシはこのギャンブル中毒の魔女っ娘を殴って、プリンを吐き出させてやるべきかもしれない。
 だけど、さすがに紹介状まで書いてもらったんだから、そんなことはしない。
 だって、アタシは理性あるオトナの女だから。たぶん。

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ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画30

 都市船のなかをブラつくのは、赤ん坊がゆりかごの中を確認するのと大して変わらない。
 代わり映えのしない小さな世界があって、そこで生活する人々の暮らしは「守られている」ってことだ。
 ARKSは365日ARKSなわけだけど、なんだかんだで契約がなければ義務は生じないっていうお気楽な商売だ。
 仕事なんざ物欲に任せて惑星に降り立ってあれこれ報酬を期待するか、あるいは研究者どもの興味関心を引く事象を調査するくらいだ。
 それぞれのARKSはいつも何かしら誰かと絡みながら、大なり小なり、そういうオシゴトをこなしている。
 けれど、仕事しない日は休日。
 気でも狂ったみたいに毎日毎日惑星と船団を往復してるやからもいるけれど、そういうのは惑星に行くのが楽しい新米の時期だけだ。
 新米じゃなくなる時期ってのは、別に強くなったときじゃない。いわばARKSって存在や自分の行為について無関心になったときだと言っていい。
 
 そう。無関心だ。

 アタシがこうやって居住艦のドーム天井をぼーっと見上げてれば、星空をゆく大船団の列がうっすらと見える。
 環境偽装モニタシステムは、今日は晴天です、ってな感じの青空を映し出してるけれど、それはドーム天井が科学のパワーで見せてくれる虚像だ。
 そんな虚像に包まれながら、この船は今日も船団のすみっこ、ノアの方舟の真似事をしながら大宇宙を突き進む。
 とはいえ、宇宙大航海時代だろうとも人間ってのは相変わらずドーブツだから、飯も食うし、セックスだってするわけだ。

 みんな、なにかと無関心なのに、欲望はそこにあるってことさ。

 欲望はそれ自体が意志でも持ってるみたいに、勝手に方向性を持って一定の規則や秩序を生み出していく。
 つまり、欲望ってのは決して無秩序なカオスなんかじゃないってこと。どっちかっていうと本能的でありながら統制されているわけだ。
 この船の内側にたまったニューマン、キャスト、ヒューマンたち人類の欲望は、ちゃんと船の中の一部に集約されている。
 アタシは、いま、そこに向かってるってる。一人でね。
 


 欲望の色はいつも刺激色。原色のとめどないギラツキをそのまま点滅させるネオンがこの区画を照らし出す。
 アタシがやってきたのは2番艦ウルの中で唯一というべき歓楽街『ウルコーマ』だ。
 雑居ビルが無秩序に(つまり、行政府の介入があまりないってことだ)広がり、路上には露骨に性的魅力を主張する男女たちがうろついてる。
 店舗に飲み込まれていく客たちは、男女問わず、種族は関係がない。ここはキャストがニューマンを抱き、ヒューマンがキャストを楽しむろくでもない場所だからな。
 アタシが三歩進めば、一回はオネエチャンやイケメン野郎に声をかけられる。
『遊んでかない?』『楽しいこと、しようよ?』などなど。
 アタシは聖人君子でもピュアな聖女でもねぇから、別に遊んだって構わないわけだけど、今はパスだ。
 とにかく、今のアタシには『シゴト』がある。
 法務省の介入課長がヤクの流れを気にしていた点が気になって、勝手に裏付け捜査を始めたってわけさ。
 ARKSに治安介入権なんざないし、べつにそんなもん捜査する義理も義務もねぇんだが、惑星でヴォル・ドラゴンからテトラヒドロカンナビノールが検出されたとなれば、ちょっと話が変わる。
 魔女っ娘いわく、ゲッテムだか何だかとアタシがバトルしたあの惑星には、確実にヤクが蔓延しつつあると言っていた。
 法務省のほうからのデータ提供でも、それが裏付けられてた。
 ま、異星人たる竜族どもがヤクを欲しがってるんなら、それを売る奴が出てくるってのは市場原理にしか過ぎない。
 ただ、問題は売人がARKSってことだ。
 で、その売人のARKSをしょっ引いたっていう連絡を『あの筋』から受けたから、アタシはわざわざウルコーマなんていうクソなところに出向いてきたわけだ。

