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全ては未来の向こうへ行くため01

 彼女は同期していた。クレイドルに自らの女性を模した機械の体を預け、システム権限を委任していたのだ。
 過去のラグオル入植の過程で倒れていった数多くのキャストたちの声が聞こえたような気がした。
 同盟軍としてHIVEで散ったキャストたちの残留記憶も語りかけてくる。
 キァハ准将が定期同期するMARSサーバーに残されている、死者たちの列が、声を合わせて宣言するのだ。
 救え、守れ、敵を殺せ。
 それこそがお前の存在理由なのだと、繰り返し准将の電子脳にコピー&ペーストされる。
 だが、彼女の論理演算子はそんな規格化された道義モデルに対して、アトランダムにデナイドする。

「バカじゃないの? なーにが守れよ。言われなくたってやってやるわよ!」

 彼女はくわっ、とメカニカルな瞳を赤色に輝かせて、クレイドルから結び付けられた配線たちを引きちぎって立ち上がった。
 アラートがなる。
 神経同調を拒んだどうしようもない軍用キャストがいる、と、MARSが慌てているのだ。
 彼女がいたクレイドルルームに、バタバタと警備員のヒューマンたちが飛び込んでくる。

「動かないでください、准将! 我々はあなたを撃ちたくはありません」
「あら。撃てるのかしら?」

 髪を――ツインテールのアナクロな髪形を模した電子戦キットを彼女は展開し、起動させる。
 ヒューマンたちが構えていた標準的な電子制御型フォトン・アサルトライフルはキァハの電子介入によりアクセス権限をデリートされる。
 生体認証されないアサルトライフルは、ただの強化プラスチックとフォトン工学を寄せ集めたガラクタとなった。

「くそっ! 反乱ですよっ! これは!」
「ノン・ノン。それは勘違いよ。だって、あたしの起動キーはMARSとORACLEの合議決裁でしか発行されないんだから」

 彼女はスーパーモデルの歩き方をトレースした姿勢で、何もできないヒューマン警備員たちの間を悠然と進む。
 クレイドルルームを出て廊下をひたすらに歩き、緊急閉鎖された隔壁をすべてクラッキングで開放する。
 あわてて飛び出してきたロートルな警備用オートマトンなどの制御系も、雑誌のクロスワード程度の難易度しかなく、彼女にとっては容易にアクセスを奪え、自らの支配下に置けた。
 そして、目指す先へと向かう。
 自分が『凍結』決定されて以来、保管場所となっていた彼女のための強襲揚陸艦『アクシオス』の艦橋だ。
 
 艦橋への入り口は、当然に二重の気密障壁と電子ロックがなされていた。
 しかし、『ひらけ、ごま』が何かを彼女は熟知していたし、それは自分が凍結されて以来変更されていなかった。
 なぜなら、彼女の作り上げたセキュリティ構造を解析できる存在が数百年現れていないからだ。

 艦橋は、大宇宙を映し出す全周囲モニタに覆われている。
 宇宙が彼女を迎え入れていた。相変わらず、宇宙は黒く、星がちりばめられ、理由もなく光ったりしていた。
 そして何よりも、全周囲モニタには青く、美しい星が映し出されていた。旧人類の宇宙飛行士がこれをみたら、母星を思い出すことだろう。

『おかえりなさいませ。キァハ大佐』

 数百年前と変わらぬ静かな男性の機械音声がなった。

「またせたわね、アクシオス。それから、あたしの階級は准将よ。さっき更新されたわ」
『――確認いたしました。閣下』

 将官になるということは、呼称が変わるということだ。それが旧人類以来暗黙知として続く伝統を受け継ぐ軍のくだらない見得とみるかは、呼ばれる者の価値観による。

『では、ご命令を』

 アクシオスの声に感情など含まれていないが、長きにわたり命令を求めていたかのように、キァハ准将にそれを願った。
 彼女は誰もいない自動制御の艦橋を一通りみわたし、自らの座るべき艦長席に座った。
 数百年ぶりに主を迎え入れた艦長席は、少々サスペンションが硬くなっていた。

「総員起こし」と、彼女は命じた。
『了解。かかります』

 艦内に総員起こし、すなわち動員のアラートがなる。
 このアラートにより、フリージング・クレイドルにて数百年の眠りについていたキャストたちの生体エンジンに火が入る。
 起動した軍用キャストたちは、人の寝起きなどとは違い、整然とそれぞれの職務を開始し、連絡線を構築し始める。
 キャスト同士がすれ違えば、特有の光信号通信を自らの瞳やバイザーアイで行うとともに、現在の状況をそれぞれのメモリに転送しあう。
 総員起こし5分で、機関・砲雷・DC・補給整備の各部門から『準備よし』の通信がキァハの席に入った。
 そして、艦橋に勤務員及び、彼女が昔からこき使ってきた士官たちがゾロゾロと入ってくる。

「おはよう、キァハ」と馴れ馴れしい態度の角ばった装甲で作られたキャストが言った。
「起きたわね、ニック。さぁ、戦争の時間よ」と、キァハ准将は変わらぬ表情のまま、楽しそうに言った。
「そうみたいだね。とっても楽しみだ」と、フルフェイス・ヘルメットのような人ではない機械の顔のニックが答える。
『艦長、配置完了。次のご命令を』

 アクシオスの報告を受けて、キァハ准将は立ち上がる。
 彼女の傍にはニック大尉以下、はるか昔より人類たち有機生命体の盾となり、剣となってきた機械生命体の士官たちが立ち並んでいる。
 
「戦争こそ、我々にふさわしい」と、キァハが言った。
「我らこそ、戦争にふさわしい」と、背後に控える士官たちが一斉に答えた。

 彼女はその答えをきき、満足そうにうなずく。
 そして、注目せよ、と彼女は艦橋に映し出される青き星を指差した。
 その星は確かに青く、美しく、命があってしかるべき惑星であった。
 だが、地表にはまばらな光が時折咲いては、また消えていった。宇宙から見る惑星は細やかに点滅していたのだ。
 長年の戦士たちならば一度見ただけで、その意味が分かる。その光とは戦術兵器の仕様であり、一つの撃滅、あるいは人の滅びであった。

『惑星ナベリウスにて、ARKSがダークファルスと交戦中。歩兵戦力による散兵戦を展開しているとのことでございます』

 アクシオスの報告を受けて、キァハのそばに並ぶ士官たちは盛りのついたオオカミのように、オォッ! と声を上げる。
 ARKSなどには興味がない。問題はひとえに『ダークファルス』という存在にある。

「ダークファルス。いい響きよね。人間であったころを思い出す者もいるかしら?」

 キァハ准将は居並ぶ士官たちに語りかける。士官たちの一部は彼女の問いに無言の同意を示す者もいる。

「惑星ラグオルでダークファルスと戦った者も多いだろう。同盟軍としてHIVEに踏み込んだものも多いだろう」

 彼女が語りかけると、士官たちは皆々そろって足をダンダンと踏み鳴らす。機械たちによる野蛮な鼓舞と同意の儀式だ。
 そんな様をみていると、キァハ准将は機械の心臓が人のそれのように高鳴るのを感じる。
 我々は、戦うために生まれたのだ。

「ORACLEとMARSは我らを『解凍』した。いずれ『絶対防衛凍結艦隊』全てが解凍され、正規軍として軍靴をならしながら、我らの火砲をぶっ放す日が来るだろう」
「我らこそ、戦争にふさわしいから」と士官たちは斉唱する。
「そう。ARKSなどというくだらん存在には、人類など守りきれない。奴らには宝さがしがお似合いだ」
「奴らには、宝探しこそふさわしい」と士官たちが一斉に哄笑する。

 彼女は士官たちが相変わらず血に飢えて、それでいて冷血かつ狡猾、その上どうしようもないくらいに戦いたがっているのを十分確認した。
 ORACLEの元老院や議会が恐れる理由は十分だった。こいつらを野放しにすることは、クーデタの獣たちを、あるいは虐殺の危険性を船団の内に飼うようなものだからだ。

「アクシオス。これより本艦は軌道強襲作戦を実施し、惑星ナベリウスのARKSどもを増援し、敵を排除する。総員、第二種戦闘待機。降下員はAS兵装。かかれ」
『了解しました』

 アクシオスが館内放送でキァハの命令を所定のマニュアルに沿って具体化した指示を出し始める。
 彼女の傍で控えていた士官たちも、キァハに敬礼すると艦橋から出て行った。
 そして、長年の副官たるニック大尉だけが、彼女の傍に残る。

