スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ファンタシースター計画15

 アタシに生きる目的があるとすれば、一つしかない。
 以前はダーカーを殺したり、F機関がどうのこうのってのがあったけど。
 正直、自分の記憶が嘘であることについてうんぬんより、ミカンを助けたい。
 いや、助けるってのは語弊があるよね。
 助けなくていい。ただ、奴が独り立ちするための踏み台にさえしてくれればいい。
 
「あなたのやさしさは、ミカンを救うと思う」

 魔女っ子がアタシに一杯のジャポン酒を進めてくる。
 惑星の夜を再現したドーム天井の下、回転スシ屋で一杯ひっかけてる。
 つまり、アタシらは『バショー』で久々の休日を謳歌してるわけだ。
 周囲の客は、家族連れとか恋人同士。
 みんな週末の幸せの欠片みたいなのを食べてるんだよ。

「……本当に、すいませんでした」

 ミカンがハマダイをつまみながら謝る。
 その言葉には多少の気まずさと、十分なほどの反省があった。

「私が勝手に公園にお散歩に行ったりしたから、あんな事件が起きたんですよね?」

 ミカンがそういうのに対して、アタシと魔女っ子はきょとんとする。

「お前、勘違いしてるぞ?」
「え? でも、あれは私を狙った事件なんじゃないですか? 法院の人たちは、わたしの存在は特別だから、危険が及ぶかもしれないって言ってました」

 ま、最高法院の連中がどう考えてるか知らない。
 けど、キァハ准将のほうは、ミカンの利用価値は喪失の傾向にあるといってた。
 その理由は聞かなかった。
 アタシは、できるだけミカンをそういう策謀の渦から離してやりたいとおもってる。
 そのためには、首を突っ込まないことだ。
 
 
「お前を狙ったわけじゃないさ。あの事件はな、法院の持っていた【ブラックペーパー】とかいうのに絡む事件らしい。それが情報なのか、紙なのか、はたまた組織なのかは聞いてない。ただ、確実なのはあんたと関係はないという事実だ」
「……そうなんですか。私は自分のせいで法院の憲兵さんたちが亡くなったと思ってました」
「誰かのせいで死んだって考えるのはやめておけよ。心はそういう負荷に耐えられるほど強くはできてないんだ」

 特に、ミカンの心は。
 アタシは作られた存在で、ミカンは望まれて生まれた存在だから、心の強度が違う。
 いや、仕組みが違うんだろう。
 愛されて育った奴の心と、計画に沿って作成された心の違いがあるとすれば、あきらめの速さの違いだろう。
 愛されたことが確実な奴は、心の仕組みがとても複雑だ。
 センシティブといってもいい。いや、センチメンタルかもしれない。
 家族とケンカしたりもしただろう。
 親に生意気な口をきいたりもしてたんだろう。
 それでいて、一緒に飯食ったり、花火見たりしてるはずだ。
 だとしたら、そういう心は自然に豊かになるだろう。
 だけど、もう二度とそんなことはかなわない。
 ミカンは本当の意味で天涯孤独になってしまった。
 それに比べて、アタシはパパと呼んでいたやつの記憶は、どっかの誰かのもので、アタシ自身の記憶ではなかった。それはとても悲しかったけれど、割り切りはできる。

「ヒマワリさんは、そういうふうに考えたことがあるんですか?」
「そういうって、どういう?」
「えっと、自分のせいで誰かが苦しい思いをした、って感じのを」

 何気ない様子で、ミカンがアタシに訪ねてくる。

「ブリとハマチ、あとカニの味噌汁」
――ヘイ

 魔女っ子が、たんたんと勝手に注文をしまくる。
 今日はアタシのおごりだ、と言ってしまったことをちょっと悔やむ。
 この黒髪女には、遠慮という概念が存在しないようだ。
 そんな様をみながら、アタシはしずかにミカンに声をかける。

「あのさ、ミカン」
「はい」
「アタシは、初めての実戦で友達を死地に導いたんだ。そこでスシ食いまくってる魔女っ子も、そのときアタシのせいで重傷を負った。でも、アタシと一緒にいてくれる。それに救われてる」
「いつも一緒にいるわけじゃない。ヒマワリはホラー映画を観ない」
「そこはどうでもいいだろ」
「どうでもよくない。あなたはホラー映画を観るとバイタルサインが不安定になる」
「うるせー」
「事実は科学の第一歩」
 
そういう突っ込みはどうでもいいんだよ、魔女っ子。
 だけど、ミカンはくすりと笑う。
 なんだよ。何がおかしいんだよ。

「パステルさんとヒマワリさんって、仲がいいんですね」
「よくない。一緒に住んでるだけ」
「おい。アタシはお前を友達だと思ってたぞ」
「違う」
「……マジかよ」
「あなたは、わたしにとって最初の親友」

 オーケー。
 やっぱりお前は最高だよ。
 だからアタシは魔女っ子のグラスにショーチューを注いでやる。
 アタシと魔女っ子の関係を微笑んでみてたミカンが、職人にサーモンとマグロを頼む。

「うらやましいです。私はこっちにきてから、混乱してばかりです」
「だからさ、アタシらが協力してやるって言ってるだろ」
「でも、ご厚意に甘えるだけでは……」
「なんだ? サイタマ人は礼儀とか儀礼とかを重視するのか?」
「サイタマ人?」
「お前はサイタマってところ出身なんだろ? 国なんだ?」

 魔女っ子がずいっとガリを勧めてきたので、中断される。
 ガリの甘辛いさわやかな香味で、アタシの舌が心地よくしびれる。

「ヒマワリ・ヒナタ。サイタマは国家じゃない。一国家の一地方」
「へー。公爵領か何か?」
「……すいませんけど、ヒマワリさんの地球暦の認識って、どんなのなんですか?」
「え? なんか戦国時代だったんだろ? 国とか地方とかがしょっちゅう戦争とか反乱とかしてて、革命とか、天災とか、愛とかそういうの全部あったロマンチックな時代」
「ヒマワリ、それ『テラ・ラ・テラ』の話」

げ!

「それ、なんですか? パステルさん」
「ヒマワリが読んでるコミック。ベッドの下に隠してるの」
「なんで知ってるんだよ!」
「秘密はよくない。女同士、恥ずかしがる必要ない」

 いやいやいや。てめぇのほうが秘密が多いだろ。

「ヒマワリさん、私、頑張って独り立ちしてみます」

 ミカンの瞳には強い意志が感じられた。

「いいことだな。手は貸してやる」
「そこで、お願いなんです」
「なんだよ? 金はあんまりないぞ」
「職場を、紹介してほしいんです」

 なるほど。
 それは確かに重要なことだ。
 なんとかどこかでメセタ稼ぐ方法がないと、この船団で生きていくことなんかできない。

「職かぁ。で、お前、何が得意なんだよ?」
「えっと、小学校のころからずっとフェンシングやってます。国体にも出ました」
「なんだそれ?」

 アタシの知らない競技だ。
 こういう時は魔女っ子の出番だ。

「ずっと昔の騎士の剣術だったもの。地球暦のいつからか、それはスポーツになった」
「騎士か。ちょんまげ結ってネクタイして、鎧をまとってるんだろ?」
「たぶんそれ」
「全然違いますよ!」
「あれ? 違うってミカンが言ってるぞ」
「よく知らない。地球暦の研究をしている人はかなり少ないし、文献もない」
「――いいですか、騎士ってのはですね」

 それからミカンは騎士がいかに礼儀正しく、残酷で、わけのわからん連中だったのかを説明してくれた。
 すくなくとも、語尾にござるを付けるわけではないことくらいは理解できた。

「ってことはミカンは剣技が得意なのか?」
「……人殺しとか、動物を殺すのは嫌です。だから、そういう仕事はしたくありません」
「贅沢な奴だなぁ。嫌なことやると金を稼げるってのは世の中の一つのルールだぞ」
「研究能力はある?」

 魔女っ子が無茶振りをする。

「研究なんてできません。夏休みの自由研究でよく飛ぶ紙飛行機作ったくらいです」
「わたしのハイスクール時代の自由研究は『群集行動の研究』だった。蜂や蟻などの社会性を有する昆虫の研究は興味深い。七歳のころ、そればかりしてた」

 はいはい。
 七歳でハイスクール行ってるような奴の話は参考にならんよ。

「ってことは、ミカンはマジでこの世界では役立たずなんだな」
「皿洗いとか、飲食店とかはないですか?」

 すがるようにミカンが聞いてくる。

「自動化と機械化が進んでる」

魔女っ子がミカンの希望を粉砕した。

「あ!」
「どうしたんですか、ヒマワリさん? もしかして心当たりが?」
「いや、接客業があるぞ」

 アタシがそういうと、魔女っ子が睨みつけてきた。
 なんだよ。
 事実を言っただけじゃねえか。

「なんでもします! 是非紹介してください!」

 ミカンが頭を下げる。
 だけど、頭を下げられるような仕事じゃないんだよなぁ。

「いや、その、水商売なら紹介できるぞ」
「――!」

 ミカンがしばし逡巡した様子をみせる。
 そりゃそうだろう。
 サイタマとかいうところでハイスクール通ってたやつだ。
 いきなり男の相手をする仕事なんざ困るよな。
 あ、でも女の相手をするところもあるな。

「まぁ、いろいろ種類はある。ひたすらダンスを踊り続けるようなところ、おっさんの酒の相手をするところ、セックス産業だってある。いずれにせよ愛嬌と知恵と精神力の世界だな」
「嬌態と悲哀。ミカン、あなたはバージン?」
「……」

 ミカンが完全に押し黙っちまった。
 回転スシ屋でする話題じゃねぇ。
それにティーンエイジャーに推薦する仕事でもない。
ああいう仕事は経験がものをいう仕事だ。世の中の仕組みってやつを理解してるやつはちゃんと稼いで、店くらいすぐかまえるようになる。だけど、ティーンエイジャーで世の中がわからん奴がやると、搾取される一方の仕事だ。
 あの世界は、相当に知的じゃないとな。しかもその知性は限りなく実践的でなくちゃな。
学校でオベンキョすることが役に立つわけじゃない。

「魔女っ子、おまえに伝手はないのかよ?」

 あるわけないが、聞いてみる。

「ある」
「え?」
「え?」

思わず言っちまった。
 だって、こいつ、社会的とは言いにくいところあるだろ?

