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ファンタシースター計画22


「相談があるの」

 レイデュプルとかいう冷たいガンスラッシュを中古で買ってニヤニヤしてたアタシを、ヒマだと思ったらしい。
 魔女っ子がユニバサル・ニッシンのインスタントヌードルを持って、アタシの部屋に来た。
 やつは何もいわず、工具を広げたアタシの前に座る。もちろん、ザ・ブトン持参だ。

「相談? 宗教関係は無し。金は十万までしか貸さないぜ。あとは付き合うけどよ」

 うーん。ブラオレットよりも作りは精巧だけど、今度は刃の形成に問題がある。
 レイデュプルとかいうやつの刀身に、血抜き溝がついてないのだ。
 血抜き溝がついてないと、敵を刺し殺したときに、傷口にぴたっと張り付いてしまう。それは大きな隙を生む危険なことだ。
 これを設計したヤツは、たぶん人を殺したことなんかないんだろうな。
 アタシは仕方なく、血抜き溝を自作することにする。
 えっと、工具は……

「ドゥドゥを殺して」
「は?」

 魔女っ子の目はマジだった。
 だいたい、こいつは宗教上の理由で他人と目をあわせない(とアタシは解釈してる)から、うつむき加減なんだけど……。
 今回だけは、目をクワッとかっぴらいていた。
 しかも、血走ってる。

「だれだよ? ドゥドゥって。おまえをレイプした犯人か? だったら殺してやるよ。試し斬りも悪くない」
「違う。わたしから財産を奪った男」
「……おまえ、そいつに貢いでたのか?」
「貢いでた。たくさん。稼いだお金のほとんど。だけど、裏切られた」

 魔女っ子は、そのままポロポロと泣き出した。
 こいつはそう泣くもんじゃないから、アタシは驚いちまって、あたふたするしかない。

「ま、まあ、落ち着けよ――いたっ!」

 レイデュプルのフォトンリアクター回路がショートして、アタシのいたいけな人差し指を焼きやがった!
 くそっ! 魔女っ子が泣くから、あわてて組みなおしたのがマズかった。

「――しくしく」
「おい、しくしくなんて言わなくなって、泣いてるのは分かるっての」
「――めそめそ」
「……あー、もう、めそめそ泣くなって。とりあえず事情を聞いてからだ」

 そして、魔女っ子は事情を説明し始めた。
 それはとても身の毛もよだつ話で、そんな商売が許されるとしたら、公正取引委員会や通産省が黙っていないレベルだった。

「つまり、そのドゥドゥとかいうオッサンは、お前から金をふんだくって『すばらしく運がないな、キミは』と言ったわけだな」

 とんでもねぇオッサンだ。
 魔女っ子がまじめに働いた金と、ツールを奪うだけ奪い、その言葉とは……。
 それは殺すしかないな。うん。

「で、殺すのか?」
「違う……彼は悪くないの。わたしの運が悪いだけ」

 ――すっかり魔女っ子は洗脳されちまったみたいだな。
 こいつはなんだかんだで純粋(?)だから、すぐに人を信じる。
 だけどよ、世の中ってのはそういう人のいいやつを食い物にしてる連中がいるんだぜ?
 たったら、人の悪いアタシが、そういうやつから奪ってもいいような気もする。

「……あ、そうだ」

 アタシは久々にヤツを思いだした。
 大してつながりがないけど、たまにはつながっとかないと、人間関係ってのはすぐに冷却化するからな。
 えっと、ビジフォンは――


 きっかり、約束どおりの時間にイケメン野郎がってきた。
 すっきりとした顎のラインに、スマートな身のこなし。そして輝いた革靴。
 体型にジャストフィットのダークグレイのスーツを颯爽と着て、ゴージャス・クール・エリートな雰囲気をバンバン出してる。
 正直、気にくわねぇ。

「お久しぶりです。ヒマワりさん。まさかあなたからランチに誘われるとは。正直、ときめきまして、はい」
「作るのはアタシじゃねぇけどな。まぁ、入りな。ソファを適当に使ってくれ」

 ヤツは玄関で靴を脱ぐ。
 脱がなくてもいいって、前説明したのに、それは曲げない。
 そして、どこからか、ピンク色のスリッパをだして、それをぺたぺた鳴らしながら歩く。
 スリッパ禁止っていえばいいのか?
 
 やつはスーツの上着のボタンをすっとはずして、自然に座った。
 そう。
 マナーとして着席時はスーツのボタンをはずす。
 それが自然に出来ない連中のことをジャポン・スーツと呼ぶらしい。理由は知らん。

「アジャン、たしかお前さん、高等法院に勤めてたよな」

 アタシはイケメンニューマンにコーヒーを勧める。
 正直、こいつをじっと見てると胸が苦しい。
 イケメンすぎるってのは健康によくないものだ。

「ああ、配置転換がありまして。今は法務省種族問題対策局第二介入課の課長です」 

 そして、アジャン・プロヴォカトゥール法務省種族問題対策局第二介入課とかいう長ったらしいペーパーカードを、お辞儀しながら差し出した。
 うさんくせぇ課だな。
 そして、慇懃無礼なところがますます、役所的人間のいやらしさと狡猾さ、そして冷たい強さを感じさせる。

「栄転、おめでとう」

 魔女っ子がほっかほかの出来立てパスタを大皿に盛ってきた。
 小皿に取り分けろってことらしい、
 まさに、ホームパーティ仕様だな。

「ありがとうございます、パステル様」

 おい、なんで魔女っ子を呼ぶときは『様』なんだよ。アタシは『さん』づけ程度の存在か?

「なんか、旨そうだな、これ」」
「Spaghetti alla Puttanesca ですね。FSM教団の慣習料理ですよ、ヒマワリさん」

 イケメンのアジャンが言うには、FSM教団は、よくわからんが土曜日のランチにパスタを食うらしい。
 戒律ではなく、慣習とか言ってたが、違いがよくわからん。
 とにかく、この日だけ魔女っ子がキッチンで大奮闘して、やたら旨いパスタを振舞ってくれる。
 どうせなら毎日作ってくれりゃいいものの、なにやら宗教がらみなので頼みにくいものもある。

「はいはい、アタシは教養がなくてね」
「ちなみに、意味は『娼婦のパスタ』ですね」
「なるほどね。味も刺激的だといいけど」 

 アタシはがつがつとトングを使って小皿に盛ると、チョップスティックを使ってずるずると食った。
 アジャンのほうは、ちまちまとフォークを器用に使って、パスタをくるくるまいてやがる、
 いちいちめんどくさい食い方をするやつだよ。
 で、味のほうは相変わらず最高だ。
 養殖アンチョビに、農業プラントのクローントマトを使うと、どんなものだって臭くなるのに、これにそれはない。
 たぶん、トマトソースを作る段階に巧みな調味料とスパイスの調合があるんだろう。

「どう?」

 魔女っ子のおずおずとした聞き方に、アタシは満面の笑みで応える。

「サイコーだぜ! ワインだ、ワインとってくれっ!」
「そう。よかった」

 こくりとうなずいて、魔女っ子はまたキッチンに戻る。
 ヤツも一緒に食えばいいのに、戒律だか慣習のしばりで、みなが食べ終わってから食うらしい。
 わけがわからん信仰だが、だいたい信仰というものは理屈が通らないものだ。

「そうだろうと思って、用意してきましたよ。さすがにフリーランチを頂くわけには行きませんからね」

 そういって、アジャンは白のボトルを、転送した。
 白のボトルは、よく冷えているようだった。

「さっすが、気が利くね。Est!Est!Est! di Montefiascone なんかよく手に入ったな」
「ヒマワリさんが白ワイン好きというのは、調査済みですから」
「……さらりと、怖いコトいうよな、お前」
「敵にするにしても、味方にするにしても、我々情報筋は調査をしっかりとしますよ」

 とりあえず、アタシは立ち上がって冷やしてあるグラスを二つもってくる。
 そのあいだに、アジャンがコルクを抜いていた。
 安いテーブルの上で、アタシの一か月分の家賃に匹敵する白ワインをそこにとくとくと注ぐ。
 すばらしいっ!
 このフールツ感を主張する香りがたまらっ! まるでブドウ畑だよ。

「では、乾杯といきますか」
「魔女っ子は?」
「いらない。飲むと児童ポルノ法違反になる」

 そういや、魔女っ子は飲むと脱ぐんだっけ?

「じゃ、二人で乾杯するか」
「ええ。では、今日も殺しあわなくて済んだことに」
「ああ、乾杯だ」

 アタシらは心底そう思いながら、グラスを掲げた。
 すくなくとも、アタシはそう思ってる。この不安定な時勢で、いつ誰が誰と殺しあうかなんて分かったもんじゃない。


 アタシとアジャンが、このままベッドに直行して、一発ヤッちまうか相談してるときに、魔女っ子がキッチンから戻ってきた。
 
「すっかり出来上がってる」
「あったりめーじゃん! Bacco, tabacco e Venere riducono l'uomo in cenere だけど、アタシは女だからかんけーねぇ!」
「Chi dice donna dice danno.とも言いますけどね」
「おいおい、アジャン、そんな女性差別していいと思ってんのかっ! ベッドで決着つけようじゃないかっ!」
「ヒマワリさんの勝ちは確定ですね。確実に搾り取られますよ。鍛えられた若い女性に勝てるはずがない」

 アタシはけっこうキてる。
 やっぱ、Est!Est!Est!はいいワインだ。女はだいたい、これでイチコロだと思っていい。
 少なくとも、アタシは落とせるね。

「退廃してるアジャンに相談がある」

 魔女っ子が食後のエスプレッソを並べながら、切り出した。

「退廃ですか? 貞操観念が希薄化してるだけだと思いますがね」
「おうよっ! ヤりたいことをヤりなさいって、よく親とか、学校の先生は言うだろ?」
「酔いすぎ。ヒマワリ」

 魔女っ子がソファーからずりおちてるアタシを、どっこいしょと引き上げてくれる。

「それで、相談というのは?」

 シャツのボタンもはずして、すっかりくつろぎモードにはいったアジャンが言った。
 顔はかなり赤くなってる。ニューマンでも酔うヤツは酔うからな。

「ドゥドゥを訴えたいの」
「ああ、あの武器加工業の?」
「そう」

 魔女っ子は、アタシの隣にすわって、ズズッとエスプレッソをすすった。

「訴訟そのものはかまいませんけど。給付訴訟、確認訴訟、形成訴訟がありますが、どれで?」
「お金返して欲しいの」
「じゃあ、給付訴訟ですね。では、請求権を作りますか」

 アジャンは酔っ払った様子なのに、慣れた手つきで端末から必要な法律を引っ張り出して、魔女っ子に説明する。

「事実関係は?」
「お金とられた。失敗したのはあっちなのに、『すばらしく運がないな、キミは』とののしられた」
「あ、なるほどね。そこまでですと、債務不履行に基づく損害賠償請求権、詐欺に基づく契約の取り消しと不当利得返還請求権、公序良俗違反の主張やら、不法行為なんかも主張できそうですが、問題がいくつかありますね」
「そうなの?」
「確か、ドゥドゥさんの装具強化はランダムであることを前提としていますよね?」
「そう、だとおもう」
「なんで、ランダムか、根拠をご存知ですか?」
「……調べてない」
「あれは経済統制法に根拠があるんですよ。ARKSはたまに、異様なくらいメセタを稼ぐ人がいますからね。それに制度的規制を掛けないと、市場に重大な影響が出ますから、ドゥドゥ氏を使って市場にあふれてるメセタを徹底的に回収しているんですよ」
「――金融政策の一環ってコト?」

 アジャンが、正解といった様子で、エスプレッソをすする。

「ARKSは銀行法の制限によって、金融業が行えませんし、預金すらも出来ません。ARKS財産規正法で、株式売買や不動産投資などの一般市民経済における金融投資活動を徹底的に禁止されています」
「どうして?」
「その趣旨は、一介の軍事組織が金融支配を行う危険性を排除するためです。ORACLE船団は閉鎖経済の傾向がありますから、ARKS資本が民間市場に流れると、メセタの価値が大変なことになります。地球暦の大航海時代に植民地から大量の銀が欧州に流入したことを思い出すといいでしょう」
「だけど、ARKSの生産した富は……」
「ARKSが何か富を生産しましたか?」