「また、戦争だね」

 ニックとキァハは長い付き合いだ。どの戦場であったか思い出せないくらいに、ともに戦場で撃たれ、傷つき、敵を殺した。

「あたしたちに敗北は許されない。もうあたしたちにはフロウウェンも、リコもいない」
「それに、イーサン・ウェーバーやカーツのおやじさんも。宇宙海賊だってどっかいっちゃったしね」
「でも、あたしたちはここにいる」
「相変わらずの軍隊で」
「そうよ。あたしたちは死ぬまで軍隊なの。人類の伝統芸能たる戦争をつかさどるアーティストとして、これからもずっと」
「敵を排除するわけだね」

 二人は戦いの光が咲いている惑星を見下ろす。
 戦争をするには十分な広さだと、二人は満足そうに語りあった。



 ――というのは、40年前のお話。
 
 あの大戦をなんとか片づけた正規軍はまた凍結。
 そして、月日が流れて目覚めてみれば、キァハたちの権限ははるかに縮小されていたし、船もほったらかされてボロくなっていた。
 あまりにも情けない有様であったが、彼女たちは今日も、ARKSの陰にかくれつつもがんばっているのだった。
 
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ファンタシースター計画29



 龍を、殺す。
 それは昔っから、旧人類の遺伝子に刷り込まれたある種の妄想みたいなもんだ。
 こんな馬鹿みたいな妄想を旧人類は、自分をいじって新たな三種類の人類になっちまった後でも、うっかり消し忘れたんだろう。
 龍を、殺す。
 この単純な言葉の中に、アタシら人類が『殺す』ということを常に行ってきた動物であることを強く思い出させる。
 だから、アタシは目の前に現れたヴォル・ドラゴンなんかを見たって、驚くよりもむしろ、殺さなくちゃいけないという衝動に駆られる。
 ドラゴンの咆哮と、アタシの衝動は同じ重力の下にある。
 いかにやつの声量が洞窟をぶっ壊しかねないものであったとしても、アタシの内にある人類誕生以来の衝動の深さにはかなうまい。
 ゆえに、アタシの足はふるえることもなく前に出る。

「魔女っ娘! 援護しろっ!」
「もうやってる」

 アタシがヴォル・ドラゴンの小高い丘みたいなバカでかいカラダの下に滑り込むよりも早く、魔女っ娘の魔法(テクニックだっけか?)が到達した。
 氷塊をどっから生成したのか知らねえけれど、棘となった氷の欠片がずぶずぶとヴォル・ドラゴンの鱗をえぐって体内に侵徹していく。
 アタシ? アタシは原始人だからね。
 やつの腹の下くぐって、後ろ足んとこまで駆けて、ぶった切ってやるのさっ!
 ちょっとした規模のでかい料理をするみたいに、アタシの包丁であるレイデュプルなんて安物で、鱗と鱗の隙間に刃を滑り込ませる。
 ――ダメだ。全然手ごたえがない。
 鱗の下にある分厚い皮膚、そして筋肉と脂肪の層は、アタシの刃を決して筋や神経にまで至らせてくれない。

「Όλα τα συστήματα σύνδεσμο για oracle.La-Νερό.」

 頼れる魔女っ娘が盛大な詠唱を行ってくれた。
 氷の竜巻が遠慮なくドラゴンの体をボコボコにしてくれる。
 ああ、もちろんアタシのことなんか無視してるから、アタシまで氷にタコ殴りにされかけてるけどな。
 気合と根性で伏せたり身をひるがえしたりして、まぁ、曲芸師の要領で回避してますよ。

「魔女っ娘! 勘弁してくれ! アタシまで死んじまうっ!」
「大丈夫。あなたは死なない。わたしが守るから」
「ばかやろーっ! 守れてねぇから叫んでるんだろうがっ!」

 いててっ! 死ぬ、死ぬって!
 欠片みたいな氷食らってこの痛さなんだ。
 ヴォル・ドラゴンをタコ殴りにしているでっかい氷塊なんか喰らったら、アタシのいたいけなお腹の中身がお尻とか口から出ちゃうっ!
 内臓破裂はカンベンしてくれっ!

「……準備よし。ヒマワリ、やつの首によじ登って」
「出来るかよっ! お前の竜巻のせいで死んじまう!」
「大丈夫。人は簡単には死なないから」
「死ぬよっ! 体よりデカい氷塊喰らったら死んじまうに決まってるだろ!」
「いえす、ゆー、きゃん」
「ち、チクショーッ! やってやるさ。見てろよ、バカの底意地ってやつをよ!」

 アタシはグリップのスイッチを切り替えて射撃モードにし、ドラゴンではなくアタシに向かって飛んでくる氷塊を撃ちながらダッシュする。
 燃えろっ! アタシのぴちぴちのふとももっ! 若さのハリとツヤをなめんなよっ!
 大腿筋が大活躍し、背筋が仕事をこなし、上腕二頭筋や側頭筋がハーモナイズしてくれる。さすが、リハビリは成功だ。
 けど、ドラゴンのバカが、じたばた暴れるせいで、尻尾をもろに喰らっちまう。

「ファック!」

 叩きつけられた尻尾の質量に加え、吹っ飛ばされた先にあった溶岩の中に放り込まれちまう。
 あっちっち、なんてレベルじゃありません。パンツ燃えるって。乳首焦げるって。

「ヒマワリ、早くして。つかれてきた」などと、魔女っ娘が泣き言ほざいてやがる。
「派手な魔法ばっか使ってるからだよっ!」
「あなたが仕事しないから。早く、片づけて」
「はいはいすいませんねっ! ちゃんと殺させていただきますよっ!」

 なにメイトだかわかんねぇが、とにかく痛みが消えりゃなんだっていい。
 体を覆うフォトンフィールドがリチャージされるのを確認して、アタシは暴れちぎるドラゴンに迫る。

「ほらよ、アタシを喰らいな? おっぱいも、お尻もキュートだぜ?」

 レイデュプルの銃口をやつの頭に向けて撃ってやる。
 いやがらせにしかならないが、動物相手ならこういう方法もありだ。
 案の定、ヴォル・ドラゴンのやつはアタシに向きなおって、その悪趣味なくせぇ息をたぎらせた牙ズラリな口を、こっちに向けてくれる。
 そして、大好き噛みつき攻撃。ぴちぴちのアタシを噛み殺しに来る。
 オネェさんが相手してやるよ!

 アタシはやつの噛みつきをダンスするよりも気軽に躱して、馬鹿でかい角につかまってやる。
 そして頭によじ登り、揺れる吊り橋みたいに不安定な首の上を走り、魔女っ娘が指示した場所であろう部分を見つける。
 氷によって吹っ飛ばされたのか、ビクン、ビクンと脈打つ太い血管が露出しているところがあった。
 命が、そこを流れているんだろう。魂の住まう脳に、毎日欠かさず何かをデリバリーしてるんだろうな。

「苦しい死に方だ。すまん」

 アタシは、薄く、すべらかな刃でその血管を斬り裂いた。



 のた打ち回るドラゴンが次第に弱っていき、身動きがとれなくなり、次第に息が細くなるのをアタシたちは見届けた。
 返り血にまみれたアタシは、苦痛と敵愾心に満ちた奴の瞳をじっとみていた。次第に動物としての敵愾心が消え、ただ救いでも求めるような瞳になっていくように思えてきて、イヤになる。
 
『対象の生命反応消失ですっ! やりましたねっ!』などとオペ子が能天気なことを言ってくれる。
「うるせーんだよ、ビッチが」

 アタシは思わず口にしてしまう。

「ヒマワリ。なにをいらついてるの?」と、魔女っ娘がじっとアタシを見つめてくる。
「別に。また、殺したなって思っただけだ」
「そう。これからもそれが続く」
「クソな仕事だな」
「あなたは分かってない。命を奪って生きていくのが、人。そこには理屈はいらない。覚悟だけが必要」

 ああ、そうさ、おまえの言うとおりなのさ。だけどよ、アタシにはその覚悟が未だに据わらないんだ。
 いつもそうだ。淡々とプロフェッショナルみたいに対象を片づけられる正規軍の連中みたいになれないアタシは、本当に駄目だと思う。

「なんだおまえら? このオレに黙ってドラゴンをぶち殺しやがったのか」

 なんだか知らないが偉そうな男の声が聞こえた。声のほうを見ると、ゴツイ野郎と、陰気くせぇ姉ちゃんがいた。
 普通のそこら辺のARKSではなさそうだ。筋肉たぎらせて殺気満々。
 こりゃ、ヘンタイかなんかなんだろう。隣にいる目が髪で隠れてる姉ちゃんを夜な夜な痛めつけてそうなロクデナシだ。