「宗教関係はナシだぞ?」
「ちがう。博物館で地球暦の調査員を募集してる。地球暦の遺物や遺跡は意味の分からないものが多い。無駄が多くて、理解不能。手つかずのまま放置されているそれらにケリを付ける調査員が必要なの」
「――研究活動みたいですね」

アタシもそう思う。

「研究というより、残務処理かも。給料は知的労働者としては最低。家賃と、食費と、光熱費を引いて残るのは、贅沢という概念から20光年くらい遠い」

 なるほどね。
 つまり、暮らしていける程度ってことか。

「やります! やらせてください!」

 ミカンが興奮して立ちあがる。
 アタシはあわてて奴を席に座らせる。
 ここはスシ屋なんだ。しかも行きつけ。
 二度とこれなくなるような騒ぎは避けたい。

「ほんとうに? 上司は天才で変態だし、調査業務の下請けARKSも変わってるけど」
「――変態ってどの程度ですか?」
「会えばわかる程度に。変態は体験的なものだから、言葉にするのは難しい」
「――ちょっと自信なくなりそうです。多少のセクハラはなんとか頑張れます」
「セクハラとかパワハラはない。そういう意味ではクリーン。だけど、変態」
「わけがわかりません」

 ミカンが戸惑う理由はわかる。
 変態だが、いわゆるHENTAIではないといわれると、混乱するだろう。

「とにかく場をセットする。しばらく待って」
スポンサーサイト

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画14

 ぞろぞろと建物内に残っていた連中が、立派な正面玄関から出て行く。
 巣を追い出されたアリみたいに死んだ顔してるやつも多い。
 おそらく、歴史上久しぶりの大事件だったんだろう。法院にとっては。

 アタシは気を失ってるミカンを武装憲兵の医務班にあずけて、お偉方の集まる本部に向かう。
 訊きたいことは山ほどあるし、言いたい文句は星ほどある。

「実に嘆かわしい。と、いいますか、正直失望しましたよ」

 アジャンのやろうが、笑顔をヒクつかせながら苦言をたれてる。
 それは、アタシの台詞だっての。
 でも、それに対して、キァハ准将は机の上に足を投げ出してだらけている。
 どんだけ態度悪いんだよ。
 その傍らに控えるニック大尉のほうも、返り血を乾くままにしてる。 
 こっちは、態度というより平常の感覚が麻痺してるんだろうな。

「キァハ准将閣下に事件解決をお頼み申し上げたのに、このザマとは」

 あきらかにアジャンの兄ちゃんは不満らしい。
 言葉の端々に、怒りをなんとか噛み潰してるのがでまくり。

「――だ・か・ら、命令を優先コードで上書きされたんだって。あたしだってねぇ、ここは一つ監察局さまに恩を売っておいて、持ちつ持たれつ、WINWIN体制を作りたかったわけ」

 キァハ准将は表情を変えず、声色だけで文句をぶちあげてる。

「内密にお願い申し上げたではありませんか。何ゆえ優先コードの保持者が秘匿された現場に現れたのですか? あなたがたの情報保守管理がいいかげんだったのでは?」

 法院のイケメン野郎はかなり頭にきてる。
 責任追及したくなるほど、余裕がない状況なんだろう。

「限界まで秘匿したわよ。部隊動かせないから、仕方なくニックを投入したのよ? しかも非武装で。部下の命を危険に晒したのに、あたしらに責任とばそうって腹積もり?」
「こちらは犠牲者を出した。上の階での射殺体は、私の大切な検索員たちだ」
「仇はとってあげたじゃない」
「生かして捕らえてくれれば、情報を聞きだせました」
「無理ね。ニックを武装させられれば出来たかもしれないけど、素手じゃ原始的不能よ」

 あー。あれは潜入した敵とかじゃなくて、アジャンの部下達だったのか。
 ってことは、ニック大尉がエグい殺し方でやっちまった連中が、先に階を制圧してたってこと?

「検索員たちの死は日常ですが、しかし、手際が悪すぎた」
「検索員? 秘密捜査官をそうやって誤魔化して呼ぶから、法院ってキライなのよね」
「法院には、秘密捜査官などおりません。訂正していただきたい」
「はいはい。検索員ね。探し物を見つけるためには暗殺だってするんでしょ?」
「いいえ。対象が不幸にも事故死したり病死するだけです。とても痛ましいことです」
「おー、こわいこわい。自分たちの警備体制の甘さを、あたしらになすりつけようっての?」

 キァハ准将が冗談めいた口調で言ってるが、ニック大尉は臨戦態勢を解いていない。
 アジャンの後ろには、武装憲兵が何人かいる上、この不毛な会談の場から人を遠ざけるためによくわからん私服の連中が周囲を警戒してる。
 まずい。
 なんだかんだで一触即発なんじゃねえのか?

「なぁ、こっちはミカンのやつを保護できたからいいんだけどさ……。お前らさ、いったいナニを揉めてるんだ? 確かに犠牲者がでたのは痛ましいことだし、犯人の一部を逃がしたとかなんとかってのも痛いけど、まだ自治政府警察レベルの事件だろ?」

 アタシは当たり前の感想をいってるだけ。
 内情はどうであれ、検索員の死は法院が誤魔化すだろう。
 そうすると、今回の事件は警備用マシンが暴走しただけの簡単な事件だ。
 とすると、本件は管轄が自治警察あたりの適当なところに回されて、円満解決だ。

「そうですよ。ヒマワリさん。あなたがた一般市民からすればそうでしょう」
「なんだよ、その言い方は」
「――我々の目的は別でした」

 どういうことだ?
 すこしアタシはことの流れを整理してみる。
 たしかにアタシはアジャンから法院に行けといわれた。
 理由はミカンを保護してもらったから。
 引渡しを受けるための、簡単なもののはずだった。
 しかし、結局なぜか武装憲兵と突入して、死体を見て、正規軍と法院の監察局が手を取り合うという意味不明な状況に飛び込む形になった。
 しかも、アタシは幻覚をみた。
 
 つまり、ここから導ける答えは一つ。
 また、アタシは陰謀屋どもの策謀につき合わされてる。

「また、アタシを利用したってことかい」
「いいえ。むしろ今回はそちらの、パステルさんですね」

 否定するでもなく、アジャンがぬけぬけと応える。
 たしかに、システム関係はアタシよりも魔女っ子の仕事だ。

「ミカンじゃねぇのか?」
「本件はどちらかといえば、政府機関同士の揉め事です。主導権争いといってもいいでしょう」

 おいおい。
 仲間内で殺しあってるってのか?

「おなじ政府組織同士で凌ぎ削って意味あんのかよ?」

 あえて、どこのナニがどう争ってるかは訊かない。
 首つっこみすぎるのもアレだからな。

「統合政府だからって、一枚岩じゃないのよ。いろんな思惑を持った連中が、いろんなところで妥協だの脅しだの実力行使して、ケイオティックなコスモスを作ってるだけにしか過ぎない。万人の万人に対する闘争が権力というリヴァイアサンを生み出すってのはよく言ったもんね」

 でたよ。めんどくさい話が。

「社会契約なんてのは、神殺しの物語にしかすぎませんよ。あんなもの、学問でもなんでもない。むしろ、権力がシステマティックになっていること事態に着目すべきです。システムとして整備されればされるほど、権力は人から隔絶されて、独自の存在になる。人類の歴史が証明していることは、権力がいかに人の手に余る代物か、ということです」

 アジャンの兄ちゃんがキァハ准将に反撃してんのか?

「つまらない人たち。社会科学なんてオタクの趣味」

 さんざん黙ってきいていた魔女っ子が、とんでもない一撃を放った。
 そういうこと、平然といっちまうから、こいつは周りから疎まれるんだろうな。

「――痛烈ね。たしかに再現可能性もない。わけのわからん仮説を平然と立てる。たとえば、そう、経済学なんかでいう消費論とか? 人間は効用を最大化するために行動するとか、そんなのありえないでしょ?」

 わけわからん。
 こいつらいつも意味不明だ。
 アタシからすりゃ、ごちゃごちゃ言ってないで、今後どうすりゃ良いか決めりゃいいのにと思う。

「法律学なんてクソですしね。気がつけば解釈ではなく、謎の比較法学だとか文献学みたいになっている。○○説だとか△△説とかいって、権威ある学者が言ったことを、妥当である、妥当でないとかいって争ってる。こう言っては何ですが、法学者というものが全て死んだとしても、世界は平然と回るでしょう」

 あれ? こいつ法院に勤めてるんじゃないのか?

「あんた、法院に勤めてる立場でしょ? もうちょっと司法府ってのを尊重したら?」

 そうそう。
 准将とアタシの思考がかぶったことはイラっとくるけど。

「職業としての重要性と、学問としての存在意義は別物ですよ。法は役に立つし、統治の技術であり、紛争解決の手段です。だが、学問としてはクソ以下です。偉い先生が何を言おうと、お子様同士のプリンの取り合いすら解決できない」

 確かに。ケンカして勝ったほうが食うか、より強いやつが勝手に決めるとか。
 少なくともも理屈の出番はない。

「力ある者が勝つのは、原始的な力関係じゃ普遍なのよね」

 そのとおり。
 だから、ARKSには階級がない。
 強いやつ、よく働くやつ、効率がいいやつが偉い。
 つまり、力関係が優越するやつが、勝手に主導権をにぎれるようになってる。

「すべては事実と事象によって構成される」

 魔女っ子がいきなり口を挟む。
 こういう話題なら、すぐ食いつくんだよな。
 アタシはむしろ寝てしまいたい、というか退屈。

「科学分析の手法は道具にしかすぎない。社会科学、自然科学、人文科学、いずれもツール。道具に優劣はなく、使いどころと使い方だけが問題になる。古代では文系と理系に峻別し、道具の優劣を争う愚か者がいた。本当に考えるべきことは道具の優劣ではなく、問題に対して適切な道具を用いていたかどうかだったのに」

 魔女っ子、お前、そんなこと言ってるから友だちいないんだよ。
 いまだっているんだぜ? 理系と文系にわけてるやつとか。
 そう、アタシのこと。
 ついでに、アタシは体育会系なんで、そのへんヨロシク。

「じゃ、話はまとまったみたいね」
「え?」
「良いでしょう、今回はキァハ准将に一任ですか」
「は?」
「異論はない」

 まてよ。
 何かいま話し合ってたのか?

「おい! いったいなにがどうまとまったって? アタシにはさっぱりだぞ。体育会系に分かるように説明しろよ。頭でっかちどもが!」
「――失礼ですが、ヒマワリさん。お話を聞いておられましたか?」
「体育会系ってあんた……こっちはゴリゴリ正規軍よ? 体育会系の極限なんだけど」

 なぜだろうか。
 みんながアタシを可哀想な子みたいに見てる。
 アタシがおかしいのか?
 いや、それはない。
 だって、こいつら事件について何一つ話し合ってないだろ?