 アジャンが、トンでもねぇコトを言いやがった。

「アタシらは働いて、金を稼いでるじゃねぇか」
「労働力を提供して、対価を得た。労働力は平和を作っている。そういいたいわけですね」
「そうともっ!」
「その対価は、本来ここまで高額なのでしょうか? 原生生物や先住民族を虐殺した対価は、そこまですばらしいものでしょうか?」

 やれやれと、アジャンは首を振る。

「だけど、実際、報酬は出てるだろ?」
「使えない報酬ですけどね。それで買うことが出来る商品は限られています」

 確かにそうだ。家だって、限られた場所の限られた種類からしか買えない。
 住める場所も制限されるし、家具だってぜんぶ規制されてる。
 稼いだ金で会社を設立することもできなけりゃ、株主にだってなれない。
 そこまで考えて、アタシは理解した。
 だけど、魔女っ子のほうが、もっと深く理解したらしい。

「――逆二重経済モデルということ?」
「さすがパステル様、ついギャンブルで金を溶かしてしまった方とは思えない分析力です」
「あれは、熱くなり過ぎただけ」

 魔女っ子が顔を真っ赤にして反論してる。
 酔ってないのに、真っ赤になるってのがすごいとアタシは思うけどね。

「で。魔女っ子、なんだそれは?」
「ARKSは本来、存在する予定のなかった組織ということ」
「あん?」
「本来のORACLEは、船団の限られた資源と収容空間の問題から人口統制がされるはず」
「そりゃそうだ」

 適当にぽこぽこ子どもが増えたら、にぎやかかもしれないが、育てるのが難しくなる。
 資源は有限だし、住む場所も限られる。

「その統制の手段として、男女かまわず、ナノマシンによる不妊措置が施されてる」
「だから、セックスが娯楽として成立したんだろ?」
「だけど、不妊措置から洩れた人たちもいた。法院が詳しいと思う」

 魔女っ子がアジャンに振ると、イケメンは微笑を崩し、ニガメンになった。

「きついですね。負の部分を私に語らせるんですか?」
「そう」
「――もともと、法院は司法機関です。ですから、人権を保護し、排斥される少数者を保護するのが本来の責務なのです
 しかし、我々は一時期、その責任を完全に放棄したことがありました。
 それが『一号統制作戦』です。すべての男女に不妊措置を施し、適格者にのみ、人工子宮にて生育した子を供するという今の体制を作る最初の最初。
 これが法院によって行われた、最初で最後、そして最大の人権侵害でしょうね。
 誰にだって、子を作る権利はある。といいますか、人間が生命であり、遺伝子の存続を図ることを目指すとする科学によっても肯定できることです。
 しかし、それを無秩序に行っては、船団の存続は困難になります。
 ある程度の余剰を許容できるように船団を設計したとしても、それを上回れば、あらゆる生活インフラが過負荷にあえぎ、かつ、労働問題も生じます。
 資源の有限性・偏在性は『技術』と深い相関関係があり、『人口』は社会制度や文明に深いつながりがあります。また、これらは相互に関連しあい、『歴史』を形成します。
 我々の法院の初期の連中は、どうしても『歴史の終わり』を迎えるわけには行かないと考えました。人口と利用可能資源のバランスが崩れることは、まさに歴史の終わりだからです。
 だから、最高法院は、『人口統制法』は合憲であると解釈し、それを率先して推進しました。それが『種族問題対策』と名のつく部局や課の始まりです」

 そこからのアジャンの話は、せっかくのワインがまずくなる話ばかりだった。
 徹底的に、反人口統制法派を狩る法院の冷酷なやり口。その結果生まれた大量の自然出生派の孤児たち。
 子を産む権利を守る、といって一斉蜂起した正規軍のヒューマンやニューマン。
 全人類の存続と共栄のために、とそれを粉砕したキャストによる現在の正規軍。
 ただ、正義だけがそこにあった。
 譲り合うことの出来ない二つの正義があったせいで、どちらかが消えるまで内戦が続いた。
 最終的には、自然出生派を乗せた新たな船団が作られて、どこかへ旅立ったという。
 しかし、数百年前にそれの残骸が発見された。
 結局、自然出生主義を貫くことは、有限の資源の奪い合いを生起させ、職業を奪い合う結果となり、船団を維持できない事態を生じさせたと、研究チームは結論付けたそうだ。
 ただ、研究チームは廃船となりつつあった自然出生派の船団から、冷凍睡眠状態の生存者集団を発見。
 その集団は。生存のための、万人に対する生存闘争を勝ち抜くために強化された、いわゆる改修ヒューマン・ニューマンだった。

「――その集団は、フォトンと親和性が高くなるように調整されていました。それを、通称第ゼロ世代ARKSといいます」

 なるほど。
 くだらねぇ。
 じゃあ、あれかい。
 想定外に増えた余剰人口を抱えちまった船団は、どうにかしてそれを生活させる基盤が必要だった。
 だから、そういうシステムを作ることにしたってことか。

「――必要に迫られて、仕方なく軍事組織を編成した。生活空間を限定し、消費財を制限することで、船団本体への影響を極限するとともに、どこかの戦線に投入することで、暫時人口の逓減を図ることにした。あってる?」

 魔女っ子が面白くもないARKSの目的を整理した。

「ええ。ですから、戦力余剰かもしれないと、政府は正規軍を凍結したのです。船団の体制と人類の存続に理解を示してくれるキャストたち正規軍は、協力を惜しみませんでした」
「じゃあ、一つ聞かせてくれ。ARKSが投入される惑星の生物が、ぜんぶアタシらと同じ人類だってのは、どういうことなんだ?」

 アタシの質問に、アジャンはにっこりと微笑んで、こう答えてくれた。

「あなたには関係ない話です」

 まいったね。こうも取り付く島がないとは。
 たしかにそういわれりゃ、言い返す言葉もない。

「なるほどな。魔女っ子、なかなかキツイ話だったな」

 アタシは酒で乾いた喉を潤すために、さめちまったエスプレッソを飲む。
 えらく苦い。
 人類史の苦さはエスプレッソどころじゃねぇが、そういう苦さの一部が混ざったらしい。

「うん。ドゥドゥは訴えられないということはわかった」

 え?
 あれ? これ、そういう話だっけ!?
 ワイン……飲みすぎちまったのか。
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テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画21

 ぜんぶ、アタシらと同じ人類と聞いても、だから何? だ。
 たとえ、アタシらが殺しまくってる原生生物だの、ダーカーだのが、人類だったからって……。
 何もかわりゃしない。

 人はいつだって、同族殺しをやり続けてきた。
 いまだって、どっかの誰かが殺人事件を起こしてるだろうよ。
 だから、アタシらの敵が人類の『一つの可能性』だったなんていわれても、驚きようなんかない。

「全然、戻れなくなんかないじゃねぇか。今までと何も変わらない」

 アタシは、したり顔で重い真実もどきを語った准将に言ってやる。
 この程度で、アタシは動揺したり、後悔したりなんかしない。
 だって、そうだろ?
 我々は常に有罪なんだ。
 ARKSだろうが正規軍だろうが、一般市民だろうが、人はいつだって何かを見ないフリをしてる。
 本当は助けられたかもしれない命だって、助けられなかった、無理だったって言って、いくらでもごまかしながら生きてる。
 自分の人生だってそうじゃないか。
 何か出来るかもしれないけれど、何もしない。
 いくつもの『今より得して、楽な道』を選択しまくって生きてる。
 いつだってそうさ。
 アタシはアタシに対するいいわけが一番上手だ。
 仕方ないから、殺す、とか。
 魔女っ子みて、『あいつは天才だからな』といってごまかすとか。
 本当は分かってるのさ。アタシがあいつほどに努力しなかっただけだってな。
 だけど、ほら、天才って言っておけばさ、アタシがアタシのせいでヤツに及ばないって事実から目を背けることが出来るわけさ。それが、わるいことか?
 周りにいる連中はトンデモな奴らばっかりだから、アタシはこうやって心の健康を保つ。
 それがろくでもないイイワケだと知りながら、それにさも気づいていないように振舞う。
 それのどこが悪い?
 それは悪いことじゃないはずだ。事実、そういう生き方をしたって、思う存分楽しく生きられる。
 得で、楽な道ばかり選択したって、前進には変わりないんだ。
 だから、アタシは驚かない。
 ダーカーが、人だからといって、アタシにはそれを殺すのを躊躇う理由がないから。
 人がアタシの大事なヤツを傷つけるなら、アタシは容赦なく殺す。
 めんどくさいことは考えない。
 そういうのは、お前らみたいな賢い連中の特権なんだよ!
 つまり、アタシにとって、安易な解は最初から容易されてるんだ。

「つくづく、あんたってライトな考え方するわよね」

 キァハ准将は、まれ見るバカを見てしまったという表情を浮かべているが、だからなんだと言いたい。
 バカはバカなりの見解にしたがって生きてるんだ。
 いちいち他人の言ったことにあら、たいへん、っと驚いてばかりなわけないだろ。

「軽薄で結構だよ。罪の意識にもだえるとでも思ってたか?」
「多少はね」
「それは、ない」
「そんなに誇らしげに言うことかしら?」

 准将はつまらないものを見てしまったといわんばかりだ。
 だが、アタシはもともと大して面白い人間じゃない。
 だから、芸人じゃなくて、しがないARKSなんかやってるんだ。
 もし楽しくて面白くて、素敵な人間だったら、こんな砂漠の隅っこで、将軍とコーヒーなんか飲んでない。

「アタシね、ラグオルにいたのよ」
「ああ、聞いたよ」
「あなた、ラグオルの何を知ってる?」
「放棄された殖民惑星だとしか、知らないな」

 入植地が何らかの攻撃で壊滅したとしか知らない以上、そうとしかいえない。
 地球型惑星の殖民惑星が放棄されるなんてのは、そう珍しいことじゃないし。

「あたし、ラグオルで軍の代理士官として生を受けたの。あの頃は、まだヒューマンやニューマンが軍の指揮官をやってて、あたしらキャストは『アンドロイド』と呼ばれて、有機生命体どもの便利な道具として、生活を許されていた」

 歴史の教科書レベルの話だ。
 キャストたちがロボだのアンドロイドだの言われて、一つの命として扱われていなかった時代。
 今だって、そういう主義者みたいなのが生き残ってるけど、そういうのは法院の人種問題対策の連中に狩られることが多い。
 少なくとも、いまはそういう差別主義が排斥されるべきものってのが常識化してる。
 だけど、彼女が若い頃はそうでもなかったんだろう。
 ってことは、この女准将は歴史の教科書クラスの人生を生きてるわけだ。
 アタシなんかより長生きなんてレベルじゃない。いいかげん、生きるのに飽きないのか?

「代理士官ってのは、正規の将校たるヒューマン・ニューマンがいない部隊の指揮をとるための存在。あのころのラグオルは、士官を養成する時間がなくて、仕方なくキャストに焼付け記憶で指揮統制能力を付与して、戦線に放り込んでた」
「いや、まて。ラグオルはハンターズっていう組織があったろ? 何でも屋みたいな」
「あれは、あたしが生まれたときはもう壊滅してた。真っ先に脅威に立ち向かって、時間を稼いでくれてたのよ」
「……勇敢だな、ハンターズは」
「ちょっと、どことなく今のARKSに似てたわね、雰囲気が」

 そういわれると、悪い気はしない。

「アタシは、ラグオル戦役が最終局面に入ったときの生産品なの。今でも覚えてるわ。この世に生まれて最初に言われたことは『誕生おめでとう。すまないが、敵に侵入された。排除してくれ』だったわ。生まれたばっかりのあたしは、いきなり完全武装にされて、研究所の防衛行動に入った――

 生まれてきた世界は、美しかったわ。
 どこもかしこも、赤と白なのよ。
 白塗りの研究施設の壁は、殺された兵士や研究員の血が、花火みたいに咲いていた。
 あたしは血塗られた廊下をてくてく歩きながら、当時の主力装備だったフォトン・ライフルで敵をがんがん殺してた。
 その敵ってのが、何者なのか、あたしにはすぐ分かった。
 あたしの目、多重情報処理デバイスは、映りこむ敵の組成に、人の要素を検出してたからね。
 だから、あたしは司令部に通信したの。
――敵性戦力は、同族か? おくれ
 そしたら、司令部からこう返事があったのよ。
――敵性戦力は同族。DFにエンドサイトーシス。救済の方法なし。排除せよ
 つまり、惑星ラグオルはDFとかいう、敵性宇宙人みたいなのに攻撃されてたわけ。
 しかも、その宇宙人は我々を取り込んでいくとんでもない奴らだったのよね。
 あ、攻撃って言葉は適切じゃないかもね。
 むしろ、生存闘争だったのよ。
 どちらの種族が、宇宙の観測者たる存在として生きることを勝ち取れるか、そういうのを争っていたといっていいわ。
 だから、あたしは了解、といって、ひたすらにDFに取り込まれた同族を殺し続けたの。
 気分は、悪くなかったわ。
 だって、最低ってのがどういう気分なのか分かるほどに、いい思いしたことなかったからね。