「誰だ?あんたら。増援ならいらないぜ。もう、殺した」
「ああ? 偉そうな口きく女だな。そいつは俺が殺して、ぶっ潰すべき獲物だったんだよ。今日のメインディッシュだな」
「そうかよ。奥に行きゃまだいるかもしれないぜ? 狩りたいならさっさと行けよ」

 アタシが洞窟の奥をアゴで示してやると、ゴツイ男はにやりと笑った。

「おまえ、いい女だな。血の匂いがプンプンするぜ」

 そりゃまぁ、返り血浴びてるしな。だけど、アンタなかなかアブナイ発言してるぜ?
 アタシのヘンタイレーダーが、コイツはサディストのヘンタイで、巨根を自慢するタイプのマッチョ野郎だと認定した。

「決めたっ! おまえを食うことにする」
「ゲッテムハルト様、ARKS同士の戦闘は厳禁とされておりますが」
「うるせぇ、シーナっ! てめぇはすっこんでろ!」

 ゲッテムハルトとかいうマッチョ野郎は、シーナっていう女を殴り倒した。
 マジかよ。こいつ、女に手ぇ上げるロクデナシなのか?
 
「許せない」

 思いがけないことに、魔女っ娘のやつが杖をもってガッデムだかなんだいうマッチョ野郎をにらんでる。

「あぁ? 見覚えあるぜ。お前、確かレイプされてよがってたっていう小娘だろ? いやよいやよも好きのうちってか」

 その発言は、アタシをキレさせるに十分だった。
 レイデュプルの刃先を遠慮なくやつに向けてやる。

「クソ野郎だな。今の発言は死んで詫びてもらわねぇと」
「いいぜ、ねぇちゃんよ。オレは世界をシンプルに考えてんだ。強いか、弱いか。弱ければ奪われて、強ければ奪う権利があるってな」

 ガッデムだかゲッテムだか知らねぇけど、やつは珍しい武器を量子転送させて実体化させた。
 拳から腕までを覆う金属とフォトン工学の塊。ナックル型近接格闘兵装だ。
 格闘教練の時に、誰かが使っていたのを覚えている。格闘術をそのまま殺人兵器に転用しようっていう野蛮なブツだ。

「さぁ、こいよ。おまえが弱い女なら、屈服させてやる」

 アタシは何も言わず、ヤツに突く。
 切るんじゃない。だって、殺すための戦いだから。

「おうおう? おまえ、ぬるいARKSじゃねぇな。初手から殺しに来たのは三人目だぜ」

 ヤツは右腕でアタシの刃を軽くはらって、左でジャブをかましてくる。
 さすがシーナとかいう女を殴り飛ばしただけあって、アタシのいたいけな顔を遠慮なく殴りつけてきやがった。
 くらくらするし、鼻血はでるわで、アタシはマジ切れせざるをえない。

「このマッチョ野郎。一生ち○こ使えなくしてやるっ!」

 射撃モードに切り替えて、容赦なく連射する。
 だが、ヤツはクソ野郎のクセに中々の腕前で、ナックルにフォトンフィールドを集めて、見事に弾をガードしたりする。
 それに、マッチョ野郎のクセにちょこまかとステップかましやがるから、こっちの弾も外れる。

「はっはっはっ! いいぜっ! 最高だっ! おまえみたいに殺しにかかってくるARKSこそ、本物だ」

 やつは軽やかにアタシの弾幕をかいくぐって、スマートで無駄のない右ストレートをアタシのアタマめがけて叩き込んでくる。
 さすがに顔潰されて死ぬわけにもいかねぇから、全力でその拳を叩き斬ってやる。
 ストーレートと、アタシの刃が科学の力による鍔迫り合いになっちまった。

「いいパンチだな、ガッデム野郎っ!」
「ビッチの子守のわりには、殺し甲斐がある女だな」

 アタシは刃をわずかに傾けるとともに、身を沈ませる。
 自分の力を前方に逃がされたマッチョ野郎は前のめりに体を突っ込ませてくる。
 アタシは奴の腹筋と掻っ捌いてやるために、すり抜けざまに刃を走らせる。

「ちょろいんだよ。女の動きはなっ!」

 とんでもない身体能力だった。
 やつは跳躍してアタシの刃をかわしやがった。
 アタシはすぐに振り返る。
 けど、そこにはヤツのアッパーカットがアタシの顎めがけて飛んできてた。
 間に合えっ! と腹と背に力を入れて反り返りながら躱すとともに、その力を転用してサマーソルトを繰り出す。
 伊達に格闘訓練ばっかりしてたわけじゃねぇンだよ。
 
 けど、ヤツはサマーソルトをバック転であっさりと躱して、お互いの間には距離が出来た。
 アタシは再度射撃モードに切り替え、ヤツの頭を狙って構える。

「ゲッテムハルト様。そろそろお時間でございます」

 さっき殴られてうずくまっていたシーナとかいう女が、よろよろと立ち上がりながら言った。

「ちっ。おまえは、オレが食う。それまで生きてろよ。ビッチが」

 やつが長指を立ててくるので、アタシもこう言い返してやる。

「ケツに気をつけなよ。マッチョ野郎。ホモなんざいくらでもいるぜ?」
「言ってろ!」

 やつは陰気な女が出したテレパイプを使って、どっかへと消えていった。
 で、陰気な女のほうは、わけがわからんことに、アタシに一礼してから、そのパイプを使って空間から消滅した。

「パステル。わりい。謝らせることはできなかった」

 アタシはヤツの心を傷つけた相手をボコボコにしてやれなかったことを恥じる。
 だから謝ろうとヤツを探してみるが、魔女っ娘のやつはアタシとゲッテムハルトのことなんかどうでもいいかのように、龍の死体に登ってサンプルを集めたりしていた。
 そして何よりも驚いたことに、ドラゴンを倒すことで得られるはずの報酬一式が消えていた。

「あ、あの、魔女っ娘さん?」
「なに?」と、ヤツはごそごそとドラゴンの血液サンプルを検証してる。
「アタシはさ、アンタの名誉のために刃を振るったわけですよ、まるで女騎士のように」
「感謝してる」
「そ、そうか。で、あのさ、ヴォルドラゴンを倒すとさ、メセタとかそういうのが出るじゃないですか。ARKSからさ」
「・・・・・・たぶん、風で飛ばされた」
「あり得ねぇよ! 非実体の量子データだぞっ!」
「わたし、しらない。あなたの端末のセキュリティが緩いから誰かにハッキングされたとか」
「・・・・・・なんでセキュリティが緩いって知ってるんだよ?」
「レイプされたのを罵られて傷ついたわたしを疑うの? なんてヒドイ人」

 魔女っ娘はうう、とドラゴンの死体の上で丸まってしまった。肩を震わせるヤツを見て、アタシは申し訳ないことを言ってしまったと思う。
 そうだよな。魔女っ娘みたいなちょっとした世間知らずのコミュ障で、ちょっと最近ドゥドゥんところのギャンブルにはまってるやつが、金にがめついわけないよな。
 ほら、それに熱心な宗教者じゃん。

「いや、わりぃ。つい疑っちまった」

 アタシは龍の死体の上でめそめそしてる魔女っ娘の肩に手を置く。

「わたし、ヒマワリのこと信じてたのに」
「すまんかったって。たぶんあれだ、ARKS本部のバグかなんかだって」

 それから、魔女っ娘はヴォル・ドラゴンに対してなんじゃら祈りだかわからん宗教的なことをして、死体から降りた。
 アタシもそんな彼女の後に続く。

 テレパイプをだして、キャンプシップを経て、なじみのARKSロビーに戻ってくる。
 そこで魔女っ娘は『わたし、用があるから』といそいそとことことアタシから離れていった。
 アタシは先に帰ってると言いながらも、ヤツの跡をつけた。
 案の定というべきか、魔女っ娘はあの胡散臭いオッサンのところにいた。そう、ドゥドゥだ。

「・・・・・・計画通り」などと、普段は見せぬニヤつきを見せた魔女っ娘を見て、アタシは確信した。

 犯人は、おまえや。
 やつがドゥドゥにメセタ・カードを出した瞬間に、アタシは魔女っ娘に向けてフットボールみたいなタックルをキメテやった。



 ほんの出来心だった。反省はしていない、などという魔女っ娘のギャンブル中毒ぶりにあきれたが、なんだかんだで命助けてもらった恩人でもあるから、この件は流すことにした。
 で、お互いに仲直りしようってことで、一緒にバショーにある銭湯に行って裸のつきあいってやつをした。
 そこで気づいたんだが、やつはアタシよりも発育がよかった。運動不足だからそんないらねぇところがデカくなるんだよと言ってやったら、なんだかとてもスッキリした。
 奴も何やら勝ったみたいな目をしていたけれど、それはまた別の話だ。