「耳の穴はあるっ! だから聴いてたんだって」
「なにがわからないの?」

 魔女っ子がアタシを馬鹿にしてるのか? それとも、素直な親切心からか?
 助け舟になってねぇぞ、それ。
 全部だ。誰がナニをどうするか、ぜんぜんわかんねぇ。
 こういう、面倒な会話は大きらいなんだよ!
 だけど。
 でも。
 あまりにも、連中がアタシに向ける視線に哀れみが含まれていてイライラする。
 なんだか、分かったようなツラしておいたほうがいい気がしてきた。
 だから、アタシはアタシのネタをふる。

「……アタシがわかんないのは、なんでアタシが幻覚をみたかってこと」

 どうだろうか。
 さらに、アタシに向けられる視線が痛々しくなる。
 アタシ、もしかして空気読めてない?
 バカな!
 魔女っ子に劣るわけないだろ、そこだけは。

「ヒマワリさん、大変申し上げにくいんですが……」
「――言えよ、アジャン」
「幻覚とは、なんのことで?」
「ガルムのことだ」

 アタシがこういうと、また連中は気の毒そうに顔を見合わせる。
 マジ、ファックだな。
 こんな嫌味な連中と付き合いがあるってだけでいやになってきた。

「あんた、ミカンみたいに原始人なわけ?」
 キァハ准将が、ミカンに大変失礼なことを言う。
 謝れ! 地球暦のみなさんに謝れ!
「あん?」
「我々に投与されてるナノマシンは、脳関門障壁を透過する」
「魔女っ子、わかるように話してくれねぇか? アタシは学がないんだ」
「幻覚はありえない。ARKSの神経活動はORACLEによって恒常的に記録されてる」

 だから、分かるように言えと。
 仕方なく、アタシは分かってない感じを伝えるために、くちびるを尖らせる。

「私とあなたの観測記録は正常。脳の活動電位、神経についても異常は見当たらない」

 ピッピと端末をいじりながら、魔女っ子がさらりと宣言する。
 つまり、やつが言いたいのはこうだ。
 お前、アホか? と。

「幻覚なんかみてないわよ。あんたがみたのは全部事実。まぁ、脳が無意識的に遮断した情報は別だけどね。ニックの記録もある。これ、なかなか恥ずかしいわね」

――お前が好きだった

 大尉がガルムの声を出した。

――お前が好きだった

 ニヤニヤしながら、キァハが繰り返させる。
 おい、大尉、お前さんボイスレコーダ機能がついてたのか?
 いや、そうじゃない。
 あれは現実? 
 わけがわからん。
 死んだやつが、生きてる?
 生きてるはずないやつが、死んでいるべきであって……。
 あれ? だんだん混乱してきたぞ。

「ガルムは、死んだっ!」

 思わず声を荒げる。
 だけど、キモい二人は、飄々と聞き流すだけだ。

「……いいですねぇ、ピュアな心が残ってて」
「羨ましいわぁ。アタシも数千年前はこんな感じだった気がするわ」

 キレそうだ。
 こいつら、人が困ってんのに、なんら手を差し伸べるつもりはないらしい。

「魔女っ子、わけがわからん。助けろ」
「実は、わたしも分かってない」
「は?」
「わたしの信じる教義でも、死は別れに近い。なのに、二人は死を冒涜している」

 ここだけは魔女っ子とアタシは意見が一致してるようだ。
 だったら、やることはタダ一つだ。

「帰るぞ、魔女っ子。ミカンを連れてな。こんな連中といたら、心が腐っちまう」
「心があるかどうかは争いがあるけど、ミカンをつれてかえるのは賛成」

 それでいいさ。
 それでこそ魔女っ子だ。
 四の五の言わず、ARKSらしく、勝手気ままにやらせてもらう。

「おやおや、嫌われましたね」
「あんたさ、最初から好かれてないって」
「それは貴方もですよね? 准将」
「あたしは人に好かれるために造られたわけじゃない。人を守るために造られたの」
「いっぱい人殺してるじゃないですか」
「殺したやつよりも、救ったやつのほうが多いの。計算上は」
「命って、数なんですかね?」
「知らないやつの命なんて数字上だけの存在よ。ニュースで人の死を知って、自分が生きてることを確認するのが人生。デジタルなのよ、命って」
「その意見には同意いたしかねます」
「あたしも、監察局のやり口には同意しかねるわね。人を『対象』とか『目標』とか呼んで、罪悪感を希薄化させてるくせに」
「――この辺でやめときましょう。あなたを事故死させたくない」
「そうね。お互いの持つ力を、市民のために使うってことで」

 まったく気にいらねぇ。
 こいつらは一日中、めんどくせぇ謀略ばっかりだ。
 言葉一つはコミュニケーションじゃなくて、腹の探りあい。
 対人関係は利害関係だけ。
 そんなんで人生楽しいのかよって文句を言いたくなる。
 だから。
 アタシは気に食わない陰謀屋たちを放置して、ミカンの元に向かう。
 ミカンはこんな連中と接触させ続けたらだめだ。
 ちゃんと、アタシと魔女っ子で、このORACLEに溶け込ませてやるんだ。
 TLPT特異体なんかじゃねぇ。
 人として、安心して生きさせてやらなくちゃいけない。
 それが、小難しい理屈以前の、人の権利ってやつだからな。

 

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画13

 なるほど。
 どうしてこんなへっぽこな事件に武装憲兵だの、正規軍のキァハ旅団が関わってるか分かった。
 アタシが飛んだ先には、微笑ましいくらいに死体が転がってた。
 死体はヒューマンやニューマンが多かった。
 
――どれも精確に額に一発、左胸に二発撃ち込まれている。

 アタシは死体をさっと検分する。
 どの死体も、所属は分からない。
 どこにでもある私服を着てるのもいれば、ARKSの装備を着ているやつもいる。
 ARKS品を横流ししてるやつも多いからな。
 防具に限っては、当局の連中もけっこうお目こぼししてるみたいだし。

「魔女っ子、大尉の反応は?」
「わからない。さっきまではここだったけど」

 まったく。
 デルタだか三角だかしらねぇけど、連絡員くらい残しとけっての。

「じゃ、魔女っ子、さっさと――」

 アタシが魔女っ子を連れて行こうと振り返ると、やつはバタバタしてた。
 顔が赤い。
 首しめられてやがる!
 でも、だれに?
 姿なんか見えないぞ!

「手を離しやがれ!」

 アタシはブラオレットの銃口を向ける。
 
 だけど、それよりも早く、魔女っ子が床に崩れ落ちた。
 どゆこと?

「ヒマワリさん、油断しすぎだよ。目に見えない、機器に反応しないときこそ油断しちゃいけない」

 空間が段々と半透明になる。
 しばらくすると、敵と思われる可愛いニューマンの女の子を『腕』で貫いている大尉が実体化した。

――アタシは、マジもんの殺しの手口を初めて見た。

 大尉の指先は、ふつうのキャストの指とは違って、鋭利になっていた。
 いわゆる『抜き手』ていうやつだ。
 対象をぶち抜く手という、勘弁願いたい武器。
 大尉は腕を、女の子から抜いて、引っ付いてきた大腸の破片とか臓器のようなものを、ビチャっと床に振り払う。
 あんまり見ていて気分のいいものじゃない。

「ステルス戦闘は初めてかい?」
「助かった、大尉。いったいこりゃどういうことだ?」
「どうって、簡単さ。敵が待ち伏せてる。でも大丈夫。僕がぜんぶ片付けてあげるから」

 また、大尉が透明になる。
 アタシはへたってる魔女っ子をずるずると、壁際につれてく。
 どうしてこいつは物理攻撃に弱いんだ、ちくしょー。
――待ち伏せ? 敵?
 勘弁してよね。
 アタシは人同士が殺しあう場なんて初めてだっての。
 その間、天井とか、壁に血とか、なんか肉とかそれに類するものがビシャっと飛びまくってる。
 どうやら、敵もメタマテリアル技術を用いてるらしい。
 そりゃそうだよな。
 対人戦闘なんだから、いちいち姿見せ合って殺しあうわけない。
 そういう意味で、ARKSって仕事は見えてる敵を倒すだけでいいから、まだマシだ。
 しかも、相手は人間じゃない。

「クリア。いやー、時間切れしちゃった。数が多くて」

 再度、こっちの世界にもどってきたニック大尉は、返り血とそれに伴う臭さを思う存分アタシらにぶつけてくる。
 メタマテリアル機能を失陥したのか、あちこちに死体が実体化する。
 相手を逮捕するとか、そういう類の戦闘の結果じゃないのは目に見えて明らかだ。
 殺意全開の、急所ばかりをエグる攻撃が、大尉の手によって行われていた。

「素人ってわけじゃなかったみたいだよ。僕を足止めできたんだ。それはそれで有能さ」

 返り血を拭くでもなく、肩に乗っかった肉だか臓器だかを払うでもない。
 ただ、戦闘の感想を大尉が語る。

「お、おい、ミカンは? 他のデルタ分遣隊員が追ってるのか?」

 アタシはなんとか気を持ち直し、大尉に尋ねる。
 なお、魔女っ子のやつはモノメイトをちゅーちゅー吸ってる。

「デルタ分遣隊は僕だけだよ? 僕一人で分遣隊一個分の戦闘能力があるからね。キァハは予算に厳しい人だから、節約ってことで。だけど、変なんだよね。僕の給料はみんなと一緒なんだよ? 予算申請書には30人分の人件費計上するくせにさ。残りの29人分の給料はどこにいってるんだろう?」
「てめぇの給料のこたぁいい! ミカンは? 状況を説明しろ! 空気くらい読め!」
「え? さっきキミたちが救出したってキァハから通信があったけど?」
「アタシらは今来たばっかりだっての!」
「――キァハ、聞こえる?」

 大尉が通信を試みる。
 アタシも自分の端末を調べる。

「おい! 魔女っ子、通信が途絶してるぞ! テメェ、ちゃんと仕事したんだろうな?」
 
 アタシはモノメイトを吸ってた魔女っ子を問い詰める。

「わたしの能力の範囲では。システムの解析はしてないから、何か仕込まれてたかも」
「そういうとこまで気を配れよ!」
「無理。わたしはキャストみたいに、ダイレクトに自己と電子媒体を接続できない」
「先に言えよ!」
「あなたは聞かなかったし、説明しても理解できないはず」

 わたしはヒマワリ・ヒナタはバカであると思ってますって告白されてもなぁ。
 落ち込むしかないだろ。

「こっちも駄目だね。軍用の帯域に干渉されてる。キァハならカウンタージャマーできると思うんだけど、メタ認知が必要だね」
「は? 魔女っ子、翻訳しろ」
「指揮官は、ジャミングに気付いていないということ。知らないということを知ることがメタ認知」
「まずいじゃねぇか! どうすんだよ! ミカンは?」
「うーん、どうし――」

 いきなり、ニック大尉がその場に崩れ落ちた。
 電源切ったみたいに、ぐにゃりと、受身すらなく。

「おい! 大尉!」

 あわててぶっ倒れた大尉に駆け寄って、介抱を試みる。
 魔女っ子が端末を大尉の頭部に有線接続する。

「――最優先停止命令。主席執政官コードで割り込まれてる」
「はぁ?」
「キァハ准将を飛び越えて命令が上書きされた」

 わけわからん。
 あの准将のやつも、今頃地上でぶっ倒れてるってことか?

――太陽が沈むと、なぜ人々は発狂するのか?