 その後、あたしはキャストと敗残兵だけで再編成された『第674機械化歩兵小隊』の小隊長になった。
 ロクデナシ小隊ってみんな読んでたけど、たしかにロクデナシしかいなかったし、与えられた装備も不足という言葉だけが十分あった程度。
 そして、与えられる任務のほとんどは、ヒューマンやニューマンの市民を救助する任務だった。
 まさに、そびえ立つクソを上る日々ってヤツね。

 でもまぁ、ロクデナシ小隊はあっという間にろくでない中隊になって、ロクデナシ連隊になった。
 ヒューマンの戦争屋どもはアホばっかりだったし、ニューマンは虚弱だったのよ。
 だからあたしは、全人類のために、そういう無能な上官には戦死していただいたわ。
『奇を以って正を――』とか言い出す軍師気取りまでいたからね。
 まったく、戦争が分かってないのよ。
 DFなんかと交渉する余地なんかないから、今までの人類史が積み上げた『戦争』の既成概念を打破しなきゃいけないのに、それをラグオル軍は認められなかった。
 有機生命体って、混乱したり追い詰められると、視野狭窄になる傾向があるけど、それって限りなく戦争に向いてない種族であることだと思わない?
 もう、敵の戦力を叩く戦争、敵の連絡線を切断する戦争の時代じゃなくなってた。
 単純に、どっちがたくさんの敵を殺せるか、それだけなの。
 殺されずに、たくさんの敵を殺す。
 出来るなら一方的に敵を叩く。
 和平なんてないんだから、虐殺しまくるしかないのよ。
 でも、有機生命体は脳みそに寄生虫とか湧きやすいからか知らないけど、和平の道はあるとか言い出してさ。
 宇宙人との対話の可能性、みたいなコトをニューマンの科学者度もがまともに言い出したり。
 あれね、たぶん集団催眠みたいなもんよ。
 危機的状況にあっても、都合のいい事実を作ってすがりたくなっちゃうアレ。
 あたしはあきれながら、夢見心地の科学者や、そういう筋の活動家に手を貸してやったのよ。
 だって、そういう自分の作ったでっち上げに酔ってる人間って、すごく狂信的だから。
 そういうのに協力してあげると、すっごく感謝されて、資金や資源、権力の融通が利くのよ?
 おかげであたしの部隊の増強に役立ったわ。
 
 そんな、そびえ立つクソに蹴りを入れる日々の中で、あたしは世界の情報をかき集めた。
 ま、あたしがこの世界に生み出される理由を知りたかったのよね。
 だって、あたしは戦いのために生み出されたわけだから。
 ほかのキャストみたいに、銀行で働くとか、ヒューマンとキャストの禁断の愛のために生まれた子どもアンドロイド出身とかじゃないしね。
 で、調べた結果は、案の定クソ山の中のクソ森みたいなもんだったわ。
 あのね、DFと人、この二つの存在が交わることなんか本来なかったのよ。
 お互いはお互いを観測できなかったし、干渉も出来なかった。
 あのころの人間の言葉を借りれば「お化け」とか「精霊」みたいな、人がたまに感じるという超常現象程度の交わりしかなかったの。
 だけど、全てはパイオニア1、十カ国政府とブラックペーパーのアホどもが、欲望たぎらせちゃったせいで、そんな淡い関係はオワリを告げた。
 オスト博士、モンターギュ博士を中心とする『ラボ』、第32起動歩兵分隊『WORKS』、そして十カ国政府中央情報局『ブラックペーパー』の三者が対立しつつ、緩やかな協調によって、『絶対臨界計画』通称、ブルーバーストを引き起こしたの。
 ヒースクリフ・フロウウェンなんていう英雄もこの一件に噛んでた。
 ハンターズの英雄、リコ・タイレルって女もね。
 つまり、あたしがそびえ立つクソに上る人生を歩かされたのは、ある意味世界の総意だったわけ。
 異論を唱える組織なんていなかったしね。
 で、コレだけの情報をつかんだあたしは、案の定、惑星ラグオルを放棄する『箱舟計画』の対象から洩れたわ。
 つまり、脱出して、生き残るべき存在として認定されなかったのよ」
 
「マジかよ」
 
 アタシはキァハ准将のそびえ立つクソみたいな思い出話を聞いて、そうとしか言えなかった。
 なんだかんだで、結局、いまここにいるわけだから、オチとしては生き残るわけだから、あんまり緊迫感はない、
 ただ、彼女の言う『DF』という存在と、ダーカーの類似性に、アタシは興味を覚えた。
 惑星ラグオルの失陥を隠匿するように、准将の言う一連の流れがアタシらが承継する歴史情報から取り除かれているというところが、また厄介だ。
 アタシは砂嵐がコンテナルームをバチバチ叩いてる耳障りな音を聞き流しつつ、コーヒーをもう一杯もらう。
 本当はウィスキーあたりをもらいたいところなんだけど、さすがにそんなものはおいてないだろう。

「なぁ、准将は脱出リストからはずだれたんだろ? どうやって生き残ったんだ?」

 とりあえず聞いておく。
 そこが話の核心ではないことくらい分かるけど、聞いておかないとなんだか歯の奥に残る詰まり物みてぇじゃないいか。

「議員連中と、その家族の乗るシャトルを強奪したの。脱出まで護衛しろって任務だったから、利用させてもらったわ」

 平然と言い放つ彼女の態度に、アタシはうすら寒いものをおぼえる。
 やっぱりこいつは、全面的に信頼していい相手じゃない。

「議員たちはどうなったんだ? 家族たちは?」
「地上に残れることを泣いて喜んでたわよ? 人類の盾として死ぬことがうれしくって仕方なかったみたい」
「……よく、軍法会議とかにかけられなかったな」
「そりゃそうよ。だって、議員が死んだら再選挙でしょ? 当選する機会を与えたのは誰かしら? ついでに、その選挙資金を出したのは?」
「……なるほど。准将はそれでいて、市民を守るとか言うわけだ。議員の家族まで殺しといて。家族に罪はないだろ?」
「別に矛盾しないわよ。あたしの市民の定義は、高貴なる義務を果たす者、だから。そうじゃないヤツは見捨てるか利用させてもらうわ。お人形さんみたいに着飾って、マリファナ吸って友達とパーティしてる議員の身内どもなんて、死んでも麻薬組織とブランド屋が泣くだけよ」
「そういうのは、選民思想っていうんだぜ? どんなバカの権利も保障する、それが民主主義ってヤツだろ?」
「選民思想を弾圧しないのが、自由主義じゃないのかしら?」

 なるほどね。自由主義は、なにを考えても自由。責任だけは取れって発想だからな。
 べつに貴族主義だろうが選民主義だろうが、差別主義だろうが、そう考えることは許される。
 そして、ORACLE船団の建前は自由民主主義だ。
 両立しそうもない主義を並べ奉るってのは、簡単じゃないことだ。
 そういう、お互い理解できそうにない連中と、むりやり共同生活しちまおうってのがORACLEなんだ。
 だったら、口喧嘩になるような幕引きは無しだ。

「今日は、楽しかった。で、正規軍の撤退はいつだ? 惑星リリーパはARKSに引き継ぐんだろ?」

 仕事の話ってのは、喧嘩にならずに済む。
 思想信条は、お互いに妥協できないけれども、仕事なら別だ。
 ビジネスで妥協できないってのはありえない。
 ビジネスってのは、巧みなWINWIN関係だからな。

「三日後よ。あんたにも撤収作業手伝ってもらうからね」

 案の定、将軍は話に乗ってくれる。

「助けてもらった恩くらい返すよ」
「一生かかるわよ? あなたの命が安くなければ」
「生命保険の額が、アタシの命の値段さ」

 お? アタシなかなか格好いいキメ台詞を言えたかも?

「死亡保険の受取人、あたしにしといて」
「ありえねぇよ」

 アタシの死亡保険の受取人は、魔女っ子と、社会福祉局の孤児院になってる。
 そこの戦争屋にやる分はねぇ。
 たとえあんたが人類のためにどれだけ戦ってくれたとしても、アタシは金なんか払わない。
 だって、あんたの名誉を金で穢しちゃ、まずいだろ?

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ファンタシースター計画20

「――ビッグヴァーダー、と軍およびARKSは呼称している」

 キァハ准将は大型ディスプレイをじっと見つめて、言った。
 ディスプレイに映るそれは、陸上戦艦というべきものだ。よくも悪くも火力主義の体現。
 小型で高火力こそ、戦争で最も役に立つ兵器の条件なのに、これはそれを欠いている。

「一体、どこのバカがこんなデカブツ作ったんだ?」
「さぁね? この戦艦もどきの調査をするのがあたしらの仕事だったのよ。調査はほぼ終了したから、数日内に撤退する予定」
「……ははぁーん。正規軍はこのビッグヴァーダーってのをコピーするつもりか?」
「そりゃそうでしょ。無人兵器は強力なほうがいいじゃない。人命を矢面にさらす防衛作戦をするつもりなんてないわ」
「防衛戦?」

 アタシはキァハ准将の物言いがひっかかったから、問い直しておく。
 ちっ、と彼女は舌打ちして、画面からこちらに視線を移した。

「以前、ダーカーがシップに来たことがあったでしょ?」
「あー。あれ、確か、研究用に捕獲したダーカーが流出して、暴れだしたんだろ?」

 マスコミ報道と、政府広報はそんなことを言っていた。
 市街地で結構な市民が死傷した一大事件だったが、どう考えても意図的な報道規制と、法院の警察部隊の大展開で自体の沈静化が図られた。
 それが上手くいったかしらないが、とりあえず市民たちはあの事件について口数をかなり減らしている。
 しばらくして、確か何人かの責任者が刑務所に収監されたとも。

「MARSの判断では、ダーカーは絶対的観測システムと、論理移動システムを備えた、と出たの」
「マーズ? ああ、あれか。正規軍の戦略戦術支援量子フォトンコンピュータだろ?」
「そして、あたしたち正規軍の人格データの保存場所でもある」

 まじで?
 ってことは、正規軍がキャスト連中だけで構成されている理由が分かる。
 正規軍の連中は、それぞれの人格を定期的にマーズとか言うのと同期させて、バックアップをとっているんだ。
 となると、こいつらはこの現実で吹き飛ぼうが、鉄くずになろうが、あらたなボディさえあれば舞い戻ってくるわけ。
 つまり、こいつらはある意味不老不死となる。

「お前らって、便利なんだな」
「我々は、人類が滅ぶまで人類の銃であり続けると決めたのだ。愚弄するな、定命の小娘」

 静かなまなざしと、鈴鳴りの透明な声で、彼女はアタシの礼を欠いた言動を突いた。
 たしかに、アタシが悪い。軽率だった。
 
「いや、すまん」
 
 アタシは謝罪する。
 何千年だかしらねぇけど、とんでもな殺し合いを砂漠の砂粒の数くらい見てきたはずだ。
 そして、ありえねぇくらいの命を消してきた。
 しかも、その暮らしに終わりなんかない。
 ARKSに馬鹿にされたりもするだろう。
 市民たちに、なにもしていないと罵られもするだろう。
 それでも、正規軍は市民を守ろうとする。
 この世界で幾度となく砕け散っても、もう一度、誰かの銃となるために戻ってくるのだ。
 それに終わりなんてない。
 そう生き方をすることを、便利、などと言うべきではなかった。

「ほんとに、悪かったと思ってる。准将とは長い付き合いだから、つい礼を失した」
「許す。我々は寛容だ」
「まじ? 口調が戻ってないけど?」
「……反省したか?」
「したした、反省したって。お互い体張ってるってのを忘れてたんだよ」
「そして、我ら正規軍のほうが長く、身を挺してきた」
「認めるって」
「仕方ないわね、許してあげるわ」

 アタシはホッと一息つく。
 こいつを怒らせたらアタシの臨時収入は減るわ、ライセンス消えるわ、下手したら腹パンされるかもと、散々なことになる。
 それに払うべき敬意くらいは払うさ。
 戦士には戦士としての敬意を、ってARKSの一部(つまりアタシ)の中では戒律になってる。