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ファンタシースター計画28



 あらためて言うまでもなく、アタシらの人生は地獄色で染まっている。
 こうやって魔女っ娘とファミレスでランチを食ってたって、明日は火山の溶岩で溶けてるかもしれない。
 アタシらが食うのは、今日を生き延びて明日を迎えるため。
 毎日毎日、食って、戦って、休んで、また食うわけだ。これを地獄色と言わず何色だっていえばいいんだ?
 人生はバラ色で、何もかもがうまくいって、心が乾くことなく一生を終えることができるヤツがこの世にいたとしたら……
 アタシはそいつから金を恵んでいただきたい。

「この値段でこの味か……お得かもしれない」
「そう? わたし手作りのハンバーグのほうが焦げ臭くておいしい」

 魔女っ娘が、おまえあのハンバーグわざと焦がしてたのか? 
 料理がうまい癖にハンバーグだけヘンなのになるなぁと思ってたけど。

「ま、味覚はそれぞれだよな」

 アタシはハンバーグをかちゃかちゃとナイフで切り分けて食う。
 うん。やっぱうまいぞ。地球時代から長年続くチェーン店だけある。

「……おやおや、ヒマワリさんにパステル様ではないですか。ご無沙汰しております」

 と、太ももがまぶしい店員に連れられたエリート・イケメン・コンプレックスがいた。
 相変わらず仕立てのいいスーツにシワひとつなく、ぴっかぴかの革靴を履いてやがる。

「アジャンか。相変わらず法院だか法務省だかで出世街道をマラソン中か?」
「ははは、相変わらず手厳しいですね。ご一緒しても?」
「魔女っ娘がいいならな」
「――ドリンク・バーおごってくれるなら許可」
「見くびられたものです。レディたちに安いコーラも奢らないほど私はダメ男ではありませんよ」

 やつはそういって、アタシらが座っていた四人掛けテーブルの一席を占有した。
 こんな大衆向けファミレスでも、やつが座ればちょっとした洋食店にでも来たような雰囲気に変わる。
 つまり、やつはちょっとイケメンすぎて、品もよすぎるってことだ。

――ご注文は? と店員が尋ねる。
「日替わりランチセットをお願いします。あと、ドリンク・バーを三人分」
――かしこまりました。ドリンクはご自由にご利用ください

 と、やつは約束通り注文を済ませる。

「で、あんたも昼飯かい?」と聞いてみる。
「ええ。あと、私の官職は法務省種族問題対策局第二介入課長です。お忘れなきよう」
「メンドくせぇ。法院も法務省もそんなにかわんねぇだろ」
「ま、確かに。やることは基本的に汚れ仕事と覗きに盗聴。ウェットなお仕事です。心はドライになりますが」
「ふーん」
――お待たせしましたーっ。ランチセットになります!

 ウェイレスのオネェちゃんが、適当な感じでアジャンの前に本日の日替わりランチであるバーガーとサラダ、そしてポテトの山を置いて行った。
 意外とジャンク・フード派なのか? このイケメンは。

「実はですね、私はかなりバーガーやサンドイッチが好きでしてね」
「訊いてねぇよ」
「ぜひ今度ランチにお誘いしていただけるなら、ヒマワリさんお手製のバーガーをですね」
「――ちっ。魔女っ娘と宗教的祭日にでも呼んでやるよ」
「はは。ありがとうございます」

 やつはニコニコとうまそうにサラダを平らげたあとにバーガーにかじりついた。
 たしかに、あんまりにもうまそうに食うんだから、やっぱり好きなんだろう。

「で、まさかただランチのためだけにアタシらに接触したわけじゃないんだろ?」

 と、話を切り出してみる。
 こいつは船団政府の汚れ仕事を請け負う部署のニューマンだ。アタマも切れるし、腕も立つ。
 そんなやつが一介のARKS風情とランチタイムを過ごすために出てくるはずがない。
 こういうのは、仕事の虫みたいな奴のランチってのは、自分のオフィスでサンドイッチとコーヒーって相場が決まってる。

「まぁ、そう警戒なさらずに。ドリンクでもとってまいりましょう」

 やつがそう提案するから、アタシはエスプレッソを頼み、魔女っ娘は角砂糖が七つ入ったアメリカンを頼む。
 どんだけ甘党なんだよと言いたいが、「わたしの脳はあなたより高尚だから」とか言われそうなので止めとく。
 しばらくして、やつが器用に三つのマグカップを抱えて戻ってきた。
 それらを並べると、いよいよ本題と相成るわけだ。

「実はですね、お二人に相談がありまして」

 出たよ、相談。ARKSの中にも子飼いがいるはずなのに、なんでかこいつはアタシらを使いたがる。

「相談ね。相談に乗らなかったらどうなるのかだけ、先に教えてくれねぇか?」
「――ミカンさん、でしたか? 可愛いティーンエイジャーですよね。あんなに可愛いと夜道は実に危険ですね」

 アタシの命の恩人の名を平然と口にしやがった。やっぱりこいつは危険な輩だ。
 ミカンを助けてくれるように手を貸してもらったのは認めるが、コイツが助けるたのは善意だけではなく、利用する意思が当然にある。
 そう。組織に属してる連中は、アジャンもキァハ准将も、基本的に状況を利用したがる。
 厄介なのは、ただの純粋な計算高い悪人ってわけじゃなく、善意も、自分の正義もある連中であるってことだ。
 だから、簡単に批判したり、糾問したりできない。奴らには為さねばならぬ正義があるんだろうさ。
 そのためだったら、自分の魂くらい簡単に悪魔に売り払うに決まってる。

「わかった。じゃ、さっさとその相談事とやらを話してくれ」
「お話が早くて助かります。実はですね――」

 アジャンのやつの話をまとめると、こうだ。
 最近、惑星アムドゥキアの龍族に、テトラヒドロカンナビノール(非合法薬品)を卸しているARKSがいる。
 そいつら自体はただのシケたヤクの密売人だから、法務省としては放置を決め込むらしい。
 ただ、ヤクを流している連中の元締めが、あきらかにARKSの上層部とつながりがあると思われる資金の流れがあるとアジャンたちの捜査でわかったらしい。
 捜査の目的は逮捕でも正義の執行でもなく、そういうネタをちゃんと掴んでいるという事実自体に意味があるものであって、これ以上どうこうするつもりはないとか。
 しかし、アジャン自身の好奇心から、龍族に卸されたヤクが一体何に使われているのかを調べたくて『とても悩んでいる』らしい。
 つまり、アタシらに惑星に降りて火山一帯を調査し、ヤクがどんな風にエンドユーザーに使用されているか『市場調査』をしてくれと。

「話は分かった。けどよ、なんで龍族になんか関心あるんだよ?」
「まぁ、一応種族問題ですから」

 といいながら、アジャンはコーヒーをすすった。

「それに、私が関心を持っているのは、龍族というのが取引概念を理解しているという事実なのです」
「なるほどね。商売ができるなら話し合いもできるんじゃないかってか?」
「法務省としては、先住民たる龍族が所有権や占有訴権などと言った物権概念を有しているのか気にしているのです」
「なんでだ?」
「なんでと申されましても……一応、先々の入植可能性について考えているだけです。もし船団が入植を開始するというのであれば、旧文明の愚行を繰り返さぬよう緻密に取引を進めていき、争いのない相互共存を目指すべきです」

 アタシはアジャンがつらつらと並べる理想に吹き出しそうになった。
 相互共存? アタシらARKSがガンガン龍族を虐殺してるってのにそんなこと考えてるやつがいるなんてね。
 
「そりゃ難しいんじゃねぇか? ARKSがまるで旧人類の民族浄化みたいに殺してるぜ、龍族を」
「――実に正確なご指摘です。我々といたしましても懸念していることから、ARKSという露払い集団を誘導している『六芒均衡』などという集団の意思を監視しているわけですよ」
「ってことは、法務省は身内すら疑ってるのか?」
「疑う? 違いますよ。監視です。我々ORACLE船団は決して一枚岩の組織ではないことをご存じでしょう?」
「まぁな」
「だからです。一つの組織がひたすらに強大化していけば、絶対的権力が生まれる。絶対的権力は絶対的に腐敗するものなのです」
「そうか? 人類も多少は歴史から学んでて、そうはならないかもしれないぜ?」