 声がした。
 アタシは魔女っ子を背中にかばいながら、あたりに気を配る。
 殺意はどこだ?
 敵意は?
 とにかく、アタシに向けられるものを感じ取らなくちゃ。

――もう一度問う。太陽が沈むと、なぜ人々は発狂するのか?

「おい! くだらねぇこと言ってねぇで、姿を現せ!」

――狂わねばならぬほどに、太陽が沈んだ後の世界は悲惨なのか?

「なにを! 魔女っ子、どこに敵がいるかわかるか?」
「わからない。声は頭の中に直接ひびいてる。テレパスかなにかかも」

――ならば、太陽が沈んだとしても、人々が狂気にとらわれぬ世を作ろう

 そして、男が姿をあらわした。
 知っている。
 アタシは、それを知っていた。
 髪型は違うけれど、あごの形、瞳の強さ、鍛えてある大柄な体、そして大槍。
 
「……ガルム?」
――ヒマワリ。お前に会えて嬉しい

 幻覚だ!
 ぜったいそうに決まってる!
 死んだやつは絶対に蘇らないって世の中決まってんだよ……。

「アタシの友だちの幻覚みせるなんて、サイテーだね!」

 ブラオレットの銃口をガルムの幻に向ける。

――幻覚か。お前にはそう見えるかもな
「うるせぇ! 知ったような口をきくな!」
――現実は、あまりにも曖昧になった。信じるか、信じないか。事実に価値はないぞ
「ガルムは、そんな小難しいこといわねぇんだよ!」

 アタシは幻影に向かって、弾丸を撃ち込む。
 タネガシマ社謹製、フォトンリアクターによって圧縮されたフォトンが亜光速でガルムに向かう。
 だけど。
 アタシの弾は届かない。
 やつの大槍が、それを切伏せていたから。
 信じられねぇ。
 おかしいだろ?

「幻のくせに!」
――人は幻だぞ、ヒマワリ。認識されるまで存在しない。観測者なくして人は存在しない
「お前は死んだ! アタシのせいでな」
――お前は、俺の死を観測したか?
「ダガンのクソ虫どもに、バラされたのを見た。忘れねぇよ」
――それが、俺の死か?
「は?」
――MEMENTO MORI だな。お前は、死を知らなすぎる

 アタシの頭のなかの、うんたら袋の緒が断裂した。
 思いっきり息を肺一杯に吸い込む。
 そして、いっきに間合いをつめて、最高の速さで刀身をふるう。
 前のガルムなら、絶対に止められないはずだ。

 だけど、ガルムのやつはそれをなんなく受け流した。
 それどころか、体勢を崩したアタシを、そのまま抱き寄せやがった。
 ファック!
 誰にも抱かれる予定なんざなかったのに、幻覚に思いっきり強く抱きしめられる。
 正直、最悪だ。

――俺はお前を抱きしめられる。それでも、幻覚だというのか、ヒマワリ

 ああ、そうだよ。
 あんたは、死んだんだ。
 そいつが、こんな風にアタシを抱いちゃいけない。
 しかも、あんたの死の原因はアタシにある。
 だから、アタシをこんな風に抱いちゃダメなんだ。

――お前が好きだった。死んでから気付いた。俺は、お前に惚れてたんだな
「は?」

 幻覚のくせに!
 アタシの心をもてあそぶんじゃねぇ!

「魔女っ子! アタシをぶん殴れ! さっさと夢から目を覚まさせろ!」
「夢じゃない。その人は存在してる」

 冗談じゃねぇ。
 魔女っ子まで、幻覚を見てやがるんだ!

――必ず、俺がお前を解放してやる。

「うるせぇ!」

 アタシはアタシだ!
 記憶なんざ嘘っぱちで、戸籍だって作りもんだ。
 だけど、いまこの瞬間の感情も、感覚も、全部、いまのアタシのものだ!
 それは、誰にも勝手にさせない。
 たとえ、ガルムの幻覚を使ったって、アタシは今のアタシが感じたことしか信じない。
 そして、アタシの感覚が全部ウソっぱちだって叫んでるんだよ! 脳髄でな!

「……消えろ、ガルム」

――愛してるって言えてよかった。もう、心残りはない

 ガルムはアタシを妙にやさしく離して、そういった。
 幻覚のくせに……生意気なんだよ。

 そして、やつは消えた。
 やっぱり、あれは幻だったに違いない。
 だって、やつの姿が消えるとともに、すやすや寝てるミカンがその場に残されたから。

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画12

 どこのシップでも、フロウウェン通りってのは官庁街の大通につける名前と決まってる。
 なんでも、ずっと昔に大活躍して、そして死んだ英雄なんだとさ。
 そういう英雄の名を冠した通りってのは、金かけて整備してあるから人通りも車も多い。
 で、ミカンが保護されてるのは、このフロウウェン通りの庁舎ビル。
 どこにでもある、インテリジェントオフィスを機能させるための箱物だ。
 やったらフォトン張りで、きらついてやがる。

「包囲されてる」

 魔女っ子が指摘した。
 おっしゃるとおりです。
 確かに、法院が入ってるビルは、周辺道路全てが武装憲兵によって封鎖され、上空には監視ヘリが飛んでる。
 アタシらは、あのイケメンが用意してくれたゲストパスで、封鎖の輪を潜り抜けてきた。
 そして、ビルをじっと見上げてるわけだ。

「ARKSの方々ですか?」
 
 武装憲兵の一人が、声をかけてきた。
 人に命令するのに慣れてそうなやつだ。
 たぶん、この封鎖の責任者なんだろう。

「アジャンの奴にいわれて、ミカンって娘を引き取りにきたんだけど」
「課長補佐から伺ってます。なんでも、セキュリティ・システムにお詳しいとか」
「あー、それはアタシじゃないな。こっち」

 アタシはずいっと魔女っ子の背中を押す。

「おや。こちらのお嬢さんで?」

 責任者のおっさんは、魔女っ子をじろじろみてる。
 確かに、物珍しいだろうな。こういう奴は。

「で、結局なにがあったんだよ?」
「セキュリティ・システムに侵入されまして。ガード・マシンが暴れてます」
「非常停止装置は?」
「信号拒絶で。今のところ。物理的に排除する方向で検討してますが、これは予算の関係からできるだけ避けたい選択肢でして」

 そりゃそうだ。
 高い金払って、セキュリティシステム構築した挙句、自分たちでガード・マシンぶっ壊したら、何のためにそんなもん導入したのか分かったもんじゃない。

「セキュリティ・システムの基本設計は?」

 責任者のどうでもいい視線を無視して、魔女っ子は本題に入る。

「あちらに技師が待機しております。あのオタクが手におえないらしくて、外部に協力を依頼したわけでして、はい」
「きいてくる」

 とことこと、魔女っ子が簡易テント下で、ハードウェアを広げてる本部に向かう。
 そのあいだ、アタシはおっさんにビルの状況を聞きだしておく。
 なんでも、中にいる連中がどうなっているのかもわからないらしい。
 一応、武装憲兵の偵察員がもってきた映像では、とりあえず無事らしい。
 ただ、個人レベルで誰が無事とか、そういうのはわからんとのこと。

 おいおい。ミカンのやつは無事なのか?

「外部からはアプローチできない。サーバールームで直接操作しないと」

 魔女っ子が残念な報告と一緒にもどってきた。

「内部と通信は取れないのか?」

 アタシは当たり前のことを訊く。

「無理。テレポータのリンクもできない」
「隔壁も閉鎖されてます。強行突入して人的に接触するしかないでしょう」
「厄介だな。頑張ってくれよ、武装憲兵さん」
「我々も努力はします。ですが、サーバー問題を解決するためにあなた方が派遣されたのでは?」
「え?」
「はい?」

 ん?
 なんかさっきから話がかみ合ってないぞ。

「いや、だからアタシらは、べつにARKSからの増援とかじゃなくて、単純に、中にいるミカンって子を迎えにきただけで」
「おや? 我々はあなた方と協力して、内部に突入する命令を受けていますよ」

 突入ったって……、アタシら別に室内戦闘訓練なんて、研修以来やってないよ?
 こういうのは専門家の連中のほうが向いてるだろ。
 こっちは地上探索とか、個人戦闘レベルの仕事がメインでして。

「――ちょっと、アジャンと連絡取るから、待ってもらえる?」
「どうぞ。我々は突入の準備をしますので」

 責任者のおっさんは、そういって部下達を集め始めた。
 アサルトライフルだの、ソードだの持った紺色の制服組がずらずらとあつまってくる。
 そんな様をみながら、アタシはイケメンにコールする。

――おや、ヒマワリさん。どうかなさいましたか?

 なにすっとぼけてるんだ、コイツは。

「どうなってんだ? ビルが封鎖されて、アタシらは武装憲兵と突入? きいてねぇぞ」
「いやぁ、面目ない。ミカンさんの安全は、おそらく護衛の検索員と憲兵が守ってると思いますので」
「あいつに何かあったら、アタシはキレるよ。キレる若者ってのは実在するからな」
「そうならないように手は打っているつもりです。あと、そちらに優秀な戦闘指揮官が向かいますので、その方の指示に従ってください」

 それで通信は切れた。
 まったく。
 報酬のない仕事だけど、仕方ない。
 ミカンのやつを保護してくれた礼の分程度は働いてやるさ。


 しばらくして、戦闘指揮官とやらをのせたシャトルシップが到着した。
 そこから降り立ったのは、正規軍の顔見知りだった。

「あら? ヒマワリ。久しぶりじゃない。元気にしてた?」

 あの准将閣下のご登場だ。
 相変わらず、尊大な態度。
 そしていつも通りというか、ニック大尉を従えてる。

「挨拶はいいから。さっさと作戦をくれよ。アタシは中に人を待たせてるんだ」
「知ってるわよ。シャトルシップの中で考えてきたから」

 そして、アタシの端末に受信音が響いた。
 添付ファイルには、作戦図と、実行計画が事細かに書いてある。
 アタシはさっさと要所を読んでおく。

「なんかこれ、訓練のときにやった気がする」
「まぁ、屋内戦闘のテンプレはあるから、ちょいちょいっと手を加えれば良いだけなんだけどね。さて、口頭で説明するわよ」

 キァハ准将がさっと手で合図すると、副官のニック大尉がどっこいしょと円卓を持ってきた。
 円卓の上に、ビルの内部構造がホログラフで映し出される。

「突入は二箇所。地上と屋上ね」

 ビルのグラフィックに、青い点が表示される。
 それは屋上と地上に配置され、そこから矢印がにょきっと伸び始める。
 いわゆる、侵攻ルートだ。

「地上からは武装憲兵隊と、ARKSが突入する。目標は地下のサーバールームね。これを操作するのは、そこの暗い娘に任せるわ」

 魔女っ子はコクリと頷いた。

「屋上からはニック大尉の特殊戦中隊デルタ分遣隊が突入する」
「え? ニック大尉って戦闘できたの?」

 アタシは思わず口にしてしまう。
 いつもキァハ准将のそばにいるから、事務処理専門のキャストだと思っていた。

「コイツはあたしの忠実な猟犬。あたしのモノが役に立たないって言いたいわけ?」
「まぁまぁ、キァハ。カリカリしちゃだめだよ」

 キァハ准将があたしをギロリとにらんできたけど、ニック大尉が取り持ってくれた。
 ちょっと心臓がきゅっとなったが、気を取り直して、ワリィと謝っておく。

「デルタ分遣隊の任務目標はミカンなる小娘を確保すること。障害排除は許可する。かかれ」
「かかります」

 ニック大尉はさっと敬礼すると、姿を消した。
 正規軍定番の、メタマテリアル技術とかいうやつだ。
 アタシのレーダにも移らないんだから、完全なステルスなんだろう。

「作戦時間は600秒。ガード・マシンのショック攻撃なんざ大したことはない。ちょいとしびれるだけね。さっさと蹴散らして、それぞれの平常業務にもどるぞ。突入時刻は今より300秒後。時計合わせ――同期した」