「あら、あんた。遅かったじゃない? とりあえず売人連中は縛り上げてあるけど」

 アタシが目指していた『ふぁんたずま』っつークラブの入り口には、あの筋の女キャストが退屈そうに立っていた。
 むろん、正規軍特有の深い緑のボディで。
 ここで重要なのは、目に見えているものだけを信じてはいけないってことだ。
 ネオンの光によって、吐しゃ物とか、こぼしたビール、喧嘩騒動で散った血痕なんかで汚れた路面に、たまに影がさすことに気付かなくちゃだめなんだ。
 アタシが小汚い路面を見る限りだと、一個分隊くらいの正規軍キャスト歩兵が例の『メタマテリアル迷彩』によって、周囲と同化してるみたいだ。
 ほら、いまもアタシと『見た目はキレイ』な女キャストである准将が無防備に立ち並んでるのをみて、声をかけようとした酔っぱらいの若者たちが『酔いすぎて眠くなっちゃった』みたいだ。
 バタバタとキタネエ路上に突っ伏して、うんともスンとも言わなくなっちまった。

「キァハ准将。あんたの部隊が治安任務に投入されてるなんて知らなかったよ。相変わらず物騒な連中つれてるんだな」

 アタシは軽く挨拶をする。

「もともと警察業務ってのは軍隊のシゴトだったのよ。歴史が進むにつれて、憲兵制度から警察制度へと移行したけど、それは決して進化したわけじゃなくて、便宜上の問題よ」
「ご教示、痛み入るね」

 教養のないアタシは、てきとうに答えておく。

「で、あんた、法務省のアイツの飼い犬になってるわけ?」

 キァハ准将がアタシを見据えていった。相変わらず冷たい機械的な瞳だったけど、なにやら憂慮すべきことをいっぱい抱えてそうな雰囲気もあった。

「飼い犬ってわけじゃねぇさ。ただ、惑星にヤク卸してるヤツの顔を拝んどきたかっただけだね」
「わざわざクズARKSに拝見してどんな情報を知りたいのよ? ヤクの流れ自体は信用ならない連中がつかんでるでしょ?」

 准将が言う『信用ならない連中』ってのは法務省種族問題介入課のことだ。

「そりゃまぁな。ただ、アタシが聞き出したいのは『ヤク』の払い下げを見逃してるARKSのお偉いさんってやつが、いったい誰なのかを知りたいんだ」
「へえ。知ってどうするわけ?」
「ARKSって組織が信用ならねぇ組織かどうかを再確認して、さっさと引退する時期を決める」
「……嘘ね」

 あっさりと嘘を見破られるところを見ると、アタシにはうそつきの才能はないらしい。

「わかったよ。正直に言う。アタシはARKSが何か隠してるんじゃないかって気になってるのさ。いまだに進まぬ惑星探査計画と入植計画。それに今回のヤク騒ぎ。まだまだ叩けばホコリが出そうな組織じゃねぇか、ARKSってさ」

 アタシが正直に理由を話すと、例の冷たいまなざしのまま、こんな忠告をくれた。

「理由があるから、隠してるのよ。隠された真実が重要なわけじゃない。隠している理由こそが重要。その理由次第で、あんた消される可能性だってあるわ」
「ま、こないだも切り捨てられかけたからな」

 准将の警告を聞くと、例のクソ寒い雪の大地を思い出す。

「――せいぜい、首を突っ込んでみればいいわ。あんたが深淵を直視するとき、深淵もあんたを見てるのよ。闇に頭から突っ込んだなら、頭差し出したも同然よ」
「ご忠告、痛み入るね」
「あっそ。じゃ、入んなさいよ。正規軍と検察にはARKSを勾留・公訴提起する権限ないから、すぐにARKS法務部の使いが来るわよ」
「なるほど。タイムリミット付ってことか?」
「ある程度までは粘ってあげるけれど、あんまり期待されても困るわ。さっさと聞いてきなさい」
「あいよ。恩に着るぜ」