 アタシがそんなことを言うと、今まで黙って天国みたいに甘いコーヒーを飲んでた魔女っ娘が話に首を突っ込んできた。

「ヒマワリは勘違いしている。世界というシステムに対して、人類はハードウェアにしか過ぎない」
「は?」
「……なるほど。ハーヴィンジャー博士の言葉ですね」と、アジャンが適示する。
「我々人類が旧世紀以来、母星すらも捨てて宇宙に飛び出したのは、我々の理想とする世界システムを築き上げるためだった。昔から人類は血で血を洗う抗争を続けてきたのは、人類というハードウェア自体が、人類が観念した平和や理想郷というシステムの要求する仕様に適合できていなかったからなの」
「理想郷というシステム?」
「そう。便宜的に人類を語る場合、人類自体をハードウェアと考え、社会構造や制度などをアプリケーションと捉えればいい。法律はOSであり、産業はアプリケーション。失業は世界の要求定義に合わなかったアプリケーションとしての人類の集合」
「つまり、パステル様は肉体をハードウェアと考え、我々の頭で作り上げる各種観念をアプリケーションやOSであると考えろと言っているのです」
「そう。世界システムにおいて、旧世紀に国家と国家の争いが絶えなかったのは、国家というアプリケーションが競合し、システム内部でエラーを起こしていたから。つまり、どちらかが削除されるまで争いは止まない」
「本来はそれらアプリの競合を起こさない様なOSをつくる必要があったということですね?」
「旧世紀の人類はOSとして宗教や国際組織を作った。けれど、それらOSが世界を完全に制御することはなかった」
「OSがありすぎて、OS同士で競合が生じてしまいましたからね」と、アジャンが苦笑する。
「けれど、奇跡が起きた。科学というOSの開発に人類は成功した」

 その一言は、パステルにとって重要なことらしい。なにか大事な思い出でも語るみたいに、科学を奇跡と呼んだ。

「科学とは思考の様式。論証・反証・演繹・帰納。つまり、あらゆる事象を科学することは可能なの」
「数学から小説まで、科学することは可能であるということですね」
「愚かな人は科学を理解しないままに官能小説は科学ではないと判断するけれど、あれも科学。文字というバイト単位で、無限の想像を広げる」
「――ですが、科学という思考様式の要求する性能を、ハードウェアたる人類のほうが持っていないこともあったという点が重要ですね」
「ええ。科学は奇跡のOSだったけれど、人類というハードは相変わらず2m以下の体に欲望を詰め込んで、科学というOSに割り当てるメモリ不足に陥っていた」
「だから、パイオニア計画が生み出され、ORACLE船団が創り出された」

 脳みそハイスクールのアタシをほっぱらかして、博士号なんて14歳でとってしまうニューマンの二人が、何かとても楽しいことを語るかのようにつまんねぇ話をしている。
 アタシは理解できやしないから、ただうんうんとうなずきながら、手元にあるコーヒーをすすったり、店員にチョコケーキを頼んだりする。

「争いの先にある永遠を求めて、旧人類は自らを改造し、人であることを辞めていく」

 魔女っ娘は、自分の白い手を見ながら言った。ヒューマンと比べて華奢で白すぎる人形のような手だ。
 指先にはフォトン工学との同調を高めるために、生まれながらにして生体部品による各種連結端子がついていたりする。
 特殊なライトを当てれば、ニューマンの体中に特殊な入れ墨のようなものが浮き上がるところも、ヒューマンとは違う。

「旧人類はヒューマンとなり、それはキャストとニューマンを生み出した、ということですね」
「世界を観測する知的存在を増やし、世界を再定義しようとした。滅び去った単一種族による旧文明の限界を、今のヒューマンは知っている」
「だけれども、新たに生み出された観測存在である我らも、平和や共存という理想郷システムの要求定義に応えられるハードではないわけですか」
「だから、ハーヴィンジャー博士は旧人類や旧文明のように文明の死滅を招く前に、ORACLEを作った」
「――いやですねぇ。そんなORACLEだとしても、その中では相変わらずです。新しく生み出された我々は、未だ至らぬハードなんですかね」
「いずれわかる。世界システムを受け入れることができる『チャーミング人類』はいつか、きっと生み出されるはず」
「パステル様も理想主義者ですね」
「……科学者は、基本的にロマンチスト。数字は美しく、論理は輝いて見える」

 魔女っ娘は満足げに自分がロマンちっく少女宣言して、ずずっとコーヒーを飲む。
 アイツがロマンチストなのかは知らねぇけど、少なくともヘンテコな儀式や宗教に傾倒しているオカルティックな奴であることは認める。
 けれど、こうやってアジャンと話している姿は、いつものうつむき加減な根暗少女じゃなくて、嬉々と講演する科学者みたいだった。
 ……もしかして、こいつ、あれか?
 アジャンに恋してんのか?
 だったらアタシはお邪魔虫じゃねぇか。ここはいそいそと立ち去るか?

「あ、あのさ、もしかしてアタシ邪魔かな?」と、熱く難しい話で盛り上がってる二人に聞いてみる。

 すると魔女っ娘とアジャンのやつは、アタシの顔をまじまじと見て、お互いにしばし見つめあう。
 目で語り合ってやがるぜ。
 やっぱりアタシの女のカンがアラートしてる。こいつらは今、お互いの心の陣地に向けて突撃しあってるに違いない。

「どういうこと?」と魔女っ娘がトンデモ発言をする。
「い、いやさ、ほら、パステルも女の子じゃん。ときめきとかさ、邪魔されたくないだろ?」
「――?」と魔女っ娘は毛虫でも観察するみたいにアタシをじっとみてくる。
「……ヒマワリさん、言っておきますが、私は同性愛者ですよ? パートナーもいます」

 などと、アタシの素っ頓狂な発言にアジャンがフォローをいれてくれる。
 っつーか、アジャン、おまえ同性愛者だったんかい。

「なんだ。アタシの早とちりか」
「どういうこと?」と魔女っ娘がアジャンに尋ねてる。
「いえ、まぁ、パステル様には早い大人の話ということです」
「……わたしも大人。ARKSだし、処女じゃない」

 おいおい、ARKSなのは認めるけれど、おまえの処女喪失はデートレイプだろうが。
 そこら辺の心の傷がさく裂しそうな話題を出すのはやめとけと言ってやりたい。
 ほら、さすがのアジャンもどういっていいかわかんねぇみたいな顔してるじゃんか。
 アイツは情報員だぜ? アタシやお前のプライベートデータくらい知ってる。だからこそ、なにを言えばいいかわかんなくなるんだろうけどな。

「と、とにかく、ヤクの件は調べてみる。アタシらのデキる範囲でだけどさ」
「そ、そうですね。よろしくお願いします」とアタシの強引な話題転換にアジャンが乗ってくれた。

 大人なのに……とぶつぶつ言ってる魔女っ娘に、ほら、おまえはピュアピュアだからさ、などと言ってアタシが頼んだチョコケーキをやったりして機嫌を取る。
 どうやらチョコケーキがうまかったらしく、パステルはちょっとだけ機嫌がよくなったみたいだ(表情で読むんじゃないっ! 瞳で読み取るんだっ!)。



 クソ暑い。そりゃマグマがそこにあるからだけど。
 氷山がそこにありゃクソ寒いだろうし、ダーカーがそこにいりゃクソ憎いってことになる。
 とにかく、アタシの語彙にはファックだとかクソだとか、そういうどうでもいい表現がクソみたいにつまってるわけ。

「……ダーカーによる侵襲は、龍族も治療法を見つけられないみたい」

 魔女っ娘がかがみこんで、アタシがハラワタを捌いてやった龍族を検視してる。
 感染、などとARKSのオペレーターなんかは呼んでいるけれど、別に意思がなくなってるわけじゃねぇ。
 凶暴になるとか、ちょっと抑止が効かなくなるってとこだ。普通の生物なら生まれ持った本能によって痛みとかを恐れるが、そういうのがないわけだ。
 自己破壊につながるような行動だって平然ととる。もう、正直なところ戦っていて厄介極まりない。
 そもそも、龍族と人類はコミュニケーションが可能なんだ。それをこうやってレイデュプルの薄い刃で斬り殺して、死体からサンプルをとったりする。
 ホント、ARKSって仕事はクソだ。しかもクソ暑いし。
 洞窟だか火山だか知らねぇけどよ、冷たい飲み物売ってる自販機でも設置しろよ。エアコン効いたオペレーションセンターで『戒厳令ですっ!』とかいうバカ丸出しの法令用語使ってる場合じゃねぇだろうと。