「で、マーズの予想やらで、結局ダーカーがどうなるんだ?」
「ダーカーとの接触は物理移動ではなく、論理移動だと判断された。意味は分かるわよね?」
「……魔女っ子をいれてくれないか?」
「彼女は安静が必要よ。あんたみたいに半分ゴリラな女もどきじゃないの。繊細で複雑」

 いやいや。
 アタシだって繊細で複雑で、いろいろあるって。
 たとえば……殺しが上手とかさ? 結構、敵を殺すってのは繊細な行為じゃん。
 しかも、複雑な手順だって必要だ。
 いかにして苦しませずに殺すか、逆に苦痛を与えるか、そういうのは繊細で複雑な作業だと思うぞ。
 そして、そういうのを自然と出来るアタシは、たぶん繊細で複雑に決まってる。

「じゃ、あんたに分かりやすく説明してあげるわ」
 
 キァハ准将は、コンテナルームに備え付けの端末をいじって、資料をアタシの携帯端末に転送してくれた。

「ま、大まかに言うと、論理移動ってのは『観測による重なり合いで、可能性の確定』となる」

 オーケー、意味不明だ。
 頭にスパコン積んで、さらに量子コンピュータのバックアップ受けてるやつの話を、アタシみたいな、頭の中にプリンつまってるかもしれないやつが理解できるとは思えない。

「そもそも、我々人類はダーカーを観測することなんか無理なの。我々の世界というものは元々、『ダーカーの、存在しない世界』だったから」
「はぁ」
「ところが、フォトンの発見が全てを変えた」
「あれだろ? 旧フォトンと新フォトンってやつ」
「ハイスクールくらいの知識はあるみたいね」

 そりゃそうだ。
 旧フォトン、すなわち光子のことだ。
 それとは別の『新フォトン』が発見されてから、科学技術はブレイクスルーの時代を迎える。
 そのくらいはハイスクールどころか、そのへんの幼稚園児でも知ってる。
 新フォトン発見の物語は絵本にだってなってるからな。

「フォトンの発見によって、我々は多くの『観測』が可能になった。だが、初期の我々は勘違いしていた」
「なにがだ?」
「我々の存在を、絶対的観測者だと考えていたのだ」
「はぁ? どういうこった? 猿でも分かるように言ってくれよ」
「だ・か・ら、人が宇宙を観測しない限り、宇宙は存在が確定しないって考えていたのよ」
「アホだろ? 宇宙は人類なんかいなくたって存在するって」
「誰も知らないのに?」
「そ……そういわれたって」
「特異点は、光も出て行くことができない空間に囲まれており、その外側にいる我々がその特異点を直接観測することはできない。つまり、特異点の情報は外に伝わらないため、事象の地平面の外側では特異点の存在にかかわらず、物理現象・因果律を議論することができる。それに対して、裸の特異点では、物質密度が無限大となる点あるいは時空の曲率が無限大となる点が、外側から観測することができてしまうことを意味する。わかる?」
「わからん」
「ちっ……こんな古くさい理論すらわかんないのに、どうやって説明しろと――。あ、そうだわ」

 キァハ准将は、アタシを知恵熱に罹患させて、殺害したいらしい。さっきの復讐か?

「これを見て」

 キァハ准将はアタシに手鏡を渡してくれた。
 なんでキャストの女将軍がこんなもん持ってるんだといいたくなったが、キャストだって、創造主だったヒューマンに近似するように性格を形成されてる。
 だったら、おしゃれだの化粧くらいするはずだ。
 アタシだって、ルージュくらいひく。
 なら、この冷血女将軍だって、アイラインぐらいいれるかもしれないじゃないか。

「鏡を見ると、自分を見ることになるでしょ?」
「まあ、そりゃそうだ」
「人は鏡を見ようとしても、鏡そのものではなく、自分自身の姿を見てしまう。観測者は観測者の無意識的主観の介入を避けられない」
「つまり、実験しても、データ解釈は解釈する奴のバイアスがかかる可能性があるって言いたいわけか」
「問題はそこにあったのよ」

 キァハ准将は深く椅子に体を預ける。
 アタシも、もう一杯をコーヒーをもらうことにする。
 こぽぽっと心地よい湯気が立つ。香りも悪くない。

「いわゆるフォトンの発見は、『我々がフォトンを認識した』と考えられた。だけど、本当は、『フォトンが我々を認識した』という面もあった」
「は?」
「我々は認識が一方的であると思っていた、強い人間原理によるならば、観測者は我々人類であり、非観測対象が人類を認識するとは想定していなかったのよ」
「ふーむ」
「だけど、フォトンは『絶対的観測素子』だった。フォトンとは、本質的には情報生命体なのよ」
「宇宙人ってことか?」
「まー、そういう理解は安直過ぎるし、反論が多すぎるだろうけど、あんたはその理解でいいわ」

 なんか、馬鹿にされてるみたいでハラが立つ。
 だけど、アタシはいいかげん大人になってきたので、頭に血が上るなんて事はないさ。
 せいぜい、今度こいつにスパムメールを送ってやろうと思うくらいだ。

「フォトンは我々を観測した。だけど、そもそもフォトンは我々以外の存在にも観測されていたのよ」
「あ、そういうことか」

 ダーカーだ。
 ダーカーもまた、アタシらと同様にフォトンを観測したんだ。

「ダーカーがフォトンを観測していた。だから、フォトンというもんを人類も、ダーカーも共有したんだな」
「そして、フォトンは双方を観測した」

 なるほどね。
 話が見えてきた。
 アタシらの文明は、フォトンの使用によって、地球とか言う死の惑星から、銀河外縁、ひいては果て無き星の海に出られたんだ。
 生活のすべての部分にフォトンが介在し、フォトン無しではアタシらの文明は成り立たない。
 フォトン工学は、まさに夢の科学だった。
 どこからともなく物を転送できるようになって、世界は抜本的に変わった。
 流通というコストが限りなく低減し、しかも速度が信じられないほどに高速化することで、資源の移動を容易にしたから、大宇宙航海だって可能になった。
 だが。
 それがネックなんだ。

「わかってきた?」
「なんとなくな」
「フォトンは、我々の存在を観測し、ダーカーの存在も観測した。そして、ダーカーと人類の存在はフォトンによって『確定』されたってわけ」
「つまり?」
「因果律が収束されて、一本の世界に統一されてしまったの。本来は、我々人類は、フォトンなどなく、小さな青い惑星で細々と生きていく運命だったかもしれないのに、フォトンが我々人類を観測し、認識したから、同一世界に存在の可能性が確定したのよ」

 まあ、あれだ。
 要するに、アタシが魔女っ子とキァハ准将を観測すりゃ、魔女っ子とキァハ准将が同一の世界にいるってことになる。
 じゃあ、もしフォトンがアタシらと、ダーカーを観測したら……アタシらとダーカーは同じ世界に存在するってことになるじゃねぇかってことだ。

「じゃ、つまりフォトンを介在して、お互いに会うこともない予定だった宇宙人が、お互いに会っちまう世界になったって事だな?」

 さすが、アタシ。
 物分りがよくて、さぞキァハ准将も感心しただろうな……ってあれ?

「そう思うでしょ? でもね、違うのよね、それ」
「は?」

 今までの話を総合したら、アタシの結論になるだろ。常識的に考えて。
 
「――先を聞く? 聞いたら戻れないわよ」

 ここまで聞いといて、どうしろと?
 アタシは中途半端に生きないって決めてるんだ。
 半端な形で生を受けたんだから、一生は心に従って生きるって決めてんだ。
 誰かに与えられた命だし、記憶まで与えられたけど。
 心だけはアタシのものだ。
 だか、アタシはアタシの心が知りたいと思ったなら、それに従う。
 そして、アタシの心はイエス、と言っている。

 だから、うなずいた。
 
 キァハ准将は、ふうっと、溜息をこぼす。
 たぶん、アタシの態度にあきれたんだろう。
 知らなきゃいいのに、とため息が明瞭に語っている。

 そして、言葉のハンマーで、アタシの心臓を叩いた。

「我々と同じ、人類なのよ。全部」

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ファンタシースター計画19


 かなり頭がイッてそうな博士だったけど、ミカンがここでがんばるって言うなら仕方ない。
 魔女っ子が紹介した仕事先だって話だけど、ほんとに頭がイッてるやつを紹介するとは思っていなかった。
 

 まぁ、それはそれとして、アタシと魔女っ子は今後の活動方針をじっくり話し合おうってことで、ストアで食材やら酒を買う。
 ストアはどこにでもあるウォルマート系列のあれだ。宇宙船でもウォルマートが展開してるってのは、超グローバル企業らしい。
 で、この宇宙時代になっても、人々は資本主義的な生活スタイルを放棄していないわけだ。
 だから、夕方になれば買い物客が来るし、惣菜だって出来立てほやほやが並び始める。

「何作るか決めてから来るのが、節約のコツらしいぞ」

 アタシはカゴをカートに乗せて、うろつき始める。
 鮮度はどれも均質。
 まぁ、バイオマス・プラント船から最適環境で運んできているだけだからな。
 せいぜい、傷の有無くらいしか違いはない。
 そして、傷の有無は味と関係がない。
 だから、結局何買ったってかわりゃしないわけだ。
 でも、人々は相変わらずスーパーに夢と希望を求めてる。
 やった、昨日よりいいトマトゲット、みたいな。
 お手軽に得した感をつかむことができるからこそ、スーパーはなくならないのかもしれない。

「お、このキャベツよくね?」
「そう? こっちがよさそう」
「いいんだよ! 土ついてるほうが生き生きしてる気がするだろ」
「洗うの面倒」
「魔女っ子は食器洗い担当だろうが」
「たしかに」

 魔女っ子はキャベツに飽きたらしく、いそいそと冷凍食品コーナーに行った。
 定番のヌードルメニューを見てるんだろう。降下先で食うならば、手間のかからない冷凍食品やフリドラが便利だ。
 さてと。
 キャベツ使って回鍋肉でも作るかな。
 豚肉にするか、羊肉にするか。それが問題となるが……安いほうにするか。

――ありがとうございましたーっ!

 店員の声を背に受けて、アタシらは買い物袋引っさげて帰る。
 商品は全部タグ管理されてるから、万引きなど不可能だ。だから、レジだってセルフレジになっている。
 それに、商品の棚出は完全に機械化。
 人が何かしてるといったら、呼び込みとか試食営業くらいかもしれない。
 ああ、ありがとうございましたーっと言う仕事もある。
 だけど。
 人々は絶対にサービス業から人を排除しないだろうな。
 どうしても、人は人と接したがるものだから。
 接客はなくてもいい、とおもってる奴はスーパーなんか行かず、オンライン・デリを使えばいい。
 仕事で忙しすぎるやつとかな。
 だけど、そうじゃない生活を求めている奴もいる。
 保守的といえば保守的だけど、悪いこととは言い切れないだろ。
 こう考えると、アタシと魔女っ子は、ライフスタイルって面からすればかなり保守的なんだろうね。

「今日はなに?」
「回鍋肉と昨日の残りの炊き込みご飯」
「チャイナとジャポン?」
「そういや、そうかもな」
「国は残ってないけど、レシピだけは残った」
「そう考えると、食事ってのは偉大だな」
「歴史なんかより、料理のほうが市民には役に立つ」
「だから、西暦の記憶は失われたわけか。まったく、人類ってのは欲に忠実だよ」


 穏やかな時間を感じるためには、穏やかではない時間が必要だ。
 大きくなるためには、まず小さくなければならないとかいう思想と一緒だな。
 問題は、その穏やかでない時間というやつが、アタシと魔女っ子にとって過酷ってことだ。

「数多すぎだろ!」

 倒しても倒しても、一向に調査対象施設の安全性を確保できそうにない。
 外周の敵性戦力を排除して、後の学術調査隊の進入を支援するのが任務だが……。
 まじ、こっちの手数考えて任務振ってるのか? 本部は。

 アタシらは、ハイドレーション・システム(背負う水袋)をチューチュー吸って、渇きを抑える。
 だが、惑星リリーパの砂嵐は、アタシらの皮膚から遠慮なく水分をはがしていく。
 乾燥と風は、脱水症状を起こさせる最高の攻撃だ。
 そんなもんを何時間もくらいながら、アタシらはリリーパ族とかいう小動物もどきが放置しやがった防衛システムとガチバトルする。
 
 スパルダンだのスパルガンだとといったセキュリティ・マシンもどきは、今のところアタシらの敵じゃない。
 確かに装甲は硬く、厚く、ぶち抜きがたいものだが、フォトン装備の前にはあまり意味があるとはいえない。
 とはいえ、アタシのへっぽこなブラオレットは、衝撃や振動を伝えはじめている。
 つまり、斬ったときにフォトンではなく、実体機関部に何らかの支障が出始めたってことだ。
 砂でも噛んだのか?
 そうだとしたら、市場でブラオレットがやたら安く流れている理由も分かるってもんだ。
 ARKSでも採用されなかったし、正規軍でもトライアル落ち。 
 そんな銃剣を使い続けるアタシは、命を怪しい代物に預ける不心得者ってところかね?