 アタシの端末の時刻が勝手に修正されてる。
 勝手に人の端末に侵入するのはやめてくれよ、まったく。



――突入用意。3、2、1、今。

 憲兵隊の工兵が、封鎖されてたシャッターをふっとばした。
 そこを突入口にして、憲兵達が飛び込んでいく。
 アタシと魔女っ子はそれについていく。
 とにかくアタシは、インテリな魔女っ子さまが傷つかないように護衛するだけの簡単なお仕事をすればいい。

 ガード・マシンなんざ、簡単な電気ショックもどきをやってくるだけだから、あっさりと憲兵達に排除されていく。
 中には、装甲強化型なんてのもいて、少々やっかいな事態も生じたが。
 だけど、概ね計画通り。
 アタシらと武装憲兵達は、さっさとサーバールームにたどり着いけた。

「あれがサーバーです。ARKSの方々、よろしくお願いします。我々は周辺の安全を確保します」
「了解。アタシらに任せときな」

 武装憲兵達はサーバールームの外側で防御体制を敷く。
 やっぱ、組織戦の訓練積んでるやつらは無駄がないな。

 で、アタシたちはデジタルな機器が一杯あるサーバールームに踏み込む。
 もちろん先頭はアタシ。
――異常なし。
 要所を全て確認して、魔女っ子を招き入れる。

「最新型……ではない。一世代前」

 へー。そうなんですかね?
 アタシにはそんなのわかんないけど。

「で、あと120秒しかないけど、大丈夫か?」
「どうということはない」

 彼女はさっさと端末だのディスプレイだのが並んでる席に座って、ぽちぽちとキーボードをいじる。
 予想していたよりも高速ではない。
 なんかこう、カタカタカタって高速で打ち込む姿を想像してたけど。

「意外とタイプ遅いんだな」
「信仰上の理由で、人さし指と中指しかタイピングに使えない」

 おいおい。マジかよ。
 

 30秒ほどで、やつは作業を終えたらしい。
 外に控えていた武装憲兵の一人が、中に入ってきて、マシンたちの稼動が止まったことを伝えてくれた。

「通信も回復。さっすが、パステル。博士号持ってるやつは違うねぇ」
「称号よりも、中身が大事」
「そりゃそうだ」

 まったく。おだててもニコリともしねぇやつだ。

――こちらD。交戦中。目標に近接できない

 ニック大尉から、日ごろとは違う戦争屋の声が聞こえてきた。
 ほらみろ、やっぱあの高慢ちきな准将閣下の側付程度だから、ガードマシン如きに……。
 いや、おかしい。
 それは今稼動停止したはずだ。

「ヒマワリ・ヒナタ。テレパイプをだして」
「了解」

 アタシは魔女っ子にいわれたとおり、テレパイプを出す。

「座標を指定した。大尉がいるところに飛べる」
「やっぱ、あんた役に立つな」
「役に立たない学問はない。役立たせる方法を思いつかない人が多いだけ」
「へいへい」

 アタシは貰い物のブラオレットをしっかり握り締めて、テレパイプに飛び込む。
 ビューンとフォトンのトンネルを一直線。
 正直、何度やってもなれないぞ、この感覚は。

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画11

 ミカンをなんとかせんと。

 アタシらに丸投げした将軍も、監視してますよアピールがうざい最高法院も、特になにかしてくれるわけじゃない。

「いやです! 私なんてどうなったっていいんです」

 ミカン娘は布団にうずくまって、ささやかというか、めんどくさい抵抗をしている。
 抵抗する元気があるだけマシっていうかなんというか。


「どうなってもいい人なんかいない。人は理由なく存在はしない」
「気休めを言わないでください!」
「不合理な人。気休めではなく、事実なのに」

 魔女っ子とミカンがぎゃーぎゃーやりあってる。
 えらく魔女っ子のやつがミカンに肩入れしてやがる。
 たぶん、何か思うところがあるんだろう。
 少なくとも、アタシに対する態度とは違う。
 もっと、こう……。
 切実な感じだな。

「適応しなければならない。人は、思っている以上に、適応できるの」
「うるさいですよ、パステルさん……優しくされたって、どうしていいか私わかんないんです!」
「適応するかしないか、それだけ。どうするか思考する必要はない。それは思考経済に資さない」

 魔女っ子がひたすら真顔で言葉を積んでいく。
 それに対してミカンはがむしゃらに感情をぶちまけてる。
 ほんと、どっちもどっちだよ。
 言葉のドッジボール状態。

「人はいつも記憶に支配される。だけど、記憶は真実とは違う」
「そんなんどうだっていいです! わたしは疲れたんです」
「何もしていないのに? 何かを始める前にすべてが終わるのはおかしい」
「どうして、どうして、あなたは正論ばっかりいうんですか!」
「正論とは違う。心のままに、言葉を伝えているだけ」
「思いやりとか、ないんですか?」
「思いやりは人類を救わなかった。誤解と話し合いと妥協が、人を前進させた」
「……」

 ミカンは完全に押し黙った。
 そりゃそうだろうな。
 薄暗い魔女っ子にひたすら指弾され続けるなんて耐えられない。
 しかも、ミカンはハイスクールに通ってたらしいじゃないか。
 そんなやつに、インスティチュート修了してる魔女っ子を倒せるはずがない。

「おい、魔女っ子。そのへんでいいだろ?」

 とりあえず仲裁してやらないとな。

「よくない」
「あん?」
「世界は躊躇しない。構造は猶予を与えない。いまを生きるには覚悟がいる」

 魔女っ子が、えらい確信めいたことをいってやがる。

「だから、ミカンには早く世界に適応してもらわなければならない」
「いやいや、そんな焦んなくても」
「適応できなければ、世界にすり潰される」
「は?」

 おいおい。どうして今日の魔女っ子はこんなに饒舌なんだ?

「すり潰されるって……」
「あなたは強いから気づいていないだけ。弱いという事は、奪われるという事」
「そんなこといったってなぁ。そいつハイスクール行ってるやつだぜ?」
「関係ない。どこにいようと、搾取される人間は搾取され、力を持つ人間はそれを使う」

 言い分は、わかる。
 アタシらにもっと力があれば、もしかしたら世の中を少しくらいマシにできるかもしれない。
 立場が弱いから、正規軍だのARKSだの最高法院だのF機関やらに翻弄される。

「力は常に振るわれる。権力がシステム化された現代において、弱いことは権力システムの最下層に組み込まれることを意味する。そうなると、生きることそのものを、生きる目的とせざるを得なくなる」

 そうなんかね?
 アタシはアホだからそういう、【世の中論】みたいなのは分からん。
 だけど、弱いことは不利だってのだけは、わかる。
 だって、アタシは戦いを仕事にしてるからな。
 人生が戦いなら、弱いことは死んだり、負けたりと損な役回りを引き受けることになる。

「あのさ、魔女っ子」
「なに?」
「なんで、お前そんなガチなんだよ? ミカンはまだガキだぞ?」

 ほんのしばらくだけ、魔女っ子が沈黙する。
 そして、アタシをじっとみつめて、こういった。

「わたしは13で大学に入って、その年にレイプされた」

 ……なにもいえねぇ。
 不条理なことがいっぱいある世界で、そのうちの一つを友達が食らってたなんて知って、どうしろと。
 ただ、それをアタシに伝えた真意を推察するしかない。
 信頼されてるから、傷ついた経験をそのまま話してくれてるんだと思っておく。

「……ゆるせねぇな」

 そんな当たり障りのない言葉しか送れない。

「気が付いたら、お酒のまされて、裸にされてた。世の中なんて、そんなもの」

 魔女っ子の、あまりにも真剣で必死さがあふれるまなざしに、アタシは口をパクパクさせるしかない。

「今のミカンは弱者。過去からやってきて、時代に適合できていない。弱い者を狙う連中は、彼女の弱さを皮膚で感じ取る。だから必ず、彼女は搾取される」

 ベッドの中で丸まってるミカンをじっと見据えながら、魔女っ子が言った。
 アタシはうんざりだ。
 どれだけ時代が進んで、科学が発展して、宇宙を旅できるようになったって、社会は誕生する。
 その社会はいつもユートピアには程遠くて、ディストピアってほどには絶望的じゃない。
 良くも悪くも、力と運があれば、不幸になりにくいようにはできている。
 
 そんな世の中で、過去から飛んできたミカンがどうやって生きればいいのか。
 受けた教育だって、この時代のものとは違うだろう。
 教育が違えば、考え方も違う。
 考え方が違えば、生き方だって変わる。
 だけど、与えられたもので解決できることなんて、この世の中少なすぎるから、力が要る。
 能力。
 努力。
 体力。
 知力。
 引力。
 斥力。
 なんだっていい。
 とにかく力がないと、生きていくことはむつかしい。
 誰かに頼るのも悪くない。
 だけど、頼った相手だって、いつまでも助けてくれるわけじゃない。
 かならずこういうはずだ。

――前に進め。

 簡単じゃないことを要求してくる。
 アタシは前に進んでるのか?
 レイプされたっていう魔女っ子のやつは、前に進んでるのか?
 
――前って何だよ! ファック!