「で、血液サンプルからは何か出たか?」
「テトラヒドロカンナビノールを検出。やはり、龍族は治療目的で使用しているかもしれない」

 魔女っ娘は簡易分析に賭けたサンプルを、量子化してアジャン指定の民間研究施設のサーバーに転送した。
 キラキラと消えていく龍族の血は、魂が昇天するみたいに厳かだった。

「たしか、そのヤクの効果ってのは緩慢作用だよな?」
「そう。ただフワフワとした気分になって、落ち着く。あまり副作用もないけれど、過剰摂取は死につながる」
「依存性は?」
「薬効としての依存性はない。むしろ、緩慢作用を求める事態のほうを何とかする必要がある」
「……ってことは、やっぱりダーカー因子の侵襲による狂暴化を何とかしようとしてると考えたほうがよさそうだな」
「推論だけれど。データが足りないし、治療現場をおさえたわけでもない。事実が足りない」
「んじゃ、もう少し前進してみるか」

 アタシと魔女っ娘はだらだらと熱気に満ちた洞窟内を進んでいく。
 ときおり、どっかのARKSたちがクソ暑い中元気いっぱいに『やぁっ!』とかなんとか言いながら龍族を殺してた。
 殺した龍族の数に満足したのか、拾ったアイテムの数に満足したのか知らねぇけど、そいつらはさっさと引き上げていった。
 ARKSなんてそんなもんだろ。
 実のところ、ARKSは龍族を皆殺しにしてさっさと植民可能であることをアピールしたいのかもしれない。
 危険な存在、とでも言っておけば、人類というコミニュティからキツイ文句が飛んでくることはない。
 船団議会や元老院で糾弾されることだってないだろう。なんせ、我々ARKSの目的は……なんだっけか? アイテム捜しだっけ。
 あーもう、暑すぎてどうでもいいわ。
 とにかく、水だ、水。

「……げっ」と、思わず口にしてしまう。

 アタシが背負ってたハイドレーションシステムが熱暴走で機能不全に陥り、いくらチューブを吸ったって水が出てこねぇ。

「どうしたの?」
「ハイドレーションが壊れた。こりゃ戻るしかねぇぞ。脱水症になる」
「そう。じゃ、テレパイプを……」

 と、魔女っ娘がごそごそとアイテム端末をいじる。
 アタシは不意の敵襲がないかを警戒する。
 だが、警戒がどうこうというレベルではなく、ずんと響く足音にアタシの脳がピンチですっ、と宣言した。

「おい、なんか来るぞ?」
『き、緊急事態ですっ! ヴォルドラゴンですっ!』などと、アタシのイヤリングでオペレーターの姉ちゃんが叫んでる。
 
 お前があわててどうするんだよ? なんだ? 姉ちゃんが代りに戦ってくれるってのか? と不満たらたらになる。
 もちろん、暑さのせいでいら立っているからでもあるし、のどが渇いてるからでもある。そして、単純にオペ子がぶりぶりブリッ子すぎて反吐が出るってのが一番大きい。

『周辺のARKSは直ちに迎撃してくださいっ!』

 そう、これだよ。『撃退せよ』じゃなくて、『ください』っていうお願いします形式。個人戦闘集団として自由気ままなお粗末軍隊の決定的欠陥だ。

「どうする? アタシらは逃げるか?」
「逃げない。だってドゥドゥに貢ぐお金稼がないと」
「……魔女っ娘? お前、たかだかギャンブルのために命張るのかよ? それにあのおっさんを殺したいって言ってたじゃねぇか」
「殺したいと思えば思うほど、会いたくなる不思議」

 こりゃ、だめだ。魔女っ娘は杖持って臨戦態勢。すなわち、やる気満々だ。
 しゃぁねぇな。増援来ること期待して、粘るだけ粘ってみるか。
 それに。アタシのリハビリがどんな成果なのかも確認したいしね。
 よし、殺す。
 アタシと魔女っ娘で、龍を、殺す。
 自分にそう言い聞かせてみると、やっぱりアタシは本当にロクでもない存在だと気付く。
 命ギリギリじゃないと生きてるってことを実感できないんだ。
 敵を殺して、自分が生きてるってことを確認するなんざ、ホントにアタシは狂ってる。

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計画27

 ふと部屋に掃除機をかけているときに気が付いた。

「……なんか、経済政策おかしくないか?」

 そう。ARKSたるもの、惑星に降りてあれこれと仕事をこなしていると、雑多なアイテムが手に入る。
 このアイテムというのは実際に存在しているわけではなく、あくまでARKS各個人のデータ上に『支給可能』とタグ付されるだけなんだけど。
 だから、ARKSってのはそれぞれが自分にタグ付されたアイテムをデータ売買したりして、なんだかんだでメセタをしこしこ増やすわけですよ。
 ま、増やしたところで相続できるわけでもなく、会社の株を買えるわけでもないまさにARKS通貨にしか過ぎないから、『船団経済』自体には影響がない。
 さすがニューマンだのキャストだののエリートたちがマクロ経済やってる船団政府の経済政策はいい舵取りが行われてる。
 で、問題なのはARKS経済のほうだ。
 アタシが掃除をしながらこの家具いらねぇな、と思って『利用権』を売りに出してみたわけだが、結局買い手がつかずARKS購買部に売り払ってみた。
 すると、どうだろうか。アタシがくたばってるうちに売値が五分の一になっていた。
 あわてて布告文を見てみると、なんとびっくりインフレ対策だとのたまっている。

「ARKSの経済担当は至極アタマが悪い人がなるという不文律」と、掃除を手伝うつもりもない魔女っ娘が言った。

 やつはアタシのベッドの上に転がりながら、だらだらと端末で経済書を読んでいる。

「もしかしてとは思うけど、ARKSの経済運営担当は……」
「わたしの見たところでは、インフレという概念すら理解していない小学生」

 吐き捨てるように魔女っ娘が言うのだから、そうなんだろう。

「まぁ、アタシにも分かるように説明してくれよ」と、掃除機の電源を切り、布巾で棚などを拭く。
「まず、インフレを判断する際はCPIを使うの。簡単にいうと標準的な需要がある財の価格をモニターすること」
「そりゃ、なんとかメイトとか、アトマイザーとかか?」
「そう。でも、そういうものに加えてグラインダーなども考慮に入れるかは、経済担当の判断次第」
「ふーん」
「で、それらの値段があがってきたらインフレ。下がればデフレと考えていい。単純すぎるけど」
「ま、アタシ相手だから単純でいいよ」
「なにをモニターしてたのかは知らないけれど、ARKS経済担当はインフレを宣言した。そもそもメイトやアトマイザーなどの値段はARKS物価統制法に基づき一元管理だから、CPIの対象外」
「つまり、グラインダーとか、武器アイテム利用権なんかがCPIになってるってことか」
「そうなる。この時点で、頭が悪い。実戦に耐えうる性能の兵器を供給しつつ、性能とは別の『資産価値』を有する武器を供給すればそもそもインフレはあり得ない」
「……どういうことだ?」
「ティンバーゲンの定理。生活に必要な一般物価の安定と、いわゆる資産価値の安定は両立しえない」
「なんだそのティンなんとかってのは?」
「N個の独立した政策目標を同時に達成するためにはN個の独立な政策手段が必要である、という定理」
「まぁ、あれだ、なるほどわからん」
「だから、ARKS経済担当がいきなり共通買取価格を75パーセント切り下げる政策は、通貨供給量を下げる、という政策目標しか達成しないということ」

 アタシの頭んなかには、通貨が余ってるからインフレが起きてるんだ、みたいな認識しかないから、いまいち理解できない。

「よくわかんねぇんだけど、金が余ってるからインフレなんだろ?」

 アタシがこんなことを言うと、魔女っ娘の普段の薄らぐらい無表情が消えて、切実な憐みのまなざしを向けてきやがった。
 なんだか、すげぇバカな発言したみたいで、誰も見てないのに恥ずかしくなってくる。