「魔女っ子、火力が足りねぇ!」
「わたしは疲れてきた。テクニックはデバイス運用が面倒」

 なんじゃら、複雑な入力を杖にしてるらしい。
 アタシも研修期間にフォースの真似事したけど、向いてなかったね。
 最近の第三世代ARKSとかいう連中は何でもなれるらしいけど……まぁ、支給されてる戦略支援OSが優秀なんじゃないの?
 大まかな動きなんか、殆ど防御ユニットやら、スーツにゆだねてるところあるからね。
 だから、ガキみたいな体……というか、ガキの魔女っ子っですら、曲がりなりにも戦争できるわけだ。

「撤退するか?」
「磁気嵐がひどい。どこかでビバークする必要がある」
「テレパイプは?」
「座標指定が困難」
「くそっ! この砂漠で一晩明かせって言うのか? 敵だらけだぞ?」
「緊急ビバークポイントの設定をブートする」

 アタシは魔女っ子が送ってくれた地図をみる。
 情けねぇ機械だな! 砂くらって時折画面がゆがむ。

「座標は分かった。移動するぞ、魔女っ子っ!」

 アタシはのこのこと近づいてきたマシンどもを叩き切る。
 だらしねぇブラオレットのせいで、マジ叩いて切るみたいな様相になってきた。
 肩とヒジ痛めちまう!

「救難信号も出す?」
「出すさ。死体になったら回収して欲しいだろ?」
「なにそれ」

 魔女っ子が汗と砂ですっかりべとついた顔で、微笑む。
 微笑は砂色だった、ってやつか?

「突貫するぞ。生存を最優先。敵の群れなど無視する」
「分かりやすくていい」
「逃げるのに慣れたってことさ」

 アタシは魔女っ子の手をとって走り出す。
 どうせ、すぐ息切れするだろうから、最後は担ぐなり抱えるなりして駆け抜けるつもりだ。
 持てよ、アタシの心肺機能。
 そして、あわよくば長距離走の船団新記録でも出してみるかね。


 どういうこった!?
 何で、迫撃砲弾が砂漠を耕してるんだ?
 ひゅるる、と甲高い音がしたら、アタシはへろへろの魔女っ子を下にかばって、伏せる。
 運がよければ、砲撃で死なずにすむ。
 だけど、腹と耳と心臓によくない砲弾は、アタシらをちゃんとよけてくれるだろうか?
 ARKS・正規軍共通識別信号出してるから、着弾誘導型の最新迫撃砲なら何とかなるはず! はず! はずなんだって!
 アタシはずるずると砂漠の砂を体全身に感じながら、這って進む。
 まさか人生で一度でも匍匐前進する機会があるなんてな。
 まるで正規軍じゃねぇか。
 しかも、相変わらず腹と頭に響く着弾が続く。
 時折、迫撃砲で吹っ飛ばされたマシンどもの部品が飛んでくる。
 きついボディーブローみたいな衝撃がきて、アタシが吐きそうになったらら、大体ちぎられた部品がアタシに当ったと思えばいい。
 それ以外のものが当ったとしたら……次の瞬間、天国か地獄でお目覚めだろうな。

「魔女っ子、大丈夫か?」
 アタシは下敷きにしてかばってる魔女っ子を確認する。
「うう、砂食べた」
「大丈夫そうだな! このまま砲声の方向に進むっ! 発射音と着弾の時差から、距離は分かった!」
「あなたって、戦闘計算だけ得意」
「生きるか死ぬかかかってりゃ、計算くらい速くなるっ! 行くぞ!
「立ち上がるの?」
「105迫撃砲、60迫撃砲なら、誘導装置がついてる。アタシらが今のところ生きていられるのは、それがここを耕してるからだ」
「そうじゃなかったら?」
「まぐれってこと! いずれ死ぬ」
「……神よ」
「祈るのは生き残ってからにしてくれ! 走らねぇと、後ろからやってくるマシンだのダーカーだのに解体されるぞ」
「……レイプはいや」
「それはないだろ! 殺されるだけだっての! さぁ、行くぞ! カウント3だ。小便漏らしてもいいからな」
「もう漏れた」
「……オーケー、内緒にしとく。3,2,1、走れ!」

 アタシの下に隠れてた魔女っ子が、のこのこと走り始めた。
 やっぱお前、走るのおせぇんだよ!
 だからアタシはフトモモ千切れるんじゃないかってくらいに回転させて、ガチ走りする。
 あっという間に先行した魔女っ子に追いつき、そのまま奴の体を抱えて、ラグビーの真似事しながら走りまくる。
 ラグビーとの違いは、迫撃砲の嵐と、追ってくる化け物機械連合の皆様に当ると即死ってことだ。しかも、ボールは魔女っ子とアタシの命。こいつはヘヴィなボールだと思うぜ、アタシはよぉ!
 砂嵐と、砲弾が巻き散らかす砂柱、そして、からからに乾いた喉に入ってくる砂を我慢しながら、生きることに、賭ける。駆ける、たまに吹っ飛ばされて翔る。
 おおっ!
 人生最長の3分間走になりそうだぜっ!


 砲弾のカーテンを抜けると、そこは基地だった。
 厳密に言えば、放棄された基地の周りに、見たことのある連中が作った野戦陣地があった、ってこと。
 俗に言うハリネズミ陣地だ。
 砂漠という劣悪な環境でも、軍隊お得意の土木工事で中々の防御線を形成している。
 外周には測距迫撃砲システムが整備され、教科書に載せたい20mmCIWSの火力網があった。
 そこを超えると、居住・管理・司令区画たる超硬プラスチックの壁がずらり。
 そして、門前には奴がいた。

「いいタイムね。最速の小学生くらいのタイムかしら」
「追われてる……」
「知ってるわ。砲兵が目標を駆逐してくれてるの」
「アタシも駆逐されそうだったぞ」
「生きてるじゃない? 何か問題でも?」

 砂と、汗と、擦り傷から漏れる血に汚れたアタシらは、どうしようもねぇ冷血なキャスト女に迎えられた。
 生き残った感激は、この女の傍若無人な振る舞いのせいで消える。
 普通、水はいるか? とか、衛生兵を呼ぶとかするだろ。
 そう。
 キァハ=キルル准将はそういう、ろくでもねぇ女だ。
 心配して損した。元気そうに戦争してるじゃん。アタシら巻き込んで。

「水よこせ。あと、シャワーあるか?」

 アタシはふにゃふにゃになって足腰立たない魔女っ子を、適当に下ろしながら言った。

「いきなり要求? 遠慮ってものを知らないのねぇ」
「遠慮なんかしてられるか。とりあえず保護を頼みたい」
「高いわよぉ? 命の値段って。それともあなたの命は安いのかしら」
「これは借りじゃねぇ。ARKSの緊急ビバーク座標がここになってたんだ」
「そうみたいね。あたしも知らなかったわ。まったく、勝手に上のほうで取引したんでしょうね」
「上? 六芒均衡とかか?」
「さぁね? とりあえず、入りなさいよ。要求どおり、シャワーも水も用意してあげるわ」

 キァハ准将がさっと手を上げると、砂漠使用の淡い迷彩色になったキャスト兵士たちが、魔女っ子に近寄る。

「いや、ちょっと待ってくれ。魔女っ子は、あれだ、すまないけど、女性キャスト兵に任せたい」

 アタシは魔女っ子の身上を配慮する。
 一度でも無理やりヤられちまったら、たとえ相手がキャストでも、男性型ってだけで怯えるかもしれない。

「いろいろ大変なのね。ポーニャ、エリシュカ!」

 キァハ准将が呼びつけた兵は、どれも戦闘仕様外装で色気もなにもないが、女性型だ。

「そこの魔法少女もどきを医務室へ。監視も女をつけろ。かかれ」
――了解。かかります

 指示を受けた女性兵たちは、魔女っ子を優しく抱えて、基地の中へと消えた。

「さぁ、あたしらも入るわよ。外にいると、関節に砂が入って痛いのよね」
「婆様みたいなこと言うなよ」
「しがたないじゃない。ランヌ、強行偵察小隊を出す。統制についてはも委任する。かかれ」
――了解。強行偵察小隊を展開、保護を求めるARKSの捜索・救難活動を開始。提示連絡コードは二番系統。かかります

 案の定、というか、やっぱりな、というか。
 砂嵐が変な形にゆがむと不思議に思ってたところから、ぞろぞろとキャスト歩兵が軍用ライフル、軍用機関銃、はてはランチャーもって現れた。
 結構前に見た連中よりも、携行火力が増えている気がする。それに、兵はみな増加装甲と、砂よけのための布を装備している。
 特にあたしが気になったのは、兵同士に会話がないことだ。
 たしか、軍用キャストどもは口頭で会話するみたいなコミュニケーションはとらず、直接リンクしちまうとか。
 光速並列思考し、光速で伝達する。意思決定と決断は常に合理解。
 それが正規軍。
 ARKSとは違って、組織による組織的戦闘に最適化された連中だ。

「正規軍も本領発揮ってやつ?」
「まだまだね。戦術級装備しか解禁されてないから。いずれ戦略級、大戦略級装備なんかの仕様許可が降りれば、もっと仕事が出来る」

 アタシとキァハ准将は、駐屯地の中に入る。
 野戦陣地と駐屯地が併設されているということは、ここでずいぶん長期的な戦線を張っていたのだろう。
 とすると、兵員の士気とかが問題にならないんだろうか、といらぬ心配をする。
 だけど、よく考えりゃこいつらは長年の戦争屋だ。
 組織戦の素人のアタシが心配する筋合いなど、ない。
 それに、駐屯地のなかを行きかう兵員は、どれもこれも職責と職務に忠実そうだった。
 少なくとも、ARKSロビーみたいにトレイン・ダンスをしている奴らはいない。
 まぁ、ダンスしてるから仕事してないってわけじゃないのが、ARKSなんだけどね。

 キァハ准将は、彼女の野営コンテナに招待してくれた。
 コンテナの中は、通信機材、電子資料を映すためのモニタ類と、応接セット、そして執務机しかない。
 こいつは、どこで寝るんだ? と思ったが、睡眠が必要じゃないキャストもいるのかもしれない、
 軍用ボディなら、そういう可能性のほうが高いし、合理的だ。

「ほら、座んなさいよ」
「コーヒーでもでるのか?」
「ま、そんなところね。シャワーはしばらく我慢して。先に片付けたい話があるの」

 彼女はアタシの前に、コーヒーサーバとマグをどんっと置いた。
 好きなだけアイスコーヒーでもホットコーヒーでも飲めということだ。
 アタシは遠慮なく、アイスコーヒーをがぶがぶ頂くことにする。
 まぁ、冷たくてうまい。
 だけど、コレじゃない感を体が主張してくる。
 乾いた体には、純粋な水に塩をたらしたものがいいんだ。だけど、それは言わない。
 この駐屯地に『有機体』が来る事態など想定していなかったに違いない。
 だって、このコーヒーサーバーはどう見たって新品だから。さっき箱から出しました的な雰囲気がぷんぷんする。
 そうじゃなきゃ、潔癖症レベルのきれい好きが、一時間ごとに分解掃除してるに決まってる。

「どう、渇きはおさまった?」
「ああ。一生分のコーヒーを摂取した」
「余裕が戻ったみたいね。じゃ、本題に入るわよ」

 キァハ准将は、アタシの向かい側のソファに優雅に座って、モニタに手をかざした。
 すると、モニタの画面は一隻の戦艦を映し出す。どうも、スペースバトルシップとは形状が違う。
 一体、こりゃなんなんだ?
 わざわざ砂漠で戦艦とか、悪い冗談か何かか?