 だから、アタシはミカンに前に進めなんていうアドバイスはできない。
 魔女っ子にそんなこともいえない。
 



 結局、アタシと魔女っ子が仕事に出てる間に、ミカンは消えた。

「おい、魔女っ子、探しにいくぞ!」

 アタシは慌ててバイクのキーを捜しながら魔女っ子を呼ぶ。
 だが、魔女っ子は淡々とコーヒーを淹れ始める。
 豆はマンデリンらしい。

「……てめぇ、なにやってんだ?」
「コーヒーをいれてる」
「そうだな。落着くにはコーヒーも悪くない。だけど、早く探さないと手遅れになるぞ」
「手遅れって?」

 魔女っ子がまじまじと訊いてくる。
 おい、なにいってんだ? お前、あれほどミカンを心配してたジャン。

「手遅れは手遅れだよ! 行方不明とか、誘拐とか、下手したら強殺とか……」

 ろくに新しい世界を知らないミカンが、悪い男に連れて行かれてどうこうされるなんざ、許せない。
 少なくとも、アタシがやつに与えた衣服代とメシ代分くらいは生きていてもらわないと困る。

「それがどうしたの?」
「どうしたもこうしたもねぇだろ!」
「あなた、もしかして人の人生を変えられると思ってる?」

 コポポっと湯が注がれて、炒ったコーヒー豆がやわらかい香りを立てる。

「……あん?」
「あなたは、人の人生を変えられると信じてる?」
「そりゃそうだろ。人ってのは互いに影響を受けてだなぁ……」
「あなたのいう人って何?」
「え?」
「そこにわたしは含まれてる? ミカンは?」

 イラッときた。
 この馬鹿は、勘違いしてやがるんだ。
 ずっと一人でいたから、くだらん勘違いに染まってるに決まってる。
 
 だから、アタシはコーヒー豆がふやける様をみてる魔女っ子に歩み寄る。
 そして、思いっきり胸倉をつかんでやる。
 案の定、魔女っ子はキョトンとかわいいおめめを開いてくれる。

「パステル! てめぇはアタシの大切な友だちだ! だから強引に、ズケズケとテメェを心配するんだよ!」
「コーヒーが……」
「知るか! 良いか、覚えとけよ? アタシは傷つくこと、傷つけることを四の五の考えて、距離を考えるやつなんざ友だちじゃねぇって考えてる」
「――」
「だから、めんどくせぇこと言ってないで、ミカンを探しにいくぞオラァ! あいつもアタシからみりゃ友だちなんだよ!」
「どうして? 知り合って日も経ってない」
「時間なんてどうでもいい! アタシの名前を覚えてくれりゃ、そいつはアタシの友だちだ!」
「友だちの範囲が広すぎる。定義に修正が必要」
「うるせー! いくぞ!」
「でも、コーヒーが」

 ぱたぱたと、お遊戯みたいな抵抗をする魔女っ子を脇に抱えて、アタシは部屋を出る。
 すれ違ったどっかのおばさんがおどろいてる。
 だが、そんなのはどうでもいい。

「ヒマワリ、わたし恥ずかしい」
「旅の恥はかき捨てっていうだろ」
「わけがわからない。あなたのインテリジェンスが心配」
「インテリジェンスはインテリに任しときゃいいんだよ」
「むー」

 ふにゃふにゃと抵抗を続ける魔女っ子をぐっと強く抱えながら、アタシはミカンを心配する。

 あのバカ。辛いからって逃げるんじゃねぇ!
 戦って砕けろよ!


 ミカン探しは難航した。
 挙動不審なやつを、ききこんでいけば何とかなると思ってたけど、やっぱ駄目。
 この世界、挙動不審なやつは多すぎるから。
 たとえば、ARKSだって、その待機ロビーで奇怪なダンスを踊ってる連中や、受付カウンターによじ登るマナーのなってない奴らがいる。
 そういう特段オカシイ奴らをARKSが全部吸収してるわけないから、市井にはもっとオカシイのが一杯いるわけだ。こういうの、困るよ。

「見つからん!」

 アタシはバイクをコンビニの駐車場にとめる。

「探し方がおかしい。情報は広く、それでいて密度が必要」

 魔女っ子がお得意の個人端末を駆使して、広く、密度が濃い情報を探してる。
 だが、それだってろくな効果がない。
 ある意味、魔女っ子も理屈倒れな状況だ。

 しばらく、コンビニで買ったアイスを食いながら、作戦を考える。
 だが、アイスが融けていくように、アタシらのアイデアも全部融けていく。
 
――もしもーし。ヒマワリ・ヒナタさまですか?

 いきなり直接通信が入った。
 声の主は、奴だ。
 あの、最高法院のあじゃじゃしたーとか言うやつ。

「アタシだよ。なんか用?」
「どうも。アジャン・プロヴォカトゥールです。ご無沙汰しております」

 あーそうそう。
 この、女を落とすための声色を駆使するイケメンの名前はアジャンだ。

「つきましてはヒマワリさん、ミカンお嬢さんをこちらの検索班が保護しましたけど」
「マジか!」
「ええ。お一人で公園にいるところを、別件で捜査活動中の検索班員が発見。武装憲兵で保護しました」

 おいおい。
 なんでそんな武装憲兵なんていう法院お抱えの実力部隊を投入してんだよ。

「まったく。保護を引き受けられたのに、囮に使用ですか?」
「は?」
「キァハ准将からの指示で、単独行動をさせたのでは?」
「ちげえよ! 勝手にそいつが飛び出していったんだ! アタシら必死で……」

 しばらく、アジャンの野郎が沈黙する。

「裏が取れました。本当にあなたという人は、スマートさが足りない。聞き込みが乱暴すぎて、通報が来てましたよ。あなた、不審者扱いです」
「うるせー。必死だったんだよ」
「それでいて、服の露出が多いですからねぇ、あなたは。あのけしからん娘の住所を教えろという、被害者ヅラした犯罪者予備群みたいなのまで出てきてます」

 うへぇ。
 ちょっとカンベンだな。

「――まさか、教えたとか?」
「どうでしょうか。あなたが我々にとって都合が悪い存在になったとき、お家の戸締りは役に立たないことをお約束いたしますよ」
「――クソ野郎が」
「おやおや。せっかくお友だちを保護したのに、その言い草は困りますなぁ。報告書に、凶暴性人格と付け加えなければなりませんね」
「で、ミカンはどこにいるんだ? アタシはどこに引き取りに行けばいい?」
「それなりにVIPなんで、自治政府官庁街の『フロウウェン通り』にある法院庁舎で保護していますよ。武装憲兵がいると思うんで、今から送るゲストパスをですね――ん、どうした?」

 いきなり通信がザーッという隔絶音に変わる。
 切れたわけじゃない。
 暗号回線に切り替えが行われて、アタシには聞こえなくなっただけだ。

「おい! アジャン、何とかいえよ!」

 沈黙。

「――申し訳ありませんが、ヒマワリさん。現地には武装して向かってください。委細は後ほど」
 
 より柔らかい口調で、アジャンが言い残す。
 それで、通信は切れた。

「訊いてたか? 魔女っ子」

 勝手に二本目のアイスバーをくわえてる魔女っ子に訊く。

「もちろん。良くない状況というのは理解した」

 理解したんなら、アイス食うのやめろよ。
 さっさと、奴を迎えにいくぞ。
 

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画10

 ミカンをもう一度ベッドに寝かせる。
 そして魔女っ子が鎮静剤の点滴を設置する。
 ミカンの顔色は、鎮静剤と魔女っ子のレスタのおかげか知らないが、比較的健康そうな色合いにもどっていった。
 すうすう寝息を立てる彼女の看病は、ハーブの手入れに満足した魔女っ子に任せる。
 アタシは准将に問い合わせて、今後を決めなくちゃいけない。

2 
 自室にもどり、准将のコードを入力する。

「――はーい。あたし今、部下と飲み会なんだけど?」

 久々に通常の映像通信をしてみたら、なんだか楽しげに飲んでやがる。
 どこのサラリーマンだよ。
 理由もなくパーツを外して露出を高めたキァハ准将を中心に、こないだのアルファ分遣隊の連中が好き勝手やってる。

「上官がいたら酒がまずいだろ? とりあえず席外して。あれが目覚めた」
「あー? あたしら4000年以上一緒に戦ってるのよ? あたしがいて酒がまずいやついるか?」

 すっかり酔っているらしい准将が、部下に訊いてやがる。アホかと。

「はーい。キァハは泣き上戸だからじゃまでーす!」

 どうやって飲んでるのか分からないニック大尉が通信に割り込んできた。

「あんたねぇ、死ねば?」

 ニック大尉が思いっきり殴り飛ばされて画面から消えた。
 おい、あんなの食らったらアタシ死ぬぞ。

「……大尉は無事なのか?」
「あん? あー、なんかバイザーぶち割れて装甲凹んでるわ。気にしないで」

 それ、まずいんじゃないのか。ニック大尉は人型フェイスじゃなくて、典型的なメカニカルフェイスだから……人間で言えば頭蓋骨骨折と水晶体破壊?

「そ、そう。で、こないだの女の子が目覚めたんだけど。サイタマがどうだとか電話がどうだとかいって話が通じないんだけど」
「そりゃそうでしょ。TLPT特異体なんだから」

 あっけらかんと准将がいってくれる。ぜんぜん分からん。

「だから、それ何?」
「えっと、あんた、一般相対性理論と特殊相対性理論の差異を説明するときに必要な数式理解できる?」
「できたらARKSやってないって」
「そう? お友だちの魔女っ子ARKSは理解できそうだけど」
「うるせー。アタシは理解できないってだけです。す・い・ま・せ・ん」

 どうしてこう、キャストってのはヒューマンの知力水準を直裁にきいてくるかね? デリカシーってのがないじゃん。
 そっちは頭にIvAIを搭載するスパコンで、しかも軍用SAIのMARSの支援まで受けてる。
 思考は光速だし、キャスト同士なら情報共有に言語なんて不要。いちいち話して説明する必要ない連中に、ヒューマンが勉強で勝てるわけねぇだろ!

「分かりやすくいうと、そいつタイムスリップしてきたの」

 ……まっさかぁ。そんな童話みたいな話、あるわけないって。
 今どきの大宇宙航行時代にタイムスリップとか言われたってねぇ。

「またまたぁ。准将が冗談言うのは似合わないぜ」
「――ヒューマンってさ、時間について問われるまで、時間について理解しているつもりになってるから面倒なのよね。分かってないけど、時間は存在する、みたいな。もうね、アホかと」

 あん? どういうこと?