「わたしの話、聞いてた?」
「聞いてたよ! Cなんたらとか、バーゲンがどうとか」
「……さすが、ハイスクールレベルの知力。あなたはそうやって無知のまま奪われ続ける。権力者にとって大衆の無知は利益でしかない」
「おいおい、ひでぇ言い方だな」
「まず理解してほしいのは、インフレは決して『金が余ってる』なんて話ではない」
「へ? でもアタシの擬装記憶ではそうなってるぜ?」
「まず、全ての基準をCPIに求める。これが上がったか、下がったかが大事なの。物理学で光を基準にするのと一緒」
「ふーん」
「仮にグラインダーがCPIの対象になっていると仮定して、たしかにグラインダーの価格は上昇し続けていた。だからインフレと言えるかもしれない」
「じゃ、ARKS経済担当はインフレについて分かってるってことか?」
「そうはならない。たとえCPIが上昇したとしても、その原因がどんなものかはCPIだけじゃわからないから」

 なるほど。つまり魔女っ娘はCPIが上がった下がったでとにかくインフレ・デフレのどっちにあるかが分かるだけと言いたいわけか。

「だから、単純にCPIが上昇傾向にあるだけでマネーサプライを減少させようとする政策を実行することは、頭がオカシイ。小学生の考え」
「マネーサプライってなんだ?」
「通貨供給量。すごく簡単にいうと、ARKSたちに供給されるメセタの量」
「じゃ、つまりARKS経済担当はいきなりアタシらに回ってくる金の量を減らし始めたわけか」
「そう。たかだかCPIを見ただけで、そんな判断をした。小学生並みの知性であると評価されて当然。インフレ・デフレ判断の次はその原因分析のはずなのに、それを飛ばしてマネーサプライを減少させるなんて狂気の沙汰」
「――じゃ、インフレは収まらないわけだな。アタシらは相変わらず高い物価に苦しむわけか」
「計量経済学的に必要な資料が手元にないから断言できないけれど、ARKS内でのインフレ原因はマネーサプライが問題のもの、すなわち貨幣的要因によるインフレではないと思われる」
「どういうこった?」
「ARKSに対するアイテムの供給が『乱脈』だから、マネーサプライではなくアイテム供給によってインフレが引き起こされている可能性が高い」
「は?」
「つまり、単純にアイテムが供給されていないから、物価が高くなるの。そうするとCPIも上昇するから、インフレになる」
「需要と供給で、需要ばっかり大きいってことか?」
「ちょっと違うんだけれど。厳密にいえば実物的原因によるインフレ。アイテムが全然でないから、自然と否応なくメセタをたくさん積んで買わなくちゃいけないことになる」

 そこまで言って、魔女っ娘は少し思案顔になった。

「どうした?」
「あなたが言った実物的要因によるインフレ+需要インフレかも。財が供給されないだけじゃなくて、さらに大きな需要があるというパターン」
「ってことは、アイテムの供給量調整こそがインフレ緩和に必要な本当の政策であって、マネーサプライ減らすのは勘違いってことか?」
「その可能性もある。ただ、マネーサプライの過多もインフレの一因となっているかもしれないから、通貨量を減らすことで、ちょっとだけインフレが『抑制傾向』になる可能性もある」
「……つまり、安定経済には至らねぇってことか」
「ええ。ARKS経済担当は頭が悪いから、仕方ない。わたしたちはバカによって支配されるバカたちということ」

 魔女っ娘はそんなことを言って、白いふとももをぽりぽりと掻いた。

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計画26

 いいかげん病院と親友になりそうなアタシなわけだけど、病院のほうはさっさと出て行ってほしいらしい。
 医療ポッドから全裸で排出された後は、女医の問診と触診その他精密検査を受けて、「はい、退院」と相成った。
 受付で医療費を払ってみるとビックリ十割負担。何事かと思いきや領収書をくれて、ARKS保険の窓口に行けと言われた。

「ったく。カードに残高がねぇぜ」と残高が残念なことになった口座を心配しながら、病院を出る。

 外は、いつもの船団世界だ。フォトン工学の粋を集めた造船建築美。なにもかも人工で、あれもこれも人為。
 例の極寒の惑星で凍えてたことを思い出せば、ここはまさに人類の理想郷だ。
 なによりも、なんとかガルフみたいなオオカミもどきに食われそうになったりしないからいい。

「元気そうだな。ヒマワリ」

 懐かしい声がした。なぜだろう。時がたっているはずなのに、声だけは鮮明に覚えている。
 もう、顔も忘れてると思ったのに。

「てめぇ、ガルム……妄想じゃないね」

 戦いに明け暮れた人生のせいで頭がおかしくなっている、という可能性もあるが、やはり何度見ても知っているアイツだった。
 ただ、昔よりも腕は上げた感じがする。立ち姿でわかる。体のバランスがすごく調和してるんだ。

「ARKSの捨石作戦に使われた気分はどうだ? 個人主義の集合なんて軍隊の真実は、使い捨ての駒を集めてるだけだと理解したか?」
「――あんた、アタシを恨んでるのか? アタシのミスであんたは死んだから」

 聞きたいことはいっぱいあった。愛してるってなんで言ってくれたんだ? とか。
 だけど、そんなことより先に確認したかったのが、やつは、アタシに恨みがあるのかだった。

「いいや。俺が恨むのはARKSのほうだ。結局、あいつらは俺の死体すら回収しなかった」
「……あたしは、ナベリウスに降りたら必ず魔女っ娘と一緒に探したんだよ。あんたの亡骸をさ」
「知ってる。だからこそ、俺はお前を恨んじゃいないのさ」

 確認したいことは確認できた。あとはARKSとしての仕事だ。

「アンタ、なんで生きてる?」
「F計画。世界はARKSだけの手に任せるには大きすぎる。ARKSの思い上がりを叩き潰すために、計画は実行された」
「……やっぱりあんた、F機関つながりなんだね。赤ん坊をバラして試験管に入れるやつに成り下がっちまったなんて」
「ARKSだって同じだろう? 大義を語りながら、やることはいつもの『人類』のやり口さ」

 ガルムは戯言を散々こぼしたあげく、雑踏の中に消えていきやがった。
 いや、ただ消えたわけじゃねぇ。ありゃ、正規軍の連中が使う光学迷彩だろう。
 ってこたぁ、F機関とやらもやっぱりお偉いさんが絡んでるわけか。あたしの人生、厄介ごとしかないね。



 いとしのスィートホームに帰ってみれば、共用スペースにまで魔女っ娘の私物が侵入していた。
 とくに、インスタント麺やパスタなど、スパゲッティモンスター教団の神器類が多い。
 この散らかり具合からするに、あたしは一か月くらい入院していたらしい。

「おかえり」
「おかえりなさい、センパイ」

 なんか特別な感じではなく、ごくごく普通におかえりと言われることがうれしかった。
 アタシは生きて帰ってきたんだな。

「――ただいま」と、返事しておく。

 そして、返事をしたあとに、なぜミカンが? と疑義を抱く。

「ミカン、おまえ何してんだ?」とパステルの私室を覗き込む。

 そこでは例の御香の匂いとともに、なにやら儀式が行われていた。
 二人で向かい合ってジャポン座りというあの窮屈そうな座り方をして、陶器みたいなのに湯を注いでいる。
 そして、なにやらかきまぜはじめた。
 教団の儀式か何かか? そんなところにミカンを引き込んでいいのか? 
 信仰は確かに自由だし、それで安息を得られるなら救いがあると言っていいけれど……。

「よい御手前で」と、ミカンが言った。
「いえす・うぃ・きゃん」とパステルが静かに答える。

 そして二人はずずっと陶器みたいなのに注がれた……あれは茶か? をすすった。

「なにやってんだ?」
「あ、先輩もやります? ニュー・茶道。パステルさんが段位持ってるらしくて」
「じゃすと・どぅ・いっと」と、魔女っ娘が例の無表情のまま頭上におおきな○を腕でつくった。
 たぶん……そのニュー・茶道とかいうのの決めポーズなのかもしれない。
「いや、遠慮しとく。高尚な文化芸術は得意じゃないんで」
「そうですか? わたし茶道なんて初めてですけど、なかなか楽しいですよ?」
「そ、そうか。ところでこの前は助かったよ。ほんと恩に着る」

 アタシはミカンと魔女っ娘に頭をさげる。

「いえいえ、そんな」とミカンは謙遜する。古代人は礼儀があっていいねぇ。
「分割払いでいい」と魔女っ娘は容赦ない。



 ミカンが返った後、魔女っ娘とふたりでパスタを作った。
 あたしがナスとピーマン、そしてひき肉のトマトソース煮込みを作って、魔女っ娘が味見をする共同作業だ。
 リハビリがてらフライパンを振ってみると、なかなか肩と腰にキた。こりゃ本格的に再トレーニングだね。
 んで、ゆでたてパスタにソースをかけて、いただきます。と。
 ワインも一本開けて、アタシらはちょっとした復帰祝いをした。