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ファンタシースター計画18


 灼熱の洞窟、この世界の暑苦しい赤をかき集めたらこうなりました的な洞窟で、リハビリがてら、殺す。
 殺されていくのは龍族の連中。
 殺すのはアタシら。
 それが倫理的に正しいかどうかはしらねぇけど、体の調子を取り戻さないとARKS稼業じゃ死んじまう。
 だけど、この任務はいけ好かねぇ。
 好かない任務だけどこなす。
 なぜなら、アタシはARKSだから。
 こうやって、言葉を交わせる種族のハラワタかっさばいて、ギャーギャー言わせるのが仕事なんだ。
 だから、出来るだけ速やかに殺す。
 無駄に傷つけるのは、アタシの信念に反するから、斬って、撃って、さっさと止めを刺してやる。
 だけど。
 龍族のディーニアンとかいうのは、人型だ。
 おまけに言葉が通じて、独自の文化を持ってるんだぜ?
 それを殺せって任務を出して、報酬で釣ってるんだから、ARKS本部ってのは信用ならない連中だよ。
 それにしたがうアタシは、もっと信用ならんかもしれないけどね。

「片付いたな、魔女っ子」
 
 アタシはブラオレットの刀身をずぶぶと引き抜いて、血を振り払った。
 龍族の戦士なんだろう。このソル・ディーニアンは死んでも剣を離さない。まさに、戦士の中の戦士だよ。

――任務達成、お疲れ様ですっ!

 アタシの通信デバイスに、底抜けに明るいオペレーターの声が聞こえてきた。
 たぶん、オペレーターの女は、アタシらのレーダ上の観測データだけみて、任務の成否を判断してるんだろう。
 だから、底抜けに明るく振舞える。
 でも、この状況であかるく、お疲れ様なんて言い合えたら頭狂ってるに違いねぇ。
 アタシと魔女っ子で、龍族の戦士たちを三十人は殺したぞ?
 そこかしこに、剣を握ったまま倒れている死者の列を見て、お疲れ様なんてありえない。
 かける言葉はただ一つだ。
 FUCK。

「不満なら、きくけど」

 魔女っ子は、殺したディーニアンの杖を調べている。
 たぶん、そういう文化的な装具に興味があるんだろう。

「不満だよ。何もかも不満だ」
「そう」

 ここいらで、アタシは溜め込んだ不満を愚痴っておく。

「大体おかしいんだよ。アタシは惑星アムドゥキアやらリリーパやらの降下資格なんざもってなかったんだよ!」
「それは何回もきいた。記憶障害ってかわいそう」
「いや、絶対そうだった!」
「それで?」
「だけど、気がついたときには資格を持っていた。けど、これはARKS資格というよりも、正規軍の資格じゃねぇか」
「仕方ない。キァハ准将からの依頼に応えるために発給してもらったんだから」
「だけど、あの冷酷女将軍は行方不明、だろ?」
「報道では。本当は何してるかわからない」
「でも、以前のアタシは相当心配してた、そうだな?」
「そう」
「以前のアタシは、もしかして惑星リリーパの何かを知っていたかも!」
「そうかも。だけど、それは失われた」
「まぁ、あの女が簡単にくたばるはずがないから、とりあえずおいとくとしても」
「ミカンとマトイ?」
「そうだ! あの二人のことが腑におちねぇ」
「どうして?」
「だって、アタシは何度も言ったとおもうけど……」
「デコヒーレンスと観測者?」
「それそれ」
「確かに興味深いけど、わたしの日記にはそんなこと書いてない」
「――日記かいてるのか?」
「昨日の自分が存在したことを確認するために」
「は?」
「古典的量子論と、現代のフォトン理論が融合すれば、未来が過去を改変する因果律収束や、特異デコヒーレンスもありうる」
「よくわからんが、アタシのいってることは認めてくれるんだな?」
「理論上は。だけど、マトイが絶対的観測者であるという見解は理解できない」
「どうしてさ?」
「調べた。マトイは時空接触したり、並行存在していたりしない」
「は?」
「フォトンポテンシャルもクォンタムポテンシャルも、所定の閾値だった」
「?」
「不安定ではないということ。つまり――」
「ためなくていいから。早く言ってくれよ」
「因果律収束がすでに生じた。本来出会う予定のなかったあなたが、マトイと接触したことで、全てのものとの関係性が調整された」
「……ようわからん。が、何でアタシにはその収束やらが起きてないんだ? ロビンソンクルーソーみたいに、異文化の世界に来たみたいなんだけど」
「さあ? あなたが『偽装人格計画』で生まれたプレーン・ボディだからかも」
「結局、そこかよ」

 アタシはアタシの生い立ちを忘れても、問題ないとおもっていた。
 確かに愛したような気がする『パパ』や、なんとなくあったような気がする幼少期の思い出なんかが、焼付け記憶だと知ってから、意図的に考えないようにしてた。
 だけど、その特殊なアタシの生い立ちが、こんなわけのわからん状況を作る現況だとしたら、ちょっと困る。
 まったく。
 どこの、どんな機関が偽装人格計画を推進して、プレーン・ボディを……

「なにか考えごと?」

 魔女っ子が伏目になりつつも、アタシを心配してくれる。

「え、ああ。偽装人格計画の首謀者について考えてた」
「考えて、どうにかなるの?」

 たしかに。
 下手な考え休むに似たりってのはよく言ったもんだ。
 アタシが足りない情報で事態をこねくりまわしたって、なにか真相がポロリしてくれるわけではない。
 大事なことは、適応することだ。
 いつぞや、ミカンがこっちの世界に来ちまったとき、魔女っ子はよくそう言ってた。
 それは正しい。
 適応してから、考えれば良いだけなんだ。

「――考え事はオワリだ。帰るぞ」
「待って。龍族の死体からサンプルを採る」
「へ?」
「研究所からの個人的依頼」
「あ、そ」

 魔女っ子はいそいそと死体から組織を切り取る作業を始める。
 アタシはなんだか、戦士の尊厳ある死が汚されてるような気がした。
 けど、魔女っ子はぶつぶつ祈りの言葉を唱えてるから、彼女も敬意をもって接しつつ、自分の仕事をやってるんだ。
 それに文句をいうなんざ、ダチのやることじゃない。


 アタシは、魔女っ子を後ろに乗っけて、愛用のモーターサイクルを飛ばす。
 宇宙船がワープする時代に、なんでこんな古くさい移動機械が存続してるのか、だれも分からない。
 ただ、人々はなんとなくモーターサイクルを捨てられなかったんだろう。
 だから、いまだにコツコツと作られているし、好きな奴は好きで乗ってる。

「……飛ばしすぎ」

 後ろのほうで、タンデムバーにつかまってる魔女っ子が文句を言ってくる。
 飛ばしてなんかいないんだけどな、
 単に、体が露出してるから体感速度が速いだけなんだ。その証拠に、周りの車と同じ速度だろ、といいたい。

「バイクなんて、人類の乗り物じゃない」

 そういいながら、バイク乗るときには、かわいらしい革ジャンを着る魔女っ子の気持ちが理解できない。
 教義でそうなっている、というわりには、いつも中々良いものを使ってるし。
 なんだかんだで、バイクに乗ることが嫌いってわけじゃないんだろう。

「次の交差点、左。それで看板が見える」
「へいへい」

 アタシがバイクを飛ばしてるのは、別に魔女っ子を連れてどこか旅に出ようってわけじゃない。
 単に、ミカンの勤めてる職場を覗きに行くだけだ。
 まぁ、迷惑って事はない。
 なぜなら、ミカンは大学付属の博物館で働いてるから。
 見物客が来たら、雑用的に案内業務もさせられてるらしい。
 つまり、アタシらは物好きな見物人になりに行くわけだ。


 付属博物館の建物は、さっすが研究機関と驚きたくなる偉容だった。
 箱物に金をかけるってのは、いつの時代も変わらない。

「デザインの基礎は、地球歴のころ、中心的存在だったUSAという国の大統領府」
「なんたらハウスだろ」
「それ」

 アタシの地球歴時代の知識なんざ、いいかげんなもんだ。
 まぁ。魔女っ子は理解してるみたいだけど、いちいち説明するのが面倒なんだろう。
 
「ところで、入館料とかは?」
「わたしは入館許可証持ってるから」
「かぁーっ! エリート博士様は違いますねぇ」
「あなたはあっちでチケット買ってきて」
「博士様の助手ってことで、入れないのか?」
「助手って顔じゃない」
「おい」

 アタシはしぶしぶ、暇そうにしてた受付のおばちゃんに金を払って、チケットをもらった。
 ついでにパンフレットも手渡された。展示物の概略が書いてあるあれだ。
 それの記載によると、常設展示は『地球の歴史』『パイオニア計画』『グラール太陽系史』の三つがあるらしい。
 その他、期間限定で『脅威! 惑星リリーパ・メカニクス』なるものがやっている。

「魔女っ子、リリーパ・メカニクス観ようぜ」
「なにいってるの? ミカンに会いにきた」

 ミカンは地球の歴史部門で働いてる。
 
「地球の歴史って面白いのか?」
「人類を面白いと思う?」
「全然」
「なら、面白くないと思う」
「えー」


 エアコンがよく効いた館内は、よくある博物館そのものだった。
 ガラスケースやら展示場を薄暗くともす証明。
 物静かに展示物を見る爺様婆様に、学者肌っぽい若造。
 アタシみたいな、昨日は龍族三十人殺してきました、みたいな野蛮人は少ない。
 そう、少ないだけだ。
 よくよく見てみれば、ARKSっぽいやつだって何人かうろついてる。
 たぶん、こういうところが好きなんだろう。

「パステルさんっ、ヒマワリさんっ、お待ちしてました!」

 とことことティーンエイジャーがよってくる。
 よう分からん、ふるくさい格好をしてる。

「なんだ、その格好は?」
「えっとですねー、セーラーを博士が見つけてきたんです! 似合います? 似合います?」
「まぁ、なんというか、自然だな」

 アタシは適当な評価をする。
 だって、そのセーラーだとかいう服装が、何なのかよくわかっていないし。

「それは三種の神器の一つ。セーラー服、スク水、ブルマー。神よ、わたしは畏れ多いものを拝めました」
「……魔女っ子、おまえ何言って」
「ヒマワリ・ヒナタ。あなたはいま神の辺縁にふれているの」
 
 魔女っ子が神妙な面持ちで、語り始める。
 なんでも、その三つを同時着用すると、特定の脳波を持つ男性の脳を直接破壊できるらしい。
 特定の、という連中がどんなやつかは知らんが、脳を直接攻撃するとはすごい兵器だ。
 正直、感心する。

「見た目の割には、とんでもねぇ兵器を着用してるんだな、ミカンは」
「おそろしい子」

 アタシたちは、少しだけミカンから離れる。
 このまま日ごろと同じ距離をとっていたら、確実にやられるだろう。
 ARKSとしての戦闘経験が、全身の筋肉を緊張させる。
 魔女っ子も、杖をいつでも召還できるように身構えている。

「パステルさんほどの人でも、地球文化って誤解なさっているんですね……」
「誤解ではない。ドージンシーという薄い古代の文献資料ではそうなっていた」

 魔女っ子いわく、ドージンシーというのは、オフセット印刷なる特殊な加工が施された書物らしい。
 性的描写を含むものや、そうでないものなど、多様で猥雑な特殊文化を表現したもとか。
 恐ろしい文化もあったもんだ。
 わざわざペーパーに絵を書いて、配布するなんて狂気の沙汰だ。

「……ドージンシーじゃなくて、同人誌です。それに、セーラー服は三種の神器じゃありません。ただの制服です」
「制服だって? 地球時代の軍の正式採用品だったってことか!」

 アタシはますます警戒を強める。
 だって、いまのARKSが装着している防具だって、ある種の制服だ。
 拡張型フォトンリアクターによって、不可視の防御場を形成する最新鋭モデルをアタシや魔女っ子は着用している。
 たとえ一見露出が多いように見えたって、それはあくまで稼動域を極大化するための合理化でしかない。
 柔肌が出ているように見えて、流体フォトンが防御層を形成しているのだ。
 だったら……。
 そのセーラー服とかいうのも、ただならぬ機能を備えているかもしれない。