「確かに賢くないのは認めるけど」
「とにかく、あんたに一から説明するには大学院で博士論文くらい書いてきてもらう必要があるから、大雑把に説明したげる。『存在するものには、全て理由がある』」

 は?
 いや、ぜんぜん説明になってないけど

「まさかデカルト的存在証明もわかんない?」
「だれだよ、それ?」
「哲学者。役に立たないものにも存在理由があるっていう、ありがたい見解を残した。おかげさまで無価値な人間は存在してはいけないっていう妄言が否定される。あんたにはこれがお似合い。じゃね」

 ……きりやがった!
 あの女、面倒なこと全部他人に任せてるくせにこの態度かよ?
 だいたいだな、アタシは扶養家族を抱えられるほど豊じゃないっての。


 どうしよう。かなり危機的だ。これはマズすぎる。
 スーツの良く似合う野郎が、招かれざる客としてやってきたからだ。

「はじめまして。アジャン・プロヴォカトゥールと申します」

 気に食わないイケメン野郎が、アタシに颯爽と名刺を差し出してくる。
 今どきペーパーの名刺を使ってるやつは政府機関の怪しい連中だけだ。
 その名刺にはこう書いてある。

――船団最高法院 監察局種族問題対策課課長補佐

 うーん、課長補佐ってなんぞ? 
 偉いのか? 大したこと無いのか?
 まぁいいさ。
 アタシはその名刺を後ろでこそこそしてる魔女っ子にさっと渡す。
 魔女っ子がこの名刺の主の裏を取るってわけ。

「で、アジャ……」
「アジャンです。ヒマワリ・ヒナタさん」

 アジャンとかいうやつは、爽やかな笑顔をアタシに放り投げてくる。

「あーはいはい。で、アジャンさんは何しにここに?」

 このイケメンニューマンは、タダもんじゃない眼光全開で、アタシのマイルームの玄関先に突っ立ってやがる。

「大したことではございません。この部屋の奥に不法滞在者がいるとのことで」

 げ!
 やっぱり?
 もう早速バレた?
 たしかにミカンっていうタイプスリップした少女一匹飼ってますけど……。

「――証拠は? 令状とか、そういうのは?」
「滅相もない。ただ、私には貴女の悩みを解決することができます」

 にこやかな笑みをアジャンの野郎が浮かべる。

「悩みなんかないぜ?」
「そうなんですか? 不法滞在者のパーソナル登録がないとイロイロ不都合かと思いましたが」

 痛いところをつかれる。
 たしかにミカンはどこにも登録されていない謎の物体Aだ。
 このままじゃ、船団のメセタカードだって作れないし、保険登録だってできない。
 つまり、生活が不可能ってこと。
 いつまでも家の中に閉じ込めておくわけにも行かないし。

「……追い返したら?」
「別件逮捕だって出来なくはないですよ?」

 なるほど。やっぱイケメンは信じるなってな。
 立派な脅しじゃねえか。

「どうして調べがついた?」
「我々は船団内の質量データを掌握しておりますので。他にもNシステムは常に稼動しております、はい」

 なるほどね。
 プライバシー権もくそもないわけだ。
 精密機器のカタマリである長距離航宙船で生活するやつには、そんなもの保障されない。

「入りな」
「話が早くて助かります」

 アジャンはいそいそと丁寧に靴を脱いで、どこかに転送した。
 わざわざ脱がなくたっていいんだけど、なにやらそういう風習らしい。


 とりあえず、魔女っ子がいれてくれたコーヒーを飲みながらテーブルで向かい合う。
 安物のソファのすわり心地はわるくなかった。

「では、早速本題に入りましょう。不法滞在者と面会させてください」

 アタシは魔女っ子に頼んでよんでもらう。
 しばらくすると、泣きつかれた顔をしたミカンがやってきた。

「ついに……私、売られちゃうんですね」

 ミカンはなにやらあきらめた様子だ。
 こいつなんか勘違いしてるぞ。

「はじめまして。私は監察局のアジャン・プロヴォカトゥールです」
「なんでもいいです。私の人生なんてもう終わりなんですから」

 悲観に支配されたミカンがぼやく。
 まぁ、確かにどっかの時代から飛ばされて、もう帰れませんとか言われたら悲観するわな。

「おやおや。これはお可哀想に」
「で、監察局ってなんなんですか?」

 ミカンがぶっきらぼうに訊く。

「まぁ、貴女の時代で言えば警察ですかね」
「警察!」

 ミカンの表情がぱっと晴れる。

「聞いて下さい、おまわりさん! この人たち私をこんなところに監禁してるんです! 助けてください! 私、さらわれたんです……」

 そういってミカンはアジャンにすがり付いて泣いた。

「おやおや。それは怖かったでしょうねぇ」

 アジャンがイケメン的微笑でミカンをよしよしと慰める。

「私がお助けしますよ」
「ホントですか! はやくこの人たち逮捕してください!」

 ミカンよ、お前はほんとうに恩知らずだなと言いたくなる。
 飯だって、代えの服だって買ってやったじゃん……。

「まぁ、落着いてください。私は貴女をお助けしますが、貴女の協力が必要なんです」
「え? 協力ですか?」
「まず、貴女がここに来た一件を話してください」

 そして洗いざらい虚実交えたミカンの話が始まった。
 アタシらが宇宙人で、サイタマとかいうところからミカンを誘拐したんだとさ。
 おまけに、ロボット兵士がいたとか言いやがった。
 おい、ロボットは差別用語だぞ!

「キャスト兵士が?」
「はい。キァハがどうのこうとって兵隊さんたちが言ってました」
「ほほぅ」

 にっこりとアジャンの野郎が深く頷く。
 そして、やつはこっちに向き直る。

「ヒマワリさん」
「あ?」

 さて、アタシはどうやってキァハ准将のことを誤魔化すかと頭を回転させる。

「第44宙間機動打撃旅団をご存知で?」
「さぁな」
「まぁまぁ。そう警戒なさらずに」
「警戒するだろ」
「ではご安心を。我々は連中とは敵対しているんです」

 さらりと言いやがった。
 政府系の組織ってことはかわりがないだろ?
 なんで敵対するんだよ。
 ――あ、でもアタシもなんかこいつ警戒してるわ。
 一応、ARKSも政府系組織だもんなぁ。

「全然安心じゃねぇな」
「ですが、それは目的は同じなのに手段の相違があるからでして、はい」
「何がいいたい?」
「我々は敵ほど信頼しているのです。むしろ味方を信用しない」
「はぁ?」
「現在、キァハ准将の旅団はどうも船団統合政府(SPQO)の意思から離れ、独自に行動をしているようなのです。我々監察局はそのような集団を監視するのが任務ですので、その意味でかの部隊は敵なのです。しかし、一方で――」

 やつはコーヒーをすする。

「我々は独自行動をとった理由をも調査します。すると、どうでしょうか。かの部隊はどうも時間並列事象の生じた地域に独自に兵員を送っているようなのです。従来は失敗していたようですが、今回は違った」

 おいおい。
 アタシなんかよりずっとやつらにくわしいじゃないか。
 こっちはキァハ旅団なんて眠ってるだけの暇人だと思ってたぞ。

「あん?」
「見事、救助に成功したということです」

 救助? まぁ、たしかにそういう目的とかあの女将軍が言ってたような。
 ただ、助けてやってよと頼まれたのはこっちだけど。

「TLPT特異体について、我々は『F機関』という組織が常に回収を行っていた事実を確認しました。どうやら今回はF機関より一足はやく第44旅団が動いたようです」

 そして、アジャンは端末を取り出し、ぽちぽちと操作する。
 すると、テーブル一杯にグラフィックが現れた。

「これは?」

 アタシは机どころか部屋一杯に拡大していくグラフの渦を見渡す。

「我々監察局の急襲部隊が回収したF機関の研究室です」

 グラフィックには、数多くの試験管みたいなのが移っていた。
 その試験管の中には、なにやら臓器チックなものがいろいろ収まっている。
 原生生物のやつかなにかか?

「こちらはTLPT特異体の解体資料です。捕獲された資料は完全解体され、様々な実験に使用されていたようです」

 解体?
 おい、それって問題だろ。

「あのーどういうことですか?」

 ミカンがのんきに口を挟んでくる。

「あなたの先輩たちは、皆解剖されたってことですね、はい」

 イケメンが気遣いのない台詞をはきやがる。
 ミカンのやつはみるみる青くなる。

「いや……私、死にたくない」

 そりゃそうだ。
 アタシだって、解剖されて死ぬなんざ願い下げだ。
 つまり、アタシ的にはF機関ってやつは気に食わない組織認定だね。

「貴女は運がいい。死にませんよ。私とここの二人が守ってくれますから」
「え?」
「ですから、貴女は誘拐されたのではなく、保護されたのです」

 アジャンがそういっているのに、ミカンは納得できないようだ。
 なかなかなんでも素直に飲み込むことができるやつなんていないよな。

「でも……」
「あ、できたようです。これが貴女のパーソナルカードです」

 ポンッとアジャンの手の内に、カードキーが現れた。
 たぶん、役所的転送が行われたんだろう。
 どうやってミカンの生体データを取ったかはきかない。
 どうせさっき抱きつかれたときに、抜け毛なりなんなりを勝手に採取したんだろう。

「あと、ご家族の記録についてですが、とりあえず旧世紀の日本という国にいたことまではつかめました。没年については残念ながら、幾つもの大戦争のせいで記録が散逸してしまったようです」
「そんな……」

 ミカンが力なくうなだれる。
 アタシにどうこうできる問題じゃない。
 こういう世界に来てしまったんだから、自分なりになんとか折り合いをつけてもらうしかない。
 
 一応、協力して欲しいって言うんだったら、いくらでも力を貸すつもりではある。

 一人ってのはキツイからな。
 記憶がウソだったことを知ったときから、それがより分かるようになった。

「私、これからどうやって……これは、夢じゃないんですか?」
「狂気に逃げ込むのもわるくない選択です。ですが、一つ思い切ってここの世界で生きてみるのもありだとは思います」

 おい、全然アドバイスになってないぞ。

「そのパーソナルカードがあれば、精神科医にかかるのも容易ですので、そこらへんはご自由になさってください」

 そんなこと言われてもどうしようもない気がするけどね。
 ミカンのやつはボーっと市民登録されたカードをみてる。
 どんな気持ちなんだろうな。しばらくほっとくしかないか。

「大丈夫。わたしはあなたを見捨てない」

 突然だったが、魔女っ子がボーっとしてるミカンに毅然と言った。
 アンタ、そんな格好いいこといっちゃうわけ?

「誰も、信じられません……」
「信じなくていい。信じさせるのは、わたしのほうだから」

 まいったね。
 魔女っ子にそういわれたらアタシも黙ってるわけにはいかない。

「困ったことがあれば何でも相談しな。何だかんだで、アタシは顔が広いんだ」

 適当なことを言ってしまった。
 本当は大して広くない。
 というか、そもそもアタシという存在が勝手に誰かによって作られたものだし。

「おやおや。皆さんいい人でよかったですね。では、人助けは終わりましたので私は帰ります。ではでは我々最高法院監察局は、『全てをみている』ことをお忘れなく」

 やつは立ち上がると、にこやかに胡散臭い笑みをうかべて、玄関へ向かう。

「おい、まてよ! アンタ結局何しに来たんだ?」

 アタシはあわてて尋ねる。

「あぁ、それはですね――」
「もったいぶるなよ」
「あなたがたは、見たいものしか見ていないとお伝えしにきたのです」
「あん?」
「あなたの認識は無意識に支配されています。本当は存在するものを、無意識は排除する」

 言いたいことがわからねぇやつだ。

「何が言いたい?」
「人の五感など当てにならないということです。カフェお友だちと楽しくお話しているときは、店員の足音など気にも留めないということです」

 そりゃそうだろ。
 いちいち気にしてたら楽しくないだろ。

「つまり、我々は存在する事実を排除するシステムを内在しているのです。いわゆる、脳の判断排除機能というやつです」
「それがどうしたっていうんんだ?」
「それ、とても利用価値がある機能だとおもいませんか? 貴女の実在を左右するときに――」

 言い残して、奴は玄関扉の向こうに消える。
 なんてこった!
 あいつは、アタシの何かを知っている!