 アタシはキァハ准将のわずかばかりの心遣いに感謝しつつ、ヤクの売人ARKSの顔を拝むために、ガサ入れがあったクラブの扉を開けた。



 拘束されたARKSは三人。
 一人はキャストの男で、あとはニューマンの女だった。ロリロリなニューマン娘どもで、アタシは正直うんざりした。
 特に、ロリ娘二人組は明らかに双子としてこの世に生み出されたタイプだった。

「ロリ娘二人組が主犯みたいだよ。キャストの男はただの護衛役。あのキャスト、派手に暴れてくれたから、腕をつぶしてやったよ」

 そんなことを『尋問』していたであろう正規軍の大尉、つまりキァハの副官たるニック大尉があっけらかんと言った。
 こういう戦闘サイボーグみたいなやつらに警察業務まかせて大丈夫なのかと、言いたくもなる。

「ありがとう、ニック大尉。あとはアタシがやる」
「うん。じゃ、がんばってね。あと、ニューマンってのは足の爪がはがれやすいんだねぇ」

 当然、正規軍としても知りたいことがあったんだろう。それなりの『尋問』をしたらしい。
 そのやり口は純粋な内務警察のやり方なんかとは全然違う。軍隊特有の、捕虜から重要な情報を聞き出すアレだ。

「……やりすぎだろ?」
「そうかな? ボクらには理由があるし、国家非常事態宣言レベルの犯罪を予防するためだから、違法性はないよ」
「そうかよ。あんたらはホントに容赦ないな」
「あたりまえだよ。ボクらは人類を守らなくちゃいけないからね。そのためには人類に敵対する有機生命体には処理をうけてもらう。じゃ」

 どうやら、正規軍からすれば、このヤクの売人たちは人類ではなく有機生命体という別の存在らしい。
 そんな危険なニック大尉が部屋から出て行った。
 すると、身を寄せ合っていたカワイソウ(?)な売人どもが、リラックスしたみたいにアタシに話かけてきた。

「あんたARKSやんな。 ウチらを引き取りにきたんやろ?」
 
 えらく訛りのきついロリ娘だな。

「まぁな。手続き上、いくつか質問させてもらうぜ。そうすりゃあとは病院で足の治療だ」

 アタシが口から出まかせいうと、奴らは安堵したみたいに正規軍のやり口をののしった。

「まったく、あいつら人やない! 鬼や、鬼」
「オニや、オニッ!」と双子のもう一方も呼応する。
 一方、腕をつぶされたキャストは寡黙にうなずくだけだ。

「んで、どっからヤクは誰から買い付けた? あんたらを守るために、ヤクの入手ルートを『不存在』にする必要がある」
「なんや。いつもんトコに決まっとる。ダリットや。ダリットどもから買い付けてな、ちょちょいと薄めてポンや」

 ダリット? アタシは知らない言葉だけど、重要な存在だ。覚えておかなければ。
 もっと、いろいろ聞き出したいが、これ以上質問する時間があるか? いや、ないだろう。
 捜査の端緒は思ったよりも早く手に入れることができた。そのダリットどもを当たれば、おのずから背景事情に食らいつくことができるだろうな。

「よし、もう十分だ。アタシは行動を開始するから、あんたらは迎えのARKSが来るまで黙秘しろ」
「そんなっ! あいつらのやり口で黙秘なんざできるわけないやんっ! 死んでまうて!」

 泣き言たれるロリ娘たちをほったらかして、アタシはさっさと派手に酒瓶が吹っ飛んだバーカウンターのほうに行き、そこから裏のキッチンへと入る。
 裏のキッチンの調理台には死体が寝ていた。ガサ入れの時に巻き添えを食らったのか、それとも『意図的に』始末されたのか分からないが、ギャング風のヒューマンとキャストが内臓丸出しにされてた。キャストの人工臓器に興味があるやつなら、その精緻さに驚くだろう。アタシは興味なんてないから、スルーだけど。
 マジで正規軍はヤバいな、と思いつつ、アタシはキッチンからつながる食材搬入のための裏口に出る。
 裏口には正規軍のキャスト兵士がいたが、何も見なかったように、無言でアタシの逃げるべき通りを銃口で示してくれた。
 アタシはありがとよ、と述べて、示された通りに沈んでいく。
 欲望の町に沈むなんて簡単なことさ。浮ついた調子で、人ごみの流れに身を任せればそれでいい。

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プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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