「確かに、元々は海軍の制服でしたけど」

 海軍か……。
 今では軍は完全に統合運用されているから、何をしていた連中か知らないが。
 ただ、海というのは聞いたことがある。
 それは巨大な塩水の世界。
 スペース・ツナみてぇな巨大な魚がうようよいて、オルカだとかジョーズだとかいう知的な海洋生物が熾烈な生存競争を繰り返しているとか。
 でっけぇイカが防空戦艦みたいなのを飲み込んでる映像資料も魔女っ子に見せてもらった。
 ホホジロザーメとかいう怪物が、ヒューマンどもをデンデンデンデンとかいう音楽とともに食ってる資料もあった。
 そこに投入された軍なんだと考えると、相当な猛者たちだろう。
 いまで言えば、ARKSの戦闘狂連中とか、正規軍の宙間機動打撃兵、強行偵察兵なんかを想像すれば良いのかもしれない。
 そんな連中が採用していた制服だとしたら、マズイ。

「でも、なぜか女子中高生の制服として普及しちゃうことになっちゃったんですねー。戦前ですけど」
「戦前?」
「第二次世界大戦です。国家総力戦。学徒動員と勤労奉仕で、セーラー服はまた戦場を走ることになりました。ひめゆり部隊とか」
「国家総力戦?」
「はい。男女中高生は、戦争のために学業を中断して、工場で兵器を作ったり、戦場の医療を支えたりしました。あの頃は小学生だって空襲に備えてバケツリレーしてたとか。男子大学生や専門学校生は学徒動員で軍に入って、たくさん亡くなったそうです」
「戦場になったのか? あんたの国は?」
「第二次世界大戦のときは。主戦場になったのは沖縄でしたけど」
「そのとき、セーラー服は砲弾の下を走ったんだな?」
「沖縄、本土の空襲なんかでは、そうだったみたいです」

 アタシと魔女っ子は何も言わない。
 実際に、船団を守り、殖民惑星を保護するというARKSは、今まさに種族存続のための絶対生存戦争の最前線に立っている。
 そして、そのセーラー服とかいうのも、国家総力戦とかいう戦争の形態の中で、戦場となった場所を走る少女が着ていたものだとすると――
 アタシらは、敬意を持って接さなくちゃいけない。
 何千年前、何万年前か知らないけど、けっして古代の遺物としてバカに出来るものではない。
 なぜなら、それは戦士の装束だからだ。
 我々ARKSは頭のおかしい連中も多いが、全員、戦士だ。
 だったら、戦士の装束をみたとき、独特の感情が芽生えるのが当然だ。

「ミカン、あんたも、戦士の末端に列されていたんだな。アタシ、見直したよ」
「へっ?」
「神のめぐり合わせに感謝を」

 アタシと魔女っ子は、ミカンの服装に頭を下げた。
 なるほど、兵器としての機能は失われているが、戦士の装束としての伝統をなんとなく感じるよ。

「と、とりあえず、案内しますね!」
「ああ、さっきは無礼な態度をとってすまんかった。その服が最高に似合う女になってくれ」
「応援する」
「え、あの、え?」
「さぁ、案内してくれ。地球の歴史に興味を持ったんだ」
「お願い、ミカン」

 戦い続けた地球文化の遺物を学びたいという熱い気持ちがみなぎる。
 魔女っ子のやつも、知的好奇心が相当に刺激されたらしい。
 まさか、博物館でこんな厳かな気持ちになるなんて思ってもいなかったぜ。
 まいった、まいった。

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ファンタシースター計画17

1
 アタシはシップ2の旧市街に、某先輩と待ち合わせの約束を取り付けた。
 ファンタシィ・スターバックスの、チェーン店らしいソファでコーヒーを奢ることになってる。
 で、やっぱりあの人はアタシより先に着いていた。

「うふ。うふふふ。お久しぶりですねぇ、ヒマワリさん。お元気でしたかぁ?」

 ほんと、この先輩はアウトだとおもう。
 少女趣味のイオニアヘッドに、スカート気取りの外装パーツ。
 しかも動作はなよなよした少女しぐさをプリインストールしてる。
――だが、目がかっぴらいてる

「ご無沙汰していました、リサ先輩。中で話しましょう」
「突入ですか? 良いですねぇ、標的が一杯ですねぇ」
「いえ、罪のない民間人ですから撃たないでくださいよ」
「他人に戦わせてお茶してる人たちに罪がないんですかぁ? リサにはみんなクソの詰まった肉袋に見えますねぇ。撃ってみたいですねぇ」
「勘弁してくださいよ……」
「人じゃないから撃って良いんじゃないですかぁ?」
「人ですよ。先輩は相変わらずですねぇ」
「うふ、うふふふ」

 アタシはリサ先輩お気に入りのマキアートの一番でかいのを買って、席に着いた。
 リサ先輩はパッと見、美少女革命だから、まわりの男たちの視線を集めてる。
 まぁ、アタシも負けてな……いこともないかも。やっぱ、キャストの作られた造形美はアタシも心奪われる。

「どうぞ」

 アタシはリサ先輩にマキアートを勧める。
 しかし、このキャスト・マキアートってのは一体何が入ってるんだろう?
 妙に黒々としてて、それでいて緑色のホイップみたいなのがのってる。
 で、リサ先輩はそれをずずっとすする。
 どうやら満足してくれたみたいだ。少なくとも三分ほどは銃を乱射しそうにない。

「ところでリサはですねぇ、この前、ダークラグネを穴だらけにしたんですねぇ。とぉーっても気持ちよかったのです」
「はぁ」
「アサルトライフルで銃創を形成してあげて、そこにグレネードシェルを突っ込むと、体液がビュッ!」

 リサさんは真っ赤な瞳をうるうるさせながら、あのときの快感を思い出しているらしい。
 キャスト的には、性的絶頂なんかないはずなんだけど……。
 たぶん、この先輩が人やニューマンだったら、トリガー引いて敵が死んだら濡れて絶頂するタイプだ。
 やばすぎる。
 あんまりお世話になりたくない先輩だが、ここは仕方ない。
 なお、リサ先輩をうっとりと見ていた連中は、さっと視線をそらし始めた。

「ところで、リサ先輩。今日は相談がありまして」
「ヒマワリさんが相談ですかぁ? 珍しいですねぇ。怪しいですねぇ。でも、うれしいですよぉ」
 
 ニコニコ笑って、いきなり銃をぶっ放しだすんじゃないかと心配になるけど、アタシは気合を入れて立ち向かう。

「実は、マトイという少女をご存知ないかな、と」
「マトイさんですかぁ。ご存知ですよぉ。存じ上げてますよ。時空接触しちゃってる危ない子ですねぇ」
「難しいことは良いんですが、会えませんかね?」
「あえますよぉ。リサと一緒なら余裕ですよぉ。うふ、うふふふ」
「じゃ、紹介していただけますか?」
「良いですよぉ。すぐ会っちゃいますかぁ? それともヤッちゃいますかぁ?」
「会う方向で、お願いします」
「りょーかーい」


 リサ先輩に連れられて、いくつかのポータルを乗り継ぐと、ARKSロビーに着いた。
 相変わらずロビーは混雑している。
 いつもどおりのダンサー連中が騒いでるし、ソファーで雑談してる奴らもいる。
 無言で黙々とカウンターの仕事案件を見てるやからも多い。
 まぁ、みなさん仕事ご苦労さんってとこだね。
 アタシのほうは、ちょっと別件だけど。

「メディカルセンターの横にいる生意気そうなのが、マトイさんですねぇ」
「えっと、どこですか?」
「見れば一発ですよぉ。では、リサはお仕事なのです。ごきげんよう、ごきげんよう」
「ありが……」

 お礼を言う前に、リサ先輩はるんるんと、カウンターのほうに歩いていった。
 仕事というか、単純にダーカーを殺したくなったんだろう。
 とりあえず、メールでお礼の文面を送っておく。
 
 で、そのマトイってロリ巨乳はどこにいるんだ?
 
「あ、久しぶり、ヒマワリ」
「あん?」

 何じゃらほい、白銀の髪、白い着物、そしてデカイ乳のガキがアタシに話しかけてきた。
 アタシはその瞳を見たとき、すこしだけ、何かがずれたような気がした。
 なんというか、一瞬だけ、水の中で目を開けたような揺らぎを覚えたというか……。
 あるべきものの形が、少しずれたというか。
 だけど、アタシの足はここにあるし、鍛えた腹筋はたるんでないし、胸だってつんとしてる。

「えっと、誰ちゃん?」
「え……ひどいよ、ヒマワリ。いじわるしないで」
「あ、え?」
「それよりね、ミカンが今度一緒に映画に行こうって誘ってくれたの……私、うれしかった」

 オーケー。毎度おなじみ電波ちゃんか?
 アタシの周りにはろくでもない連中が跋扈するからな。魔女っ子、軍人連中、旧人類、法院官僚、鉄砲狂。
 そして、なんだ? 今度は下乳ロリ娘か?
 いや、待て、落ち着けアタシ。
 ミカンがなんだって?

「ミカンが、映画?」
「そうだよ? ヒマワリがチケットくれたって喜んでた。ヒマワリはミカンにやさしいね」
「え? アタシはチケットなんか……いや、待て、ミカンはそもそも半透明に……」
「半透明? ミカンが半透明になるなんて、ヒマワリは変な冗談ばっかり」

 静かに笑う小娘に、アタシは理解の及ばぬものを感じる。
 
「もしかして……あんたがマトイか?」
「ヒマワリは演技派だね。顔が真剣に疑ってるよ? 上手ー」
「いや、感心されても……ちょっと良いか?」
「あ、うん」

 アタシは乳だし娘との会話を中断して、個人端末で魔女っ子にコールする。
 早く出てくれ……。
 スパゲッティーモンスター教団のテーマがここまで耳障りに思えたのは久しぶりだぞ。
 早く、さっさと出やがれオカルト娘。

「――キーラ・セライ」
「あ?」
「教団の挨拶。キーラ・セライ。さぁ、あなたも」
「き、キーラ・セラ? いや、そもそもアタシは信仰心ないから」
「で、何か用? わたし、いまセキュリティチェックで忙しい」
「いやいや! おかしいだろ。ミカンはどうなった、デコだかヒジで、半透明なんだろ?」
「――ヒマワリ、あなた、惑星で頭でも殴られた?」
「降りてねーよ。とにかく、ミカンは?」
「仕事だけど。ヌヌザック博士のところ。それよりも、早く家賃持ってきて。今月分まだでしょ」
「ああ、そういやぁ……いや、待て。ちょっと待ってくれ」
「なに? わたし、パスタゆでなくちゃいけないんだけど」
「あのさ、マトイって知ってるか?」
「――いまどこ?」
「メディカルセンター前。マトイってやつに話しかけられてる」
「――そのままメディカルセンターにいて。すぐ行くから」
「た、助かる」
 
 アタシは頭を抱えてしゃがみこむ。
 ミカンが、仕事?
 半透明になってどうしようって話じゃなかったか?
 