――待ちやがれ!

 あわてて立ち上がり、玄関の扉の向こうに消えた奴を追う。
 だが、ありきたりな廊下がそこにあるだけで、奴の姿は失われていた。
 もとから、そんな奴は世界に存在していなかったかのように。

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

ファンタシースター計画09

 襲撃から数日がすぎて、やっとこさ復旧のめどがついてきた。
 だけど、それはせいぜい街並みのお話。
 都市というシステムは、それぞれが機能に細分化され、しかもつながっている。
 どれか一つの細胞が死ぬことは、他の細胞の機能まで阻害する。
 そして、そのシステムを動かしているのは、紛れもなく人だ。
 そう。
 問題はここだ。
 死んでしまった市民に代替はない。
 だから、街並みがその秩序だった景観を取り戻したところで、システムとしての都市が蘇るわけじゃない。
 こういうのは、どうしても時間がかかるんだ。

 だけど、食い物に関しては、システム面での復興も早かった。
 アタシは安いバイクに乗ってやってきたピザ配達の兄ちゃんに金を払いながら、感心する。
 悲しかろうが、悔しかろうが、腹が減る。
 体は、望んでるんだ。
 四の五の言わず生きたいってな。

 で、おかげでこうしてデリバリーのピザにもありついてる。
 部屋の壁にかけてあるディスプレイには、ニュースキャスターと政治評論家が、紛糾する議会の映像をみながらなにやら当たり障りのないことをいっている。

――以後、政権に対する責任追及の声は非常に大きくなることでしょう

 あっそ。そりゃ幼稚園児でもわかるって。なんで評論家ってこういう当たり前のこといってお茶を濁すのやら。

「あの子が起きた」

 魔女っ子がうれしいのかうれしくないのか分からん口調で言った。

「起きた? 意外と落着いてるな」
「まだ状況を把握できてないだけ」
「翻訳機は?」
「つけた。設定はジャポン語。寝言でわかった」

 さすが魔女っ子。
 ちゃんと手を打ってくれる。
 どれどれ、面会といきますか。
 食べかけのピザをそのままにするのは気が引けるけど。
 


「あの、助けていただいてありがとうございます」

 中々礼儀のなっているやつだ。
 ただ、どうもこう、子どもっぽい顔っていうか、やっぱ混血が進んでない黄色人種って童顔にみえんだよな。

「勝手に翻訳機をつけさてもらったぞ。それ、外すなよ」
「私、ピアスつけるの初めてです……」

 そうかい。えらく寂れた青春おくってんだね。

「で、自分の名前くらい言えるか?」
「あ、はい。一之瀬蜜柑です……」
「え?」
「みかんです。変な名前ですよね、よく言われます」

 ふーん。みかん? それってあの甘いオレンジのことか?

「へー、ミカンね。確かにオレンジって顔じゃないわ」
「……変だと、思わないんですか?」
「アタシは他人の名前を馬鹿にしないよ。今どき意味分からん名前が主流だからね。フォヌカポゥとか」
「そうなんですかぁ。知らなかったです」
 
 妙に素直なやつだな。
 その意味で、たしかにミカンみたいに愛嬌のある女の子だけどね。
 ただ、やっぱりこう、グラマラスさっていうか、筋肉っていうか、いろいろ足りないよな。
 良くも悪くも普通すぎる少女だよ。コイツ。

「あの、ここは病院ですか? 私、家に連絡しないと。えっと、ケータイ……」

 どっこいしょと立ち上がろうとするミカンを、アタシは制する。
 制した彼女の肩は細かった。
 やっぱり、鍛え方が足りない。
 女は今どきタフじゃないとね。タフネス! ってCMでもやってるだろ?
 で、ケータイってなんだ?

「ケータイ? 魔女っ子、こいつの荷物は?」
「そこ」

 魔女っ子はキッチンでコーヒーを入れてるらしい。
 どうも手が離せないみたいだ。
 全部オートにできるのに、信仰上の理由で手間をかけないといけないらしい。
 ホント大変だなぁ。信仰は試されるんだねぇ。
 アタシは魔女っ子が指し示したとこからエラくオールドルックな鞄を取ってくる。

「はいよ。あんたの荷物だ」
「すみません、何から何まで」

 そういって、ミカンは鞄の中から妙な形のものをとりだして、ぽちぽちいじり始めた。

「なんだ、それ?」
「え? ケータイですけど」

 ケータイ? もしかして携帯端末のことか?

「あれ、おっかしいな。電波が無いです」

 電波? そりゃ量子物理学時代の概念じゃね?

「すいません、あのお電話お借りできますか?」
「電話? おい、魔女っ子! 電話って何だ!」

 電話といえば魔女っ子が以前話してくれた教義の中にそんな言葉があった。

「もってない。それは神器の一つ」

 魔女っ子のやつは、ぷるぷるふるえながら、慎重に湯を注いでる。
 コーヒー淹れるのに手間かけるなんて面倒だねぇ。

「神器だなんて……あちらのかたは冗談がお上手ですね」
「まぁ、あいつがいうならそうなんだろう。で、電話って何だ?」
「あ、そうですか。外国の方ですものね。えっと、テレフォンです」

 テレフォン? ますます分からんな。
 まぁ、なんたらフォンつながりってことで、ビジフォンかなんかのことだろう。
 ってことは、やっぱビジフォンと同期してる個人携帯端末をいっているに違いない。

「これでいいか?」

 アタシは個人端末を実体化させる。
 ぽんっと、アタシの手にそれが現れる。
 フォトン工学お得意の、クラスタ・トゥ・クラウドシステムの恩恵だね。

「すっごーい! 手品師さんか何かなんですか?」

 ミカンが子どもっぽく驚く。
おいおい、お前はどうやって今まで生きてきたんだと訊きたくなる。

「ま、使いなよ」
「ありがとうございます」

 だが、ミカンは薄っぺらなフォトン板を持ったまま黙る。

「あの、すいません。文字の形式が特殊でして読めないんですけど……」

 どれどれ、こいつの言語はジャポン語だから……これか?

「あ、どうもです。えっと、それで電話番号ってどうやって?」
「電話番号? 連絡とりたいやつの名前を入れればつながるよ」
「へー! すごいですね、これ」

 そしてピッピと文字列を入力していく。

――おかけになったお相手は、地球暦時代のみ該当。エラーです

 しばらく沈黙が続いた。

「あの、すいません。ここ埼玉ですよね?」
「いや、そんな船はないと思うんだけど」
「え?」
「え?」


 アタシらがあほ面さげてお互い見詰め合っていたら、魔女っ子がコーヒーを持ってきてくれた。

 そして、やつは今まで光学調整していた窓を、透過モードに変えた。
 人口太陽光の光で、サーカディアンリズムをもどしてやろうってわけだ。
 すると、ミカンは外を見たまま固まっちまった。

「魔女っ子、どうしたんだこいつ?」
「バイタルサインに乱れ。心拍上昇、血圧が不安定化している」

 魔女っ子は、ミカンの治療目的でナノマシンを投与したんだろう。
 そのログが魔女っ子の端末に刻々と表示されてるらしい。
 そして、ごそごそとお得意鎮静剤の準備を始めた。

「ま、まぁ、コーヒーでものんで落着いたらどうだ?」

 アタシはこういうときどうすりゃいいのか知らないので、適当なことをいっておく。
 だってそうだろ?
 パニック状態の人間を冷静にさせる技能なんてねぇよ、アタシは。

「あの、ベランダに出てもいいですか?」

 どこかミカンの心ここにあらずだ。
 アタシはその目の焦点の定まらなさに、気味悪さをおぼえる。

「あ、ああ、構わないけど」

 アタシはわざわざ、手をとってミカンをベランダに案内する。
 手は、えらく冷たかった。

 我等がベランダには、魔女っ子のやつが信仰上の理由で栽培してるハーブの類のプランターがずらりと並んでいる。
 そして、そこから見える光景はいつもと変わらない。
 青空を演出してるくせにうっすら星がみえるドーム天井。
 人工の大地に、計画的かつ合理的に作られた設計都市。飛び交う車両。何とか目を凝らせば、豆粒大のヒューマンとかキャストとかが見れるだろう。ニューマンについては魔女っ子がそのまんまだから分かりやすいと思うけど。

「予報どおりいい天気設定だな。だけど、午後から第111地区だけ雨らしい。なんでも晴れが続いても心理ストレス溜まるやつがいるらしいぜ。この時期は雨が降らないとだめってな」

 そう説明しながら、『バショー』は梅雨っていうものがあって、やたら雨が降る設定の時期があることを思い出す。

「こ、こ、こここ……」
「こここ?」
「ここ、埼玉じゃない!」

 なにおどろいてんだよ。
 そりゃさっき説明しなかったっけ?

「あー、ここはARKS艦隊2番艦『ウル』だ。ARKS艦隊なんてご大層な名前ついてるけど、単にARKSの指定居住艦ってだけさ。一般市民も大勢住んでるし、魔女っ子が好きなヌードルだって買える」

 アタシはできる限りくわしく説明してやる。もしかしたらこないだの事故で頭を打ってるのかもしれないし。

「わ、わ、わ、私、宇宙人に捕まったんだ!」
「おいおい。宇宙人って何だよ」

 アタシは震えるミカンを落着かせようとして、彼女の肩をポンと叩く。
 すると、ミカンが突然ビクッとして、部屋の中に逃げもどった。
 そして、出口を見つけようとあっちこっちの扉を叩いたりひっぱったりしてる。
 やべぇ、あれ明らかにパニックだろ?

「魔女っ子、なんとかならないのか?」

 平然とハーブの手入れをしてる魔女っ子に、アタシは軽い頭痛を覚える。

「あと5秒」

 魔女っ子はそういって、ぷちぷちとプランターの雑草を抜いている。
 5秒? なんのこっちゃと思っているうちに、5秒すぎた。

 そして、部屋の中で錯乱してたミカンが、ころんと倒れこんだ。

「おい、何したんだ?」
「酸素抜いた」
 ……アタシ、部屋の中でこいつと喧嘩しないようにしよう。

テーマ : PHANTASY STAR ONLINE2
ジャンル : オンラインゲーム

プロフィール

YABUSAME

Author:YABUSAME
PSO2をプレイして、結構たちましたねぇ。
SEGAさんの公式サポーターになって随分たちました。

さて、ここにはテキストコンテンツしかありません。
華やかな画像やSS、イラストとは無縁ですのでご了承ください。
ななめ読みとかして楽しんで頂ければと思います。





PSO2_200x200_応援バナー01

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。