「で、アタシが伸びてるあいだに変わったことは?」
「特になし。あの件に関するデータが根こそぎORACLEアーカイブから消えたくらい」

 やっぱりなー。捨石に生きて帰ってこられたら困るもんな。
 そうなると徹底的に秘匿。あたしらにはたぶんひそかな監視でもついてて、ヘンな挙動を見せたら交通事故や失踪という結末だろう。
 へたすりゃ宇宙ゴミとして永遠に銀河の中心に向けて旅するはめになるかもしれない。

「あと、アルザスさんから連絡があった」と言って、アタシの端末にメッセージを転送してくれた。
『ごめんあそばせ。わたくし、利用できるものは利用する主義ですの』だそうだ。

 つまり、あの任務はもともとアルザスに別命があって、アタシらはどうでもいい連中だったってことだ。
 やはり、ARKSだって一応軍隊なんだ。命は道具。ある程度までは大事にしてくれるけれど、消費するときは遠慮なく使い切る。

「っつーことは、またしがないARKS稼業で身を立てていくわけか」
「わたしは転職もできるけど、あなたには学がないから」
「……おまえさ、平然と人が気にしてること言うよな」
「事実を適示すると、感情が傷つく。ヒューマンってほんとに興味深い」

 まじまじと魔女っ娘に見つめられると怒る気も失せた。

「だけど、リハビリも必要だし、大仕事をやるわけにもいかねぇ」
「当面はゆっくり体を慣らす、ということで」

 魔女っ娘がそういってワイングラスを掲げたから、あたしも「そだね」といってグラスを上げた。

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計画25

 目を覚まして、一生懸命生きていったところで、どうせアタシは最後に死ぬ。
 だったら、今ここで死んだっていいかもしれないじゃん。
 それのどこがおかしいのか、今のアタシには全然わからない。
 だいたい、大宇宙航海時代に石器作ろうとか考えた時点で、死神もあきれたろうね。
 こいつ、頭悪すぎるぞと。

「おきて。ヒマワリ。こんなところで丸まってる場合じゃない」

 聞きなれた声が頭の中に響く。どこか優しげで、それでいてつめたい。
 でも、なによりも安心できる声のような気もする。

「こんなに石砕いてなにやってたの? さ、立って」

 あたしは言われるがままに、立とうとする。
 けど、ぜんぜん足に力が入らない。死にかけのタコよりも貧弱だ。

「しっかり。まだ助かる余地はある」

 首元にちくりと痛みが走った。まだ感覚があったことにアタシは驚く。

「ムーンアトマイザーの影響で体内ナノマシンが急速活性するから、すこし我慢して」

 我慢? なんのこっちゃ――
 って、くっ……

「視力が戻るから、光に驚かないで」

 驚かないでってことは、十中八九普通のやつは驚くってことじゃんか。
 でもあたしはフツウに耐えてみせる。だって、あたしはARKSだから。

「……よぉ、魔女っ子。元気してたか?」
「ばか。心配した。死ねばいいのに」

 おいおい、どっちなんだよと言いたくなったが、泣かないように涙をこらえるパステルをみてると、どうもこう、こっちの胸が苦しくなった。

「んで、任務は? アタシはのんきにくたばってたわけだけど」
「完全に失敗。どうしてあんなに大量の敵が襲撃してきたのかわからない」

 魔女っ子にわかんねぇなら、アタシにわかるはずがない。
 世界にはファンタシーが星屑ほどあふれてるからこそ、わからんことばかりだ。

「――とりあえず動かないで。救助が来るから」

 救助? どこのだれが助けてくれるってんだろうね。
 この作戦は極秘ってことになってるはずだ。でも、世の中ホントに秘密にできることなんて限られてるってのは人類史が証明してるけど。

「正規軍か? それとも法院のほうに?」
「部外者に漏らせない。ARKS非常救難信号を出した」
「ってこたぁ、この近くをうろついてた誰かが来るわけか」

 ご苦労さんって感じだ。けど、魔女っ子はちょっと甘すぎるな。
 物事を簡単に考えすぎてる。アタシが言えた義理じゃないんだけどさ。

「魔女っ子、たぶん救難信号は本部のほうで遮断される。コネを使ったほうがいい」
「でも……」
「……せっかくあんたが助けに来てくれたんだ。生き残りたいんだよ、アタシは」
「そう。でも、誰に頼るの?」

 誰に頼ったって、あとから借りを返せって言われるような連中ばっかり知り合いが多い。
 けど、ARKS管轄区に立ち入ることについて四の五の問題が生じにくいほうは……正規軍だな。

「キァハ准将にコール。アサインは――」

 魔女っ子にアタシがあの陰謀家の将軍と連絡を取るコードを教える。

「――短文を送った。返事があればいいけれど」
「なかったら法院に送りゃいいさ」
「あ、返ってきた。音声ファイルだから、再生する」
『あのね、あたしらだって万能じゃないわけ! 今、船団が攻撃を受けてんのよっ! 元老院が頭固すぎて決戦兵器の投入を拒んでるから、助けには行けないのっ! 恨まないでね』

 あの女将軍の期待はずれすぎる返事にあたしはあきれた。
 どんだけ使えない女なんだよ、あいつ。

「こりゃ参ったな。法院か?」
「船団が攻撃されている以上、法院だって予備戦力として動員されてるはず」
「だよな」

 魔女っ子の冷静な分析のおかげであたしらの未来は限りなく薄い光しか差してないことが分かった。

「――さよならを言うには早すぎるよな、パステル?」
「あきらめない。わたしたちは死なない。だって、生まれてきた理由だってわかんないんだから」

 そうだよな。お前さんにそういわれちまったらどうしようもない。
 凛とした横顔に惚れちまいそうだよ。たぶん、熱のせいだけどな。

『――あ、もっしもーっし! センパイたち元気してましたーっ?』

 誰? とアタシと魔女っ子は驚愕の表情を浮かべた。
 しかし、非常回線で割り込んできてる無線からは元気そうな女の子の声がしている。
 センパイ? アタシらに後輩なんていたっけ?

「こちらARKS所属パステル・エイン」
『どーもぉ! わたしですー。ミカンです!』

 ミカン? あの古代人のやつ、なんで通信圏内にいるんだ?
 ただの古代人が興味持つようなところじゃねぇだろ、この惑星は。

『座標をつかみましたーっ! んじゃ、わたし助けに行きますね』
「どうしてわたしたちの位置を? あなたがなんで惑星に?」とパステルがつい問うてしまう。
『ヌヌザック博士の研究に付き合ってきたんです。まったくもう、博士ったらコタツに入ったまま出てこないんで、仕事になりませんよ』

 コタツ? コタツってなんなんだ? アタシが知らない新兵器の研究実験にでも参加してるのかもしれない。
 たしかにヌヌザック博士はまれにみるヘンタイ、ではなく、優秀な科学者だ。船団政府の依頼で惑星に降りるなんてこともあるのかもしれない。



「お久しぶりです、センパイがた。あ、ひどいケガですね。すぐに機に運びます」

 ミカンのやつが洞窟に入ってくると、手際よく随行している研究員っぽいニューマンたちに指示を出し始めた。
 どうやら、ホントに研究業務のために惑星に降りていたみたいだ。

「応急処置はしたけど、ポッド入りは避けられないと思う」と、魔女っ子のやつがあれこれ委細を報告してる。
「よくわかりませんけど、パステルさんがいうならそうですね。シャトルには医師も載ってますから」

 アタシは研究員っぽい連中によって担架に乗せられて、そのままシャトルの中に運び込まれた。

 シャトルは典型的な民間軍事会社のアレで、ちょっとばかし手を加えてあるだけみたいだった。
 でも、アタシらARKSが目的地に向かうために使用する軍用機なんかと違って、ちゃんと研究に必要な機材が持ち込まれているみたいだ。
 おまけに、他の機体ともリンクさせてあるらしく、テレポータル使って資材のやり取りができるみたいだった。

 んでアタシは簡易医療ポッドに放り込まれる。

 もちろん全裸にされるわけだが、研究員のニューマンはアタシのそそるカラダを見ても何も思わないらしく、淡々と服を脱がされた。
 まぁ、ちょっと内臓とか見えてましたから萌える要素がなかったのかもしれない。

 なんてこった。ARKS入って何度目の任務失敗だ?
 アタシってやつは使えねぇ女だなぁ、とか考えているうちに眠くなって、そのまま目を閉じた。

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

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YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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