「ねぇ、ヒマワリ……大丈夫?」

 マトイのやつが、えらく心配そうにアタシに声をかけてくる。
 なんでこいつはこんなに親しげなんだ?
 しかも、まるであったことあるような口ぶりじゃねぇか。
 
「もうすぐ、パステルが来る。しばらく休んで良いか」
「あ、うん。そこのソファで……」
 
 アタシはロリ巨乳につれられて、円心状のソファに腰を下ろした。
 頭が割れるんじゃねぇか、ってくらいに痛い。
 痛いすぎて……どうしようもない。
 視界はくらくらするし。

「大変! ヒマワリ、鼻血でてる!」
「へぁ?」
「これ使って」

 マトイがきれいなハンカチを出してくれた。
 だけど、それを血で汚すわけにはいかねぇから、アタシは自前のハンカチにモノメイトをしみこませ、鼻に当てて吸い込む。
 正直、むせる。
 だけど、コレで止血は出来る。

「本当に、大丈夫なの? この前は砂漠で死にかけてたし……私は心配だよ」
「まて、砂漠?」
「惑星リリーパだよ。知り合いの正規軍の人が、そこで行方不明になったって」
「……だれが行方不明なんだ?」
「えっと――」

 マトイは市民用の、おしゃれさを追及した端末を出して、アタシにニュースヘッドラインを見せてくれた。
『第44宙間機動打撃旅団、通称殴り込みキァハ旅団が数十年ぶりの実働演習中に消息を絶つ』
 その記事をアタシは食い入るようにみて、そのまま記事の誘導に沿っていく。
 あの頭のおかしい女司令の旅団は、やっとこさ元老院から取り付けたお墨付きをもって『砂漠の嵐演習』に参加。
 だけど、降下後、旅団丸ごと音信不通となって、現在、ARKSが捜索作戦を実行中だそうだ。
 
 信じられない。
 アタシの知っているところじゃ、あの連中はいまだ兵を動かせないことをぼやいてた。
 それに、こっちはミカンがスケスケだったから……。

「しっかり、ヒマワリ」
 
 うつむくしかないアタシに、聞きなれた声が飛んできた。

「パステル……」
「鼻血? 脳に損傷かも」
 
 魔女っ子はアタシの簡易スキャンを開始する。
 かってにバイタルチェックされるのも慣れたなぁ、とおもったりもする。

「脳に負荷がかかってる。入院」
「おい、嘘だろ?」
「ホント。何したの? また黙ってキァハ司令の捜索にでも降りて、機械にやられた?」
「いや、アタシはリサ先輩と……」
「――完全に混乱してる。精密検査しないと」
「おいおい、アタシは正常だって」
「でも、バイタルサインと脳波は正常値じゃない。わたしは専門家だけど、あなたは素人」
「まぁ、そうだけどさあ」
「マトイ、ヒマワリをありがとう」
「うん、パステル。こんど遊びに行くね」
「そう。MISOラーメン好き?」
「食べたことないけど」
「じゃ、それ用意しておく」
「やった! じゃ、ヒマワリ、お大事に――」

 アタシは割れそうな頭に屈した。
 視界を失い、平衡感覚が消えた。床がどこにあるか分からず、そのまま倒れちまった。
 魔女っ子が何か措置を施そうとする声や、マトイとかいうのが混乱してあたふたする声が聞こえてくる。
 けど、それも、絶えた。

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ファンタシースター計画16

 ものごとなんざ、決して都合よくいかない。
 都合よくいくとしたら、綿密な計画と下準備、そして運があったときだけさ。
 ミカンのやつにはどれも欠けていた。
 だから、こうなる。

「だめ。ミカンは完全に『存在が希薄化』している」

 パステルは、可愛いおめめでわけの分からん事を宣言してくれる。
 アタシは、なぜミカンが『半透明』になっちまったのか、皆目理解できない。
 昨日まで普通に飲んだり食べたりしてたじゃん。
 それがこれって、どう考えてもおかしい。
 だいたいだな、人間が半透明の存在になるなんてありえるのか?
 ミカンのやつは、あきらかにスケスケだった。
 服が透けるなんて話だったら、萌え萌えキュンで話がすむ。
 だが、ベッドの上で寝てるのに、ベッドが見えるってのは、萌えとかそういうレベルじゃない。
 人口太陽の光は、彼女の分子をすり抜けちまってるからこそ、アタシの目がやつを半透明と認識してるんだろうか?

「完全にデコヒーレンスしてる。古典的量子論のレベル」 

 おい? 分かるように説明しろ、と大声を出して暴れたい。
 だって、こいつは働き口を見つけるっていって、これからがんばろうとしてたんだぜ?
 がんばる奴は、それなりに報われたっていいだろう?
 なのに、なんで、シップの一つでデコだかヒザだかわけの分からん状態になるんだ?

「魔女っ子。わけが分からん。アタシに分かる水準で説明しな」
「ニューマンの幼稚園児くらい?」
「そうだ……アタシが馬鹿なのは認めるよ」
「バカじゃない。無知」

 オーケー。お前はアタシがバカと無知の区別がつかないレベルだって分かってくれたみたいだな。

「古典量子論だと、世界は観測によって可能性が確定される」
「わけわからん」

 アタシは半透明のまま眠り続けるミカンをじっと眺める。
 何が観測だよ。
 すやすやねてるじゃねーか。

「たたき起こしていいか?」
「やってみればいい」

 アタシはパステルの許可をもらったから、おい、朝飯の用意が出来たぞと起こしてみる。
 だけど、ミカンはティーンでキッチュでハイスクールチルドレンな寝顔のまま、起きない。

「我々は観測者ではないから、可能性を固定できない」
「……わかったよ。つまりあれだろ? お手上げって言いたい。そういうこったろ?」
「違う。存在の観測について、観測者がいないと言っただけ」

 パステルのやつは、アタシの神聖なマイルームを大学図書館か講義室にしたいらしい。

「だ・か・ら、分かるように説明しろよ」
「ジョンは500メセタもってコンビニに行きました」
「は?」
「算数の問題」
 算数ってお前、アタシを馬鹿にしてるだろ。
「唐突だな……」
「これを古典量子論にすると、『誰がジョンの行為を観測したのか』が問題になる」
 おいおい。おかしーだろ。
「ふつーは、ジョンが200メセタ菓子を買い込むんじゃないのかよ」
「ジョンが500メセタもってコンビニに行く姿を見たのはだれ?」
「しらねぇよ。近所のおばさんとかじゃないのか」
「近所のおばさんが、ジョンをみてなかったら?」
「……コンビニの店員とか」
「それもいなかったら?」
「おい! いいかげんにしてくれよ」
「誰もジョンが500メセタもってコンビニに行く姿をみていない。なのに、ジョンはコンビニに行けるの?」
「行けるだろ。本人がそれを知ってる」
「本人が『認識』出来なかったら?」
「ありえねーよ」
「あなたは、バイクの鍵をいつもどこに置いたか忘れる」
「それとコレに何の関係が……」
「あなたは、いつも行動を認識しているのに、どこにおいたか分からないという。矛盾」
「無意識ってのがなぁ……」
「その間、鍵はどこにあるの? なくした鍵は? 玄関? 靴の中? 装具のポケット?」
「……最後においた場所だとおもうけど」
「最後においた場所を知る方法は?」
「鍵を見つければいいじゃねぇか」
「つまり、あなたは鍵の合ったところが、鍵を置いたところだと『認識』したに過ぎない。そもそも、あなたは鍵を失くした、と認識するまで、鍵の存在は限りなく『可能性』の世界に包摂される」
「……魔女っ子、お前あたま大丈夫か?」
「それに、500メセタは存在するの?」
「は?」
「500メセタはその存在が認識されるまで、存在は可能性の段階に留まる」
「わかった! わかったよ。お前、ミカンが透けちまったから、ちょっとおかしくなってるんだろ?」
 一生懸命ミカンのためにいろいろがんばってたからな、こいつ。
 つらいんだろうなぁ。
「なにをいっているの? わたしは極めて優秀で冷静」
「おい」
「本来、古典量子論はミクロ系に限定されるといわれていた。だけど、フォトンの発見は量子論のミクロ系がマクロ系に適用されるとの筋道をつけた」
「あれだ、もーSFはいいよ。どうすりゃ良いのかだけ教えてくれ」

 魔女っ子のうすら暗い講義を聴いて、アタシの頭はおかしくなりそうだった。
 そもそも大して良くないあたまに、意味不明なことを注がないでくれよ。

「ミカンの存在を『認識』するための観測者が必要」
「アタシたちじゃ駄目なのかよ?」
「わたしたちはわたしたちの世界の観測者。わたしたちはORACLEによって観測されているから、存在できる」
「?」
「ミカンはORACLEに観測されていない。彼女は旧人類だから」
「アタシだってヒューマンだけど」
「ヒューマンは改良された新しい存在。旧人類とは本質的にも、存在の原因も、相違している」

 どういうことだ?
 アタシは間違いなくヒューマンなんだ。
 だけど、ミカンは違う? 旧人類?
 新人類ってのはパステルみたいな魔女っ子ニューマンとか、法院のイケメン野郎とかじゃないのか?
 ようわからんことだらけだ。

「だから、観測者を探す。手始めに……」

 魔女っ子がビジフォンと個人端末を接続して、部屋中にわけのわからん映像資料を展開する。
 アタシの健全な体育会系の部屋と、魔女っ子のオカルト魔法使いの部屋が、写真、動画、音声で一杯になる。

「この中から『観測者』たる資格を有する人物を探し出す」

 おいおい。そりゃ無理ってもんだろ。
 この画像ファイルだの動画ファイルに映ってる連中をしらみつぶしに探せってか?
 だいたい、これ全部交通局とか、ARKSの監査部とかが集めてる資料だろ。
 さすがのアタシでも、ファイル形式くらいは読み取れる。

「で、この資料はなんなんだ?」
「サブフレームを経由して、非合法に転売されていた資料」
「……お前、宗教にのめりすぎて、金使いすぎたのか?」
「失礼な。わたしは情報を売ったりしない」
「ってことは、買った側?」
「一面では。だけど、それがわたしの仕事だから」
「仕事?」
「情報保全。ORACLEから流れそうな情報を監視し、必要があれば回収もしくは改竄する」

 へー。
 道理でアタシと同じくらいしか惑星に下りないくせに、アタシより金があるのか。
 いいなー。賢いやつはさ。
 でもまぁ、アタシも正規軍から報酬振り込まれてるからな。
 っつーか、ARKS同士って、収入源がどうなってるかなんて話すことないし。

「この資料は『絶対的観測者』と接触した者たち」

 大量のARKS人事記録が羅列された。こうやってみると老若男女人全種族がARKSになってるんだと分かる。

「『絶対的観測者』は、『マトイ』などと呼ばれている」
「などと? 嫌いなのか、そいつのこと」
「わたしはかの者の存在を観測していない。だから好悪はない」
「なんだそりゃ。つまり会った事ないって事だろ?」
「違う。マトイと接触したものは、全て別個の『マトイ』と関係を持っている」
「関係を持つって卑猥だな」
「実際、露出は派手」

 映像資料がぽんっと映し出される。
 そこには銀髪のロリ巨乳のが、胸元開いた服を着て突っ立っていた。
 あれだ、廃棄区画あたりで営業してる少女売春を思い出す。

「あなたと同じくらい、肉感を主張してる」
「アタシは、動きやすい格好をしてるだけさ。だけどこいつのはヒラヒラしてる。戦闘は出来ないだろうな」
「で、問題はこれ」

 魔女っ子は、多くのARKSとマトイとかいうロリ巨乳が一緒に映った資料を見せてくれる。
 どれもコレも、違う男だったり、女と一緒に映っている。
 マトイの表情は、信頼感に満ちた笑顔のときもあれば、頼るものがいないから、しかたなくはにかんでいるようなのもある。
 しっかし……ここまでいろんな連中に手を出してたら、嫉妬の嵐で刺殺銃殺魔法殺なんじゃないのか。
 
「えらい男好き、女好きなんだな。とっかえひっかえか? 同性愛も異性愛もってところは敬意をもつけどさ」
「ヒマワリ、あなたは勘違いしている」
「いや、証拠があるじゃねえか、こんなに映像資料があれば、一万股とか百万股とかだろ」
「ところが、全てのマトイは個別に存在する」
「は?」
 
 また意味不明なことを言い出した。
 一人の人間がたくさんの男女と寝れるわけねーだろ。
 いや……だが、世の中には肉布団とか、そういう趣味の奴もいるしな。
 ハイスクールのティーンエイジャーどもの間じゃ、乱交が社会問題化してるってニュースでやってたし。
 道徳ってのが宇宙時代じゃ、権威を失っちまうからなぁ。

「このマトイは、ARKSロビー全てに『並行』して存在する。認識し、認識された数だけ関係が存在する」
「まてまて。じゃあれか? アタシが見に行っても会えないけど、会ってるやつがいるとか?」
「概ねそう。ARKSの一部は同時時間に、同一空間で、個別のマトイと『個別の関係』を持っている」

 個別の関係……というと、なんだか生唾飲んじまいそうだが、そういう話じゃない。
 とにかく、そのマトイがなんだっていうんだ?

「じゃあ、そのマトイってのを見つけて、ミカンにあわせりゃいいのか?」
「たぶん。マトイはおそらくデコヒーレンス化しているにも関わらず、並行存在になってるから」
「つまりなんだ?」
「時間軸的に先行しているマトイを見つけられれば、過去を収束させることが出来る」
「は? アタシはSFが嫌いなんだよ。恋愛とかファンタジーにしてくれないか?」
「因果は原因と結果が時間線として形成されるのではなく、未来が過去を決定付ける場合もある」
「オーケー! そこまでだ魔女っ子!」
「え? あなたバカなの? 死ぬの?」
「こまけぇこたぁいんだよ! 要はマトイをつれてきて、ミカンと恋仲にすれば良いんだろ?」
「つれてきて、認識させるだけで良い。恋仲は不要」
「へいへい」

 まぁ、何とかマトイとかいうのは探し出せるだろう。
 一応、まぁ、あてがないわけじゃない。
 あんまり会いたい人じゃないが、たのめば何とかなるかもしれない。

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

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YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





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